日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周組織におけるインフラマソームの役割
吉村 篤利Jorge Luis Montenegro RaudalesZiauddin SM樋口 賀奈子原 宜興
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2017 年 59 巻 2 号 p. 57-62

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1. はじめに

炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン(IL)-1βはIL-1ファミリーの1つで,多様な生理活性を持ち,細胞の分化・増殖など様々な生物学的作用を引き起こす1)。主に,マクロファージなどによって産生され,歯周炎患者の歯周組織および歯肉溝滲出液中にも検出される2,3)。歯周炎患者の歯肉溝滲出液中のIL-1β濃度は,健常者の歯肉溝滲出液中の濃度よりも高く,歯周組織における炎症の程度と相関する4)。IL-1βは骨吸収にも促進的に作用することから,歯周炎の進行にも深く関与すると考えられている5)

ところでIL-1βは,歯周組織に恒常的には発現しておらず,その発現は転写レベルおよび蛋白レベルの2段階で制御されている(図16)。IL-1βの転写は,炎症性転写因子NF-κBの核内移行を誘導する刺激等により開始される。細菌性の刺激であれば,Toll様受容体(TLR)やNOD(nucleotide-binding oligomerization domain)様受容体(NLR)を介して刺激が伝達される。これらの刺激が核内に伝達されると,IL-1βの転写が開始され,IL-1β前駆体が合成される。IL-1β前駆体は,それ自体は非活性型であり,また細胞外へ分泌されない。IL-1β前駆体は,カスパーゼ1,別名IL-1β変換酵素(ICE)により切断されて初めて成熟型IL-1βとなり,細胞外へ分泌される。このカスパーゼ1の活性化に必須なのが,インフラマソームと呼ばれる蛋白複合体の細胞質内での形成である7)

インフラマソームが活性化されるとカスパーゼ1前駆体が切断されて活性型カスパーゼ1となり,IL-1β前駆体以外にも24 kDaのIL-18前駆体が切断される8)。切断され18 kDaとなった成熟型IL-18は,T細胞の分化に重要な役割を果たし,Th1細胞のインターフェロンγ産生を誘導する9)。また,活性型カスパーゼ1はガスダミンDと呼ばれる53 kDaの蛋白も切断する。切断されたガスダミンDのN末端側の断片は,細胞膜の内側で重合し,直径10~33 nmの細胞膜を貫通する小孔を形成する10)。この小孔により細胞は溶解・膨張するが,このような細胞死をピロトーシスと呼ぶ。

インフラマソームの活性化により誘導されるIL-1β,IL-18前駆体のプロセシングおよびピロトーシスは,いずれも免疫系の活性化や感染防御に深く関与しており,歯周組織の恒常性の維持に重要な役割を果たすとともに,過剰な活性化は歯周組織の破壊にも関与していると考えられる。

図1

インフラマソームの活性化を介したIL-1β,IL-18の産生とピロトーシスの誘導

2. インフラマソームの構成成分とその活性化機構

インフラマソームは細胞質受容体としてNLRまたはabsent in melanoma 2(AIM2),アダプターとしてapoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruit domain(ASC),さらにカスパーゼ1前駆体により構成される(図28)。NLRは,N末端にパイリンドメイン(PYD)またはカスパーゼリクルートドメイン(CARD)を持ち,中央にNODドメイン,C末端にロイシン繰り返し配列(LRR)を持つ。AIM2は,N末端にPYDを持つ。カスパーゼ1前駆体は,N末端にCARDを持つ。ASCは,N末端にPYD,C末端にCARDを持ち,PYDを持つ蛋白とCARDを持つ蛋白を結合させるアダプターとして機能する。未刺激状態ではこれらの構成成分は細胞質内に独立して存在するが,後述の刺激がNLRまたはAIM2によって感知されると,NLRまたはAIM2,ASC,カスパーゼ1前駆体が会合して多量体化する。多量体化して形成されたインフラマソームによりカスパーゼ1前駆体が切断され,カスパーゼ1が活性型として機能する。

インフラマソームを活性化するNLRとして,NLRP1,NLRP2,NLRP3,NLRP6,NLRC4が知られている。NLRはTLRなどと同様に,病原体成分特有の分子パターン(pathogen-associated molecular patterns,PAMPs)や傷害細胞内に発生した特有の分子パターン(damage-associated molecular patterns,DAMPs)を認識する。NLRやAIM2は,それぞれ表1に示すPAMPs/DAMPsによって活性化される11)。NLRP1は,細菌細胞壁を構成するペプチドグリカンの構成要素ムラミルジペプチドや炭疽菌のリーサルトキシンなどによって活性化される。NLPR3は,これまでにもっともよく研究されているインフラマソームを構成するNLRで,傷害を受けた細胞から放出されるアデノシン三リン酸(ATP),痛風の原因となる尿酸結晶,偽痛風の原因となるピロリン酸カルシウム結晶,動脈硬化の原因となるコレステリン結晶,アルツハイマー病の原因となるβアミロイドなどによって活性化される。珪肺の原因となるシリカや,抗体作成のための免疫時にアジュバントとして用いられる水酸化アルミニウムによっても活性化される。これらの結晶の組織への沈着は,それぞれが関連する疾患における局所での炎症の原因となる(表2)。また,クライオパイリン関連周期熱症候群と呼ばれる自己炎症性疾患では,NLRP3遺伝子の変異によりIL-1βの産生が亢進していることも知られている。他方,NLRC4(別名Ipaf)は,細菌の鞭毛を構成するフラジェリンによって活性化される。AIM2は,ウィルスなどの二重鎖DNAによって活性化される。

