2019 年 61 巻 2 号 p. 73-80
ヒトにおいて自然免疫(Innate immunity)は細菌感染に対する最初の防御反応であり,細菌に共通して存在するが宿主生体内には存在しない構造や分子,すなわちPathogen-associated molecular patterns(PAMPs)を特異的に認識するパターン分子認識受容体(PRRs)が細菌感染を検知することにより誘導される。PRRsは遺伝子にコードされているタンパク質で,好中球やマクロファージ,樹状細胞などの食細胞に強く発現し,自然免疫応答においてはこれらの細胞が中心的に働いている。しかし,それら以外の細胞や体液中にも発現しており,基本的には我々を構成するすべての細胞,体液中で自然免疫応答を惹起することができる。このことは歯周組織をはじめとする生体のどの部位に病原細菌が侵入しても素早くその侵入を検知,防御反応を惹起することで病原体のクリアランスに寄与する点で優れている。さらに細菌構成物によるマクロファージや樹状細胞のPRRs刺激による活性化は,T細胞への抗原提示を介した獲得免疫を活性化し,より強固な防御反応を誘導すること,そして組織損傷後の修復において重要な役割を果たしていることも知られている。
ペプチドグリカン(PGN)はグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の細胞壁を構成し,グラム陽性菌では細胞膜外に,歯周病原細菌などのグラム陰性菌では細胞外膜と内膜の間に存在している。PGNは様々なPRRsを刺激し,発熱作用,炎症誘発能,アジュバント作用,補体の活性化能,マクロファージを活性化しサイトカインやiNOSの発現作用,オートファジー誘導能,上皮細胞による抗菌ペプチドの誘導能などの生物学的活性を有することから1),歯周病原細菌感染による歯周病の病態形成との関連性が考えられている。本総説においては,歯周病原細菌のPGNとそれらの生物学的活性,受容体と細胞内シグナリング,歯周病との関連性について解説する。
図1にPGNの基本的な構造を示す。PGNは基本的にはβ1.4結合により結合したNアセチルグルコサミン(GlcNAc)とNアセチルムラミル酸(MurNAc)の繰り返し構造からなる多糖鎖とMurNAcに結合する数個のアミノ酸,ステムペプチドからなり,ステムペプチドがさまざまな架橋により結合した網目状構造をとっている。ステムペプチドにはD-GluやD-AlaなどのD体のアミノ酸を含んでいる。ステムペプチドの3番目のアミノ酸はジアミノ酸であり,基本的にはグラム陽性菌ではL-Lys,グラム陰性菌ではmeso-diaminopimelic acid(DAP)で,2番目のアミノ酸のD-Gluのγ位の炭素と結合している。架橋はこのジアミノ酸の側鎖のε位の炭素とステムペプチド4番目のD-Ala間で形成される。
PGNを実験動物の皮下に注射投与により,局所的な膿瘍形成をともなう急性炎症を誘発できることが報告されているが,PGNの歯周組織投与によってどのような変化が歯周組織に起こるのか,また構造の異なるグラム陽性菌と陰性菌由来のPGNでどのような差があるかは明らかではない。我々はグラム陽性菌としてStaphylococcus aureus PGN(L-Lys型)とグラム陰性菌としてEscherichia coli PGN(meso-DAP型)をマウス歯肉に投与し,歯周組織の炎症と歯槽骨吸収を評価した2)。結果,S. aureus PGNの投与は好中球を主体とする強い炎症性細胞浸潤と骨吸収窩を伴う破骨細胞を誘導したが,E. coli PGNの投与はS. aureus PGNよりも弱い好中球を主体とする炎症性細胞浸潤を示し,破骨細胞の誘導は認められなかった。このことからPGNの単独投与において,グラム陰性のPGNはグラム陽性のPGNよりも炎症反応誘発能や破骨細胞誘導能は低いことが明らかになった。しかしながら,これらのPGNをリポポリサッカライド(LPS)と同時に投与すると,それぞれの単独投与と比較して,両PGNともに同程度の非常に強い炎症性細胞浸潤を誘導し,相乗的に破骨細胞を誘導した(図2)。このことは,L-Lys型,meso-DAP型に関わらずPGNとLPSはその活性を増強しあうことを示唆している。
ペプチドグリカン(PGN)の構造
マウス歯肉へのPGNとLPSの単独もしくは共刺激による骨吸収
LPS(5 μg/3 μl)とPGN(5 μg/3 μl)をマウス歯肉へ一日おきに13回投与した。組織切片を作製し,H&E染色と酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色を行った。多核のTRAP陽性細胞を破骨細胞とした。A:E. coli LPS投与(左,H&E染色,右,TRAP染色),B:E. coli PGN投与,C:S. aureus PGN投与,D:LPS+E. coli PGN投与,E:LPS+S. aureus PGN投与,バーは50 μm,矢印は破骨細胞,ABは歯槽骨,Tは歯,F:活性吸収面(ARS)の割合,*P<0.05,**P<0.01,文献2から引用,一部改変
