日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
掌蹠膿疱症と歯周治療
村井 治須和部 京介大川 義人佐々木 大輔八重柏 隆
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2018 年 60 巻 3 号 p. 131-138

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1】 掌蹠膿疱症について

掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:以下PPP)は手掌や足蹠部に鱗屑(りんせつ)を伴う限局性紅斑と多発性無菌膿疱を特徴とする疾患である。一般に40~50歳代に発症ピークがあるとされるPPPではあるが,20~30歳代に発症することもある1)。重症化すると爪の変形,膿疱周辺部の疼痛やかゆみを伴う。さらに足蹠部の病変が拡大すると歩行が困難となる場合もある。まれに重症例として下位肋骨や鎖骨に対する疼痛を伴う関節症を併発する2)。膿疱部の病理組織学所見としては表皮内に水疱が形成され,内部に好中球が集積している。Kubotaらの,565,903名に上る大規模データ解析では,日本人のPPP有病率は0.12%であり,その発生には季節性があるとされている3)。海外ではPPPは汎発型膿疱性乾癬と同義であるとの認識もあるが,HLA解析によりPPPは乾癬と異なる遺伝子背景を持っており,本邦では異なる疾患とみなされている。そのような理由からPPP単独としての病態や治療については本邦からの報告が多い。PPPの大きな問題点としては,病変部位が手掌の場合は車の運転時のハンドル把持困難をはじめとした手作業に困難を来たすこと,足底部では地面着地時の疼痛で歩行が著しく困難となること,関節部の場合は著しい痛みをともなうため,乾癬患者と同様に患者の生活の質(Quality of life:QOL)を著しく損なうことが多い4)。またPPPは病変罹患期間が長期に渡る事が多く,患者の生活活動性の阻害につながるとされている5)。PPPの有効な治療は患者のQOLの改善の点からも早急に求められている。

皮膚疾患は身体に存在する病巣がその発症に関与していることが報告されている。その中でも口腔内の歯性感染巣を原因,あるいは誘因とする皮膚疾患としてPPP,Henoch-Schönlein紫斑,乾癬,肉芽腫性口唇炎,貨幣状湿疹等が挙げられる。特にPPPは歯科疾患との関連性について多く報告されている6)。一方で歯周病は動脈硬化性疾患や糖尿病などの全身疾患と関係することが報告されている7,8)。今回我々はPPP患者の歯周治療例をもとに,歯周治療による掌蹠膿疱症の症状改善を報告するとともに,今後の対応について考察する。

2】 歯周治療によるPPP症状の改善

1) 症例1:患者 55歳,男性

主訴:皮膚科からの口腔内感染巣の精査依頼

現病歴:当科初診5ヶ月前より両手掌及び足底部に疼痛が生じた。発症2ヶ月後には両手掌及び足底部に膿疱が広範囲に認められるようになり日常生活に支障を来たした(図1)。近医を受診したが原因不明のため岩手医科大学附属病院皮膚科を紹介され,精査の結果,PPPと診断されたことより治療を開始した。同時に全身疾患と歯周病の関係より同皮膚科から岩手医科大学附属病院歯科医療センター歯周病外来へ口腔内感染巣の精査依頼があり,当科受診となった。

全身既往歴:B型肝炎のため近医にて定期受診中である。アレルギーFood(-)Drug(-)喫煙約30本/day,20年以上で現在に至る。

歯科既往歴:10年程前より近医を不定期に通院していたが,近年多忙のため歯科治療は中断中であった。

全身所見:両手掌・足蹠ともに左右対称性に一部灼熱感と疼痛を伴う紅斑および小水疱,膿疱が集簇する。手背および一部体幹部にも紅色丘疹と膿疱を認めた。また手掌部(図1)および足底部の膿疱による疼痛のため,車ハンドルの把持困難および歩行困難を訴えていた。

口腔内所見:PCR 53.1%。4 mm以上の歯周ポケット保有率63.2%(最深部は10 mm)。BOP率66.0%。上下顎前歯部にはプラークリテンションファクターとなる不適切な形態のダイレクトボンディングを認めた(図2)。下顎前歯舌側部に多量の歯石付着,大臼歯部においてLindeとNymanの根分岐部病変分類II度の根分岐部病変を認めた。またデンタルエックス線写真では全顎的に中等度から重度の歯槽骨吸収を認めた(図3)。

