日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
トピック紹介
Treponema denticolaの病原性因子
石原 和幸
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 3 号 p. 144-151

詳細

1. はじめに

口腔内には複数の細菌によって形成されるマイクロバイオームが存在する。口腔マイクロバイオームは,700種を超す菌種から構成され,その中には,らせん型を呈する運動性菌“スピロヘータ”が認められる。スピロヘータ様の微生物はすでにLeeuwenhoekによる最初の顕微鏡を用いた観察で,口腔サンプルに認められている1)。本菌は,菌体の表面にperipalasmic flagellaが巻き付き,その外側をouter sheathが覆うという構造をしている(図1)。現在までに,口腔から検出されたスピロヘータは全てTreponema属に分類されている。口腔トレポネーマの分離培養は,1870年代の後半CohnやKochにより行われているが,複数の菌種の分離に最初に成功しているのは野口英世である2)。その中には,歯周炎の病巣から分離されたTreponema mucosumも含まれている3)。しかし,口腔Treponemaと歯周炎の関連について本格的に解析されるのは,1980年代になってからであり,その解析の中心となっている菌種は,Treponema denticolaである。歯周病原菌解析の初期には,特定の菌種がその病因であるというアプローチによる解析が中心であったが4-6),現在では,歯周炎はpolymicrobial infectionであり,生体に病原性の少ないマイクロバイオームから病原性の強いマイクロバイオームへの変化(disbiosis)によって引き起こされる7)という考え方に基づき病原性をマイクロバイオームレベルで解析する方向に変わりつつある。本稿では,現在までに行われてきたT. denticolaの歯周病原性に関わる主要な因子について考察を加える。

図1

口腔スピロヘータ

A.口腔スピロヘータの構造 菌体周囲に菌の両端から始まるperiplasmic flagellaが中央へ向かって巻き付いている。それをouter sheathが覆っている。

B.Treponemadenticolaの走査電子顕微鏡像

2. 歯周炎とT. denticola

最初にTreponemaと歯周炎の関連は,実験的歯周炎において行われている。ヒトで,エポキシレジンクラウンを装着して2ヶ月後の歯肉縁下プラークの電子顕微鏡観察で,デンタルプラークの歯肉に接した表層にTreponemaの増加が認められている8),このほか,慢性歯周炎病巣の顕微鏡観察における,スピロヘータの著しい増加4,9)等の報告から,口腔Treponemaが歯周炎に何らかの関わりを持つのではないかと考えられるようになり,Treponemaの菌種と特定のタイプの歯周炎との関係について,分離・同定法の確立とともに解析が行われるようになった。

Treponema denticolaと歯周炎の関係については,重度歯周炎の病巣からの検出頻度が有意に高い事が培養法によって明らかにされている10,11)。それと同時に,T. denticolaに対する血清抗体価の解析でも,歯周炎患者の抗体価が健常者に比べ高い事が示されている12-14)。その後,T. denticolaの歯周炎病巣からの検出についての解析は,polymerase chain reaction(PCR)により高感度で行われるようになり,慢性歯周炎患者でのT. denticola検出率の増加15-17)や侵襲性歯周炎での検出率の上昇が示されている18)。さらに定量的な解析として,深いポケットから採取したサンプル中におけるT. denticolaの占める割合が高いという報告がmonoclonal抗体を用いた解析19,20),やリアルタイムPCR21,22)に基づいて行われている。治療によるT. denticolaの減少についても,抗体価の低下23),monoclonal抗体による定量24),PCR25)により示され,歯周炎との関連が示唆されている。