PGNの構造についてさらに詳しく調べてみると,必ずしもグラム陽性菌はL-Lys型でグラム陰性菌はmeso-DAP型ではなく,大きなバリエーションがあることがわかる。Schleifer & Kandlerは架橋の構造と架橋が結合するステムペプチドの位置,そしてステムペプチド3番目のジアミノ酸の種類によりPGNを分類し3),その後VasstrandらがA1δを追加した4)(表1)。ここで歯周病原細菌のPGNの構造をみてみると,ステムペプチド3番目のジアミノ酸は,Porphyromonas gingivalisではL. L-DAP,Treponema denticolaではmeso-Ornithine,Aggregatibacter actinomycetemcomitansでは,meso-DAP,Fusobacterium nucleatumではmeso-Lanthionineであることが報告されている5-7)。しかしながら,歯周病原細菌のPGNの生物学的活性について調べた研究は少なく,幾つかの細菌種において遅延型過敏症や脾臓細胞の増殖活性,炎症性メディエーターやサイトカイン誘導能,細胞傷害活性などの報告はあるものの7-11),構造による活性の相違については明らかではない。そのため我々はP. gingivalis,A. actinomycetemcomitans,F. nucleatum,そして対照としてグラム陽性菌のAerococcus viridans(L-Lys型)とグラム陰性菌のE. coliよりPGNを精製し,mutanolysin処理で可溶化したsoluble PGN(sPGN)の活性を比較した。IFNγでプライミングした歯肉上皮細胞を各菌体のsPGNで刺激し,IL-8の産生を調べた。その結果,meso-DAP型のA. actinomycetemcomitans,E. coliは強くIL-8の放出を刺激し,F. nucleatumがそれに続き,P. gingivalis,A. viridans sPGNの活性は最も弱かった(図3)12)。このことはPGNの構造の違いにより,活性が異なる可能性を示唆している。
PGNの分類
歯周病原細菌sPGN刺激時の歯肉上皮細胞のIL-8産生
IFNγでプライミングしたHSC-2細胞を,sPGNで24時間刺激後の培養上清中のIL-8をELISAにて測定した。P.g.:P. gingivalis,A.a.:A. actinomycetemcomitans,F.n.:F. nucleatum,E.c.:E. coli,A.v.:A. viridans,*P<0.05,**P<0.01 vs(-),文献12から引用,一部改変
PGNの認識にはCD14,Toll-like receptor(TLR)2やNucleotide-binding oligomerization domain(NOD)1,NOD2が関与することが知られている。しかしながらグラム陽性菌と陰性菌において,PGNは細胞壁中の免疫刺激する活性を有するリポテイコ酸,Braun's lipoproteinなどのリポタンパクと共有結合しており,PGNの精製法によりこれらの細胞壁構成成分など混入があり,TLR2のペプチドグリカン認識に関しては異論が存在する。本稿ではNOD1/NOD2に焦点をあてて総説する。
NOD1とNOD2はNOD受容体のメンバーに属するPRRsで,3つのドメイン,すなわちN末端にCaspase activation and recruitment domain(CARD),中央部にNucleotide-binding domain(NBD),そしてC末端のLeucine-rich repeat(LRR)を保有する細胞質タンパクで,細菌性病原体の細胞質認識に関与している。NOD1は上皮細胞など多くの種類の細胞や臓器に広く発現しているのに対して,NOD2は主に単球,マクロファージ,樹状細胞,好中球などの貪食系細胞に多く発現している。LRRはリガンドの結合に,CARDは下流のアダプター分子のセリン/スレオニンキナーゼのRIP2とのCARD-CARD相互作用による結合に,そしてNBDは自己の多量体化によるプラットフォーム形成に関与する。興味あることにPGN特異性がこれらの受容体の活性化に重要であり,NOD1はグラム陰性PGNのみに存在するγ-D-Glu-meso-DAP(iE-DAP)が,NOD2はグラム陽性とグラム陰性PGNに共通の構造であるMuramyl dipeptide(MDP)がそれぞれのLRRに特異的に結合することによって活性化される(図1)。Receptor interacting protein(RIP)2の活性化はTransforming growth factor β-activated kinese(TAK)1を介してNuclear factor-κB(NF-κB)とMitogen-activated protein kinases(MAPKs)を活性化し,様々なサイトカインやケモカインの発現を誘導する。
