2018 年 60 巻 1 号 p. 35-43
我が国の人口高齢化は急速に進み,平成29年10月での高齢化率(65歳以上の人口割合)は27.7%,75歳以上の人口割合は13.8%となっている1)。総人口は2008年から継続的に減少する状態になったが,65歳以上の人口は2040年頃まで増加することが推定されている。このうち75歳以上の後期高齢者は2050年頃まで引き続き増加傾向が続き,2018年には65~74歳人口を上回ることが推定されている。一方,2000年に導入された介護保険制度での介護サービス受給者総数は2017年8月審査時で約421万人であり,要介護度別の割合としては要介護1が26%,要介護2が25%,要介護3が19%,要介護4が17%,そして要介護5で13%となっている2)。また,介護が必要となった主な原因を要介護度別にみると,要支援者では“関節疾患”が17.2%で最も多く,次いで“高齢による衰弱”が16.2%となっている。要介護者では“認知症”が24.8%で最も多く,次いで“脳血管疾患(脳卒中)”が18.4%となっている3)。
高齢者は加齢に伴う身体活動量の減少に加えて,精神的な要因や生活習慣の変化から“虚弱”を引き起こす。2001年にFriedら4)が提唱した“Frailty”は,“高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態で,筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念”と定義されているが,一方で“しかるべき介入により再び健常な状態に戻る”という可逆性も包含されている。このような身体的,精神心理的および社会的側面といった多面的な要素を表現する日本語訳として,日本老年医学会が2014年に“Frailty”を“フレイル”とし,認知度の向上と国民の予防意識の啓発を図っている5)。翌2015年3月,飯島らは活動量や意欲の低下に始まる心身機能低下と,口腔リテラシーの低下や歯の喪失に始まる口腔環境の悪化との関係性,栄養状態の悪化からサルコペニア,ロコモティブシンドロームを経て要介護状態に至る過程と口腔機能の低下との関係性を仮説概念図の中で4つの段階に分け説明している(図1)6)。この概念図で提示している“オーラルフレイル”は,滑舌低下やわずかなむせ,食べこぼしや噛めない食品の増加といった口腔機能の軽微な低下や食の偏りなど“口腔に現れるフレイル”を指しており,早期に発見し適切に対応することで回復しうる段階であるとしている。日本歯科医師会は,この用語をヘルスプロモーションにおける重要な概念として位置付け,2015年から啓発活動を行っている7)。2016年には日本老年歯科医学会が,オーラルフレイルとの関係性も含めて“口腔機能低下症”の疾患概念および構成する症状の診断基準に関して現状のエビデンスをもとに検討している8)。咀嚼機能の維持は偏りのない栄養摂取に繋がり“食”の支援すなわち健康的な食生活を支え,ひいては健康長寿に貢献すると考えられる。実際,咀嚼機能の維持に欠かせない咬合支持の有無や現在歯数の維持が,栄養摂取の適正化や栄養状態の維持,そして生命予後の改善に寄与することが報告されている9)。オーラルフレイルや口腔機能低下症など口腔機能(口腔衛生,咀嚼および嚥下機能)の異常に対する評価法や診断基準に関する体系化した情報は,食支援が必要な高齢者の食形態選択を含む栄養管理の観点からも重要10)であり,今後の臨床研究によるエビデンスの蓄積が待たれるところである。

食環境や栄養状態からみたフレイルの進行とオーラル・フレイルの関係
文献6)より引用
オーラルフレイルへのさまざまな対応(図1),例えば口腔リテラシーの向上や口腔清掃励行を含む口腔保健行動の変容,さらには欠損補綴など歯科治療による口腔機能の回復維持といった高齢者の口腔健康管理の意義や重要性は歯科分野において認識されており,歯科医師や歯科衛生士は精力的に介護・福祉分野との連携に取り組んでいる。