これらの報告はそれぞれT. denticolaの歯周炎との関連性を示しているが,歯周炎が,その病巣に存在する多種の細菌によって起こされるpolymicrobial infectionであると考えると,特定の歯周病原菌だけを対象とした解析ではその関連を説明するのは不十分である。複数菌種を同時に定量するというアプローチで行われた解析としては,口腔細菌40菌種を対象として,104-106の範囲で定量的に調べることのできるDNA probe“Checker board system”26)による解析が最初である。Socranskyら27)は,慢性歯周炎患者のプラークサンプルを用い,これらの40菌種と歯周炎病態のクラスター解析によって,対象菌種を5個のクラスター,Red complex,Orange complex,Yellow complex,Purple complex,Green complexに分けた。T. denticolaは,Porphyromonas gingivalis,Tannerella forsythiaとともに,歯周炎の状態が重度の部位から高頻度に検出される菌群“Red complex”に分けられている。最近,16S pyrosequencingによるマイクロバイオーム解析によってさらに網羅的な解析が行われているが,それによってもT. denticolaは,慢性歯周炎病巣において増加している菌種であることが示されている28,29)。これらの結果から,T. denticolaは,歯周炎の病態に影響を与えていると考えられる。T. denticolaP. gingivalisは,以前からmonoclonal抗体を用いた検出によるデータ30)やプラークの蛍光抗体を用いた解析31)により同じ部位に認められることが示されていた。代謝においてもP. gingivalisの産生するglycineや酪酸を介した共生関係32,33)が認められている。定着に関しても,T. denticolaは,P. gingivalisT. forsythisと共凝集を有し,相互作用を示すことが示唆されている34,35)。またRed complexの菌間の菌種によるマウスモデルでの病原性の増強36)についても報告されている。これらの点は,T. denticolaが,歯肉縁下マイクロバイオーム内でP. gingivalis等の菌との共生によって増殖し,病原性に影響を与えることを示唆しており,今後さらに詳細な解析によりマイクロバイオーム構成菌種のシフトとそれによる病原性の変化という点からマイクロバイオーム中でのT. denticolaの果たす役割についての詳細な研究が待たれる。

3.  T. denticolaの病原性

A. マウスを用いた病原性評価

T. denticola生菌の病原性評価として行われているものは,マウスの側腹部に菌を接種し,形成される膿瘍で病原性を評価するモデルと,マウスの口腔に投与し,骨吸収を測定するモデルがある。前者を用いてT. denticolaの病原性を評価した結果では,P. gingivalisAggregatibacter actinomycetemcomitansに比べ形成される膿瘍の面積が小さく,膿瘍形成能が弱いが,組織への侵入性が強く,膿瘍消失までの期間が長いという特徴が認められている37,38)。口腔投与モデルでは,マウスに本菌を6週間で7回接種することによって菌の定着と骨吸収が認められることが報告されている39)。これらの結果は,T. denticola感染が歯周組織に傷害性を示すことを示唆している。

本菌の病原性因子として報告されているものは多数あるが,病原性発現に関わる主要な因子として実際の病原性が解析されているものとしては,major outer sheath protein(Msp),dentilisin,Factor H-binding protein B(FhbB),免疫抑制因子がある40-43)

B. Msp

Mspは,図1に示すように本菌の表層を覆うouter sheathの主要なタンパクであり,オリゴマーを形成して存在している44,45)。Mspのサイズは菌株により53 kDaのものと64 kDaのものが存在する46)。この2種の間ではアミノ酸配列で同一の部分が43%であり非常に大きくアミノ酸配列が異なっている47)。53 kDaのMspについての解析では,本タンパクには,77番目から286番目のアミノ酸によるドメイン:MOSPNと332番目から543番目のアミノ酸によるドメイン:MOSPCにより構成され,MOSPCがouter sheath内に存在し,MOSPN部分はperiplasmに存在する48)と予想されている。Mspは表層抗原として認識されるが,認識されている部分はMOSPcの表層に露出した部分と考えられる。