歯周組織においてNOD1/NOD2は歯肉上皮細胞,歯肉線維芽細胞,歯根膜線維芽細胞に発現が確認されており,合成NOD1/NOD2リガンド刺激により種々の細胞応答が誘導されることが報告されている13,14)。Sugawaraらは,ヒト歯肉上皮細胞はNOD1およびNOD2を発現しており,炎症部位の発現量は健常部位よりも多いことを免疫組織学的手法により報告している13)。またNOD2は健常な歯周組織においては弱く発現しているが,歯周病患者においては炎症性細胞や歯肉線維芽細胞でその発現が増加していることからも,歯周炎の発症・進行におけるNODの関与が推測されている15)。TLRやNOD1/2の刺激に加えて,TNFαやIFNγによる刺激は歯肉線維芽細胞や歯肉上皮細胞のNOD1およびNOD2の発現を増加させること,そしてNOD1/NOD2リガンド刺激による細胞応答を増強させることが知られている12,15)。歯周炎において,歯周組織や歯肉溝浸出液中のTNFαの発現が上昇していること,また歯周組織中に多数のTh1細胞が浸潤していることは,NODシグナリングの歯周組織破壊における役割を考えると興味深い。通常のグラム陰性菌のPGNと異なる構造を持つ歯周病原細菌がNOD1およびNOD2を活性化できるかどうかは不明であったため,我々は歯周病原細菌から精製したPGNで,NOD1またはNOD2を過剰発現したHuman Embryo Kidney(HEK)293T細胞を刺激し,NF-κBの活性化能をレポーターアッセイを用いて調べた12)。実験に使用したP. gingivalis(L.L-DAP型),A. actinomycetemcomitans(meso-DAP型), F. nucleatum(meso-Lanthionine型)のPGNはNOD1およびNOD2を活性化することができたが,P. gingivalisのPGNは他の細菌と比較してNOD1およびNOD2活性化能は低かった(図4)。この結果は,さまざまなジアミノ酸をもつ合成Mutamyl tri-peptide(MTP)を使用した実験において,MTPL.L.-DAPはMTPmeso-DAPやMTPmeso-Lanthionineと比較して非常に弱いNOD1活性化能を示すこと,さらにMTPL-LysはMDPと同程度のNOD2活性化能を有するが,MTPmeso-DAP,MTPmeso-Lanthionine, MTPL.L-DAPはその構造中にMDPを保有しているにもかかわらずNOD2を活性化することができないことを示した報告と一致している16)。E. coli PGNのステムペプチドについて解析した研究は,トリペプチドもしくはテトラペプチドがほとんどを占め,ジペプチドはたったの2.1%であることを示しており,このことはグラム陰性菌のPGNはMDP構造を有しているがNOD2活性化能はグラム陽性菌より弱い可能性を示唆している17)。さらにジペプチドの割合は菌種,菌株によって異なることが報告されており18),このことがグラム陰性菌のNOD2活性化能の相違と関連していると思われた。
またグラム陰性細菌により分泌されるOuter membrane vesicles(OMVs)が,上皮細胞に取り込まれることによりNOD1依存性のNF-κBの活性化を誘導することが報告されている。OMVは細菌のペリプラズムと外膜のタンパク,脂質,ペプチドグリカンより構成され,細胞内への取り込みには細胞膜に存在するLipid raftsが関与している19)。歯周病原細菌のOMDのNOD活性化を調べた研究が最近なされている。P. gingivalis OMVと比較してT. forsythia OMVはとても低く,T. denticola OMVはNOD1およびNOD2を活性化することはできないこと20),とA. actinomycetemcomitansのOMVはNOD1およびNOD2を活性化することが報告されている21)。
歯周病原細菌PGNのNOD1およびNOD活性化能
HEK293T細胞にpUNO/vector(A),pUNO/hNOD1(B),pUNO/hNOD2(C)とκB-firefly luciferaseとrenilla luciferaseレポータープラスミドを一過性にトランスフェクションし,sPGNで12時間刺激し,それぞれのluciferase活性を測定した。P.g.:P. gingivalis,A.a.:A. actinomycetemcomitans,F.n.:F. nucleatum,E.c.:E. coli,A.v.:A.viridans,*P<0.05,**P<0.01 vs(-),文献12から引用,一部改変
