日本歯周病学会会誌
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教育賞
臨床実習後技能評価における学生によるペリオ模型を用いたスケーリング・ルートプレーニング時の歯肉縁下歯根面へのアクセスの検討
鵜飼 孝中村 弘隆吉永 泰周高森 明子尾崎 幸生白石 千秋吉村 篤利原 宜興
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2017 年 59 巻 3 号 p. 172-178

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要旨

目的:スケーリング・ルートプレーニング(SRP)において歯肉縁下の歯根面にスケーラーを到達させることは重要なステップの一つである。学生にとってどの歯根面へのスケーラーのアクセスが困難であるかを理解することは,SRP実習の指導に役立つと考えられる。そこで,臨床実習の学生に行ったSRP技能評価の結果を用いて,学生がスケーラーでアクセスしにくい歯根面がどこであるのかを検討した。

対象および方法:臨床実習を行っている36名の長崎大学歯学部学生に,歯根面を油性マーカーで着色してペリオ模型に装着した上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の人工歯を10分間でSRPさせた。そして残存したマーカーの面積を歯根面ごとに計測して除去率を求め,スケーラーによる歯根面へのアクセス状態を評価した。またSRPの実技評価も行い,各歯根面の除去率との関連も検討した。

結果および結論:両人工歯全体の除去率が平均以上の学生では,上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の除去率に違いは見られなかったが,平均以下の学生では上顎右側中切歯よりも下顎左側第一大臼歯の方が除去率が低かった。各歯根面の除去率を比較した場合,平均以下の学生では下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率が特に低く,同部位へのアクセスが困難であることが示唆された。そして下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率が高い学生は全体の除去率も高かった。以上より下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去状態の確認は,学生のSRP技術の獲得状態の評価に有効である可能性が示された。また,今回評価したSRP実技評価項目と除去率との間に有意な関連は認められなかった。

緒言

歯肉縁下のデブライドメントは歯肉縁上のプラークコントロールとならんで歯周治療の基本的かつ重要な処置である。スケーリング・ルートプレーニング(scaling and root planning以下SRP)は歯肉縁下デブライドメントの代表的な処置の一つであり,歯周基本治療,歯周外科治療やsupportive periodontal therapy(SPT)等において実施される。適切にSRPが実施できれば歯周ポケットの深さは減少するが1,2),完璧に根面の歯石を除去することは困難で,深い歯周ポケットでは歯石の取り残しが多くなる3-6)。歯肉縁下のSRPは盲目的な処置であり術者の技術が重要となる。そして術者の経験年数や技術習得状態によって歯石の除去状態は大きく異なることが報告されている7,8)

適切にSRPを行うためにはスケーラーの把持方法,当て方,動かし方や術者のポジショニングなど習得すべき項目が多い9)。なかでも歯肉縁下の歯根面に器具を到達させることは重要ステップの一つと考えられる。しかし自分が意図した歯根面にスケーラーを適切に到達させて操作することは容易ではなく,その手技を習得させるための教育と訓練が必要である。学生にとってどの歯根面へのスケーラーのアクセスが困難であるかを理解しておくことは,効率よく学生を教育するうえで役立つであろう。

現在,学生のSRPの技術においては態度や器具の扱い方などが主に評価されており10,11),実際に歯肉縁下歯根面のSRPがどの程度できるのかは十分に評価されていない。そこで,歯学部学生の臨床実習時に行ったペリオ模型を使用したSRP技能評価の結果を用いて,学生がSRPしにくい歯根面がどこであるかを検討した。さらにスケーラー操作と歯根面のSRP状態の関連の有無も検討した。

対象および方法

対象:臨床実習中の長崎大学歯学部6年生の36人。学生は4年生前期に歯周治療学基礎実習として模型を用いたSRP実習を行い,臨床実習開始前実習を経て,5年生の後期から臨床実習を開始した。