診断:慢性歯周炎

病理学組織所見:両手掌・足蹠では各層に緊密な錯角化が存在し,角層下では緊満性・単胞性の表皮性膿疱を認めた。膿疱の組織所見は好中球が主体であった。

治療経過:患者に喫煙が歯周炎とPPPの症状悪化要因である可能性を説明し,禁煙教育を開始した9,10)。歯周基本治療として口腔清掃指導,スケーリングを実施したところ,その直後より手掌と左右足蹠部の膿疱,疼痛とも顕著な改善傾向が認められた(図4)。歯科初診2ヶ月後には禁煙に成功し,それと同時にSRPを開始したところ,病変部の紅班および鱗屑についても顕著な改善傾向を認めた(図4)。SRP終了時には左右足蹠部の膿疱,疼痛は完全に消失し,血中CRPは0.2 mg/dl以下に減少した(歯科初診時0.6 mg/dl)。歯科初診8ヶ月後には手掌,足蹠部の病変および病状は消失した(図5)。歯周基本治療後の再評価の結果より歯周外科治療を行い,その後の再評価で歯周組織の改善を確認後,口腔機能回復治療を経てSPTに移行した。SPT開始後4年以上が経過したが安定した状態が維持されており,歯周組織および手掌部と足蹠部に再発は認められていない(図6)。

図1

症例1 初診時 手掌

図2

症例1 初診時

図3

症例1 初診時 エックス線写真

図4

症例1 手掌部の経過

図5

症例1の治療経過と症状の変化

図6

症例1 歯周組織検査表の変化

2) 症例2:患者 65歳,女性

主訴:PPPの再発による口腔内感染巣の精査依頼

現病歴:10年前にPPPを発症したが一度改善した。最近PPPが再発し,近医の皮膚科を受診したところ口腔内感染巣の精査を勧められ,当科紹介,受診となった。

処方薬:デルモベートクリーム0.05%(外用)。喫煙は約20本/day,40年以上で現在に至る。

全身診査・検査所見:アレルギーFood(-)Drug(-)金属アレルギーパッチテスト(±)

歯科既往歴:多忙のため10年程度歯科治療も中断。

全身所見:左右足蹠を中心に手掌にも鱗屑,紅斑および小膿疱を認める。また両踵部の疼痛のため歩行困難を訴えていた。

口腔内所見:PCR 49.5%。4 mm以上の歯周ポケット保有率16.1%(最深部で4 mm)。BOP率6.1%。大臼歯部でLindeとNymanの根分岐部病変分類II度の根分岐部病変が認められた(図7)。

診断:慢性歯周炎

治療経過:

喫煙が歯周炎とPPPの症状悪化の主な要因である可能性を説明し禁煙指導を行った。しかし喫煙習慣を断つことは困難で,禁煙指導および減煙指導は功を奏さなかった。歯周基本治療として口腔清掃指導,スケーリングを実施したところ,直後より手掌と左右足蹠部の膿疱,疼痛とも顕著な改善傾向を認めた。歯科初診1ヶ月後のSRP開始時には病変部の紅班,鱗屑についても顕著に改善傾向を認めた(図8)。足蹠部の膿疱,疼痛は完全に消失し,歩行困難は改善した。手掌部の改善は遅れたものの歯科初診8ヶ月後には病変は手掌,足底部の病変は消失,ほぼ改善した(図8)。歯周治療指針に沿って治療を進め口腔機能回復治療,再評価を経てSPTに移行した。口腔清掃状態は初診時,SPT期でPCRが49.5%から15.9%に改善し,同様に歯周組織も4 mm以上の歯周ポケット割合が16.1%から0.7%へと改善した。喫煙習慣からBOP率は初診時でも6.1%と低値だったが,それもSPT期には0%とBOPは全て消失した。SPTに移行してから4年が経過したが手掌および足底部ともに症状は再発していない。本症例患者は禁煙・減煙指導が功を奏さず喫煙習慣を変えられなかった喫煙者であったが,歯周治療の経過に伴いPPPの症状は著しく改善した。この症例では歯周基本治療開始前と終了後で喫煙習慣,皮膚科治療として外用薬等の変更はなく,唯一治療介入したのは歯周基本治療(歯周病の炎症の軽減)のみであったことから,実施した歯周基本治療が結果的にPPPの症状改善に有効であったと考察される。

