日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
歯科衛生士コーナー
歯科衛生士が知っておきたい洗口剤の応用
五味 一博
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 2 号 p. 86-90

詳細

はじめに

歯周治療のゴールドスタンダードはプラークコントロールであり,その主体となる適切な歯ブラシ指導とSRPの実施は歯科衛生士の重要な職務であり,腕の見せ所でもある。プラークコントロールに薬剤を使用するなんて衛生士として自分の技術を否定するのと同じだ。そんな考えを持つ立派な歯科衛生士の方々も少なくないと思われる。しかし,高齢化社会へと急速に進む現在の社会情勢の中,歯ブラシだけに頼るのではなく,歯周病治療や予防に対し薬剤を応用することの重要性は増してきている。本コーナーでは歯科衛生士が行なう薬物療法として洗口と歯周ポケットイリゲージョンに用いる薬剤を中心にその種類,特性を概説し,その使用法について解説していきたい。

バイオフィルム感染症としての歯周病

歯周病はプラーク(バイオフィルム)に起因する細菌感染症であると定義づけられている。プラークはその付着部位により歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラークに分けられる。特に歯肉縁下プラークにはグラム陰性嫌気性桿菌であるいわゆる歯周病原細菌が多く存在することで歯周炎を引き起こす。しかし,歯肉縁上プラークが形成されることで歯肉に炎症が生じ,深い嫌気的な歯周ポケットを形成することで歯周病原菌が増殖する環境が作り上げられることから,歯肉縁上プラークも歯周病の発症に大きく関わっている。

洗口剤には歯肉縁上プラークの破壊や殺菌,プラークの再沈着を防止する効果があることが認められている1)。歯ブラシの普及率はアメリカとほぼ同じであるのに対し,洗口剤の普及率はアメリカと比べて極めて低い値を示している2)(表1)。一方で歯肉縁下プラークに関しては洗口ではポケット内0.5 mm程度にしか薬剤は作用しないことから大きな効果が望めないことが知られている3)。このため,歯肉縁下プラークに対して消毒剤や殺菌剤を作用させるにはシリンジあるいは超音波スケーラー等を用いることによって歯周ポケット内をイリゲージョンすることが必要となる。いづれにしても効率よく洗口剤を応用するためには洗口剤の持つ特性を良く理解した上で使用することが必要となる。

表1 口腔清掃法とその普及率

洗口剤の種類と特性

1) 歯面やバイオフィルム表面に付着して作用する薬剤(図1

水溶液中で強いイオン性を有し陽イオンを生じる薬品は,表面が負に帯電しているバイオフィルムや細菌,さらに歯面や粘膜面に付着することで殺菌作用を発揮する。また,歯面等に吸着することでプラークの再形成を抑制する効果が期待される。

図1 イオン系,非イオン系抗菌剤のバイオフィルムへの浸透性

(1) グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)

細菌の細胞壁に結合することで細胞膜を傷害して抗菌作用を発揮する。グラム陽性菌や陰性菌を含め広い抗菌性を有する4)。また,歯面に吸着してプラークの再付着を抑制することが知られており5),海外では洗口剤として広く応用されている。グルコン酸クロルヘキシジンの歯周治療への応用に関しては多くの研究があるが,その濃度は0.12~0.2%である6,7)。しかし本邦ではグルコン酸クロルヘキシジンによるアナフィラキシーショック例が報告されたことから8),洗口液のグルコン酸クロルヘキシジンは,原液濃度で0.05%までに規制されている。実際にはこれを希釈して使用するため0.01%程度の濃度で応用されることが多い。

副作用として,アナフィラキシーショックが報告されている。また,歯の着色や味覚異常や歯石形成などの報告もある。

(2) 塩化セチルピリジウム(CPC)