歯周病をはじめとする歯科疾患を予防することで現在歯数を増加させることは,高齢者が健康な生活を送るための目標にもなっている。歯科領域のヘルスプロモーションとして,現在最も認知度が高い施策の一つに“歯の喪失防止”として“75~84歳で20本以上の歯を有する者の割合を20%以上にすること”を目標とした施策,いわゆる8020運動推進支援事業がある。運動開始当初の1993年に実施した歯科疾患実態調査では11.5%だった達成率(8020達成者)が,2016年の同調査では51.2%となり,75歳以上85歳未満の高齢者の2人に1人以上が口腔内に20本以上の歯を有していることが明らかになった11)。この背景には,気道感染や誤嚥性肺炎の予防としてのプロフェッショナル・ケアの有用性12,13)や,口腔機能と全身の関係,例えば転倒と最大咬合力,舌圧と握力,あるいは舌運動性と加齢や疾患との関連についての知見14-17)など学術的要因に加え,介護保険制度開始を機に居宅療養管理指導で要介護者の口腔や義歯の清掃に関する歯科衛生指導が実施できるという公的制度の整備など社会的要因がある。2006年には増加する要介護高齢者への対応として新予防給付が創設され,口腔機能向上サービス18)をはじめとする介護予防事業は2015年から地域支援事業,さらには地域包括ケアシステム19)に段階的に包含するという方向性が示されている。
では,介護・福祉分野における“現状”はどうだろうか。口腔機能向上プログラムの実施や普及にとって,介護支援専門員など高齢者に関わる多職種の理解や取り組みに対する意欲の向上が重要な要素となり,歯科専門職との連携が相まって成功へと導かれる。介護保険制度の導入当初から介護職の関心や取組意欲の高まりは認められたものの新予防給付の利用は低調で,制度導入前から歯科専門職との連携により口腔健康管理に取り組んでいる施設においても,咀嚼・嚥下機能の専門的診査が設備的に困難なことなどが障壁となって経口維持・経口移行加算が算定できず,専門職種の連携や介入がボランティア的活動として継続されているという実態があった20)。その後,2009年の口腔機能維持管理加算導入など若干の制度改正やモデル事業として実施された地域高齢者の口腔機能や栄養ケアに関する調査で見出された知見により,歯科専門職に加え栄養管理の観点から関係専門職種との連携の重要性も介護職に理解されるようになった。その結果,2014年に実施された調査21)では,対象とした介護保険施設(745施設)の47.0%で口腔機能維持体制加算を算定しており,少数ではあるが入所者に関するカンファレンスへの定期的な参加や食事に関する相談業務を行っている歯科医療機関も認められた。しかしながら,歯科医療機関へ協力を依頼する意思を持ちつつも“摂食嚥下障害の治療”は43.5%の施設で,“カンファレンスへの定期参加”は42.5%,そして“入所者の食事相談”は26.7%の施設で依頼できていないという実態も同時に存在し,“協力依頼を阻害する要因”として41.3%の施設が“時間の問題”を指摘していた。また,4割弱の施設において入所者の食事や栄養の問題,とくに“食形態の変更”に関して歯科衛生士と管理栄養士の連携できていることが明らかになったが,一方で連携できていない施設の47.9%が前述と同様“時間の問題”を挙げていた。8割を超える施設が口腔機能維持管理加算の有用性を,また7割を超える施設が歯科衛生士の必要性を認識しつつも“時間の問題”によって歯科医療機関へ協力依頼できておらず,食事介助も含め高齢者を日々支援し繁忙な業務を執する介護職のジレンマが浮き彫りとなった。
菊谷ら22)の調査によれば,対象とした260名の施設利用高齢者および213名の在宅高齢者のうち,本人の咀嚼機能に合致しない食形態を摂取していた者はそれぞれ35%および68%に及ぶことが明らかになった。また,いずれの場合も咀嚼機能レベルより高い食形態を摂取している者と機能レベルより低い食形態を摂取している者は約半数ずつ存在していることが判明した。これは,食事の提供が介護職によって行われる高齢者施設においても咀嚼機能に合った食形態の調整が十分に行われておらず,専門職による食形態選択の機会が少ない在宅では,より多くの高齢者が咀嚼機能と合致しない食形態を摂取していることを物語っている。さらに,166施設を対象に嚥下調整食に関する調査を行ったところ,嚥下調整食を提供している108施設のうち約6割の施設で嚥下調整食分類201323)に類する食形態選択のための客観的基準を有していないことも明らかになった24)。食形態は,窒息など安全面に配慮しつつ咀嚼・嚥下機能に合致したものを選択することが肝要であるが,実際には本人の認知機能や意欲,嗜好さらには家族の要望などが影響を与えることがあり,高齢者を直接支援する介護職の臨機応変な対応に委ねられる場合がある。