日本歯周病学会会誌
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歯科衛生士コーナー
歯ブラシを使いこなそう
荒木 久生
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2022 年 64 巻 4 号 p. 199-204

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はじめに

歯科医院のホームページを閲覧すると,各歯科医院で推薦する歯ブラシとブラッシング方法についての説明に力を入れていることがわかる。これは,各歯科医院が患者さんに分かりやすいブラッシング方法を説明することで,自分の歯科医院の特徴をアピールするためであるが,患者さんが齲蝕や歯周病に罹患しないための歯ブラシやブラッシング方法を求めていることの表れでもある。それだけ患者さんがブラッシングに興味があるが十分磨き切れていない事の裏返しでもある。

総ての患者に適している歯ブラシはない。患者さんの歯列の大きさ,歯並び,歯肉の状態や生活習慣などにより,使用する歯ブラシの大きさ,植毛した毛の硬さが異なる。患者さんの口腔状態に適合していない歯ブラシは,細かい隙間や歯周ポケットに歯ブラシの毛先が入ってゆかず,磨き残しができてしまう。歯ブラシが一番効果的にプラークを除去できるのは毛先の部分である。上手に歯面に歯ブラシの毛先を当てプラークを除去することで最大のブラッシング効果が得られる。そのため歯ブラシの歯面への当て方が大切であるが,単に当てる角度だけではなく,各部位への当て方も考慮しなければならない。

そこで,ブラッシングの知識の再確認をするために患者さんの口腔内にあった歯ブラシを選択する一助とするために数種類の歯ブラシについてヘッド部分の特徴を記し,歯ブラシの形態に注目して,ブラッシングについて述べたい。なお今回は手用歯ブラシに限定している。

1. 各種歯ブラシについて

まず,歯ブラシの形態について観察する。手元にある入手可能な種類(図1, 2)について,ヘッドの長さ,幅,高さ,毛の形態,植毛列について測定した(表1)。「つま先」と「かかと」は歯ブラシの先端2~3列,後端2~3列である(図3)。

毛の長さは平均10.7 mmであった。植毛部の長さは上顎中切歯2本分の幅が良いとされている。藤田1)によると中切歯の幅は8.6 mm,2本分で17.2 mmである。A~Cの歯ブラシは植毛部の幅が約19.0 mmでほぼ適切である。

Aの歯ブラシはヘッド部の長さが23.8 mmと二番目に長く,幅も11.5 mmと一番長い。

Bの歯ブラシはつま先の植毛がカラーコードされているので,「つま先」が分かりやすい。

Cの歯ブラシはつま先部のヘッドの厚みが薄くかかと部まで移行的に厚くなっている。また,柄のネックから先の部分が植毛部側へ僅かに傾斜している。

Dの歯ブラシは小型であるが2種類の長さの毛を植毛している。二段植毛は歯周ポケットと歯面を同時にブラッシングするためと言われている。また,カーブを付与したハンドル形態となっている。他はほぼフラットなハンドル形態であった。

Eの歯ブラシは植毛部が24.8 mm,ヘッドの長さが30 mmと6種の中では長いが,ヘッドの幅は9.6 mmと一番細かった。

Fの歯ブラシはヘッドがつま先から中央にかけて順次大きくなる形態(イチゴ型)である。植毛部の配列には明らかな差が認められ,8~9列×4列が多かった。つまり,つま先部分の配列が順次小さくなるような配列が多かった。かかと部分はつま先ほどではないが,次第に太くなる配列が認められた。

歯ブラシは,日本産業規格JIS S3016:19952)で歯ブラシの品質,材料,試験方法,検査方法,表示について規定されている。一方使用上の注意事項や注意表示等は規定されていない。また,家庭用品品質表示法3)により,柄の材質,毛の材質,毛の型さ,耐熱温度等を表示することが定められているが,それ以外のヘッド,毛,柄の形態については規定がない。ちなみに日本産業規格では,歯ブラシは日用品扱いであるが,アメリカ合衆国では医療器具とみなされFDAの規制を受ける。歯ブラシの形態や毛束配列が一定していないのは,製造販売する各社が規定されていない項目で独自性を出したいからでもある。また,毛束配列がプラーク除去に影響しない4)という論文によるものかもしれない。なおここで紹介した歯ブラシはすべて直線平切り型のコンパクトヘッドの歯ブラシであった。