溶液中で陽イオンとなる界面活性作用による洗浄効果と細菌の細胞膜を変性させることで殺菌性を有する。低濃度でも菌体に静電気的に結合することで効果があり,毒性や刺激は少ない。グルコン酸クロルヘキシジン同様に歯面に吸着してプラークの再形成を抑制し,歯肉炎の予防に効果があることが報告されている9)。口腔内の消毒には,ベンゼトニウム塩化物として,0.004%(50倍希釈)溶液として洗口する。

副作用として,過敏症,刺激感が報告されている。

(3) 塩化ベンゼトニウム(BTC)

陽イオン界面活性剤として作用し洗浄効果を有する。口腔細菌に作用してプラーク形成抑制や歯肉炎の抑制作用を示すだけでなく,一般細菌や,カンジダなどの酵母様真菌に有効である10)。本薬に対する粘膜の耐容性は比較的良く,0.004%液が口腔(うがい),0.01~0.02%液が口腔の創傷部位に適用がある。

副作用として,過敏症,刺激感が報告されている。

2) バイオフィルム深部へ浸透して作用する薬剤

非イオン性を示し,歯面やバイオフィルム表面への吸着は弱く,バイオフィルム内に浸透し,短時間に殺菌性を示す(図1)。

(1) ポビドンヨード(PI)

ポビドンヨードは,遊離ヨウ素の酸化作用により細菌の蛋白質合成を阻害し強い殺菌作用を有する。洗口には0.5%ポビドンヨード溶液を希釈して0.1%ほどで用いる。口腔細菌全般に対し強い殺菌作用を示す11)。ハロゲン系殺菌剤である本剤は金属に対する強い腐食作用を有することから12),インプラントあるいは金属補綴物を多く有する患者には使用しないことが必要である。

副作用として,ヨードに対するアレルギーの患者にはアナフィラキシーショックを生じる危険性がある。その他,発疹,口腔粘膜びらん,口中のあれ等が報告されている。

(2) エッセンシャルオイル(EO)

エッセンシャルオイルは,植物に含まれる揮発性の芳香物質を含む有機化合物であり,フェノール化合物を主体とする複数の天然由来成分(メントール,サリチル酸メチル,チモール,ユーカリプトール)を含有しており殺菌作用の他に抗炎症作用を示す。エッセンシャルオイルを主成分とした洗口剤にリステリンがあり,リステリンのバイオフィルム内浸透速度を調べた研究ではグルコン酸クロルヘキシジンよりも4.89倍早かったことが報告されている13)。また,抗炎症作用に優れ14),その作用機序はプロスタグランジン合成抑制作用15)や遊離活性酸素スカベンジャー作用あるいは好中球活性抑制作用16)や抗酸化作用17)などによることが考えられる。リステリンにはアルコール(エタノール)が含まれた製品と,ノンアルコール製品とがある。

副作用として,特にアルコール含有の製品ではドライマウス,味覚障害などが上げられる。

(3) トリクロサン(TC)

フェノール系の薬用洗剤で,一般細菌に対する消毒剤として多用されている。特にグラム陽性菌への作用が強く,脂肪酸合成系酵素を阻害することで細胞壁を破壊し殺菌的に作用する。プラーク形成を阻害する効果が認められており,洗口剤として応用されている18)

副作用として,最近の研究でホルモン撹乱物質の可能性が指摘されるほか,抗菌薬に耐性のあるスーパー細菌の生成に関与する可能性が指摘されている19)。アメリカの一部の州ではトリクロサンを含む衛生商品販売を禁止する法律が施行されている。

なお,詳しい薬剤についての説明や応用については歯周病学会誌ミニレビューをご参照願いたい20,21)

洗口剤のプラークコントロールへの応用

洗口剤をプラークコントロールに応用する場合,絶えず念頭に置かなければならないのはブラッシングやSRPといった機械的プラークコントロール方法に対する補助療法であり,SRPなどでプラークの機械的除去を行った治療効果を高め,持続させるために使用するということである。歯周治療で洗口剤を効果的に使用するには,“いつ”,“何を”,“どこに”,“どのように”使用するかの基準を策定しておくことが大切である。

“いつ”“何を”用いるか?

