歯周治療の順序は次のとおりである。
1.歯周基本治療(原因除去治療)
2.修正治療(歯周外科や修復治療)
3.メインテナンス治療(supportive periodontal therapy;SPT)
上記のどれが欠けても治療は成功しないが,この流れに沿って治療すれば必ず良い結果につながる。本稿では重度慢性歯周炎の治療後26年経過の症例を通して検査診断後の治療計画立案の方法について述べ,そのなかでどのような点を考慮して治療方針を決定したか,また修正治療とSPT中の偶発症についての対応についても述べてみたい。
患者:51歳,男性
初診:1993年10月23日
主訴:46歯の冷温水痛と咬合痛,全顎的な歯茎からの出血
歯科的既往歴:約10年前より歯茎が時々腫れ,出血するようになったがそのまま放置していた。最近46歯が疼きだした。さらに冷温水痛に悩まされていたところ,知り合いの歯科衛生士の勧めで当院に来院した。
全身的既往歴:全身的な既往に特記すべき事項はないが,30年間にわたり40本/1日の喫煙歴があり,ブリンクマン指数は1200およびパックイヤーは60であった。
家族歴:両親とも全身的な特記事項はなかった。父親は,ヘビースモーカーであり若い頃に歯を喪失したとのことである。また,母親は部分床義歯を装着しており非喫煙者であった。なお,両親の歯の喪失理由は不明である。
1. 初診時現症 1) 口腔内所見全体的に歯肉の発赤腫脹と歯根露出が観察された。また歯肉歯槽粘膜境が不明瞭であった。多数歯にわたる移動傾斜が観察され,歯垢や歯石が多量に沈着していた。さらに喫煙者のため,歯にステインの沈着が認められた(図1;初診時の口腔内写真1~5)。

深いプロービングデプス(PD)とプロービング時の出血(BOP)を多数認めた。動揺度は“Millerの判定基準”で17,12,26,36がI度,11,21,22,45,41,32がII度,そして46,43,33がIII度であった。根分岐部病変は,“Lindheの分類”で17,16,26は遠心からII度,36は頬舌側からII度,46が頬舌側からIII度であった。O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)は51%であった。

初診時歯周組織検査結果
全顎的に歯の歯根長1/2以上の水平性骨吸収を示した。さらに楔状骨欠損(11,21,43,33)と根分岐部病変III度(46)を認めた。

初診時10枚法
エックス線写真検査をふくめた歯周組織検査結果から,広汎型重度慢性歯周炎(日本歯周病学会における歯周病の分類2006)と診断した。さらに,歯周病は部位特異的な進行を示す疾患であり1),それぞれの歯の周囲を個別に診断して,それぞれの歯における進行状態に沿った1歯毎の治療計画を立てるために,1歯毎の診断名とその基準2)(図4)に従って一歯毎診断を行った(図5)。
1歯毎診断は,その歯の歯周治療法,つまり非外科的に対応できるのか,または外科的に対応すべきなのか,さらには支台歯や鉤歯として使用することができるのかの基準にもなっている。通常complicate型と補足診断された歯は,歯周外科手術が適応となる。図4に基づいた1歯毎の診断から,本症例は以下の①~③に分類した。