材料:実習ならびに試験にはニッシン社製のペリオ模型(P150D-004)を用いた(図1a)。上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯人工歯の歯肉辺縁から歯肉縁下2 mmまでの歯根の全周を油性マーカーで着色し,評価対象部位とした(図1b)。今回の試験では他の人工歯と比較して見やすく器具操作が行いやすいと考えた上顎右側中切歯と,模型の開口制限があることや位置的に見にくいことからアクセスが困難であるだろうと考えられ,さらに上顎右側中切歯とは異なるスケーラーの使用が必要な下顎左側第一大臼歯を試験歯として用いた。

試験:試験の約2か月前に1回当たり2時間のペリオ模型を用いたSRP実習(スケーラーの把持,ストロークやポジショニング等)を1週間隔で2回行った。試験では学生に10分間で上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯両人工歯のSRPをするように指示した。SRPには十分に研磨を行ったグレーシースケーラー(Hu-friedy)(No. 1-2,3-4,5-6,7-8,9-10,11-12,13-14)を用意した。SRPは同時に3人の学生が行い,一人の評価者がスケーラーの選択,スケーラー把持の仕方,レストの置き方などの実技の採点を行った(評価項目,図2)。そして各項目の合計点数を学生の実技評価点とした。

除去率の算出方法:試験終了後人工歯を取り出し,各人工歯の油性マーカーの除去率を評価した。SRP後の人工歯を歯面ごと(上顎右側中切歯は唇側,近心,遠心,下顎左側第一大臼歯は頬側,近心,舌側,遠心)に写真撮影し(図3),Image J(NIH,Maryland USA)を用いて画像解析してマーカーの残存面積を調べた。そしてSRPしていない人工歯のマーカー着色の面積に対するマーカー残存面積の割合をもとに,各人工歯の歯根面ごとの除去率を算出した。

     

群間比較と統計処理:全学生において上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の除去率を比較した。また学生を両人工歯全体の除去率が平均以上と平均以下の学生に分け,両者において歯種や各歯根面における除去率を比較した。さらに下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率が70%以上と50%以下の学生における両人工歯全体の除去率を比較した。また実技評価点が平均以上と以下の学生間で,上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯各歯根面の除去率を比較した。統計処理はKruskal-Wallis検定で多群間比較を,Mann-Whitney検定で2群間比較を行った。

図1

使用したペリオ模型と人工歯

a)使用したペリオ模型 b)油性マーカーで着色した右側上顎中切歯と下顎左側第一大臼歯の人工歯

図2

SRP実技評価項目と配点(合計10点)

図3

試験後の人工歯

a)右側上顎中切歯 b)下顎左側第一大臼歯

結果

上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の除去率の比較

両人工歯全体の除去率は66.5±13.3%であった。上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の除去率はそれぞれ69.5±15.8%と64.9±18.3%で,この両者に有意差は見られなかった(図4)。学生を両人工歯全体の除去率の平均以上(21人)と以下(15人)に分けた場合,平均以上の学生では上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯それぞれの除去率が75.2±13.6%と75.5±12.9%で両人工歯間に有意差は見られなかったが(図5a),平均以下の学生の除去率はそれぞれ61.7±15.1%と48.5±12.6%で上顎右側中切歯よりも下顎左側第一大臼歯の方が有意に低かった(図5b)。

次に各歯根面の除去率を比較した。両人工歯全体の除去率が平均以上と以下のどちらの学生においても,上顎右側中切歯唇側や下顎左側第一大臼歯頬側歯根面と比較して,他の歯根面は有意に除去率が低かった(図6)。そして平均以下の学生では下顎左側第一大臼歯舌側の除去率(27.3±21.0%)が特に悪く,平均以上の学生の除去率(66.4±23.3%)の半分以下であった(図6)。そこで,下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率と両人工歯全体の除去率の関連を調べるため,下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率の高い学生(70%以上,10人)と低い学生(50%以下,18人)間で両人工歯全体の除去率を比較した。その結果,下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率が高い学生では全体の除去率が79.8±9.6%であったのに対し,低い学生では全体の除去率も有意に低く59.0±10.9%であった(図7)。

図4

両人工歯の除去率(各36人)