図7

症例2 初診時

図8

症例2 足蹠部の変化

3】 掌蹠膿疱症と歯周病

1) 掌蹠膿疱症(PPP)の発症機序とその治療法

多くのPPP症例の発症機序11)は未だ不明であるが,扁桃感染巣を代表する病巣感染巣が主たる原因と考えられている。具体的には歯性病巣12,13)や扁桃炎14)などの病巣感染の他に,金属アレルギー,代謝異常・ストレス等の多岐の要因による免疫機能異常による誘発等も考えられている11)。またPPPでは特に喫煙が強いリスクファクターとされている。PPP患者の95%が喫煙者であるとの報告があり15),PPP患者に対する禁煙指導は症状の改善に有効とされている9)。原因の一つとしてアセチルコリン受容体による自己免疫疾患であるとの観点からニコチンを介した病状の悪化も考えられている10)。病巣感染巣においてT細胞,B細胞の活性化をきたし,液性免疫,サイトカインなどを介して皮疹形成に至ると推測されている16)。実際にPPP患者の病巣扁桃除去後に症状が改善した際に,血清中IL-6,IL-8が低下する事が過去に報告されている17)。病巣扁桃が原因となるPPP患者の場合,粘膜免疫の免疫寛容機構が破綻しており,TNF-α,IFN-γおよびIL-6の産生が亢進,扁桃リンパ球に過剰免疫反応が生じていると考えられている18-20)。この結果,扁桃B細胞が活性化され,皮膚に共通抗原性を有するHSPに対する抗体産生が誘導される。一方で活性化扁桃T細胞が末梢血を介して掌蹠皮膚へ誘導され,PPPが発症することが示唆されている。歯周病変と動脈硬化病変部のT細胞の共通性についての報告もあり21),歯周疾患が炎症メディエーターを介してPPPに何らかの影響を与えた可能性がある。我々の経験した症例でも歯周治療を施すことで末梢血中のCRP,CD4/CD8及びB Cellの値が減少するとともにPPPの症状は改善しており22),歯周病がPPP症状発現に影響を与えていた可能性がある。

PPPの治療法としては,禁煙などの生活習慣の改善,薬物療法としての免疫抑制剤,ビタミンD3およびステロイド療法,抗TNF-α製剤,ビオチン製剤の使用,発症部位への光線療法等が挙げられる。重症化症例については扁桃除去を主とした病巣感染巣の除去が有効との報告も多い23)

2) 掌蹠膿疱症と歯科領域との関係

PPPについて歯科領域では,金属アレルギーとの関連から歯科用金属の亜鉛を原因とするPPP発症報告例がある10)。Kounoらの報告24)では,慢性扁桃炎および歯性感染の治療によるPPP症状改善例は全76例中,66%の症例で認めた。一方,歯科金属除去によるPPPへの治療成績は全9症例に対して改善が3症例であった。また小林によるとPPPの発症原因の分析では238例のうち,病巣感染が原因の割合は全体の81%であったと報告されている25)。そのうち歯性感染巣と扁桃感染巣との併発例は約59%,歯性感染単独では47%を占めると報告されている。一方,金属アレルギーが原因とされる症例の割合は,歯性感染症との併発例も合わせてもわずか4%に過ぎないと報告されている25)。佐藤らの報告26)でも歯科用金属除去によって軽快したPPP患者は治療患者総数の約5%となっている。このことから,金属アレルギーがPPPの原因である頻度は決して高くないと考えられる。

このようにPPPは,扁桃や歯性感染症などの病巣感染巣が主な原因であることが示唆される。従って病巣感染巣除去が治療法の第一選択となる。今回の症例では歯周治療による症状消失が比較的早期に認められた。しかし扁桃除去と比較して歯性感染症の除去による治療効果は緩徐である事が多いとされている。佐々木ら27)は,感染源の抜歯後約1年3か月で皮疹は消失したと報告している。また歯性感染症によるPPP患者の治療では,病巣除去後でも皮疹が数か月から1~2年程度残存するとも報告されている12,16,28)

これまでのPPPに対する病巣扁桃の摘出23,29-32)や,歯性感染症への治療効果の報告13)から,PPPの発症には口腔・咽頭領域の病巣感染が密接に関わっており,病巣の適切な治療が有効と考えられる。しかしながら病巣感染と皮膚症状の関連性を直接的に証明する検査方法は現状では不明である。扁桃病巣に対しては扁桃刺激試験などの確認方法があるが絶対的なものではない。またPPP発症時の扁桃は自覚症状がない場合が多い33)ため早期発見が困難である。一方歯性病巣感染巣では口腔内の症状やエックス線検査等で容易に確認できるので患者への治療説明が容易である。

以上のことから歯性病巣感染の除去がPPP治療に有効であると考えられるが,歯性病巣感染巣とPPPの関連性について一般的にはまだ理解されていない。従って病巣感染巣がPPP発症と関連することについて,歯科治療開始前に患者に十分に説明し同意を得ることが必要である。

3) まとめ

PPPは皮膚科領域ではCommon diseaseとされる。しかし未だに診療ガイドラインは(汎発型膿疱性乾癬を除き)無い。これはPPPの原因に関する検査・診断や治癒に関する基準等が多様で,かつ不明瞭であることが考えられる。その結果,治療の方向性も一貫せず,増悪,寛解を繰り返しながら難治化,症状が重症化するPPP症例も少なくない34)。従って歯科領域の病巣感染等のPPP関与を念頭に置いて医科歯科連携をさらに強化し,本病変の改善に歯科からも貢献できることを期待したい。

本ミニレビューの症例は第52回春季日本歯周病学会学術大会,第52回秋季日本歯周病学会学術大会,第55回春季日本歯周病学会学術大会で発表済みです。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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