食事介助を含む高齢者への介護業務としての応対方法や応対内容は担当介護職の職歴や経験年数によって差があり,関わる時間が長いほど高齢者と接する中で生まれる応対内容は“知識や経験”として,またその高齢者だけに通用する応対方法は“技”となって複雑化し“暗黙知”25)として介護職の中に蓄えられていく。介護職が持つ“暗黙知”を施設内の他職種と共有する体制が整備されていないと,また口腔機能や栄養の管理に関する知識を持っていないと,食事介助においてむせなど目前の高齢者の異変に対して窒息や誤嚥のリスクを回避する対応策を優先してしまい,結果として現状より低いレベルの食形態を選択し,これが低栄養という新たなリスクを招く恐れがある22)。
では,“暗黙知を施設内の他職種と共有する体制”とは何だろうか?口腔機能向上プログラム18)で提示されている“口腔機能や口腔衛生に関する事前アセスメント”,“結果に基づいたプログラム(集団や個人に対する各種指導や咀嚼訓練など)の提供”および“事後アセスメント”というフローを,食事介助関連業務における高齢者へのプログラム提供という視点で当てはめると以下のようになるであろう。すなわち,①食事介助時に気づく高齢者の口腔機能の異変を担当介護職が的確に評価・把握(Check)し,②食事観察(ミールラウンド)や多職種カンファレンス(Action)によって,管理栄養士や歯科衛生士など専門職を含む施設内多職種間での状況把握,問題点の抽出および関連情報の共有,時として嚥下造影26)や内視鏡検査27)など協力機関の医師や歯科医師による専門的な診査を行い,③最適な食事介助方法や食形態の選択,そして口腔機能の維持・改善のための訓練法28,29)などを検討し計画(Plan)する。そして,④計画に基づく食事介助や口腔清掃や機能訓練など口腔ケアを実践し(Do),それによる状態の変化を再度評価(Check)するという運用サイクル,いわば口腔・食支援関連業務における“CAPDoサイクルの実践”と捉えることができる(図2)。これにより介護職が持つ“暗黙知”を多職種で認識できる“形式知”として表出させ,組織として“見える化”することで情報共有のためのナレッジ・マネジメントが可能になると考えられる。そして,“形式知”を連結する方法として,情報を電子化し情報通信技術(Information and Communication Technology,以下ICT)を用いて共有,一元管理することは,時短効果をはじめ業務効率化という点から極めて有効な手段である。8020達成者が50%を越えた現在,歯科衛生士による専門的口腔ケアでは検査を含む歯周病管理30)に掛ける時間,一方,介護職による普及型口腔ケアでは残存歯の清掃に掛ける時間が増加することは容易に想像できる。口腔・食支援業務のCAPDoサイクル実践を支援するICTシステムの構築は,関連職種の暗黙知を“見える化”し,口腔ケアや栄養ケアの質を低下させることなく情報共有と業務効率化を実現できるものと期待される。

口腔・食支援関連業務のナレッジ・マネジメント―CAPDoサイクル―
ICTの進歩はあらゆる分野・産業に情報化をもたらした。医療分野におけるICT化は,医事会計システム,レセプトコンピュータおよびオーダリングシステムに加え,1999年に診療録の電子媒体による保存(旧厚生省医薬発第587号)31)が認められて以降,医療情報システム(いわゆる電子カルテシステム)の導入で一気に加速した。医療の高度化および多様化に伴って,周辺医療機器の技術進歩とともに電子カルテシステムも高機能化が図られ,また医療連携(病々連携や病診連携)の推進に呼応して,医療情報は多機関で共有されるようになった。このような背景から,介護・福祉分野においても報酬請求事務などバックオフィス部分だけでなく,介護サービスの内容評価の効率化や情報集約化を目的にICT化が始まっており,一部の先進的な在宅医療や介護の事業者ではモバイル端末など比較的低コストのICT基盤を活用してリアルタイムで情報共有やモニタリングを行っている。例えば,介護支援専門員や施設の介護職がケアプランや介護サービスの業務情報,さらには体重や日々の体温,血圧など生体情報を記録し管理する取り組みがなされ始めている。口腔に関連するものとして,口腔ケア実施の有無程度を介護業務の一環として記録するICTシステムは存在するが,口腔機能の異変を担当介護職が的確に評価・記録することも含め,前述した口腔・食支援関連業務のCAPDoサイクルを“見える化”するシステムは存在しない。