歯周病原細菌刺激もしくは感染によって誘導される炎症反応におけるNOD1/NOD2の役割が評価されている。P. gingivalis感染による歯肉線維芽細胞と歯根膜細胞におけるIL-6, IL-8, ICAM-1とVCAM1の発現と血管内皮細胞のE-selectinの発現はNOD1もしくはNOD2のRNAiにより抑制される14,22,23)。
われわれは歯槽骨吸収と破骨細胞形成におけるNOD1とNOD2の役割についても調べるため,マウス骨髄マクロファージをMacrophage colony stimulating factor(M-CSF)とReceptor activator of NF-κB ligand(RANKL)の存在下にて,L-Ala-γ-D-Glu-meso-DAP(Tri-DAP),MDPで刺激し,NOD1とNOD2刺激による破骨細胞形成について評価した。またLPSと共刺激した実験も加え,破骨細胞形成におけるTLR4シグナリングとNODシグナリングのクロストークについても調べた2)。その結果,Tri-DAPとMDPともに破骨細胞の形成を弱く刺激するが,LPSと共刺激すると相乗的に破骨細胞形成を刺激することが明らかになった。そしてその活性はMDPがTri-DAPより100~1000倍強かった(図5)。この結果はLPS誘導性の破骨細胞形成との協調作用に関してはNOD1よりNOD2がより強く関連している可能性を示していると思われる。そのメカニズムに関して不明であるが,歯根膜線維芽細胞のNOD1,NOD2リガンドのLPSとの共刺激は破骨細胞形成のシグナル伝達において重要なTRAF6の発現を増強することが報告されている24)。さらなる研究が破骨細胞形成におけるNODシグナリングとTLR4シグナリングのクロストークのメカニズムを解明するのに必要であろう。またin vivoにおいてNOD2の歯槽骨吸収における役割が評価されている。Ishidaらは,マウス頭蓋冠にMDPとLPSを共投与すると単独投与よりも多い破骨細胞の出現がおこること25),そしてPratesらはNOD2欠損マウスの歯周組織へのP. gingivalisの感染は,野生型マウスよりも低い歯槽骨吸収を示したことを報告している26)。
Tri-DAPもしくはMDPとLPSの共刺激の破骨細胞形成に及ぼす影響
マウス骨髄細胞をM-CSF(30 μg/ml)で48時間培養し,骨髄マクロファージに分化させた。さらにM-CSF(30 μg/ml)とRANKL(1 ng/ml)で48時間刺激し,破骨細胞前駆細胞に分化させ,それぞれのリガンドで刺激した。24時間,TRAP染色を行い,多核のTRAP陽性細胞数を測定した。A;Tri-DAP(A-iE-DAP)+LPS,B:MDP+LPS,文献2から引用,一部改変
NOD1遺伝子の変異は炎症性大腸疾患(IBD),喘息,血清IgE量と関連すること,またNOD2遺伝子の変異はクローン病などの炎症性疾患と関連することが報告されている。前述したようにNOD1およびNOD2は細菌感染防御と強くリンクしていることから歯周病とNOD1/NOD2遺伝子変異との関連性についていくつかのグループによって調べられている。NOD1遺伝子多型について,Loosらはドイツ人とオランダ人の集団において侵襲性歯周炎との関連性について,Leiteらはチリにおいて早期歯周炎との関連性について調べたが,両者ともに有意な関連性を示すことはできなかった27,28)。NOD2の遺伝子多型については,ドイツ,チリ,オランダにおける研究では,慢性歯周炎,侵襲性歯周炎との関連性を示すことができなかったが29,30),日本におけるエクソソームシークエンス研究では,侵襲性歯周炎の患者の5%においてNOD2のSingle Nucleotide Polymorphism(SNP)が検出されている31)。NOD2変異と歯周病の関連性に関する矛盾する結果は,侵襲性歯周炎に様々な要因が関与していることを示していることによると思われるが,日本においてはNOD2の遺伝子変異が侵襲性歯周炎の原因の一部になっている可能性を示唆している。今後,NOD2の変異が歯周病発症もしくは進展に及ぼす生物学的メカニズムの解明と大規模な集団での解析が必要となるであろう。
ショウジョウバエにおいては自然免疫受容体のPeptidoglycan recognition proteins(PGRPs)がグラム陽性細菌と陰性菌の識別に関与し,それぞれ病原体に有効に作用する抗菌ペプチドの産生をコントロールしている32)。そしてヒトにおいてはNOD受容体がその役割を担っている。このことは病原細菌と戦う上でPGN認識の重要性を示唆している。今回総説したように,NOD1/NOD2は歯周病と密接に関連していることが明らかになりつつある。今後さらなる研究の発展を期待したい。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。