本レビューでは,歯科医師と歯科衛生士にとって必要な歯周炎の診断と予後判定に関する基礎知識を整理する。まず歯周炎の診断に関しては,医療保険制度における分類と,日本歯周病学会のガイドラインによる分類とを紹介する。次に歯周炎の全身への影響の観点から,局所の炎症の拡がりを示す指標であるPESAとPISAを概説する。さらに歯周炎罹患歯の予後について,組織の破壊程度による判定法と組織の安定性による判定法の違いを説明する。最後に,アメリカ歯周病学会とヨーロッパ歯周病学連盟が共同で作成したステージとグレードによる歯周炎の新分類法を紹介し,新分類法に予後の考え方が生かされていることをみる。なお本レビューは,執筆時(2019年秋)においての内容であり,日本の歯周炎の診断名は今後,新分類に完全に置き換わるかどうかは未定である。しばらくの間は従来の診断名と新分類とを併記することが推奨されることをご承知いただきたい。
わが国における歯周病の診断基準は,医療保険制度のもとで使われるものと,日本歯周病学会のガイドラインに示されるものとに分けられる。医療保険制度においては,「歯周病の診断と治療に関する指針(平成19年11月日本歯科医学会)」1)を参照し,歯科医学的に妥当な歯周治療を行うことが求められている。
この指針の中で歯周炎罹患歯は,歯槽骨の吸収程度,歯周ポケットの深さ,根分岐部病変,歯の動揺度などを総合的に考慮して,歯周組織の破壊の程度により軽度(P1),中等度(P2),重度(P3)の3段階に分類するとしている(表1)。
ただし医療保険制度においては,一口腔単位での歯周炎診断の分類は存在せず,一歯単位での診断のみが用いられていることに注意すべきである。さらにカルテ上では一歯単位のP1~P3を記載するが,レセプト上ではただ1種類,「P」病名として診断名を記載する。

日本における慢性歯周炎の分類
歯科医師国家試験,歯科衛生士国家試験,日本歯周病学会の各種認定試験では,日本歯周病学会による歯周病分類システム(2006)に示される診断基準が使われている2)。これは1999年のアメリカ歯周病学会の分類3)を参考にしたもので,一歯単位での評価を踏まえて一口腔単位での診断を行う。
この分類システムで歯周炎は,侵襲性歯周炎と慢性歯周炎とに大別される。侵襲性歯周炎は病変の進行が速く,患者の年齢と発症してからの時間が大きく影響するため,限局型と広範型の区別が重要である。一方,慢性歯周炎は病変の進行が緩徐で,時間をかけて多くの歯が同時進行的にアタッチメントロスを生じる。このため慢性歯周炎のほとんどが広範型で,よほど初期の病変でなければ限局型(全歯の30%未満)とはならない。
慢性歯周炎の状態を表すためには,まず全ての歯を軽度,中等度,重度で診断する(図1)。一歯単位の診断基準は,医療保険制度とは歯周ポケット深さなどの基準が異なっているので注意が必要である。続いて一口腔単位での診断を行う。一口腔単位での診断方法には,最も進行している歯を代表とする記載方法と,全体的・局所的に分ける記載方法の2種類がある。
最も進行している1本の歯で一口腔を診断する方法は,「歯周治療の指針2015」で推奨している。この方法を用いると,1本でも重度の歯がある場合には,残り全ての歯が軽度であっても一口腔単位では「重度慢性歯周炎」となってしまう。したがってこの方法は,実態にそぐわない場合があるため注意が必要である。
全体的と局所的に分けて記載する方法は,例えば「全体的に中等度,局所的に重度の慢性歯周炎」,「全体的に軽度,局所的に中等度の慢性歯周炎」のように表現する。また全体が均一に軽度であれば,「軽度の慢性歯周炎」のようにする。このように記載することで,患者の歯周炎進行状態はより明確になる。