ブラッシングやSRPあるいはPMTCを行い,歯面からプラークを除去した後に洗口剤を使用する時には,歯面へのプラークの再付着を抑制する効果を狙って,歯面やバイオフィルム表面に付着して作用する洗口剤であるグルコン酸クロルヘキシジン,塩化セチルピリジウムあるいは塩化ベンゼトニウムなどを用いて洗口する。しかし,歯磨剤,歯面研磨剤に含まれる発泡剤や研磨材は負に荷電しているため,プラスに荷電しているこれらの薬品の効果を不活性化し洗口剤の効果を減弱する22)。この場合にはブラッシング後に水による含嗽を行い,歯磨剤を取り除いた上で洗口剤を使用することが必要である。エッセンシャルオイルではこの様な問題はないが,歯磨剤に含まれるフッ化物を歯面に作用させるためにはブラッシング直後の洗口は避けなくてはならない。このため,特にブラッシング後には約30分程度の時間をあけてから洗口することが望ましい23)

ブラッシングとブラッシングの間に行う洗口では,歯面に形成されはじめたマイクロバイオフィルム内に浸透し殺菌効果を得る洗口剤の使用が効果的である。この目的のためにはバイオフィルム内への浸透性を有する薬剤であるポビドンヨード,エッセンシャルオイルを用いることで薬剤がマイクロバイオフィルム内に浸透し,プラークの形成を抑えることができると考えられる。

“どこに”用いるか?

機械的プラークコントロールが難しい深い歯周ポケットや根分岐部など,複雑な根形態部への応用には,シリンジ等を用いての積極的な応用が効果的である。さらに舌背,扁桃などの粘膜部分の細菌コントロールにも洗口剤の応用が極めて有効となる。

“どのように”用いるのか?

歯肉縁上のプラークコントロールには上述したようにブラッシング後あるいはブラッシング間の洗口で対応する。しかし,歯肉縁下のプラークコントロールを行う場合には,洗口では対応できないことから超音波スケーラーを用いた歯周ポケット内イリゲージョンと併用することが必要となる。この場合,超音波スケーラーの薬液ボトルに洗口剤を入れて充分時間をかけてイリゲージョンする。あるいは超音波スケーラーでイリゲージョンし,充分にバイオフィルムを除去した後にシリンジに入れた洗口薬剤を用いてポケット内を洗浄する。歯周ポケット内を単にシリンジに入れた薬剤で洗浄しても,歯根面に付着した歯面付着性プラークは除去できないことからその効果は少ない。

洗口剤を長期使用しても薬剤耐性菌の出現は低く,プラークの形成を抑制や抗炎症作用により歯肉炎および慢性歯周炎に対しては1次及び2次予防が可能である24)(表2)。また,洗口剤の効果は継続的な使用で初めて効果として現れる場合が多いことから,長期間にわたるプラークコントロールのプログラムを作成し,その中で計画的に使用していくことが必要である25)(表3)。

高齢化社会へと進む中,高齢者,有病者あるいは障害者の口腔環境の維持,改善は全身疾患の発症あるいは進行の抑制を行う上で重要な位置を占める。歯周病原菌だけでなく口腔内の細菌数を減らすことは誤嚥性肺炎への対応のみならず全身の健康維持にも関与し,感染源となる種々の細菌を効率良く口腔内から除去するために,洗口剤等を効果的に用いることはこれからの歯科医療にとって必要な治療法の一つとなってくるものと考えられる。歯科衛生士の職務の中で,洗口剤のシステマティックな応用について今一度考える時ではないだろうか(表4)。

表2 洗口剤による歯周病の1次予防と2次予防の適応
表3 各種殺菌消毒剤のプラーク形成と歯肉炎に与える影響
表4 成分別洗口剤
References
 
© 2016 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
feedback
Top