1歯毎の診断名とその基準

診断
17,38,33,43,46
②保存予定の歯16,15,14,13,12,23,24,25,26
45,44,34,35,36,37
③経過観察の歯11,21,22
41,32
3. 治療計画1歯毎診断による①~③の分類から,治療計画を立案した。
1)歯周基本治療:口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,保存不可能な歯の抜歯
2)再評価
3)歯周外科治療
4)プロビジョナルレストレーション
5)口腔機能回復治療
11,21,22抜歯の場合:⑬,⑫,11,21,22,㉓,㉔の固定性ブリッジ
11,21,22保存の場合:⑬~㉓の連結固定装置
41,32抜歯の場合:㊺,㊹,㉞,㉟,㊱支台のコーヌステレスコープデンチャー
41,32保存の場合:46,㊺,㊹,43,42,㊶,31,㉜,33,㉞,㉟の固定性ブリッジ
6)メインテナンス治療(SPT)
4. 治療経過初診時のPCRは,51%と高く口腔清掃指導後,スケーリング・ルートプレーリングを行った。その後,歯周基本治療終了時のPCRは9%と改善した。歯周基本治療後の再評価検査においてPD 5 mm以上と深く,BOP(+)の部位は再治療の対象とした。歯周外科治療は,1歯毎の診断名とその基準2)から,gravis-complicata型歯周炎あるいはgravis型歯周炎と診断されたため,全顎にわたりウィドマン改良フラップ手術を行った。なお,フラップ手術を行う場合,病変部に対してスムーズなアプローチを図るため約1歯分程度近遠心的に歯肉弁の剥離の範囲を拡大した。同時に,歯周基本治療後の再評価検査結果から,最終修復治療の方針を含む口腔機能回復治療計画を患者と相談の上立案した。今回の症例は,上顎は11,21,22の保存による⑬~㉓の連結固定装置に,下顎は41,32の保存による,46,㊺,㊹,43,42,㊶,31,㉜,33,㉞,㉟の固定性のクロスアーチブリッジを作製した。
1994年12月28日に口腔機能回復治療を終了しSPTに移行した(図6:SPT移行時口腔内写真,図7:SPT移行時歯周組織検査結果,図8:SPT移行時エックス線写真10枚法)。なお,PCRは7%であり,良好な口腔清掃状態が維持されていた。
初診から8年後の2001年,36近心根が破折したため抜去し,36㊱㊲の延長ブリッジにて対応した。さらに,初診から10年後の2003年,リコール時に45,44の咬合面ポーセレンが破折していた。そこで46欠損部の延長ポンティックを除去し,そこにインプラントを1本埋入した。また,2004年,26が破折したが,患者は咀嚼に不自由せず欠損補綴の必要性を感じていないため,経過観察を行っている。最後に直近のSPT時の口腔内状況を示す(図9:SPT時の口腔内写真,図10:SPT時の歯周組織検査結果,図11:SPT時のエックス線写真10枚法)。PCRは14%であり,良好な口腔清掃状態が維持されていた。