インフラマソームの活性化は,当初これらのNLRまたはAIM2がPAMPs/DAMPsを直接または間接的に感知することにより誘導されると考えられていたが,細胞内に取り込まれたリポ多糖(LPS)は,マウスのカスパーゼ11,ヒトのカスパーゼ4,5を直接活性化し,IL-1β,IL-18前駆体のプロセシングやピロトーシスを誘導することが明らかとなった。そこで,通常のNLRまたはAIM2を介したインフラマソーム活性化をカノニカル経路と呼ぶのに対し,マウスのカスパーゼ11やヒトのカスパーゼ4,5を介したインフラマソームの活性化をノンカノニカル経路と呼ぶ8)。また,ヒト単球においてはLPSの刺激によりピロトーシスを誘導することなくインフラマソームが活性化され,IL-1βが産生されることが明らかにされた。カノニカルおよびノンカノニカルなインフラマソームの活性化を古典的インフラマソーム活性化と呼ぶのに対して,このような活性化を代替的インフラマソーム活性化と呼ぶ12)。代替的インフラマソーム活性化は,マウスの細胞では確認されていない。

図2

インフラマソームの構成成分

表1

インフラマソームの活性化因子(文献11より改変)

表2

インフラマソーム関連疾患とその原因因子(文献11より改変)

3. 歯周組織におけるインフラマソームの発現とその活性化

Bostanciらは,歯周組織におけるインフラマソームの発現と制御について解析を行った13)。歯肉炎患者10名,慢性歯周炎患者18名,広範型侵襲性歯周炎患者20名,健常者20名の歯周組織におけるNLRP3,NLRP2,ASC,IL-1β,IL-18の発現について定量的RT-PCR法を用いて解析したところ,歯周病患者の歯周組織におけるNLRP3とNLRP2の発現量は,健常者の歯周組織における発現量よりも多かった。また,歯周組織におけるNLRP3の発現量とIL-1β,IL-18の発現量は相関しており,NLRP3インフラマソームの発現が歯周炎の進行と関連していることが示唆された。Parkらも,健常者と歯周炎患者の歯周組織におけるASC,NLRP3,AIM2,カスパーゼ1の発現をウェスタンブロット法で比較し,歯周炎患者により多くのNLRP3,AIM2,カスパーゼ1の発現がみられることを報告した14)

Porphyromonas gingivalisTreponema denticolaなどの歯周病原細菌は,NLRP3インフラマソームやAIM2インフラマソームを活性化することが示されている14,15)。Parkらは,ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)で分化させたTHP-1細胞にP. gingivalisを感染させると,培養上清中にIL-1βおよび乳酸脱水素酵素(LDH)が検出され,IL-1βの産生とピロトーシス様の細胞死が誘導されることを報告した14)。さらに,PMAで分化させたTHP-1細胞のNLRP3またはAIM2をsiRNAでノックダウンすると,P. gingivalisを感染させてもIL-1βの産生およびピロトーシス様の細胞死は誘導されず,これらの反応は,NLRP3インフラマソームおよびAIM2インフラマソームを介していることが明らかとなった14)。また,Junらは,PMAにより分化させたTHP-1細胞をT. denticolaの菌体表面蛋白Td52で刺激した。刺激後の培養上清中にIL-1βおよびLDHが検出され,Td52がIL-1βの産生とピロトーシス様の細胞死を誘導することが明らかとなった15)。この反応はNLRP3インフラマソーム阻害剤および抗α5β1インテグリン抗体により抑制され,また,Td52はα5β1インテグリンと直接結合したことから,Td52がTHP-1の細胞表面に発現するα5β1インテグリンを介してNLRP3インフラマソームを活性化することが示された15)。これらの結果は,P. gingivalisおよびT. denticolaを含む多くのプラーク中の細菌がインフラマソームを活性化し,歯周組織におけるIL-1β,IL-18の産生やピロトーシスの誘導に関与していることを示唆している。

