日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
SRPと抗菌薬の併用
五味 一博
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2022 年 64 巻 3 号 p. 91-97

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1. はじめに

歯周基本治療の中で原因除去療法として最も重要な位置を占めるものにプラークコントロールとスケーリング・ルートプレーニング(scaling and root planning:SRP)がある。主にプラークコントロールは歯肉縁上を,SRPは歯肉縁下のプラークコントロールを担っている。歯周病に感染した歯根表面の構造は複雑であり1),セメント質内に細菌性毒素であるLipopolysaccharide(LPS)が浸透し,汚染セメント質が形成されていると考えられている。そして,この汚染セメント質には健全な歯肉が付着することは期待できないと考えられ2),SRPにより汚染セメント質を除去することが重要と考えられてきた。SRPは歯周基本治療のみならず,歯周外科治療やサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)においても併用される重要な手技である。SRPの目的は歯根面から歯石などのプラークリテンションファクターを取り除き,滑択なプラークコントロールが行いやすい歯根面環境を作り上げることであり3),さらに汚染セメント質を除去しLPSなどが存在しない生物学的に為害性のない歯根面を獲得することにより歯肉上皮や歯肉結合組織の付着を促進させる4)という考え方がこれまで大勢を占めてきた。

1980年代になるとLPSは表層に弱く付着しているだけであり5),ブラッシングにより60%ほどは除去可能であり6),水洗あるいは根面の研磨等で比較的容易に除去ができ,これにより歯周組織の創傷治癒を阻害することなく7)上皮性付着により治癒することが報告されるようになった8)。さらにSRPによるオーバーインスツルメンテーションに起因する知覚過敏などの為害性が指摘されるようになった6,9)。その結果,セメント質の積極的保存が重要視されるようになり,SRPの主な目的は「根面の滑択化,LPSの除去」から「歯肉縁下の細菌感染源(バイオフィルム)の除去」へと移行していった。これに伴いSRPにかわりルートデブライドメントという言葉が用いられるようになってきた10)。歯肉縁下の環境を改善させるという意味においてルートデブライドメントはSRPよりも適切であると考えられるが,本稿ではルートデブライドメントの意味を含んだ上でSRPという用語を使用していきたい。

2. SRPの限界

SRPの臨床的成功の基準には歯根面の歯石の沈着等による粗造感の消失,歯肉の腫脹の改善,BOPの消失などがある。このような臨床的成功を得るためにはキュレットなどの器具が歯周ポケット内に十分到達していることが必要である。しかし,Waerhaugはポケットが5 mm以上では89%が,3~5 mmでは61%においてプラークと歯石の残存が認められることを報告しており11),Stambaughは訓練された歯科衛生士においても4 mm以上のポケットが存在することで歯石等の取り残しが生じることを報告している12)。また,根分岐部のような複雑な根面形態の部位においてはさらに困難となることが示されている13)

このように,深い歯周ポケットや根分岐部など複雑な歯根面形態が存在する場合には歯石の取り残し,そして歯肉縁下プラークの除去が不確実となることが考えられる。このようにSRPには限界があるがSRPは歯周治療において根幹をなす手技であり,SRPなしでは歯周治療は成り立たないことに変わりはない。

3. 歯肉縁下プラークコントロールへの抗菌薬の併用

SRPの目的が歯肉縁下のプラークコントロールへと変化してきたが,上述したように深い歯周ポケットの存在や複雑な歯根形態部分においては器具の到達が難しく,その効果が十分におよばないことが考えられる。このような部位に対して抗菌薬を併用することで,歯肉縁下のプラークコントロールを補完することが考えられる。Keestraら14)はシステマティックレビューでSRPに抗菌薬を組み合わせることで臨床的改善が認められるが抗菌薬の種類によっても改善の程度に差があることを報告している。また,Moralesら15)はSRPと抗菌薬の併用は臨床的,細菌学的パラメーターの改善を示すことを報告している。このようにSRPに抗菌薬を併用することで歯肉縁下プラークコントロールがより効果的に行えることが考えられるが,SRPの方法と抗菌薬の種類,投与時期によっても結果に差が生じることが考えられる。

4. SRPの方法と抗菌薬の併用

SRPの方法には通常通りの一口腔を4分割あるいは6分割して行うSRPと一日で全顎のSRPを行うFull mouse(FM)-SRPがある。そして,それぞれに抗菌薬の併用が行われることから以下のような組み合わせとなる。

