2016 年 58 巻 1 号 p. 1-15
中等度から重度歯周炎に罹患した歯周炎患者において失われた歯周組織の機能と形態を回復するため,これまで多くの歯周組織再生療法が開発・応用され一定の成果が認められている。多くの基礎研究・臨床研究から骨内欠損において歯周組織再生療法を成功させるためには1)患者選択,2)適応欠損部位,3)適切な外科的アプローチ,および4)使用する生体材料の4要素が歯周組織の再生の成否に大きな影響を及ぼし,欠損部における①創傷治癒の安定化,②創傷部の保護,および③組織再生のスペース確保を図ることが原則的に重要1)であることが知られている。近年では拡大鏡,マイクロスコープやマイクロインスツルメントの普及も進みMinimally invasive surgery(最小侵襲手術)を主とした外科手技の改変・改良,さらに種々の新規マテリアルの開発が進み歯周組織再生療法の選択の指針が見直され2,3),天然歯の保存が積極的に試みられてきている(図1)。
1980年代初頭よりMelcherらの仮説4)のもと骨内欠損上にメンブレンを設置することで,歯肉上皮,歯肉結合組織由来細胞の侵入を防ぎ,既存の歯根膜由来の間葉系幹細胞を選択的に誘導し,確保されたスペースに歯周組織再生を自律的に促すという組織再生誘導法(Guided tissue regeneration method:GTR法)が生物学的原理に基づく治療法として,広く臨床応用され骨内欠損においてフラップ手術と比較して有意に臨床的アタッチメント(CAL)ゲインが認められることが報告5,6)された。90年代後半に,歯の発生過程を模倣すると考えられるヘルトヴィッヒ上皮鞘から分泌されるエナメルマトリックスタンパク質を歯根面に応用し歯周組織再生を促すというコンセプト7)のもと,ブタ歯胚より抽出・精製されたエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)が開発された。その後,多くの基礎研究で生物学的メディエーターとして歯周組織関連細胞に対して広く多彩な効果を発揮し良好な創傷治癒に関わること8),臨床研究ではフラップ手術単独と比較して有意にCALゲインの獲得量が大きいこと9),EMDの歯周組織欠損への応用によりGTR法と同等の良好な臨床成績が得られるとの報告10,11)がされるようになった。さらにEMD応用後の歯根面においては歯根発生期に認められる無細胞性外部繊維性セメント質が優勢で,歯根膜線維の走行が機能的配列を有する12-14)のに対し,GTR法後に認められる新生セメント質は有細胞性セメント質が優勢で,regeneration(再生)というよりむしろrepair(修復)ではないかとの指摘もある15-17)。さらに臨床的にEMDの応用はGTR法に比べて1)メンブレンを用いないことから手術時間,外科的侵襲が少なくさらに術後の合併症や歯肉退縮が少ない18-20),2)複数歯における骨内欠損に応用しやすい,3)歯根の近接,歯列不正等の影響を受けにくい等の理由もあり適応症も広く頻繁に用いられるようになってきた。しかし,EMDは粘性を有するゲルであるため,特に骨壁の裏打ちのない骨縁下欠損(non-contained defect:1-2壁性骨欠損)においてはEMD単独ではフラップの崩落,歯周組織再生に必要な場の確保が十分に得られない懸念がある21,22)。こうして現在,EMD単独処置による臨床的限界の克服と1-,2-壁性の骨内欠損での臨床成績の向上,適応症の拡大を目指しEMDとメンブレン・種々の骨移植材との併用療法が主流となってきている(図1)。そこで本レビューでは,EMDと各種骨移植材の併用効果を最新の知見を交えて再検証し,歯周組織再生療法の今後を見据えてみたい。

FMPS:全顎におけるプラークスコア,FMBS:全顎におけるプロービング時の出血,MGS:歯肉歯槽粘膜形成術,MPPT:改良型歯冠乳頭保存術,SPPF:単純型歯冠乳頭保存フラップ,M-MIST:改良型低侵襲外科テクニック,MIST:低侵襲外科テクニック,EMD:エナメルマトリックスデリバティブ,BG:骨移植術
(Froum S2),Cortellini P3)ら一部引用改変)
