はじめに
特定非営利活動法人日本歯周病学会では,認定歯科衛生士制度の発足から現在まで,1,043名の認定歯科衛生士を輩出している(平成29年5月31日現在)。認定歯科衛生士は,歯科衛生士としての技術・技能・専門的な知識の習得と同時に,国民の口腔健康増進への寄与が求められている。一方,歯科医療従事者として,歯科医師との連携が特に必須となり,患者情報として得られた歯周組織検査結果は,その共有化により患者の歯周組織の状況,治療計画立案への資料として有益に用いられている。すなわち,歯周治療遂行において,病態を適確に評価することは,正しい診断とそれに対する最も理想的な治療計画の獲得に大きく寄与することに異論はない。今回は,特に歯周組織検査の中核を担うプロービングについて焦点を当て,歯科衛生士としてプロービングから得られる情報とその応用について述べたい。
プロービングから得られる情報
歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008によると,プロービングは特に組織破壊に関する検査項目として位置づけられている1)。用いるプローブは,0.4~0.5 mmの直径を有し25 g程度の規格圧によりプロービングが達成される2)。また,プローブを挿入した際の歯肉辺縁からポケット底部までの距離は,probing depth;PDとして表され,この距離の測定は一定のプロービング圧により達成される。この時に重要なことは,プロービング後に生じる出血の有無の評価である(bleeding on probing;BOP)。ポケット内壁,特にポケット底部に炎症が存在する場合,プロービング圧に耐えきれず出血が生じる場合がある(図1)。すなわち,ポケット底部の組織抵抗性の評価として,さらにはスケーリング・ルートプレーニングに代表される歯周治療の成否として評価される。以上の如く,プロービングから得られる代表的な検査情報は,PDとBOPの有無である。
PDとBOPの検査結果から何が得られるか
PDとBOPの両検査結果の有益な応用方法は,歯周治療の限界の予測,予後の推定そして理想的な術式の選択である。
1) PD検査結果からの予後の推定について
PD検査結果から予測できる有益な情報は,歯周治療の限界を術前のPDから予測することである。特に,歯肉縁下におけるスケーリング・ルートプレーニングの限界に対する疑問では,古くはWaerhaugに代表される抜去予定歯を用いた研究など多数報告されている3-7)。すなわち,Waerhaug3)やCaffesseら4)によると,適切な歯肉縁下に対する器具の到達可能な深さは,PD 5 mmまでであると報告されている3,4)。特に,Caffesseらは,PDの分類によりルートプレーニング後の歯石の除去効果を報告し,フラップ手術は根面から歯石を除去するためには有効であるとも述べている4)。
スケーリング・ルートプレーニングの限界をPDの深さに依存して述べたWaerhaug3-7)らの報告に対し,より詳細に術前のPD検査結果を基盤とし,歯肉退縮や付着の獲得・喪失により変化する残存PDの予測についてBaderstenらにより報告されている8,9)。すなわち,術後の残存PDは,術前のPDに依存する傾向を述べており,深いPDの場合大きい歯肉退縮量に加え付着の獲得傾向を示し,逆に浅いPDを有する場合は,小さい歯肉退縮量に加え付着の喪失の可能性を示している(図2)。
以上の報告から,術前PDの情報からスケーリング・ルートプレーニングの限界を予測することが可能となり,歯周外科治療へ移行する可能性を含めた治療計画立案に大きく寄与する有効な手段となりうる。すなわち,治療計画立案には適確なPD測定が大きく依存することを示している。
2) BOP検査結果からの予後の推定について
BOP検査では,Langらに代表される付着の喪失の発生割合を述べた報告が代表的である10)。年4回の検査において,BOP(+)を全て示した部位の30%の部位でその後の経過から2 mm以上の付着の喪失を示した。逆に,年4回全てBOP(-)の場合は,約2%の部位において付着の喪失が生じている。これは,歯周治療における極めて重要な付着の喪失の有無を述べたものであり,BOP検査後の歯科的介入の必要性に対する有益な情報として位置付けられている(図3)。