また,Huangらは,健常者から採取した歯肉上皮と慢性歯周炎患者および糖尿病患者から採取した歯肉上皮におけるNLRP3およびIL-1βの発現量を免疫組織学的に比較した16)。慢性歯周炎患者および糖尿病患者の歯肉上皮は,いずれも健常者の歯肉上皮より多くのNLRP3およびIL-1βを発現していた。さらに,in vitroで歯肉上皮細胞を高濃度のグルコースおよびLPSで同時刺激すると,LPS単独で刺激した場合よりもNLRP3のmRNA発現量が増加していた。また,高濃度のグルコースおよびLPSで同時刺激した場合の方が,いずれの単独刺激よりもNLRP3蛋白発現量が増加していることが,免疫染色により確認された16)。これらの結果から,高血糖状態によるインフラマソーム活性化の亢進が糖尿病患者で歯周病が進行やすいことと関連しているのではないかと述べている。

4. 歯石によるインフラマソームの活性化

我々は,歯石に含まれる菌体成分はTLRを介してIL-1β前駆体を誘導し,歯石中のリン酸カルシウム結晶は,尿酸結晶やコレステリン結晶などと同様に,貪食細胞のNLRP3インフラマソームを活性化することができるのではないかと仮説を立て,歯周病患者から採取した歯石のIL-1β産生誘導能について解析した17)。歯石は,10%次亜塩素酸ナトリウムと蒸留水で洗浄した後,細かく粉砕して48 μmのメッシュを通過した粒子をオートクレーブで滅菌して使用した。この歯石を用いてヒト末梢血から採取した好中球および単球を刺激し,培養上清中のIL-1β濃度をELISA法で測定した。その結果,歯石は,濃度依存的にヒト好中球および単球におけるIL-1βの産生を誘導することが明らかとなった。野生型マウスから樹立した不死化マクロファージを歯石で刺激した場合にも培養上清中にIL-1βが検出されたが,ASC欠損マウスおよびNLRP3欠損マウスから樹立した不死化マクロファージの培養上清中にはIL-1βが検出されず,この反応はNLRP3インフラマソームを介していることが明らかとなった。歯石を250℃で1時間熱処理して有機質を変性させた後,野生型マウスマクロファージをこの歯石で刺激すると,IL-1β前駆体のmRNAの発現上昇はみられなくなった。この結果から,歯石中に含まれる菌体成分がIL-1β前駆体の合成に必須であることが示された。また,歯石を構成する結晶には,ハイドロキシアパタイト(HA),ブルシャイト,リン酸三カルシウム,リン酸オクタカルシウムなどが含まれるが,合成HA粒子(直径5 μm以下)を用いてlipid Aでプライミングした野生型マウスマクロファージを刺激すると,IL-1βが産生された。一方,lipid Aでプライミングしていない野生型マウスマクロファージからは,IL-1βは産生されなかった。これらの結果から,歯石に含まれるHA粒子はインフラマソームの活性化を介してIL-1βをプロセシングすることが示された。また,ASC欠損マウスおよびNLRP3欠損マウス由来のマクロファージをlipid AでプライミングしてHA粒子で刺激してもIL-1βは誘導されず,歯石中の結晶構造は,NLRP3を介してインフラマソームを活性化し,IL-1βの産生に寄与していることが確認された。

歯石は,通常プラークで覆われており,プラークの為害性に歯石が付加的に作用しているかどうかを判定することは難しい。しかしながら,疫学的には歯石付着と歯周病の進行には関連がみられることが示されており,歯石の取り残しが臨床成績に悪影響を及ぼすこともよく知られている18)。今回我々が明らかとした歯石によるNLRP3インフラマソームの活性化とIL-1βの産生は,歯石が付加的に為害性を示し得ることを示しており,特にプラークコントロールの行き届いた口腔内やフラップ手術後の根面では,歯肉縁下歯石の取り残しが歯周組織の炎症の直接的原因となる可能性もあるものと思われる。

5. おわりに

歯周組織にはインフラマソーム構成成分が恒常的に発現しており,歯周病病変部ではその発現が増強するとともに各成分が会合して多量体化し,インフラマソームが活性化される。インフラマソームが活性化すると活性型カスパーゼ1によりIL-1β,IL-18前駆体がプロセシングされるとともにピロトーシスが誘導される。歯周病原細菌および歯石によるインフラマソームの活性化は,これらの作用を介して歯周組織の感染からの防御に重要な役割を果たすとともに,歯周組織の組織破壊にも関与していると考えられるが,その役割については不明な点も多い。これまでに,歯周組織におけるNLRP3インフラマソームの活性化とIL-1βの産生については数多くの研究成果が報告されているが,NLRP3以外のインフラマソームの活性化やインフラマソーム活性化によるIL-18の産生やピロトーシスの誘導が歯周組織に及ぼす影響については,十分な知見が得られていない。今後,これらの点を含めて研究が進展していくことが期待される。また,動脈硬化や糖尿病などの他の全身疾患と同様に,歯周炎に関してもインフラマソームを標的とした分子標的薬の開発が進むことが期待される。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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