2001年,Sculean23)らはEMDとメンブレンの併用効果を検証すべく6 mm以上の深さを有する骨内欠損に対してEMD単独,GTR法単独,両者の併用療法の効果を報告している。これら3処置はフラップ手術単独よりも有意に臨床的パラメーターの改善(CALゲイン)を認めたが,EMDとGTR法併用による有用性は認められなかった。さらに同様の比較検討結果が報告24,25)され,特に骨壁の残存した骨内欠損(contained defect:3壁性骨欠損)ではEMD単独処置に対してメンブレンを併用しても付加的な臨床的改善が認められないことが示唆された。こうしたことから,それ以降EMDとの併用療法の報告はnon-contained defectに対して骨移植材を用いるものが多く見られるようになった。
12編の臨床論文(被検者434名,548の骨内欠損)を検証した2015年のシステマティックレビュー26)ではEMDと骨移植材の併用療法は有効でありEMDと骨移植材の併用処置後のCALゲインは3.76±1.07 mm,EMD単独処置では3.32±1.04 mm,さらにポケット深さ(PD)の減少が前者で4.22±1.20 mm,後者で4.12±1.07 mmとされている。このようにEMDと種々の骨移植材の併用は良好な結果をもたらしているようにみえるが,選択されている骨移植材や外科的アプローチの違いが併用効果に与えている影響については不明としている。興味深いことに他の多くの報告では,骨移植材単独またEMD単独処置と比較してEMDと骨移植材の併用はなんら付加的な有効性が認められていない27-33)。表1に各骨移植材とEMDの併用結果についてこれまでの報告をまとめた。
これまでEMDと自家骨(AB)の併用療法とEMDの単独療法を比較検討した臨床報告はわずかに2編である32,34)。28の骨内欠損においてEMDとABの併用はEMD単独と比較した時,術後の歯肉退縮は有意に抑制されたが,PDおよびCALの改善にはなんら有意差を認めなかった32)。一方,Yilmaz34)らは2-3壁性骨内欠損においてEMDとABの併用はEMD単独と比較してPDの減少とCALゲインは有意に大きかったと報告している。
EMDと同種他家骨の併用療法の効果については臨床報告が5編ある30,35-38)。3編の報告ではヒト凍結脱灰乾燥骨(demineralized freeze-dried bone allograft:DFDBA)とEMDの併用が各々の単独処置よりPDやCALの変化に有意な差が認められ,残りの2編の研究では認められなかったとしている。
EMDと異種骨(NBM牛骨由来異種骨,脱タンパクス牛骨ミネラル(DBBM)もしくはBio-OssⓇ)の併用療法は5編の臨床研究で検証されている。6 mmより深い骨内欠損を対象とした研究では,EMDとNBMの併用療法は6カ月後,PDやCALが有意に改善した27)とする一方,残りの4編の報告28,29,39,40)ではEMDとNBMの併用はEMD単独もしくはNBM単独処置と比較した場合,有意差は認められておらず結果にばらつきがある。Zuchelliら29)は,歯間乳頭保存術下でEMDとNBM併用処置とEMD単独処置を行い,術後12カ月の再評価において併用処置で有意にCALゲインを認めたとしている。Farinaらの報告41)では,24の骨内欠損を対象に頬側のみのシングルフラップ(single flap approach:SFA)下でEMD単独もしくはEMDとNBMの併用処置を比較した結果,術後6カ月において両処置で臨床的パラメーターの改善を認め,特に1壁性骨欠損においてはNBMの併用による改善が大きかったとしている。
EMDと人工骨(ハイドロキシアパタイト(HA),リン酸三カルシウム(TCP),活性化ガラス(BG)等)の併用療法については,そのほとんどで併用アプローチの有意性が認められていない31,42-47)。Kuruら31)とDe Leonardisら46)は併用によりPDやCALが有意に変化したとしているが,5編の研究42-45),47)においては明確な併用効果は認められないとしている。長期的評価においてもEMDに対する人工骨の併用処置に何ら付加的な効果がないとされている48,49)。

Parallel:並行群間比較,Split-mouth:同一患者内比較,AB:自家骨,DFDBA:凍結脱灰乾燥骨,GTR:組織再生誘導法,FDBA:凍結乾燥骨,NBM・BDX:牛骨由来異種,BG:生体活性ガラス,β-TCP:β-リン酸カルシウム,HA:ハイドロキシアパタイト,n.s. 統計学的有意差なし