最近我々は,高齢者施設で歯科衛生士が行う専門的口腔ケアで発生する諸情報,例えば高齢者の口腔衛生や口腔機能に関する評価の結果や専門的口腔ケアの実施内容を入力し,また印刷や閲覧など目的に応じた出力を可能にするクラウド型口腔保健支援ICTシステム(Advising Chart Storage System for Oral Care:ACSSOC〔専門職版〕)を開発した32)(図3)。入力機能として歯式の記録は勿論,粘膜の潰瘍など口腔内の異常を視覚情報として残したい場合にデジタルカメラで撮影し,直後に無線LAN経由で画像データをサーバへアップロードする機能も備えている。一方,出力機能として複数回にわたる口腔ケア時の評価結果や実施内容の一覧表を画像とともに印刷できるだけでなく,普及型口腔ケア時の要点や助言内容を歯式図や画像と組み合わせて印刷することも可能で,家族や介護職への説明資料として用いている。感染防御の観点から,高齢者の義歯や口腔内に触れる歯科衛生士が口腔ケアとシステム操作を同時に行うことは困難なため,口腔ケア時に介護職が同行しシステム操作することを基本的な運用としている。このため介護職が理解しやすい歯式の入力方法や評価項目の文言など入力画面の仕様を工夫している。本システムの導入によって歯科衛生士は口腔ケアに専念でき,また現場で発生する情報のほぼ全てをシステムに登録できるようになったため,メモなどの手記録が不要となった。その結果,対象者1人の口腔評価やケア提供に掛ける時間,および実施記録の作成や印刷に掛ける時間が有意に減少し,業務の効率化に寄与した33)。さらに歯科衛生士からの評価結果の口頭伝達や介護職からの評価項目の提示や質問など,2者間の会話数が増加し33),介護職の口腔ケアに対する関心度の向上にも寄与していることが明らかになった。次に我々は,前述のCAPDoサイクルにおける“Check”すなわち食事介助などで気づく高齢者の口腔衛生および口腔機能の異変を担当介護職が的確に評価・登録し,施設内多職種と情報共有するICTシステム(ACSSOC〔介護職版〕)を開発した(図4)。このシステムの入力項目は,中野ら34)が開発した介護職版口腔ケア・アセスメントシートに準拠している。すなわち,評価項目を介護職が理解しやすい質問形式に,また段階評価時の判断基準として症例写真や解説文を併記するなど,介護職が的確な評価を導き出せるよう工夫した本シートの体裁をシステム入力画面に反映している。現在,CAPDoサイクルの他のステップのうち“Plan”および“Do”で発生する情報を時系列で登録するリレーショナルデータベースシステムを開発中である。これらステップのデータを“事例・症例情報”としてデータベース化し,複数項目の評価結果(C)と食形態選択や訓練方法など計画(P)との関連性,ならびに計画に沿った食事介助や摂食・嚥下訓練の実施記録(Do)とそれに伴う状態変化の再評価(C)の結果との関連性について多変量解析によるデータマイニング35)を行うことで,口腔機能や栄養の状態が類似する事例・症例における至適なCAPDoサイクルを速やかに抽出し提示できる,いわば口腔・食支援関連業務を“見える化”するシステムを目指している。

口腔保健支援ICTシステム(専門職版)
(Advising Chart Storage System for Oral Care:ACSSOC)
歯科衛生士が行う専門的口腔ケアで発生する諸情報をタブレット端末で入力し,クラウドサーバに保存するICTシステム。介護職が行う普及型口腔ケアへの助言や家族への説明に用いる資料を出力(印刷)できる。

口腔保健支援ICTシステム(介護職版)
介護職版口腔ケア・アセスメントシート34)に準拠した入力画面を装備したシステム。口腔衛生および咀嚼・嚥下機能の評価結果を入力すると,カテゴリ別の合計スコアやレーダーチャートが表示でき,加えてスコアに応じたアドバイス(健口体操の動画)が評価直後に確認できる。