プラーク性歯肉炎,歯周炎の1歯単位の診断(歯周治療の指針2015)
PD:歯周ポケット深さ,BL:歯槽骨吸収度,ALoss:アタッチメントロス
慢性炎症としての歯周炎は,局所から放出された炎症性サイトカインなどによって,全身の臓器に様々な影響を与えると考えられている。たとえば,IL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが歯周ポケット内壁の炎症部位から血流を介して全身に運ばれる4)。これらのサイトカインは,全身の臓器で微小な炎症を引き起こし,心臓血管障害5,6),脳血管障害7),腎障害8),糖尿病9)など様々な疾患と関連する。さらに,歯周治療によって局所の炎症が消退することにより,患者の血管内皮細胞の機能が改善すること10),糖尿病の血糖値低下がみられること11)が報告されている。
歯周病を感染症として細菌学的に評価する方法には,歯周病原菌の検査や歯周病原菌に対する血中抗体価検査がある。また炎症の程度を評価する方法としては,白血球数検査,CRP検査(高感度CRP検査を含む),血中サイトカイン量の検査などがある。しかしこれらの検査法は,日常の歯科臨床においては限られた範囲でしか行われていない。
臨床的には,炎症の拡がりの判定という観点からは,歯周ポケット深さとBOP(プロービング時の歯肉出血)の有無の確認が重要な検査である。さらに歯周ポケットの表面積の総和は,感染巣の大きさを客観的に表す指標としての価値がある。歯周ポケットの内面の面積の総和は時には手掌大(35 cm2)にもなるとされる。PESA(Periodontal epithelial surface area)は,歯周ポケットの内面の表面積の総和である。一方PISA(Periodontal Inflamed surface area)は,そのうちプロービング時に出血を伴う部位の表面積の総和である12)。オリジナルの報告によると,この方法はエクセル表のフォーマットにアタッチメントレベル,歯肉退縮量,BOPを入力することによって,歯根の大きさに応じた補正計算式で自動的に算定される工夫がなされている。
歯周病学会の提供する歯周組織検査表では,オリジナルの方法を改変して,アタッチメントレベルと歯肉退縮量を入力することなく,歯周ポケット深さのみで簡易的にPISAとPESAを計算する仕組みとしている。このPESA/PISAの単位はmm2であり,この値の平方根をとると正方形の1辺の長さとなるので,患者への説明の際には直感的な説明がしやすい。
患者の生存見通しや,病気の改善などの見通しは,予測や予報という意味で,予後prognosisという医学専門用語が用いられている。歯周炎罹患歯に関しても1本ずつの歯の見通しを立てるという目的で,様々な予後の判定基準が提唱されてきた。
McGuireは1991年,歯周病罹患歯の予後を5段階に分け,組織破壊の程度による判定基準を作った13)。さらに,5年後に自らこの基準をより明確化し,歯周病罹患歯の予後の分類基準(McGuire and Nunn, 1996)として発表した14)(表2)。この基準では,予後を良い方からGood,Fair,Poor,Questionable,Hopelessの5つに分ける。Goodは良い,Fairはまあまあギリギリ大丈夫,Poorはちょっと厳しい,Questionableは残せるかどうかとても疑問,Hopelessは残せる望みは全くないという意味になろう。McGuireらは,5年から8年における予測の的中率は80%であったが,Goodを除く的中率は50%以下であったと報告している。

歯周炎罹患歯の予後の分類基準(McGuire and Nunn 1996から要点を和訳)
KwokとCaton(2007)は,それまでの予後判定法は前述のMcGuireらのものを含めて,歯を残せるかどうかを基準としているとし,基準設定に疑問を投げかけた。さらに抜歯が最終的には歯科医師の判断に委ねられている点を欠点として挙げた。残存歯の歯周病の状態は多様であるので,むしろ歯周組織の安定性をもって臨床的な予後の基準とすべきであると唱えた15)(図2,表3)。その際重要なのは,予測範囲を短期と長期との両方で考えること,治療とメインテナンスの進行に応じて逐次再評価すること,1本1本の歯だけではなく全体との対比で考えること,全身的要因と局所的要因の双方を考慮することであるとした。
さらに予後判定においては患者のコンプライアンスがあるかどうかがまず大事であるとしている。歯周病におけるコンプライアンスとは,患者自らによる清掃状態が良いこと,メインテナンスに応じること,自ら全身の健康管理に気を配ることなどである。予後に影響する全身的な因子としてはまず喫煙があげられるが,喫煙者は歯周病の進行と骨吸収が非喫煙者よりも多い。また,糖尿病患者は歯周病罹患率がより高くアタッチメントロスが大きい。
予後に影響を与える局所的因子として,まず深い歯周ポケットとアタッチメントロスがある。深い歯周ポケットの存在は,更なるアタッチメントロスを生じるリスク因子である。また解剖学的なプラークの付着因子としては,根分岐部病変,エナメル真珠,エナメルプロジェクション,歯間離開,クラウディング,根面の近接,修復物のオーバーハングなどが挙げられる。咬合性外傷と非機能的習癖,根の破折,歯の動揺を予後に影響する局所因子である15)。