これまでの報告では歯周組織再生療法において併用療法が単独療法より優れているとするものが多くないばかりか,結果に一貫性がなくかなりのばらつきが認められる50,51)(表1)。その要因としては,まず患者選択,研究デザイン,欠損タイプ,外科手技,術者の技量が必ずしも同一ではなく多様であることが挙げられる。さらに骨移植材とEMDの併用療法の効果を検証するには使用する骨移植材の特性,併用処置の方法の違いを十分に考慮する必要がある。以下に①骨移植材の由来と骨形成能,②骨移植材の吸収速度,③骨移植材の体積・安定性・充填方法,④骨移植材に対するEMDの吸着能と応用方法の4点に焦点を当て考察する。
1) 使用する骨移植材の由来と骨形成能骨欠損における骨形成を促すには①骨形成能:移植材中の前骨芽細胞および骨芽細胞が実際に新生骨形成を促進する能力,②骨誘導能:移植材中の成長因子が未分化間葉系細胞を刺激し新生骨形成を促進もしくは誘導する能力,および③骨伝導能:移植材が足場(スキャホールド)として隣在する既存骨に由来する前骨芽細胞あるいは骨芽細胞の遊走・増殖を促し新生骨形成を生じさせる能力の3つが効果的に発揮できる骨移植材が求められる52)。現在使用される自家骨,同種他家骨,異種骨,人工骨は以下のような特性を有すると報告されている。
自家骨は第一に安全性が高いばかりでなく,移植材そのものが骨原生を発揮し骨形成を有し上記3要素を有する唯一の移植材でありゴールドスタンダードと考えられている。ヒト骨内欠損への自家骨移植により,骨移植材を用いないフラップ手術に比較し臨床的にも有意な改善がみられ53,54),組織学的にも歯周組織再生が確認されている55,56)。しかし,口腔内からの骨採取が原則であるものの採取部位への外科的侵襲と採取量の制限があることから自家骨移植単独の適応症例は必ずしも多くない。
代表的な同種他家骨としてDFDBAとヒト凍結乾燥骨(Freeze-dried bone allograft:FDBA)があるが,DFDBAはその製造,脱灰過程で骨誘導蛋白(BMP)が露出しており骨原生が高められ57,58),骨伝導能に加えて骨誘導能を有していると考えられている。またヒト骨内欠損へのDFDBA移植後,生検による組織学的評価の結果,歯槽骨再生および結合組織性付着が認められた59,60)のに対してFDBA移植後においては認められなかった61)。なおDFDBAの骨誘導能についてはドナーの年齢や健康状態の影響は受けるが,性別は影響しないとの報告62)もある。主に米国で頻用されているが,未知の感染症の不安や倫理的観点からも容易に受け入れられない場合もあり国内では未承認である。
異種骨としては牛骨由来の無機骨(DBBM:Bio-OssⓇ)が骨伝導能を期待しインプラント治療における骨増大術や上顎洞底拳上術63,64),さらにヒト骨内欠損への応用等の報告が多く,骨内欠損において臨床的パラメーターの改善65)のみでなく組織学的に歯周組織の再生が認められたと報告するものがある66)。本邦においては2011年にGTR法と併用する条件で高度管理医療機器として認可され使用が可能となったが,ウシ海綿状脳症(BSE)プリオンのような感染リスクが懸念されるため,使用にあたっては患者に対して十分な説明と同意を必要とする。
人工骨は完全に化学合成で,比較的安価で量的制限がなく安全性が高い。主にハイドロキシアパタイト(HA)とリン酸三カルシウム(TCP)が広く用いられている。ヒト骨内欠損の応用後,骨形成を一部認めるものの残存顆粒の繊維性の被包化(HA)67,68),あるいは急速な吸収等(TCP)14,69-71)が認められるものが多く報告されている。この他にも様々な人工骨が開発・使用されているが,その選択に関しても明確な判断基準は不足している。
上記のいずれの骨移植材もフィラーやスペーサーとしての役割と骨伝導能を有し骨内欠損において骨形成に寄与するが,その多くは単独使用での歯周組織再生効果はあまり期待できない72)。
2) 骨移植材の吸収速度上述のように骨移植材はその由来によって骨形成能が異なると考えられるが,生体内での吸収速度も様々であり骨再生量に影響を与えると考えられる。
