日本歯周病学会会誌
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外科的歯冠長延長術―一般歯科医からの依頼に応える―
岡安 こずえ大澤 銀子仲谷 寛
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2017 年 59 巻 4 号 p. 199-204

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1. はじめに

歯周病専門医・認定医は,歯周治療の標準的な進め方に則り,一連の歯周治療を行っており,症例報告ではアクティブな歯周治療後に長期のメインテナンスを行っている症例が主体である。しかしながら,歯周病専門医・認定医の役割を考えた場合,歯周治療に関する専門的な知識・技術を有するものとして,他の歯科医師から部分的な歯周治療の依頼に対応することも併せて求められる。その代表例としては,歯根露出に対する歯肉移植や歯肉縁下う蝕に対する外科的歯冠長延長術などが挙げられよう。

全部被覆冠の除去後に歯肉縁下う蝕が存在したとき,明確なマージン設定が行えないまま,印象採得,歯冠修復がなされれば,その後に歯周組織の破壊等の問題を起こすことは必至であり,また,そのような症例が少なくないと考えられる。歯科治療における医療連携の中で,適切な歯冠修復治療が行えるように歯周治療にてサポートすることも歯周病専門医・認定医の役割の1つであると考える。

歯周病専門医・認定医が,外科的歯冠長延長術を依頼された場合には,その後の歯冠修復は,紹介医にて施術されること,さらには,患者の通院の都合など,術後の経過を自ら確認できないこともある。そのため,自ら一口腔の治療を行う場合以上に,治癒後の歯肉の位置はどこにくるのか等,予知性を持った手術を行う必要がある。本稿では,歯周病専門医・認定医として,一般歯科との医療連携という視点から,外科的歯冠長延長術を再考する。

2. 生物学的幅径の臨床的意義

Gargiuloらは,ヒトの遺体から歯―歯肉付着の幅を組織学的に計測し,歯槽骨頂から歯冠側の結合組織性付着の幅は平均1.07 mm,上皮性付着の幅は0.97 mmであったと報告した1)。その後,Ingberらが,歯槽骨頂から歯冠側の結合組織性付着と上皮性付着を生物学的幅径と定義した2)。生物学的幅径は,近接する歯根膜と支持骨に対する生物学的バリアーとして機能していると考えられている。そして,生物学的幅径の値には,Gargiuloらの報告した2.04 mm(1.07 mm+0.97 mm)が用いられることが一般的である(他の計測値も報告されているものの大きな差は認められない)3)(図1)。

生物学的幅径を侵害する位置まで修復物のマージンが設定された場合,歯肉には炎症が惹起され,生物学的幅径を維持しようと歯槽骨の吸収,線維性付着の喪失が発生し,それは歯周組織の破壊につながることが知られている。このことは,実験的にもParma-Benfenatiらによるビーグル犬にV級アマルガム充填を歯槽骨頂部まで充填した(生物学的幅径を侵害している)研究にて,上皮は修復物の根尖側に位置すること,歯肉の炎症,線維性付着の喪失,歯槽骨の吸収がみられたことが病理組織学的に示されている4)。したがって,歯肉縁下に修復物のマージンを設定する場合には,形成,印象採得など歯冠修復物装着まで一連の操作を含めて,生物学的幅径を侵害することのないよう歯肉溝内とする事は周知の事実である。

では,現在一般に用いられている生物学的幅径の2.04 mmという値には,臨床的にどのような意味があるのだろうか。実際,Gargiuloら1)の測定でも,結合組織性付着は0.00~6.52 mm,上皮性付着では0.08~3.72 mmとその幅は大きいので,平均値にどれほどの意味があるのかという考え方もあるかもしれないが,臨床的指標としては非常に有用となる。例えば,歯の破折や歯肉縁下う蝕の場合に,ボーンサウンディング値とプロービングにて歯質を触知できる深さから,生物学的幅径2.04 mmを対比することで生物学的幅径を侵害するのかが推測できる。また,後述する外科的歯冠長延長術の施術においては,骨切除量決定の指標としても有用である。したがって,歯冠修復に際して,もともと修復物のマージンを歯肉縁上,または歯肉縁に設定する場合には,生物学的幅径の概念はあまり意味がない。