・SRP単独

・SRPと抗菌薬の併用(抗菌薬併用SRP)

・FM-SRP単独

・FM-SRPと抗菌薬の併用(抗菌薬併用FM-SRP)

これらの組み合わせについて比較し評価すると以下のようになる。

1) SRPとFM-SRP

Apatzidouらは,SRPとFM-SRPを比較した場合,両者の臨床的パラメーターの改善16)には差がなく,細菌学的改善17)もほとんど差がないことを報告している。また,2008年のシステマティックレビューにおいても両者に差は認められず,治療期間の短縮のみがFM-SRPで優れていることが示されている18)(表1)。

表1

SRPとFM-SRPの臨床パラメーター比較(文献16)より引用)

Q-SRPとFM-SRP間に統計学的有意差(:p>0.05)を認めなかった。Q-SRP=4分の1顎SRP,FM-SRP=全顎のSRP,BAS=ベースライン,R1=再評価1,R2=再評価2

2) SRPと抗菌薬併用SRP

通常のSRPと抗菌薬併用SRP(アモキシシリン:AMX+メトロニダゾール:MTZ)について歯周ポケット深さ(PD)減少量とアタッチメントゲインについて比較した場合,3-4 mmの浅い歯周ポケットにおいてはPDの改善量およびアタッチメントゲインに差は認められないが,5 mm以上の歯周ポケットではPD改善量およびアタッチメントゲイン量は抗菌薬併用群において有意に大きくなることが示された19)。また,抗菌薬併用SRPはSRP単独よりもポケット深さ,BOP,プラークインデックスにおいて有意に改善を示すことが報告されている20)(表2)。

表2

ポケット深さ別のベースラインと治療後の臨床パラメーターの変化(文献19)より引用)

IQP=四分位範囲,bPPD=ベースラインポケット深さ,AMX=アモキシシリン,MTZ=メトロニダゾール,AZ=アジスロマイシン,**群間有意差あり(p<0.05)

3) FM-SRPと抗菌薬併用FM-SRP

FM-SRPと抗菌薬併用FM-SRPの比較研究については,プラセボを用いたCioncaらの研究がある21)。この研究では実験群では抗菌薬にアモキシシリン/メトロニダゾールを用い,対照群ではプラセボを用いた。術後6ヶ月経過時に実験群では4 mm以上のPDとBOP部位数の改善が認められ(表3),さらにPorphyromonas gingivalisFusobacterium nucleatumTannerella forsythiaの細菌数の有意な減少を報告している。

表3

FM-SRPに経口抗菌薬併用FM-SRPの比較(文献21)を引用,改変)

4 mm以上のPDとBOP部位数の有意な減少を認めた。(:p<0.05)

4) SRPと抗菌薬服用FM-SRP

SRPと殺菌薬を用いたFM-SRPすなわちFull mouth disinfection22)とを比較した研究は多数報告されているが,経口抗菌薬を併用したFM-SRPとの比較研究は少数である。我々は抗菌薬(アジスロマイシン:AZM)をFM-SRP前に全身投与し,通常のSRPと比較した研究を行った。その結果,抗菌薬併用FM-SRPでは早期にPD,BOP,CALの有意な改善が認められたことを示した23)(表4)。また,論文発表はされていないがSRPとAZM併用FM-SRPの多施設比較研究ではAZMを併用することで歯周病原細菌の有意な減少が認められた。さらに,P.gingivalisが検出された症例においては特に臨床パラメーターの改善が大きかったことが報告されている24)(図2)。

表4

SRPとAZM併用FM-SRPの比較(文献23)より引用,改変)

AZM併用FM-SRPにおいて有意なPD,BOP,CALの改善を認めた。

図1

FM-SRPに経口抗菌薬併用FM-SRPの細菌学的変化(文献21)より引用)

経口抗菌薬併用FM-SRP において6ヶ月後においてP. gingivalis,F. nucleatum,T. forsythiaの有意な減少を認めた(p<0.05)。

図2

SRPとAZM併用FM-SRPの比較(文献24)より引用)