Mspは,fibronectin等の歯肉上皮の細胞外マトリックスタンパクに対する付着性を持つことが報告されており40,49),歯周組織への定着因子として機能すると考えられている。本菌の付着因子としては,これに加え菌体に巻き付かずouter sheathから外に飛び出しているprotruded fllagellaと後述するdentilisinとその関連タンパクの複合体も付着へ関わるという報告が最近なされている50,51)。Dentilisin複合体についてはfibrinogenの分解作用と共にそれに対する付着に関わる事が示されている。付着以外に,Mspは,細胞膜に対し孔形成能を持ち,それによって細胞傷害性を発現することが示されている45)。さらに,線維芽細胞のCaシグナル攪乱や,好中球の細胞内シグナル攪乱による走化性阻害といった細胞動態に対しても影響を及ぼすことが知られている52-54)。好中球の走化性阻害作用には,MspのC-末端の272アミノ酸の領域が関わることが最近報告されている55)

C. Dentilisin

T. denticolaは,表層にprolyl-phenilalanine配列に特異性を持つセリンプロテアーゼ,dentilisin41)とoligopeptidase B(OpdB)を持つ56,57)。OpdBは,アルギニンC末端でペプチドを切断する活性を持つ。このような活性は,P. gingivalisやT. forsythiaにも認められるためデンタルプラーク中のRed complexの検出に利用されている58,59)。Dentilisinは,非還元状態でおよそ100 kDa付近の2本のバンドとして認められるが,還元状態では,72,43,38 kDaの3本のバンドに分かれる41)。Dentilisinは,prcB,prcA,prtPの3つの遺伝子によってcodeされている(図241,60)。このうちprtPにcodeされる72 kDaタンパクが活性ドメインであり,その活性中心は,Bacillus subtilisのプロテアーゼsubtilisinの活性中心とアミノ酸レベルで30%程度の類似性を持つ。prcAは,70 kDaのタンパクをcodeしており,それがPrtPにより43 kDaと38 kDaの2つのタンパクに切断されPrtPと複合体を形成する61)。最上流に存在する,PrcBは,22-kDa polypeptideであり,その欠損によりPrtPのバンド自体が失われることからPrtPと複合体を形成することによって酵素を安定化すると考えられている。本酵素の欠損株ではMspのoligomerの減少とMsp発現の著しい低下が認められ62,63),dentilisinがMspの発現,成熟過程に何らかの役割を果たしていると考えられる。

Dentilisinは,天然の基質としてフィブロネクチン,フィブリノーゲンを分解する41,64)。さらに,炎症性サイトカインIL-1β,IL-6,Tumor Necrosis Factor αを分解する65)と共に,C3を活性化する(図366)。C3の活性化は,好中球の活性化の結果遊離されるMMPによる組織傷害を引きおこす事によって歯周炎の憎悪に関わると考えられる。炎症性サイトカインの分解は,防御作用に対する回避として働き,フィブリノーゲンの分解は止血機構の阻害として働くと考えられる。またこれらの作用は,歯周炎部位の治癒反応を撹乱し,炎症の慢性化,それによる滲出液と出血の持続による菌の栄養源の確保に働くと考えられる。さらに本菌は,細胞への侵入性があることが報告されている67,68)。Dentilisinの欠損株では細胞侵入性低下が見られ69),本菌の細胞侵入にdentilisinが重要な役割を果たしている事を示している。Dentilisinの欠損株の病原性についてマウスモデルを用いて野生株と比較すると,膿瘍形成能の低下が認められる60,62)ことからもdentilisinの病原性が確認されている。

図2

Dentilisin複合体形成とMsp

Dentilisinは,活性中心を持つPrtPに,PrcAが43 kDaと38 kDaの2つのタンパクに切断されPrtPと複合体を形成する。さらにPrcBが結合し複合体を安定化させる。Dentilisin複合体は何らかの仕組みによってMspの発現,oligomer形成に関わる。

図3

補体とT.denticola

T.denticola表層にはdentilisinとFhbBが存在する。Dentilisinは,C3を切断することにより活性化する。FhbBは補体のnegative regulatorであるfactor Hを菌体表層に吸着させることにより周囲のC3bの分解を促進し,それによるオプソニン化・貪食から回避する。