図1

生物学的幅径1)

3. 歯の破折,歯肉縁下う蝕,不適切な修復物等にて生物学的幅径を侵害している場合の対応

歯肉縁下う蝕が認められたとしても,歯肉が増殖した結果う窩が歯肉縁下となり,生物学的幅径が侵害されていない場合には,歯肉切除,歯肉整形にて対応可能である。日常臨床においては,不明瞭なマージンへの対応として,電気メスが用いられることが少なくないと思われるが,生物学的幅径が侵害されている場合には根本的問題の解決にはならない。

生物学的幅径の確保が必要な場合には,外科的歯冠長延長術(術式的には,骨外科を伴う歯肉弁根尖側移動術),もしくは矯正による歯の挺出と外科的歯冠長延長術の併用によって対応する。歯科における医療連携という視点では,歯周病専門医・認定医には適切に外科的歯冠長延長術を行うことが求められる。

4. 歯冠修復のための外科的歯冠長延長術の適応症,禁忌症

外科的歯冠長延長術を行えば全ての症例において歯冠修復処置が可能となる訳ではなく,状況によっては抜歯が必要となる場合がある。そのため,適応症,禁忌症への理解が必要である。

1) 適応症

(1)歯肉縁下う蝕:歯周組織の健康を維持するためには,歯肉縁下に存在する修復物マージンが,適切な形成,印象採得等が行え,生物学的幅径を侵害せず,清掃も行える状態であることが求められる。このためには,歯槽骨頂から歯冠側に4 mmの健全歯質が必要とされている(2 mmの生物学的幅径+1 mmの歯肉溝+1 mmのマージン設定のための歯質)。

(2)歯肉縁下での歯の破折:歯肉縁下う蝕と同様,歯冠修復のためには,歯槽骨頂部から歯冠側に4 mmの健全歯質を確保する必要がある。

(3)歯冠修復物のマージンが歯肉縁下深くに位置している場合:歯肉縁下う蝕が認められず,骨吸収やアタッチメントロスが認められない場合においても,修復物のマージンが歯肉縁下深くに設定されている場合,マージン部周囲の清掃は不可能であり,当該部分に形成されたプラークにより,歯周病やう蝕が誘発される。したがって,このような清掃不可能な歯肉縁下の修復物が存在する場合には,外科的歯冠長延長術を考慮する必要がある。

(4)十分なフェルールが確保できない場合:コアによる歯根の破折やクラウンの脱離を予防するために,フェルールの確保は必須である5-7)。外科的歯冠長延長術にて,十分なフェルールが確保できれば,歯冠修復物の予知性の向上にもつながると考えられる。

(5)クラウンの維持に必要な歯冠長が確保できない,適切な形態のクラウン製作のための歯冠長が不足している場合:適切に外科的歯冠長延長術を実施すれば,これらの問題は容易に解決できる。

(6)その他,歯の捻転や傾斜により鼓形空隙が極端に小さい場合,エマージェンスプロファイルの修正が必要な場合,受動的萌出遅延により歯冠長が短い場合,短い歯冠長による審美障害,歯肉ラインの不調和による審美障害の場合なども外科的歯冠長延長術が適応となる。

2) 禁忌症

(1)外科処置が禁忌である場合

(2)すでに支持組織が大きく喪失している歯

(3)保存不可能な歯周炎罹患歯

(4)歯冠修復不可能な歯

(5)歯内治療の予後不良歯

(6)隣在歯の支持骨を大きく切除しなければならない場合

(7)適切な歯冠歯根比が得られない歯

(8)ルートトランクが短く,根分岐部が露出してしまう歯

5. 外科的歯冠長延長術の術式

1) 術前の状態

2に上顎左側臼歯部のう蝕除去後の状態を示す。歯冠長は非常に短く,歯冠修復を行うことは困難と考える(図2a)。この状態で歯冠修復物を製作するとなると生物学的幅径を侵害し十分なフェルールの確保が困難であると考えられる。