骨内欠損へ自家骨移植する際は,粉砕された自家骨片として応用されることが多い。ブタ下顎骨欠損を用いてメンブレン下で移植自家骨片の挙動を検証した報告73)においてはいずれの採取器具を用いても移植後,最初の4週程で自家骨片は破骨細胞に貪食吸収されるが,その後もリモデリングを経て骨形成が進行し最終的な骨の再生量に有意差は認められなかったとしている。しかし採取器具により骨片のサイズが異なり吸収速度が異なること,bone trapで採取収集した粥状骨は口腔内細菌感染が有意に認められると報告されている74)。
異種骨として頻用されるBio-OssⓇは吸収性と言われているが,実験動物や生検の結果ではほとんど吸収されず,数年の長期間にわたり残存していることが報告63,64,75)されており吸収性は低いと考えられる。なお同種他家骨としてDFDBAとFDBAを抜歯後の顎堤保全を目的に比較検討した報告においてDFDBAは脱灰していないFDBAに比べ,吸収性が3倍程高く76),供給元企業によってもその吸収速度が有意に異なること75)が示されている。
人工骨としては主に非吸収性のHAと吸収性のTCPが頻用されている52,58)。これらを骨内欠損への応用後,吸収速度があまりに速いと新生骨形成の足場としての機能を十分に果たさず,結合組織による線維性の被包化を受け,吸収速度が遅い場合,炎症を惹起しないまでも組織再生の場を骨移植材が占有し,最終的に骨再生量が少なく,さらにセメント質,歯根膜の再生を遅延させる可能性が示唆されている77,78)。特に非吸収性のHAをヒト骨内欠損に用いた場合,残存したHA顆粒と歯根の癒着や,プラーク蓄積による歯周炎の再発等の報告79)もあり,術後感染のリスクを考慮すると歯周骨内欠損では特に吸収性の人工骨の使用が望ましいと考えられる。
こうした骨移植材の吸収速度はその顆粒径が小さいほど吸収も早く,顆粒径が大きいほど吸収が遅いことが知られている。これまで骨移植材の粒径が骨形成に及ぼす効果を検証した報告が様々あるが,歯周組織再生を期待する骨内欠損のような小さな欠損では300-500 μmの粒径が骨形成に望ましいとするものが多い58,80-82)。
現在,適応部位や適応症に応じて吸収速度をコントロールすべく異なる骨移植材のコンポジット材の開発や,臨床的に有効な併用方法も提唱されているが,その混合比率や組み合わせについて十分なエビデンスはない。以上のことより骨内欠損においては適度な機械的物性を有しながら,骨再生を遅延させない吸収性と骨伝導能を始め骨誘導能,骨形成能が可能な限り発揮できる骨移植材の開発が求められている。
3) 骨移植材の体積・安定性・充填方法現在,骨移植材は様々な形状のものが使用されているが,骨移植材の種類を問わず最も骨内欠損で用いられているのは,顆粒状の骨移植材である。骨内欠損の局所で骨移植材の安定化を計れれば,上皮のダウングロースも抑制できメンブレンを用いなくても骨移植材そのものがスキャホールドとメンブレンの役割を共に担う可能性も指摘されている77,83)。しかし,顆粒状の骨移植材は機械的強度が弱く,フラップが崩落し易いため,メンブレンを用いた骨移植材の保護・固定が大切であり,体積維持には顆粒状よりブロック骨の方がより良いとも報告83,84)されている。ただ複雑な歯周骨内欠損の形態を考慮するとブロック骨の使用は困難であることが多い。またメンブレンを使用しなかった場合,欠損内に留まらず散在した骨移植材の顆粒は骨形成に関与することなく歯肉結合組織内に被包化される所見83,85)も得られていることから,骨移植材を用いる際にフラップへの顆粒の迷入を防ぐ目的でメンブレンの使用が推奨されると考えられる。なお骨内欠損のサイズは様々であるが,骨形成を最大限に引き出すには骨移植材の充填量・充填方法にも配慮する必要があると考えられる。前述のように顆粒がフラップに接触するリスクをより減じるため残存骨頂より過剰充填は避け,骨欠損内の残存骨壁のレベルまで移行的な充填が一般に推奨される58)が,実際の充填量は顆粒サイズにも依存する。顆粒サイズが小さいと充填が緊密になりがちで適切な顆粒間間隙(100 μm)81)が確保されず,血管新生や骨形成に関与する細胞侵入が妨げられるとの報告86)もある。一方で顆粒サイズが大きすぎると移植後の顆粒間間隙が広くなり血餅の保持や骨伝導能が発揮しにくくなると考えられる。ただ顆粒状の骨移植材は術中の操作性が必ずしも良いとは言えず,充填量の規定も困難なことがある。現在,ブロック・パテ・ペースト等様々な形状の骨移植材が開発されているが,複雑な歯周骨内欠損への応用を考慮すると注入可能で成形性のあるセメント製剤の人工骨77)も有用かもしれない。