3) PDの分類による各術式に対する予後
各種歯周治療を比較した長期にわたる報告から,その適応症が検討されてきている。すなわち,スケーリング・ルートプレーニングに対する,到達(アクセス)/切除的歯周外科の比較により,日常の歯周治療における各術式の選択を見極めるための長期的な予後の追跡調査が欧米から多数報告されてきている。その研究は,Michigan Study11-15),Göteborg Study16,17),Loma Linda Study8,9,18-20),Minnesota Study21-23),Nebraska Study24-29)などと称され,各グループがその研究成果と適応症を述べてきた。代表的な報告として,Ramfjordら15)は,PDを3群に分け,外科的ポケット除去療法(PEL),Widman改良フラップ手術(MWF),歯肉縁下キュレタージ(CUR),スケーリング・ルートプレーニング(SRP)の効果の比較を行った。1-3 mm PD群,4-6 mm PD群では,各術式ともに僅かな付着の喪失を認めたが,7 mm以上 PD群では,すべての術式における付着の獲得を認めた(図4)。他の報告においても,術前に浅いPDを有する部位では,付着の喪失が起こる一方,深い部位ではその獲得が幾分期待できるという見解で一致している。一方,Lindhe,Nymanを核とするGöteborgグループも,Göteborg Study16,17)に加え,付着の喪失のボーダーラインを,回帰分析により算出するCritical probing depthsという概念を公表した30)。図5に示す回帰直線では,スケーリング・ルートプレーニングおよびWidman改良フラップ手術の効果を示す回帰直線は,術前のPDが,各々2.9±0.3 mm,4.2±0.2 mmでX軸に交わっている。すなわち,歯周治療の介入において,スケーリング・ルートプレーニングでは術前のPDが2.9 mmより大きければ付着の獲得を,逆に小さければ付着の喪失がもたらされることを示し,Widman改良フラップ手術では術前のPDが4.2 mmより大きければ付着の獲得を,逆に小さければ付着の喪失がもたらされることを示している。つまり臨床的に深いPDを有する患者には,外科処置により付着の獲得が期待できると解釈できる。
まとめ
以上,代表的な報告から,各術式に対する予後の推定には,術前の正確なPD測定が極めて重要となり,PD検査結果から各術式に対する付着の獲得の有無を呈する理想的予後の予測が可能となる。つまり,適確なプロービングによるPD検査結果から得られた理想的術式を伴う治療計画の遂行は,最終的には理想的な予後へと結びつく。PDとBOPの両検査結果の一例として,長期的な展望では,スケーリング・ルートプレーニング後のPDが6 mm以上と深く,さらにBOP(+)を伴う場合は付着の喪失が高まると報告されている31,32)。すなわち,理想的な歯周治療後の予後を得るためには,BOP(-)の割合を10%以下とし,PDは4 mm以下であることが望ましいとされ,これを実現するための必須戦略には,術前の適確なプロービング検査の遂行が必要不可欠となる。
最後に
歯科衛生士として,口腔清掃指導と並びスケーリング・ルートプレーニングは極めて重要な歯周治療の項目である。当然その手技の担保は重要であるが,それを生かすも殺すも術前の正確な情報の獲得,すなわちプロービングであることに異論はない。また,患者に今後介入が予想される歯周治療の内容説明も歯科医師と共に行う重要な対応と考える。超高齢社会となり健康寿命の延伸が強く求められ,同時に多歯時代となり健全な歯と特に歯周組織の延命が求められている現在,今一度プロービングとその意義について再考する時代が訪れたのかもしれない。
日本歯周病学会第61・72回歯科衛生士教育講演B,平成29年度青森県歯科衛生士会第2回生涯研修において本論文の一部を発表した。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。
References
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