SPT移行時歯周組織結果

SPT移行時10枚法


SPT時歯周組織検査結果

SPT移行時10枚法
まず,筆者が日常行っている治療計画の立案について述べる。歯科治療の目的はまず主訴を解決することである。次に,咀嚼機能と審美性を満たすことであるから,患者には初診から常にこれらのことを満足してもらうことを,我々歯科医療従事者は念頭においている。そうすることで,私共と歯周病患者は,術中術後を通して長く良好に関わっていく間柄となる。
診療の流れは,応急処置後,歯周組織検査およびエックス線写真検査から1歯毎の診断を行い,初期治療計画を立案する。
次に,患者に病状の説明および情報提供を行う。ここでは歯科医師が患者に向き合い,患者個別の資料を基に説明する。歯周病であること,このまま放置すればどうなるか,歯周病の原因と治療法,治療期間とSPTの必要性について患者に正しい情報を与える。まずは,術者側で治療計画を立案するが,患者の希望にできるだけ沿う治療計画を選択する。すなわち,抜歯を含め,治療内容については患者自身が最終決定権を持っている。なお,全ての歯に対して,抜歯する歯,保存する歯,経過観察する歯に分類する。歯科医師の説明終了後,担当の歯科衛生士を患者に紹介し,歯周基本治療に移行する。
歯周基本治療後の再評価時では,経過観察歯に対し保存する場合と抜歯する場合に分けて口腔機能回復治療の計画を立案しておく。この二つの治療計画を立案しておき,歯周基本治療後の再評価によりどちらか一方を確定的(最終の)治療計画とする。
次に口腔清掃指導のポイントを列挙する。まず患者には,歯科医師自ら口腔清掃をなぜ行わなければならないのかを知らせる。口腔清掃を怠るとどうなるかを示し,口腔清掃の意義を教え,歯科医師指導の下で行う技術的指導を歯科衛生士が担っている。まず,ブラッシング指導ではPCRを20%以下の目標にする。その後,補助清掃用器材を用いた歯間部清掃法を指導する。歯間部形態にあわせて,デンタルフロス,トゥースピックもしくは歯間ブラシの使用を勧める。PCRが10%以下に安定したところで,1か月程度の観察期間を設け,口腔清掃が安定していた時点でスケーリング・ルートプレーニングに移行する。
当医院においては,歯科医師と歯科衛生士との連携を高める工夫として,担当の歯科衛生士が業務日誌を診療日毎に作成している。この記録では,当日行った治療とその結果および感想を記載することにしている。治療終了後には,次の治療内容を歯科衛生士と歯科医師,そして患者も交えて話し合い,情報の共有化を図っている。さらに,治療成果を評価し,治療の達成度が低い場合は,次回の治療日に再治療する。すなわち,患者,歯科医師,歯科衛生士の3者によるチームアプローチが歯周治療の要と考えている。
次は,上顎前歯部の設計について考察する。歯周組織のバイオタイプにもよるが,特に上顎前歯は抜歯によりそれに附属する歯周組織と共に,特に頬側の歯槽骨が大きく吸収するため,上下顎前歯の関係が,アングルI級の場合はIII級の傾向になりやすいと報告されている3,4)。従って,上顎前歯部の抜歯回避のために,11,21,22の保存による⑬~㉓の連結固定装置による補綴設計を立案した。
次は,下顎にクロスアーチブリッジを装着したが,スプリント装着前の暫間補綴装置のデザイン,装着期間について考えを述べる。暫間補綴装置の範囲であるが,まずは患者が咀嚼機能と審美性を満足できるような範囲までとした。そして,前歯部のオーバーバイト・オーバージェットは最小に設計し,臼歯部は咬頭を低く傾斜角を大きくすることにより側方圧の軽減を図った。また咬合様式は,暫間補綴装置が側方運動時に動揺しない場合,残存歯に従い,犬歯誘導かグループファンクションドオクルージョンとした。暫間補綴装置の装着期間は,動的歯周治療後6か月とした5)。なお,一般的にクロスアーチブリッジの支台歯は,破折防止の為出来るだけ生活歯のままで形成を行う6-8)。また修復物辺縁は,プラークコントロールの観点からも歯肉縁上に設定すべきである。そうすることで結果として抜髄をも避けることができる。
2003年に45,44の咬合面ポーセレンの破折については,側方運動時の作業側での咬頭同士の応力の集中により,ポーセレンベニア材の永久変形の破折が生じたものと思われる9)。またメタルフレームの変形から,ポーセレンベニア材がそれに同調できずに破折した可能性も考えられる10)。今後はメタルフレームとポーセレンベニア材を厚く強固にし,変形しない設計としたい。つまり,歯周治療後には歯周炎の再発よりむしろ,歯や修復物の破折,歯根破折やセメント質剥離等のトラブルが多く11),本症例においても,2004年のデンタルエックス線写真において,41の近心根セメント質の剥離の疑いや,36の垂直生破折による抜歯を経験した。本症例を通し,頻繁な咬合チェックの重要性を痛感した。
患者は,初診から15年後の2008年に心筋梗塞の発作による入院を経験した。予期せぬ事態となったが,そのことでかえって患者自身の口腔清掃に対する意識が高まる結果になった。すなわち,心筋梗塞と歯周病との関連性を説明したことにより,日常の口腔衛生が重要であることのモチベーションにつながったものと考えられた。さらに,入院を契機に卒煙することができたことも良好なSPTの一因であると考えられた。当院では,広汎型重度慢性歯周炎の患者の中に多くの喫煙者を散見する。以前は,喫煙者であっても禁煙支援を積極的に行うことなく,徹底したプラークコントロールのもと歯周治療を行っていた。今後は,問診票に喫煙歴の記載があれば,歯周治療を始める前から禁煙支援の体制を整えておく必要がある。本患者は1日喫煙本数が2箱40本で,喫煙年数が30年であったため,ブリンクマン指数は1200でありパックイヤーは60であった。喫煙は糖尿病と並び歯周病最大のリスクファクターであるため,禁煙による効果は計り知れない。今後,喫煙の歯周組織に対する影響11)について患者に正しい情報を与え,歯周治療における禁煙支援の手順書12)を参考にし,喫煙者に対する卒煙を目指したいと考えている。
本論では,広汎型重度慢性歯周炎症例において治療方針を立てる際の当院の考え方と治療法の選択と方法に対し症例をもとに述べた。私共は患者中心の歯科医療を目指しているが,その意味するところは,動的治療中からSPTに至るまで,できるかぎり苦痛を与えないやり方で多くの歯を保存し,咀嚼機能と審美性を満たすことである。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。