4) 骨移植材に対するEMDの吸着能と応用方法2009年にEMDを添加した種々の骨移植材上でヒト骨芽細胞の増殖が促進していることが始めて報告87)された。これまで露出歯根面においてはEMD応用後,エナメルタンパクは2週~4週残存していることが報告88,89)されていたが,EMDが骨移植材にどの程度吸着するのか,また血液の介在の影響等については不明であった。そこでMironらはEMDと骨移植材の併用処置を行ううえでの課題について一連のin vitro研究90-93)を行った。まず抜去歯の歯根面に対する血液付着とEMD吸着能の関連を評価し,EMD応用前に血液付着が起きた場合,エナメルタンパクの吸着が著しく損なわれること,EMDが塗布された歯根面では,血液付着した歯根面より歯根膜細胞の付着と増殖が促進することを示した90)。続いて,骨移植材としてNBMを用い血液付着の有無とEMDのNBMへの吸着能の相関,さらにNBM上で骨芽細胞と歯根膜細胞の挙動を評価した。その結果,血液付着はエナメルタンパクのNBMへの吸着を阻害すること,血液付着がなければエナメルタンパクのNBMへの吸着量が5分後まで経時的に上昇すること,EMD塗布サンプルの方が血液付着サンプルより有意に骨芽細胞および歯根膜細胞の付着,増殖あるいは分化が促進することを報告している91)。以上のことより,歯根面にEMDを応用する際に血液を確実に排除すること,EMDと骨移植材を併用する場合,欠損内へ骨移植材を充填する前に血液付着がないよう事前にEMDを最低5分浸漬させ,エナメルタンパクを十分に吸着させたうえで用いることが推奨されるかもしれない。しかし同様の実験系でEMDはDFDBAや人工骨にも吸着するが,骨移植材の表面性状や構造によって吸着程度が異なり,それに伴い移植材上での細胞挙動に違いがあることも指摘されている92-94)。このようにEMDと組み合わせる骨移植材についてはさらに検討が必要であると考えられる。
さらに近年,従来のプロピレングリコールアルギネート(PGA)を溶解剤とするEMD-gelと酢酸を溶解剤としたEMD-liquid(PGA担体なし)を用いて各種骨移植材上でのアメロジェニン蛋白の吸着能が検証された94)。その結果EMD-gelでは骨移植材上に厚いPGAの被膜が形成され,リン酸緩衝生理食塩水を用いた濯ぎで結合蛋白の50%以上が洗い流された一方,EMD-liquidは多孔性を有する骨移植材の表層のみでなく内部にまで浸透しアメロジェニンの吸着率が有意に高く,その後の徐放についても10日以上持続したとしている。こうしてEMD-liquidは物理化学的特性を改良し骨移植材との併用を前提にOsteogainとして新たに開発された(図2)。ラットの大腿骨欠損においてOsteogainとNBMの併用処置がNBM単独処置,欠損のみのコントロールと比較して有意に骨形成量が多いこと95)が示されている。我々は現在,Osteogainと骨移植材の併用が歯周組織再生にどの程度有効か検証するため基礎研究を進めているが,その臨床応用についてはさらに検証が必要と思われる。

Emdogain(EMD-gel,下段)より漿液性で種々の骨移植材との併用を前提に使用する。
歯周組織は歯肉・歯槽骨・歯根膜・セメント質といった硬組織・軟組織の混在した組織複合体から構成されるため,特に重度の歯周組織破壊を認める天然歯周囲で真の歯周組織再生を獲得するには単一の処置,材料だけで解決することは必ずしも容易とはいえず,併用療法のストラテジーは必然ともいえる。こうして2000年代初頭より細胞機能を調節するサイトカインの一つであるPDGF(platelet-derived growth factor:血小板由来増殖因子)と骨移植材のβ-TCPがその併用を前提としたパッケージ(GEM21SⓇ:日本国内未認可)として米国で市販され,歯周組織再生療法として良好な臨床効果が報告96)されてきた。また本邦では強力な血管新生促進作用を有するサイトカインである塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)に関する基礎研究,臨床研究が進められ,基礎研究においてはFGF-2が培養ヒト歯根膜由来細胞(HPDL)の遊走と増殖を促進すること,HPDLからのオステオポンチンやヒアルロン酸等の細胞外基質の産生を高めることが明らかとなり,歯周組織再生に適した微小環境を創出する可能性が示唆されている97)。またHPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ゲルを溶解剤とした0.3%リコンビナントヒト線維芽細胞増殖因子-2(rhFGF-2)を用いた多施設臨床治験においてもその安全性が確認され,レントゲン上で有意に新生骨を誘導する傾向を認め,日本発の新たなサイトカイン療法として,本邦における認可が待ち望まれる処である。このように現在,EMDのみならず,各種サイトカインと骨移植材の骨内欠損へのアプローチが盛んで各々の歯周組織再生に関わるエビデンスの整理が以前にも増して必要となってきている。
エビデンスの基盤を構築するうえで基礎研究は極めて重要であるが,その結果を直接臨床に外挿できないことがある。一方,臨床研究における評価はPD,CAL,歯肉退縮量等の臨床的パラメーターやレントゲン評価,あるいはリエントリー手術による処が多い。ただ失われた組織の機能ばかりでなく形態を完全に回復する「再生」の定義に立ち戻ると「歯周組織再生」を本質的に確認するにはヒトの生検による組織学的評価が唯一のもの98)となる。しかし当然,治療結果の検証に生検を常に行うことは不合理であり,また生検で得られる組織標本は,重度の歯周炎に罹患した保存困難な再生のポテンシャルが低い天然歯を対象とすることが多く,コントロールも一般になく評価に限界がある72)。そこで,我々は歯周組織再生療法の治療効果・治癒像を検証するため,EMD,rhFGF-2,GEM21SⓇ(以下PDGF/β-TCP)の応用を実験群として,歯肉剥離掻爬術(OFD)を対照群としてイヌ2壁性骨欠損(深さ5 mm,頬舌径5 mm,近遠心径5 mm)においてこれらの歯周組織再生に及ぼす効果について比較検討を行った14)(図3)。術後8週での組織学的所見として,実験群では既存骨骨頂および欠損底部より欠損歯冠側にかけて顕著な新生骨形成が認められた。OFD群では,既存骨骨頂の吸収が著しく歯根面に並走して薄い新生骨形成が認められた(図4)。実験群では歯根面に沿ってシャーピー線維の埋入を伴った新生セメント質の伸展,および歯根膜様組織が認められた。なお緻密で機能的配列を有する歯根膜線維はEMD群とPDGF/β-TCP群でrhFGF-2群より優位に認められた(図5-7)。新生セメント質形成に関してOFD群では,僅かに欠損底部に限局するのみであったのに対し,EMD群では薄い無細胞性セメント質が,rhFGF-2群およびPDGF/β-TCP群では厚い細胞性セメント質が優位に認められた(図4-7)。組織形態計測結果として,実験群はOFD群より,またrhFGF-2群はEMD群より統計学的に有意に新生骨形成量が多かった(表2)。このように2壁性骨欠損におけるEMD群,rhFGF-2群,PDGF/β-TCP群で各々良好な歯周組織再生が認められた。しかし,EMDのみではスペースメインテナンスが困難で,無細胞性セメント質の再生には有効であるがrhFGF-2程,顕著な骨誘導能を有さない可能性が示唆された。rhFGF-2群は骨移植材を用いなかったにも関わらず新生骨形成量が最も多く骨誘導能が極めて高いことが示唆された。PDGF/β-TCP群ではβ-TCPの骨伝導能の発現,欠損部で血餅,創傷治癒の安定化により安定した歯周組織再生が認められた。しかしrhFGF-2群と比較し骨形成量が少なく残留したβ-TCPの一部が過去の報告同様,線維性被包化している所見が認められた。このようにアプローチの違いにより組織学的な治癒所見が異なっていた。2015年,国内の多施設で実施された骨内欠損におけるrhFGF-2とEMD-gelの比較臨床試験の結果,我々の動物実験の結果同様,rhFGF-2の方がEMD-gelより骨形成量が多いことが報告99)されている。しかし,rhFGF-2とEMD-gelでは上述のように再生様式(i.e.結合組織付着量,歯根膜線維の配列,セメント質の種類等)が異なっている可能性があり,それが臨床的な長期的予後にどのように関わるかは判明していない72)。以上のことより,今後のEMD-gelとrhFGF-2の臨床選択において,その由来(動物製剤,リコンビナント),生物学的特性,併用する担体100)や骨移植材さらにコスト等を熟考したうえで,慎重に用いる必要があろう。