図2a, b

術前の上顎左側臼歯部の側方面観(a)と咬合面観(b)。歯冠長の長さに注目。

2) ボーンサウンディング

局所麻酔後に歯槽骨頂の位置および骨形態を把握するためにボーンサウンディングを行う。同時に歯肉の厚みも把握しておく。

3) 切開・剥離・肉芽組織の除去

1次切開は歯肉辺縁から歯槽骨頂部に向けて内斜切開をスキャロップ状に加える。頬側では角化歯肉の幅を考慮して歯肉辺縁から0.5~1.0 mm程度離して,口蓋側歯肉は歯肉辺縁から2 mm程度離して切開を加える。口蓋側歯肉には厚みがあるため,口蓋側歯肉の切開は術後の歯肉弁の適合を考慮してスキャロップの形態を決定する。頬側歯肉よりも歯肉辺縁から離して,特に歯冠中央部においてスキャロップが最も深くなるように切開線を設定すると良い(図3)。

角化歯肉幅が少ない症例では歯肉溝切開を行い,歯肉弁を根尖側に移動可能とするため縦切開を加える。口蓋側でも術野を確保するため必要に応じて縦切開を加える。

1次切開後に歯肉弁の剥離を行う。歯肉弁を根尖側に移動させるため,頬側は歯肉歯槽粘膜境を越える位置まで剥離を行う。歯肉弁の剥離は,全層弁,部分層弁もしくは,全層弁+部分層弁の3種類が考えられる。根尖側の剥離を部分層弁で行えば,骨膜縫合により歯肉弁を固定できる。しかし,その反面,術野の出血量が多くなるため,視野の確保が困難となる。したがって,歯肉弁の剥離方法は,角化歯肉の幅,部位,そして術者のスキルを考慮して決定するとよい。

歯肉剥離後に歯肉溝へ2次切開,その後さらに3次切開を加えて肉芽組織の除去を行う(図4)。続いて,歯根面をキュレットなどで滑沢にする。

図3

口蓋側歯肉の中央部は歯肉辺縁から大きく離したスキャロップ形態の切開を加える(矢印)。

図4

肉芽組織を除去した状態。歯肉歯槽粘膜境を越えて歯肉弁を剥離する。

4) 骨外科(骨切除・骨整形)

肉芽組織の除去や歯根面の滑沢化が終了した後に骨切除・骨整形を行う。まず,マージン部位から歯槽骨頂までの距離をプローブにて測定し状況を確認する(図5)。その後,歯肉溝の深さや生物学的幅径の幅を考慮してマージン部位から歯槽骨頂までの距離が最低でも4 mmとなるように骨切除を行う(図6)。骨切除を行っている時には,少しずつプローブで骨の削除量を確認して形態を整えていく。術中にプローブによる確認を頻回に行う。さらに,治癒後の歯肉形態を念頭に入れてスキャロップ形態に仕上げていく(図7)。ただし,健全な根分岐部を有する臼歯部において必要以上に骨切除を行って根分岐部が露出するようなことは避けるように注意する必要がある。経験の浅い術者では,骨削除量が不足しやすいため,歯肉弁を戻した時も歯肉縁上の歯冠長をプローブで確認すると良い。垂直性骨欠損や棚状骨が認められる場合には同時に骨整形を行う。

図5

骨切除前にマージン部位から歯槽長までの距離を確認する。骨頂からマージンまでの距離は2 mmである。

図6

骨切除終了後の状態。骨頂からマージンまでの距離は4 mmである。

図7

骨整形後の状態。スキャロップ状の骨形態となっている。

5) 縫合

外科的歯冠長延長術における縫合では,意図的に根尖側に位置させた歯肉に張力をかけないように注意を払う。そのため,懸垂縫合や連続懸垂縫合が多用される。これらの縫合の特徴は,一般的なO字縫合や8字縫合と異なり頬側あるいは口蓋側・舌側の片側の歯肉弁のみの固定が可能なことである。そのため,O字縫合などのように歯肉弁が挙上することがない。口蓋側・舌側歯肉弁はタイトに縫合し,頬側歯肉弁は骨に沿わせて持ち上がらないように緩く縫合する。歯肉弁辺縁の位置は歯槽骨頂もしくはそれより根尖側に位置させる(図8a,b)。縫合後は,必要に応じて歯周パックを用いることもある。

