日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
新しい日本での歯周病治療と歯周病専門医の展開
高柴 正悟
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2020 年 62 巻 3 号 p. 129-135

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遡ること約3年,2017年12月に日本歯周病学会は60周年記念京都大会を開催した1)。「歯周病撲滅に向けて!」と,今後の中長期の目標を掲げて開催され,多くの実績を基にして5つの方針を京都宣言として発した。この時にはすでに少子化と高齢化は明白となっており,また,国の財政はひっ迫していた。一方で,いわゆる平成生まれの世代は,経済成長による前途洋々とした時代を経験することなく,半ば抑圧感を感じながら成長・加齢を重ね,やがては親の介護に留まらず自らを相互に介護する老々介護の時代に入るのではないかと不安感を感じ始めている(いや,敢えてその話題に触れないようにして,現在を生き抜くことに注力しているのかもしれない)。

一方で,人口の21%以上が65歳以上である超高齢社会への対応を考えて,日本学術会議から医科系の学会等が2014年~2017年にかけて「超高齢社会における○○」の題に類似した複数の提言書2,3)を発している。まさに日本は,特に医学界は,これからの医学・医療のあり方を再検討しようとしている。そのため,20世紀に発表された4期に分ける人生のあり方(表14)から発展して,人生100年の時代5)の考えを踏まえた第3段階の過ごし方として,さらに働く「一億総活躍社会の実現」などとして,内閣府から情報発信される事態となっている。一体,私たちを取り巻く医療界(特に歯科医療界)はどこに向かうのであろうか? 政府から歯科の展開も含めた広範囲の医療計画関連通知6)が発されているが,以下に種々の考えを展開してみる。

日本歯周病学会は,ペリオドンタル・メディシンのエビデンスが蓄積されて,全身の健康のために歯周病治療・予防を行う考えが普及した時に,満を持して2016年3月に「歯周病と全身の健康」を刊行した7)。さらに,これを基にして他の疾患との関連にも対象を拡大している。このような考えを理解して臨床活動に反映するように,日本歯周病学会の認定事業(認定医,歯周病専門医,指導医,認定歯科衛生士)は運営されている。そして,歯科医学教育や臨床のあり方が,歯の形態回復から口腔の機能維持に向かい,生活者である患者を支える医療へと変革した8)。しかし,「患者を支える医療」を現在のとおり実施するのであれば,今後は労力に費用が見合わなくなってしまう,という懸念が残る。

このような状況に対して,私たちはどのように対応していけばよいのであろうか? 長谷川敏彦氏は,「2060年には日本は1970年とは全く違う国になる」という人口遷移論(図19)を展開して,医療改革を提言している。さらにこの状況は,国土交通省が示した「国土のグランドデザイン2050」によって,国土全体での人口の低密度化と地域的偏在が同時に進行している現実(図210)に示されている。そして,「コンパクト+ネットワーク」をキーワードに,地域レベルから世界レベルまでの対応策を提言している(図311)。この中で,医療界は,「地域包括ケアシステム」という『植木鉢』(図412)として示される中の植物において,3枚の葉の1枚に活躍の場がある。しかし,この植物と植木鉢を取り巻く種々の因子を理解する必要がある。決して,医療(1枚の葉)のみでは生活者としての患者(植物)の生活は成立しない。

60周年記念京都大会で当時の栗原英見理事長が示された「医科・歯科の医療提供体制の違い」(図5)によると,医師は大学を含めた病院が主な勤務先で,歯科医師はほとんどが歯科診療所に勤務している。この傾向は,厚生労働省による「2018年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(図613)に顕著に表れており,さらに病院でも診療所でも,歯科医師は医師よりも平均年齢が約7歳若い。これは,高齢者の割合が増加している患者への対応方法に若干の違いをもたらしているかもしれない。チーム医療においては,種々の経験,それも多職種間での連携の経験が大切となるからである。一方で,医師と歯科医師の分布の地域差が顕著である(図5中の表)。また,来たるべき歯科医師の高齢化にも配慮が必要となる。

こうした社会の変化の中で,日本歯周病学会の歯周病専門医は厚生労働省の「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名」として周知されている14)。今後は,(一社)日本歯科専門医機構15)の承認も得ることには違いない。また,高度で広範囲な歯周病専門医による治療を日本国内の各地に均霑化することも必要である。しかし現状では,歯周病専門医が勤務する医療施設が福井県にはない(表2)。さらに,前述の「国土のグランドデザイン2050」を意識して,2018年度の統計データにある各都道府県あるいは各地区の人口と可住地面積16)を基に計算すると,歯周病専門医が勤務する医療施設の1施設が1 km2当たりで担当する住民数には,都道府県単位で約3.7人~約847.5人と約230倍もの差があり,地区単位で約3.7人~約27.1人と約7.3倍の差がある。都道府県単位の差は地区単位では改善されるが,地区内での差は大きいと予想される(表2)。

そこで,「国土のグランドデザイン2050」の中にある「小さな拠点」と「高次地方都市連合」(図3)を考え,物理的な交流だけではなく,情報通信技術(ICT)を用いた交流によって,歯周病の高度な治療・予防を展開することを提案したい。口腔機能のリハビリテーションが必要となるまでの進行を予防し,う蝕症と歯周病をターゲットとした口腔感染症への対策の一つとして,患者自らが生涯にわたって歯科の治療と予防の記録をパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)として自己管理することで行動変容を促すシステムを提言する(図7)。これについては,既に日本医療情報学会や日本歯科保存学会での口頭発表等で表明してきた。次の段階として,ペリオドンタル・メディシンを介して医療全般と関係する日本歯周病学会においても上記システムについて取り組んでいただきたい。

表1

ピーター・ラスレットの人生4段階説

図1

2060年には日本は1970年とは全く違う国になる

図2

国土全体での人口の低密度化と地域的偏在が同時に進行(2010年 ➡ 2050年)

図3

国土のグランドデザイン: 小さな拠点に根ざした対流促進型国土で世界と互する

図4

地域包括ケアシステムを構成する要素:「植木鉢」に例えられた構成図

図5

医科・歯科の医療提供体制の違い(医療機関勤務者; 円の面積は人数に比例)

図6

施設の種別・年齢別にみた医師数・歯科医師数

表2

都道府県別の歯周病専門医施設数と人口・面積

図7

生涯にわたる歯科治療・予防処置の記録を自己管理する

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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