歯周炎罹患歯の予後の分類基準(Kwok and Caton 2007の原図を和訳)

歯周炎罹患歯の予後の分類基準(Kwok and Caton 2007から要点を和訳)
2017年11月にアメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病学連盟(EFP)は共催ワークショップを開催し,「歯周囲とインプラント周囲の疾患と状態」に関する新しい診断基準を作成した16,17)。この診断基準の作成過程においては,歯周炎の予後に関する考え方が大きく影響を及ぼしていると考えられる。
新分類では,これまで使われていた侵襲性歯周炎と慢性歯周炎の区別を廃止し,1つの歯周炎としてまとめられた。また病変の重症度と広がりを分類することを意図して,ステージI(最も軽症)からステージIV(最も重症)の4つのステージが設定された(表4)。さらに,進行リスクとしてグレードA(最も低い)からグレードC(最も高い)の3つのグレードが設定された(表5)。グレードは歯周炎の進行の速さ,通常の治療に対する反応性,全身の健康状態への影響の可能性を含んでいる。
ステージの考え方は,すでに癌の診断において広く世のなかに浸透している。癌のステージはIからIVに分けられ,さらに必要に応じてIA,IB,IIA,IIB,IICのように細分化される。また癌の部位と種類によって,例えば舌癌と食道癌ではステージのつけ方は微妙に異なっている。いずれにしても,ステージIが最も軽く,ステージIVは最も重症である。歯周炎の診断にステージの考え方を取り込むことで,今後は患者や他の医療従事者に対して,歯周病の重症度をよりインパクトをもって的確に伝えることができるようになると考えられる。
グレードを決めるにあたっては,まずはグレードBを想定し,個々のエビデンスに基づいてグレードAやCに変更するとよいとされる。グレードを確定する際には,骨吸収と臨床的アタッチメントレベルが直接的なエビデンスとなる。さらに,間接的なエビデンスとして,年齢でパーセント骨吸収を割った値を算出する。この値は,例えば40歳で10%の骨吸収なら0.25(10÷40=0.25),40%の骨吸収なら1(40÷40=1)となる。すなわち,40歳で10%~40%の骨吸収なら0.25~1.0の間に収まるのでグレードB,それより小さいとグレードA,大きいとグレードCとなる。さらに,バイオフィルムの付着の程度,スケーリング,ルートプレーニング,プラークコントロールに対する反応性,リスク因子としては喫煙,糖尿病などの評価を行う。
グレードを決定するプロセスにおいて,医学的,全身的な炎症への配慮を説明できる。また,歯周治療への反応の良い患者と悪い患者をグレード分類することで,反応性の悪い患者に対しては,治療に困難を伴う理由についての説得力のある説明ができ,手厚い治療が行いやすくなる。とくに欧米においては,患者からの訴訟リスクの軽減や,診療報酬の差別化などの目的にも利用されると思われる。
日本においては,日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会が共同でこの翻訳作業にあたっている。この新しい診断基準は,日本でも今後徐々に普及していくと考えられるが,現在の診断基準を完全に置き換えるかどうかについては未定である。しばらくの間は,従来の診断名と新しい分類とを併記することが推奨されることをご承知いただきたい。

歯周炎のステージ(AAP/EFP 2018コンセンサスレポートから和訳)

歯周炎のグレード(AAP/EFP 2018コンセンサスレポートから和訳)
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。