日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
咬合力の測定方法とその大きさに影響を与える因子
中村 太志守下 昌輝臼井 通彦中島 啓介
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2018 年 60 巻 4 号 p. 155-159

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はじめに

1960年代前半まで外傷性咬合は歯周炎の主要な初発因子と考えられていた1)。しかし,ブラッシング停止による実験的歯肉炎2)の報告により歯周炎の初発因子はプラークである可能性が報告されると,外傷性咬合は初発因子とは考えられなくなった。その後,GlickmanとSmulow3,4)により外傷性咬合は歯周組織破壊において補助的な役割を果たすという「共同破壊理論」が提唱された。歯周組織を刺激層と共同破壊層に分け,刺激層(辺縁歯肉と歯間部歯肉)ではプラークによって炎症が生じて歯周ポケットが形成されるが,外傷性咬合の影響を受けないとした。共同破壊層(歯間水平線維より根尖側の歯周組織部分)まで炎症が波及すると,外傷性咬合が存在する場合には炎症が歯根膜へ進展し垂直性骨欠損を伴う骨縁下ポケットが形成されるとしている。

咬合力による応力はセメントエナメル境付近に発生しやすい。Nomaら5)は,咬合力により歯頚部付近のセメント質の破壊や剥離が生じ,結合組織性付着の破壊や歯周ポケットの形成が生じるという仮説を立てた。矯正治療のために便宜抜歯した歯に対して,繰返し過重負荷試験機により5.0 kgf(約480N)の荷重を1回/秒で100万回加えた。歯根表面を実体顕微鏡で観察した結果,歯冠側から根尖側方向へ走向する亀裂と歯根表面での歯質の剥離を認めた。また,歯根表面の亀裂の面積は50万回繰返した以降に増加する傾向を示した。

歯周炎患者の咬合力は,健常者と比べて有意に低い6)。また,動揺歯にかかる咬合力は,動揺度が大きくなるほど小さくなる7)。川崎ら8)は中等度から重度の歯周炎患者に非外科的治療を行い,初診時の歯の動揺度別に評価した結果,動揺度が小さい群は大きい群と比較して歯周ポケット深さの減少量および付着の獲得量が有意に大きかったと報告している。このように外傷性咬合は歯の動揺を引き起こすだけでなく,結果として歯周治療の予後にも影響を与えるため,咬合力の測定およびその大きさに影響を与える因子を理解することは非常に重要であると考えられる。本レビューでは,咬合力の測定方法とその大きさに影響を与える因子について解説する。

1. 咬合力の測定法

咬合力は顎口腔機能の客観的な評価項目の1つである。現在国内で普及している咬合力測定機器には,デンタルプレスケール(富士フイルム社製)9),T-スキャン(ニッタ社製)9),オクルーザルフォースメーター(長野計器社製)10)がある(図1)。

図1

国内で使用されている咬合力計測機器

(A)デンタルプレスケール(B)T-スキャン(C)オクルーザルフォースメーター

① デンタルプレスケール

デンタルプレスケールはPETフィルム内に発色剤が封入されたマイクロカプセルと顕色剤が塗布されたシートである。このシートを口腔内に挿入し,咬み合わせることでマイクロカプセルが破壊され,発色剤と顕色剤が化学反応を起こすことで赤色に発色する。マイクロカプセルは様々な大きさと強度のもので調整されることで,加えられた力の大きさに応じた発色を示す。この発色をスキャナーで読み込み,専用の解析ソフトで咬合力,咬合接触面積,咬合力の重心の位置やバランスを表示する。

本製品は一時期,生産が中止されていたが,2018年にデンタルプレスケールIIが販売された。シートの厚みが増した分,より広い咬合近接領域に圧力がかかることから,従来のデンタルプレスケールのデータより高い値の数値の咬合力を示すとされている。そのため,デンタルプレスケールIIにより得られたデータは従来の製品によって得られたデータと単純に比較はできない。

② T-スキャン

本製品のシートはポリエステルフィルムに電極がプリントされ,加わる力の大きさに応じて電気抵抗値が変化する特殊インキで薄膜が形成されている。薄膜の上下に行電極と列電極が一定の間隔でマトリクス状に配置されており,これらの交点が個別の力検出点(センサセル)となっている。1枚のセンサシートに約1,500個のセンサセルを持っている。