SRPに比較してAZM併用FM-SRPでは早期に歯周病原細菌の減少が認められる。

5) 抗菌薬併用SRPと抗菌薬併用FM-SRP

共に抗菌薬を併用したSRPとFM-SRPに関する研究は少ない。Moreiraら25)は侵襲性歯周炎患者に対して治療前と治療6ヶ月後で比較を行った。その結果,抗菌薬を併用したSRPと抗菌薬を併用したFM-SRPの両方の群においては群内での改善は認められたが,群間(SRPとFM-SRP)には有意差が認められなかったことを報告している。慢性歯周炎患者を対象としたOliveiraらの研究26)でも,両者間で臨床パラメーターの改善には差を認めなかった。しかし,安定した細菌叢の獲得については抗菌薬併用FM-SRPで優位性があるとしている。

5. 抗菌薬の種類とアタッチメントレベルの変化

これまでにSRPに抗菌薬を併用することでSRP単独で行うよりアタッチメントレベルの改善が大きいことが報告されている27)。Haffajeeら28)は抗菌薬を併用したSRPでは約0.3~0.4 mmのアタッチメントゲインが生じることを報告しているが,SPTを行っている患者の年平均アタッチメントロスが約0.042~0.062 mmとの報告29)から類推すると約5~6年の疾患の進行を逆行できることになり,たかが0.3 mmと侮ってはならない。

Haffajeeら28)による種々の抗菌薬を用いた研究についてのシステマティックレビューでは,使用した抗菌薬の種類によっても差があるように思われる。彼らの結果に我々の行ったAZMを用いた結果を加えて表5に示す。研究論文数が少なくこれらの結果を以って結論を導きだすことはできないが,抗菌薬の種類によっても得られるアタッチメントゲインに差があるように思われる。表に示した抗菌薬はペニシリン系など血中濃度依存型の抗菌薬,歯肉溝滲出液中に高い濃度の薬効成分が分泌されるテトラサイクリン系,そして好中球などに取り込まれ炎症部位に集積するマクロライド系であり,それぞれに薬物動態が異なる。この表を見る限りにおいては,マクロライド系においてアタッチメントレベルが最も大きく,次いでテトラサイクリン系,ペニシリン系へと続くように思われる。今後は抗菌薬の使用の有無による評価だけでなく抗菌薬の薬物動態等も考慮した研究が必要であると考えられる。

表5

抗菌薬の種類と得られるアタッチメントゲイン量(文献23)と26)を合わせて改変)

SRPに抗菌薬を併用した研究から,使用した抗菌薬毎に得られたアタッチメントゲイン量を示す。

6. まとめ

SRPの実施方法と抗菌薬との組み合わせについて比較してきたが,これらの結果をまとめるとSRPあるいはFM-SRPと抗菌薬の併用は臨床パラメーターの改善に優位性があると考えられる。特に,深い歯周ポケットを有する症例に有用であり,アタッチメントゲインが期待できる。さらに,抗菌薬を併用したFM-SRPは治療期間の短縮化が行えることなどの利点を挙げることができる。また,FM-SRPを行うことにより,副次的に急激な菌血症の発症や炎症の拡大に伴う体温の上昇が認められることがあるが30),抗菌薬の術前投与を行うことで菌血症の抑制と炎症性マーカーおよび体温の上昇を抑制することが示されている31,32)。SRPと抗菌薬の併用は術直後あるいは術後に行うことが多いが,術前投与も選択肢の1つとして考えていく必要があると思われる。SRPおよび抗菌薬との併用について分かり易くまとめた書籍もあることから,こちらもご覧いただきたい33)。このようにSRPと抗菌薬との併用は臨床的優位性が認められるが,抗菌薬の併用は確実なSRPが実施されていること,適切な症例が選択されていることが大前提であることを決して忘れてはならない。現在,薬剤耐性(AMR)の問題が社会的にクローズアップされている。薬物耐性菌の出現を防ぐためにもSRPの手技の習得に努め,安易な抗菌薬の繰り返し投与を行うことなく十分に症例,病態および患者の状態を評価し最小限の使用にとどめることが望ましい。また,抗菌薬との併用で早期に歯周病の状態を改善させることができるが,その効果は永続的ではなく1年ほど経過するとその効果は減弱する。早期に改善された状態を長く維持するためには,処置後の適切なメインテナンスあるいはSPTが極めて大切であることを改めて指摘しておく。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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