医療と介護の連携を充実させるには,医師や歯科医師,歯科衛生士など医療専門職種と介護支援専門員など介護・福祉関連職種が活発な交流ときめ細やかな協力を行える組織や体制を整備することが重要である。口腔や栄養の管理においても同様で,医療・介護それぞれの関係職種が密なコミュニケーションを図り専門性を高めることで,“地域高齢者が最期までおいしく食べること”を後押しできると考えられる。厚生労働省は,医療介護総合確保方針(医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針)36)の中で,“情報通信技術(ICT)の活用”として“質の高い医療提供体制及び地域包括ケアシステムの構築のためには医療・介護サービス利用者も含めた関係者間での適時適切な情報共有が不可欠であり,ICTの活用は情報共有に有効な手段である”と示している。口腔・食支援の“見える化”システムにおいても,情報化社会として他の産業も共通して抱える人的運用およびICT基盤に関する課題(表1)を適切に解決し,口腔・栄養管理に関する情報を“ICTシステムの情報”としてシームレスに関係職種が適時適切に共有する必要がある。そのためには,まずシステムユーザとなる関連職種のICTリテラシー育成,すなわち“業務の現場でタブレットやスマートフォンなど情報端末から得られる様々な情報を理解し,適切な方法で入力する能力”を高めることが重要である。しかしながら,高齢化が進む現在,施設介護職や在宅療養での同居介護者の約60%が60歳以上である3)という“介護職・介護者の高齢化”の状況,および60歳以上の高年齢層のインターネット利用率が低年齢層のそれより低い37)という“デジタル・ディバイド(利用格差)”の存在が背景要因となって,多くの介護・福祉分野のキーパーソンに情報端末操作に対する抵抗感があることは否めない。多忙な介護業務の中でICTリテラシー向上のための取り組み自体が心理的負担となること,またICT化の過渡期として避けがたい従前の手記録とICT利用による二重運用に対する心理的負担や業務負担38)に十分配慮しつつ,研修等を通してICTシステムの導入目的や効果あるいはICTによる情報共有の必要性や重要性に対する理解を介護職に求めていくこともまた,ICTリテラシー育成と併せてICT化の推進に必要となってくる。併せて,近年急速に普及している業務用モバイル端末の利便性に配慮しつつも,情報セキュリティの観点からデータの暗号化やユーザのアクセス制御など個人情報の適正な管理39,40)を確保できるICT環境の整備が重要であることは言うまでもない。
多機関での“情報の共有・継承”がもたらす医療・介護のシームレスな連携には“情報の標準化”が最重要課題であり,データ連携が可能な互換性のあるICTの利用環境を整備し普及させる必要がある。医療分野では,病々連携や病診連携といった医療連携の推進に呼応して情報の標準化が検討され,プロトコル(データ項目,項目表記,交換に関する規約),用語,コード(病名コード,医事コード)およびデータフォーマット(画像,波形)に関する標準規格が制定されている41)。一方,介護・福祉分野においては入院から在宅医療さらに看取りに至るまで,医療分野以上に多くの地域や事業所,そして多数のシステム間での情報の双方向利用が必要であり,その複雑さも相まって情報の標準化が遅れていた。最近,介護関連情報のデータ項目に関する技術仕様など標準化の方向性が示された42)。これを機に,ICTの視点から医療・介護の情報共有と連携は一気に加速・強化されるものと思われる。歯科分野では“歯科診療情報の標準化”43)に関する取り組みとして,口腔診査情報コード仕様の策定を既に終え,2019年の医療分野での標準規格の取得や電子カルテへの実装を目指して,現在普及事業等が行われているところである。口腔・栄養管理に関しても同様に,地域包括ケアシステム構築に向けて医療分野と介護・福祉分野で共有・連携できる関連項目の選定や定義などを標準化する必要があると考えられる。医療・介護におけるICTのさらなる進展として“全国的なネットワーク構築による医療・介護現場での健康・医療・介護の最適提供”のための検討が始まり,具体的な取り組みの方向性の一つとして“介護の科学的分析のためのデータ収集と最適サービスの提供”による“科学的介護の実現”が示されている44)。口腔機能の評価法や診断基準の確立もさることながら“情報の標準化”という視点から,“高齢者に対する口腔・食の支援に資するデータベースとは何か”を検討しなければいけない時期に来ていることは間違いない。

口腔・食支援の“見える化”システム進展のための方策
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。