口腔内に挿入したシートを咬ませると,圧力が加わっているセンサセルの電気抵抗値が変化する。各センサセルの電気抵抗値は256段階のデジタル値に変換される。さらに,このデジタル値は圧力情報に変換してコンピュータに取り込まれる。また,各電極は最高3.4マイクロ秒の間隔で電気抵抗値の変化を読み取るため,圧力変化をリアルタイムに確認することができる。センサセルごとの電気抵抗値を読み取ることで,100分の1秒間隔で咬合接触点の位置,各接触点の順序,咬合力の大きさを定量的に記録できる。また,それらの測定値から歯列内での咬合バランスを表示できる。

③ オクルーザルフォースメーター

ハンディタイプの咬合力計であり,長さ約200 mm,幅30 mm,重さ70 g程度である。咬合力検出部はステンレス製の力受け板,ダイアフラム,プロピレングリコール液の封入部分から形成されている。咬合力検出部の封入液の液圧の変化を,半導体圧力センサを介して電気信号に変換し咬合力を計測している。その測定値はハンドル部に液晶表示され。上下の歯で咬んだ全圧を最大咬合力としている。

口腔内でシートを咬ませるタイプの方法(デンタルプレスケールやT-スキャン)は,咬合力や咬合接触面積を同時に計測できるという利点があるが,専用の解析機器を使用するためコストがかかるという欠点がある。一方,オクルーザルフォースメーターは解析機器が不要のため小型で簡便に使用できる利点があるが,咬合接触面積を求めることが難しいという欠点がある。3つの計測機器に共通する問題点は,咬合接触時にシート等の何らかのものを介在させるため,通常の咀嚼時と同様な咬合接触状態で咬合力を計測しているか不明な点である。

2. 咬合力に影響を与える因子

咬合力に影響を与える因子には,顔貌形態,年齢,性別,歯周組織の状態,顎関節障害,残存歯の状態等が挙げられる11)。国内ではデンタルプレスケールを用いて咬合力を測定している報告が最も多いため,それらの報告を元に考察を加えてみたい。

① 顔貌形態

咬筋と歯列弓の位置関係は,筋力がより効率的に働くような解剖学的形態をとっている。成人男性における咬筋の形態と咬合力との関係について調査した研究では,咬筋の厚さおよび横断面積が大きく,咬筋の幅が短いほど大きな咬合力を示している12)。また,非習慣性咀嚼側と比べ,習慣性咀嚼側の方が咬筋の体積が大きく,前頭面における咬筋の走行角度は垂直に近いとされている13)。また,コーンビームCTによる下顎臼歯部の形態計測の結果,下顎骨臼歯部の幅径が大きいほど,大きな咬合力を示している14)

我々15)は顔貌形態から咬合力を推測できるか100名の学生を対象に検討した結果,下顎角幅/頬骨弓幅は咬合力の大きさと密接に関連していることを明らかにした。下顎角幅/頬骨弓幅が大きくなるほど顔貌は方形に近づき咬合力は大きくなり,下顎角幅/頬骨弓幅が小さくなれば顔貌は尖形に近づき咬合力が小さくなる。そのため,顔貌形態から咬合力の大きさがある程度,予測できると考えられた。

② 年齢

歯周病の影響が少ないと考えられる20歳代の若年者を対象として測定した咬合力の結果を表1に示す15-20)。757名の高齢者(平均年齢70.1±0.9歳)を対象とした調査の結果では咬合力は554±352Nであり21),若年者の咬合力のデータと比べ低い値を示している。一方,8020達成者と60歳代の咬合力の大きさには有意差が認められないとの報告もある22)。このような結果から,咬合力に影響を与える因子が年齢のみならず残存歯数にも影響を受けている可能性が考えられる。

日本老年歯科学会では2016年に健康な状態から口腔機能障害に至る過程の中でオーラルフレイルと口腔機能低下症が存在すると仮定し,口腔機能低下症の評価項目のひとつに咬合力を挙げている。ここでは,デンタルプレスケールによる咬合力が200N以下の際に口腔機能低下症と判定している23)