図8a, b

縫合後の頬側面観(a)と咬合面観(b)。十分な歯冠長が獲得されている。

6) 術後の注意点

術後は根面の露出量が増加するため,根面う蝕や生活歯であれば知覚過敏症状に対して留意する。さらに,歯肉形態が変化しており,特に歯間空隙が大きくなっているため治癒経過をみて歯間ブラシのサイズ確認等の清掃指導が必要となる。また,根面う蝕予防のためにフッ化物の使用を勧める。

術後1週では軽度の発赤や歯肉腫脹が認められる場合が多い(図9)。この時点ではまだ患者には清掃を再開させず含漱を行うよう指導する。術後3週になると,炎症は概ね消退している(図10a,b)。生物学的幅径が考慮され,歯肉縁上に十分な歯冠長が存在すれば,当然,フェルールは確保され,適切な歯冠修復処置に移行することができる。

外科的歯冠長延長術では,改良型ウィドマン法と比較すると治癒が遅く,疼痛も出やすい。術後の消毒や抜糸を一般歯科医で行う症例では,歯科医および患者に治癒経過や口腔清掃指導の開始時期等を説明しておくことも重要であろう。

図9

術後1週の抜糸後の頬側面観。歯肉には発赤,腫脹が認められる。

図10a, b

術後3週の頬側面観(a)と咬合面観(b)。外科処置により確保した臨床的歯冠長が維持されている。歯肉の炎症は軽減しているが,口蓋側歯肉に発赤が認められる。

6. 術後治癒における歯肉の後戻り

創傷治癒の原理に基づくと歯周外科処置後,骨の露出を伴わない場合,歯周組織の成熟,安定に術後4~6週,骨を露出させた場合は8~12週,骨の形態修正・削除などを行った場合は6か月以上を要する。また,様々な研究により術後の歯肉辺縁の位置は変化することが認められている。DeasらやAroraらの研究によると歯肉辺縁の位置は術後3か月~6か月までの間に,それぞれ平均0.12 mm,平均0.15 mm,また,術後6か月でそれぞれ平均0.70 mm,平均0.78 mmの歯冠側移動をすることが認められており,いわゆる,術後の“後戻り”は術後3か月で最も大きい8,9)。歯肉の厚みやその性状が頬舌側や隣接面など,各歯面によって異なることや歯列弓における歯の位置などにより歯肉の治癒は影響を受けることを考慮に入れて処置を行う必要がある。

さらに,Herreroらは経験年数の少ない術者ほど骨削除量が少なく,術前に意図した歯冠長よりも短い歯冠長しか得られていないことを報告した10)。つまり,外科的歯冠長延長術の結果に影響を及ぼす因子として術者の経験年数も考慮する必要があろう。

以上のことから,術前に設定した臨床的歯冠長を獲得するためには,必要とする歯冠長をプローブを用いて術中に確認し,充分な量の骨削除を行うことが必要と考えられる。

7. 結語

日常臨床において,歯肉縁下う蝕,歯の破折といった症例は,決して珍しいものではない。しかし,そのような症例において,適切な修復物マージン設定のために歯周組織をマネージメントすることは容易ではない。歯周組織のマネージメントにおいて医療連携という視点に立った場合,歯周病専門医・認定医は他の歯科医師から頼られる存在でなければならない。

昨今,インプラントの予知性が高くなったことにより,歯の保存に努めるよりも抜歯し,インプラントを行った方が簡便であると考える風潮が,歯科医師のみならず,患者側にもあるように感じられる。このような考え方は,各患者の口腔内の状況のみならず,社会的状況,価値観等も関わることであるので一律に否定すべきではない。しかしながら,歯周病専門医・認定医としては,まずは歯の保存を目指すことが重要と考える。

アメリカ歯周病学会にて,インプラントで有名なニューヨーク大学のDr. Froumが聴衆に合唱させた“Periodontists save the teeth!”

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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