(a)左:歯肉剥離掻爬術(OFD),右:rhFGF-2の応用(b)左:EMD-gelの応用,右:PDGF/β-TCPの充填(文献14)より引用)

(a)弱拡大像,歯周組織再生は欠損底部に限局している。破線部は欠損範囲を示す。(scale bar:1 mm)(b)根尖側フレーム部の強拡大像,歯根膜線維は疎で歯根に並走している。(scale bar:200 μm)CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側,NB:新生骨,NC:新生セメントN:根尖部ノッチ,D:象牙質(文献14)より引用改変)

(a)弱拡大像,新生骨形成が歯根に沿って認められる。破線部は欠損範囲を示す。(scale bar:1 mm)(b)根尖側フレーム部の強拡大像,(c)歯冠側フレーム部の強拡大像,新生骨と無細胞セメント質間に斜走する歯根膜線維が密に認められる。(scale bar:100 μm)CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側,NB:新生骨,NC:新生セメント質,PDL:歯根膜,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(文献14)より引用改変)

(a)弱拡大像,既存骨頂部から歯冠側に向けて著明な骨形成が認められる。破線部は欠損範囲を示す。(scale bar:1 mm)(b)根尖側フレーム部の強拡大像,矢印:セメント細胞(c)歯冠側フレーム部の強拡大像,シャーピー線維の埋入・非埋入した厚い細胞性セメント質を認める。(scale bar:100 μm)CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側,NB:新生骨,NC:新生セメント質,PDL:歯根膜,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(文献14)より引用改変)

(a)弱拡大像,既存骨頂部から歯冠側に向けて骨形成が認められるが,欠損中央部ではβTCPの残留と一部,線維性の被包化が認められる。破線部は欠損範囲を示す。(scale bar:1 mm)(b)根尖側フレーム部の強拡大像,細胞性セメント質を主体として機能的配列を有する歯根膜線維が認められる。矢印:セメント細胞(c)歯冠側フレーム部の強拡大像,薄い無細胞性セメント質が連続的に根尖側から伸展している。(scale bar:100 μm)CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側,NB:新生骨,NC:新生セメント質,PDL:歯根膜,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(文献14)より引用改変)

DH:欠損高さ,JE:上皮の深部増殖量,CT:結合組織性接着(セメント質なし),NB:新生骨形成量,NC:新生セメント質形成量,n.s. 統計学的有意差なし(文献14)より引用改変)
今回,主に歯周組織再生療法におけるEMDと各種骨移植材との併用療法の効果について考察を行ってきたが,その多くは欧米から報告されているものであり,選択される骨移植材も国内未承認の材料が少なくない。こうした中,本邦では,一連のFGF-2の歯周骨内欠損における臨床治験が終了し,承認後には広く臨床応用されることが期待される。今後はEMDを始めとするこれまでの歯周組織再生療法に加え,新たなサイトカイン療法・細胞移植療法も脚光を浴び実践されつつある。しかし各々に利点・欠点があり万能のものは存在せず,さらにこれらの併用には不明点・不確実なファクターが非常に多く存在する。歯周組織再生を考慮した際,併用療法の必要性があるとしても,その臨床的選択には適切な検査・診断のもと,技術の修得が強く求められる。その一方,経験則にのみ偏った安易な材料の選択と併用療法の実践は患者への経済的・外科的・時間的負担を強いるばかりでなく,一貫性のある歯周組織再生療法として治療結果を得ることは困難となろう。常に生物学的エビデンスの構築・検証とその深い理解を伴った歯周組織再生療法の実践が今後さらに重要になってくるものと考えられる。
今回の論文に関して,開示すべき利益相反状態はありません。