右側上顎中切歯(右上1),下顎左側第一大臼歯(左下6)

平均±標準偏差

図5

両人工歯合計の除去率が平均以上と平均以下の学生での歯種別除去率

a)平均以上(21人),b)平均以下(15人)

右側上顎中切歯(右上1),下顎左側第一大臼歯(左下6)

平均±標準偏差 p<0.01:両群間

図6

両人工歯合計の除去率が平均以上と平均以下の学生での歯根面別除去率

a)平均以上(21人),b)平均以下(15人)

右側上顎中切歯(右上1),下顎左側第一大臼歯(左下6)

平均±標準偏差 p<0.01:唇側あるいは頬側に対して

図7

下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率と全体の除去率の関連

平均±標準偏差 p<0.01:両群間

実技評価と両人工歯各歯根面の除去率との関連

全学生のSRP実技評価点は10点満点中で平均8.8点であった。上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の両人工歯の各歯根面の除去率は評価点が平均以上(26人)と以下(10人)の学生で違いは見られなかった。また各歯根面間でも両学生に違いは認められなかった(図8)。しかし,スケーラーの操作に関する項目のみを評価した場合は統計学的有意差は見られなかったものの,下顎左側第一大臼歯舌側においてスケーラーの選択や把持の評価に減点のない学生の除去率(スケーラーの選択;53.8±30.5%,スケーラーの把持;54.6±27.9%)と比較して,減点のある学生の除去率(スケーラーの選択;34.8±19.2%,スケーラーの把持;36.7±31.4%)の方が低い傾向が認められた(図9)。

図8

SRP実技評価点が平均以上と平均以下の学生の比較

操作評価の平均点8.8(平均以上26人,平均以下10人)

a)右側上顎中切歯 b)下顎左側第一大臼歯

平均±標準偏差

図9

下顎左側第一大臼歯舌側歯根面へのアクセスに影響する操作要因

スケーラーの選択(減点なし27人,減点あり9人),スケーラーの把持(減点なし29人,減点あり7人),レスト(減点なし20人,減点あり16人)

平均±標準偏差

考察

今回,上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯の人工歯を用いて学生にとってSRPしにくい歯肉縁下歯根面がどこであるのかを検討した。さらにこれまで報告されているSRP時の操作評価を行った研究10,11)とは異なり,実際に学生がSRPを行った人工歯の歯根面の状態を調べることで,歯根面へのスケーラーのアクセス技術を客観的に評価した。今回の研究では試験後に歯根面に塗布したマーカーの除去状態を調べており,歯石等を除去しているわけではないのでSRP技術というより器具のアクセス状態が評価されていると考えられる。歯根面に着色したマーカーの除去率の高い学生は両人工歯でマーカーの除去率に違いは認められなかったが,低い学生では上顎右側中切歯よりも下顎左側第一大臼歯,特にその舌側へのスケーラーのアクセスが不十分であることが示唆された。そして下顎左側第一大臼歯舌側の除去率が50%以下の学生では上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯全体の除去率も59.0±10.9%と低かった。その一方で,下顎左側第一大臼歯舌側歯根面の除去率が70%以上の学生では両人工歯全体の除去率も高く79.8±9.6%であった。これは学生全体の平均除去率が66.5±13.3%であることを考えるとかなりの好成績といえる。今回の試験は限定した2本の人工歯のみでの評価ではあったが,下顎左側第一大臼歯舌側へのスケーラーのアクセスの良好な学生はその他の人工歯歯根面へのアクセスも良好であることが示唆された。さらに下顎左側第一大臼歯舌側歯根面へのスケーラーのアクセス技術を評価することは,学生のSRP技術の簡易的な技術評価に役立つと考えられた。