D. Factor H-binding protein B(FhbB)

T. denticolaは,主に歯肉溝内に定着し,増殖する。歯肉溝中は常に歯肉溝滲出液に暴露されている。歯肉溝滲出液は血清と局所の組織滲出液由来であり70),C3bによるオプソニン,アナフィラトキシン等の補体成分,C-reactive protein,炎症性サイトカインを豊富に含む。これらのうち補体は,複数の経路を介し活性化し,好中球走化性,オプソニン,溶菌作用によって細菌を排除する。そのため,歯肉溝内への定着には補体の作用を回避する必要がある。補体成分のfactor H(FH)は,Factor I(FI)依存性C3b分解の補因子として,factor BとC3bの結合の阻止またはC3bBb複合体の解離によって補体活性化を抑制する因子である71,72)T. denticolaは,dentilisinによるC3活性化作用を持つと共に,その表層にFHに付着性を持つ11.4 kDaのlipoprotein,FhbBを持つ73,74)(図3)。FhbBには菌株によって抗原性が異なる3つのタイプが認められている74,75)。FhbBの欠損株は,補体に対する抵抗性を失う74)ことから,T. denticolaは,補体のnegative regulatorであるFHの菌体表層に吸着させることにより周囲のC3bの分解を促進し,それによるオプソニン化・貪食から回避すると考えられる。しかし,興味深いことに,FHは,FhbBに付着後,dentilisinにより切断されFIの補因子としての活性を失う76)。この作用は,歯肉溝内の補体活性調節を撹乱し炎症の憎悪にも関わる事を示唆している。この補体活性化とその作用からの回避という相反する作用については,in vivoで2つの作用がどの程度の割合で機能しているかについてさらに詳細な解析が必要である。

E. 免疫抑制因子

T. denticolaの超音波破砕上清は,ヒト末梢血単核球(PBMC)のconcanavalinA,phytohemagglutinin(PHA),pokeweed mitogenおよび抗原刺激による増殖を濃度依存的に抑制することが報告されている43)。この作用は,刺激前に投与された時のみに作用が認められる。Shenkerら77)は,この作用が50 kDaと56 kDのバンドにあるとし,超音波破砕上清からイオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過により部分精製を行い,50 kDaと56 kDのバンドを分離し,Spirochete immunoinhibiroty protein(Sip)と名付けた。PBMCの細胞周期への作用に対する解析を行うと,PHAでPBMCを刺激後72h時間の細胞は,G0,G1,S,G2/M期すべてに認められたが,PHA刺激前にSipで処理したものはS期とG2/M期の細胞の減少とG1期の細胞の上昇が認められ,細胞周期がG1期で一部停止していると考えられた。細胞死についてSip処理後96時間の細胞を見るとDNA fragmentationとcaspaseの活性化が起こっており,SipがT細胞にG1期停止を引きおこし,細胞死に導くことが示唆された。この細胞周期に対する作用は,PBMC活性化抑制作用に関わる可能性があるが,この解析では,精製した分画の活性化抑制活性のレベルについては測定されておらず,これが実際に抑制作用を示すかどうかについての解析が必要と考えられる。

4. 終わりに

T. denticolaは,マイクロバイオーム中でP. gingivalis等の菌との相互作用からその割合を増加し,歯周組織に影響を与えていると考えられる。現在までのデータから考えると,本菌の病原因子は,主に免疫応答の撹乱を介した防御からの回避とそれによる炎症の慢性化による細胞傷害により歯周炎の病態に影響を及ぼすと考えられる。近年,歯周炎はマイクロバイオームのdysbiosisにより引きおこされると考えられ,特定菌種ではなくマイクロバイオームレベルでの解析が必要とされている。本菌を含むRed complexの増加がどのようなメカニズムによって引きおこされるのか,またそれがdysbiosisに繋がり,プラークの病原性を増強するのか,もしそうであればT. denticolaの病原性因子が実際に歯周組織において機能するのか,今後のメタゲノム解析,プロテオーム解析等によりそのプラーク全体において果たす役割が明らかにされることが期待される。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2017 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
feedback
Top