表1

プレスケール®を使って測定した若年者(平均年齢はすべて20歳代)の咬合力

③ 性別

若年者を対象とした場合,咬合力の大きさに男女間で有意差を認める報告は多い15-20)。一方,幼児における咬合力では性別による有意差を認められなかったという報告も存在する24)。中高生を対象とした咬合力の調査においては,男性では咬合面積の増加と時期を同じくして15歳頃より咬合力の急激な増加が認められることから,咬合に関与する筋肉を含めた咀嚼システムがこの時期に急激に成長することが示唆されている。一方,女性では14歳以降は咬合力の大きさに急激な変化が認められず,咬合面積の増加に対して咬合力が減少するという状態からすでに咀嚼システムの成長がピークに近い状態にあると考えられている25)

④ 歯周組織の状態

松本6)は歯周炎患者22名の連結されていない小臼歯および大臼歯における咬合力および咬合接触面積を調べた結果,2度および3度の動揺度を示す歯は,1度の動揺度および動揺のない歯と比べ咬合力および咬合接触面積は有意に小さいと報告している。また,歯周基本治療後の咬合力は治療前と比べ,有意に増加し,歯の動揺度も低下している26,27)。歯周炎により支持する歯周組織を失った動揺歯は歯槽窩内で生理的な状態よりも過剰に移動するため,歯根膜内に存在する圧センターが働き咀嚼筋の収縮を抑制するのかもしれない。

⑤ 顎関節障害

顎関節症患者の咬合力は顎関節に問題が無い患者に比べ有意に低いと報告されている28)。また,若年者における顎関節症症状と咬合力との関連を調べた研究においては,男性の44%,女性の55%が顎関節雑音,開口障害,顎関節疼痛,開口時の顎のひっかかりのどれかを訴え,症状の少ないものほど咬合力が大きいと報告されている29)

⑥ 残存歯の状態

Motegiら22)が示したように8020達成者と60歳代の咬合力の大きさには有意差が認められないことから,残存歯数が咬合力に影響を与えている可能性はある。欠損歯列が咬合力に与える影響について調べた研究ではアイヒナーの分類A群,B群とC群との間において咬合力の大きさに有意差を認めている30)

3. 咬合力と咬合接触時間

咬合力が大きいものほど咀嚼能力が高く31),歯周組織への負担は大きいと想定される。しかし,睡眠時ブラキシズム患者29名を対象として咬合力を測定すると,覚醒時は887.9±362.3Nで睡眠時は690.4±330.1Nであったと報告されている32)。また,ブラキシズムの臨床診断を受けた19名の女性被験者の咬合力は518.8±327.1Nであったとも報告されている33)。これら報告された咬合力の大きさは,いずれも健常者と同等でありブラキシズムによる歯周組織への影響は単に咬合力の大きさだけでは評価できないと考えられる。歯周治療において力のコントロールが重視されているが,咬合力の大きさに関する明確な基準がないため,その手法は科学的根拠によって裏付けされているとは言い難い。咬合力の大きさに関する測定データをこれまで以上に蓄積し,咬合力の基準値あるいは歯周組織への負担の大きさを示す指標を作る必要がある。

咬合力と咬合接触面積から咬合接触圧を計測した研究では,咬合力が大きくなるほど咬合接触面積も大きくなり,最大咬みしめ時の30%程度の値から咬合接触圧は変化していないと報告されている。つまり,最大咬合力ほど大きな咬合力でなくとも歯根膜には最大咬合力と同じくらいの圧力がかかっていると想定される。最近,Katoら34)は咬筋活動が歯周炎の重症度に関連して特定のパターンを示すかどうかを調べた結果を報告している。中等度・重度歯周炎患者群では軽度歯周炎患者群と比較して,起床時に最大咬みしめ時の20%を超える咬筋活動の持続時間および睡眠時の咬筋活動の持続時間が有意に長かった。つまり,歯周組織への負担の大きさに関しては咬合力の大きさだけでなく咬合接触時間も影響を与えると考えられる。

本論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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