Buchananら6)は抜歯予定の歯にSRPを行い,抜歯後頬側面,舌側面,近心面,遠心面に分けて歯石の残存状態を調べた。その結果で,遠心面が最も歯石の残存が多く,舌側面は近心面や遠心面と比較してもむしろ残存が少ない傾向であることが示されている。一方,我々の結果では下顎左側大臼歯舌側面が最も除去率が低かった。今回の研究は模型を用いた試験で,抜歯適応歯のように深い歯周ポケットを有した歯ではなく,歯肉縁下2 mmのみを評価対象としていることや,対象歯根面は着色しただけで十分なスケーリング操作ができなくても除去可能であることなどが遠心面の除去状態の違いに影響した可能性がある。またいくつかの書籍において下顎左側大臼歯舌側面のSRPでは患者の顔の向きをやや左に傾けたり,術者がフロントポジションで処置するのが有効であることが記載されており9,12),今回の試験では評価されていないがマネキンの顔の向きなどが除去率の違いに影響した可能性も考えられる。しかし模型に装着した下顎左側第二大臼歯のSRPを行った研究において,歯根面に塗布された人工着色剤の除去やスケーラーの到達度は臨床経験年数1年未満の歯科医師ばかりでなく,8年以上の歯科医師においても舌側面の成績が悪いことが報告されている13)。これを考えると学生ばかりでなく,歯科医師にとっても下顎左側大臼歯舌側歯根面はSRP困難な部位であると考えることができる。

全体の除去率が平均以下の学生では上顎右側中切歯よりも下顎左側第一大臼歯の方が除去率が低かった。今回の試験は上顎右側中切歯と下顎左側第一大臼歯のSRPを合計10分間で同時に行っている。多くの学生が前歯からSRPを開始していたことや,前歯よりも大臼歯の方が歯根面積が大きいことなどより,必ずしも技術的な問題のみではなくSRPを行う時間配分が両人工歯間ならびに各歯根面間の除去率の違いに影響していた可能性もある。

今回評価したSRP実技評価項目とマーカーの除去率には有意な相関は見られず,実技評価で除去状態を評価できるわけではないことが示唆された。しかし下顎左側第一大臼歯舌側歯根面へのスケーラーのアクセスには,適切なスケーラーの選択とスケーラーの把持が影響する傾向が見られた。今回の試験でスケーラーの把持として執筆型は不適切とし,執筆型変法で把持できているかどうかで評価した。執筆型変法はスケーラー保持の安定性が良いばかりでなく,歯根面の状態をよく感知できるといわれており9),下顎左側第一大臼歯舌側の歯根面の触知に適していたことが示唆された。レストの確保と術者のポジショニングは連動していると考えられるが,今回の試験では両者の関連を検討することはできていない。今後の課題として両者の関連や,両者が歯石の除去に与える影響について検討することは有益と考えられる。

歯肉縁下のSRPを適切に行うことは学生にとっては容易なことではない。学生がどの歯根面にスケーラーを到達させるのが困難であるかを理解することはSRPの指導に役立つであろう。今回の結果では前歯と大臼歯の2本の人工歯のみの評価であったが,学生にとって下顎左側大臼歯舌側へのスケーラーでのアクセスが困難であることが示された。その理由として使用したスケーラーの選択の間違いや不適切なスケーラーの把持が影響している可能性が示唆された。今回の研究では評価できていないがこの他にも除去状態に影響を及ぼす因子としてマネキンの顔の向き,術者のポジショニング,歯の解剖学的知識の不足,スケーラーの挿入角度の不正や刃部の到達位置のイメージ不足など多くの原因が考えられる。今後さらなる研究を進め,その結果をもとに学生の臨床教育の改善を行っていきたい。また今回のような試験を行い学生自身がアクセス困難な部位を認識することで,歯頚部や歯根面などの形態,スケーラーの構造やその適切な操作方法などを具体的に考える機会となり,技術向上の手助けになるであろうと考えられる。さらに,定期的にこのような評価をして除去率の変化を確認することで,更なる技術上達のためのモチベーション向上にもつながると考えられる。

本研究内容の一部は第58回日本歯周病学会春季学術大会(2015年5月)において発表した。

謝辞

稿を終えるにあたり,研究の遂行にご協力いただきました長崎大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病学分野の先生方に感謝いたします。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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