日本歯周病学会会誌
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症例報告
広汎型重度慢性歯周炎の患者に対し歯周組織再生療法を行った1症例~橋本病(慢性甲状腺炎)との関連を考察する~
首藤 明日香首藤 謙一麻生 由莉江田仲 美咲福岡 拓郎松井 正格牧草 一人
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2021 年 63 巻 4 号 p. 190-204

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抄録

本症例は,歯周治療に伴う異常所見を見逃さなかったことで,医科への受診や血液検査では看過されていた重篤な甲状腺機能低下症を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)の発見・治癒に至り患者の健康に寄与することができた1症例である。あまり周知されていない橋本病と歯周疾患との関連,特に出血傾向について考察し報告したい。広汎型重度慢性歯周炎患者に対し全顎的な基本治療の過程において,歯肉溝からの易出血を認めた。かかりつけ医・二次医療機関の血液内科・口腔外科専門医など3医療機関への対診を繰り返すも,出血性疾患の存在は否定され続けた。上顎前歯部歯周組織再生療法(エナメルマトリックスデリバティブ・EMD応用)の翌日,歯肉溝からの異常出血ならびに血餅形成を認めた。根気強く対診を繰り返した結果,ようやく4番目の医療機関において自己免疫疾患である橋本病(慢性甲状腺炎)と診断された。初診より1年以上が経過していた。重篤な甲状腺機能低下症を伴い,生命の危険がある状態であった。甲状腺ホルモン補充療法後,全身浮腫の改善により運動や食事制限をすることなく体重は90 kgから30 kg減少した。甲状腺機能低下症改善後の歯周組織再生療法(EMD応用)では術後出血は認めなられなかった。歯周組織所見は改善しSPT移行後6年が経過するが良好な歯周組織を維持している。本症例は,日常的に観血的治療を行う歯周治療の特殊性が,異常所見の早期発見に繋がり,ひいては患者の全身的健康に大きく寄与する可能性を示唆している。

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