歯周病の患者に対するブラッシングは①基本ブラッシング法(バス法5),バス改良法5),スクラッビング法6)など),②1歯ずつの縦磨き,そして,③「つま先」「かかと」磨きが中心となっている。そこでこの3種類のブラッシング方法について述べる。

図1

参考とした歯ブラシ(正面観)

図2

参考とした歯ブラシ(側面観)

表1

参考とした歯ブラシ各部の大きさ

図3

3列歯ブラシの「つま先」と「かかと」

2. 毛先の形状

歯ブラシは植毛されている毛の先端部分を使用することが一番効果的である。そのため毛先を使用したブラッシングが推奨されている。「毛先磨き」7)というと,ニュアンスが異なってくる。あくまでも毛先を使用したブラッシングと規定する。

毛先の形状を含め,歯ブラシの選択については種々の方法8)がある。歯ブラシの毛先はラウンド加工とテーパー加工がある。ラウンド加工の歯ブラシは毛のコシが強く歯面の広い面積のプラークを効率よく落とせるため,バイオフィルムの除去効果が高い。一方,テーパー加工の歯ブラシは毛先が細く隣接面や補綴物との段差などに入りやすく,歯間部や辺縁歯肉部に届きやすい9)ため,歯周病患者用の歯ブラシとしてテーパー加工の歯ブラシが選択されることが多い。しかしながらテーパー加工の歯ブラシはブラッシング圧が強いと毛先がはねてしまい効率的にバイオフィルムが除去できない10)。また,毛先を無理に歯周ポケットに挿入しようとすると,歯肉に擦過傷を生じさせ歯肉退縮の原因となることがある。

3. 基本ブラッシング

教科書に記載されているブラッシング方法11)は種々ある。

最も多く紹介されているブラッシング方法の一つがバス法である。45度で歯ブラシの毛先を歯周ポケットに挿入するので直感的にプラークを除去しやすそうである。そのバス法はBass5)によって1948年に考案されたブラッシング方法で,細密軟毛の歯ブラシを使用し,毛先を根尖方向に向け歯の長軸方向に対し45度の角度で当て,毛先を移動させずに1歯ずつ前後方向または左右方向へ細かく振動させる。一部位に対して20回振動させる。つまり,ブラッシング方法と歯ブラシの同時選択が必要なブラッシング方法である。またバス改良法として,細かい振動ではなく小さく回転させる方法もある。バス法はやや難しい歯磨きの方法で,特に奥歯のブラッシング時に毛先が歯周ポケットにしっかりと入らずに磨き残しが起こることがある。

現在バス法と言って指導されているブラッシング方法は,バス法の変法または歯ブラシの当てる角度を45度とした方法を指していることが多い。

バス法のようにテーパー加工した毛先を歯周ポケット内に少しでも挿入し,プラークを除去するためには,工夫が必要である。3列に植毛されている歯ブラシは45度の角度で当てても真ん中の列の毛先は歯周ポケットに届かず歯冠に近い列の毛先は開いてしまうことが多い。そこで,3~4例に植毛されている外側の1列「わき」(図4)を使ってブラッシングを行う。当てる部分は歯ブラシの毛先であり,脇腹ではない。ブラッシングする歯種によって歯ブラシの外側の使用部位が左右異なる。歯ブラシを当てるのは外側の1列,という意識で歯ブラシを当てると良い(図5)。同じ植毛でも毛の長さによってブラッシング効果が異なり,また,毛が短い場合には硬く感じるが,長くなると柔らかく感じる。

スクラッビング法は,上下顎唇頬側面では歯ブラシの毛束を歯面に対して90度で当て,3列歯ブラシの中央列が歯と歯肉の境界部に来るように当て細かく前後方向または左右方向へ振動させる。毛先の弾性を有効に使える。口蓋側や舌側では毛先を45度の角度で当て細かく振動させる。ストロークが大きくなる傾向がある。なお,舌側ではこれら3方法とも45度で歯面に当てている。

これら2方法以外にも歯ブラシの毛の植毛が1列または2列の歯ブラシを使用し選択的に歯と歯肉の境目に45度の角度で押し当てて細かく振動させてブラッシングする方法12)や,歯冠軸と直角に歯ブラシを当て全面の毛先を歯面に当てる方法13)もある。

A~Cの歯ブラシはどの歯ブラシでもバス法以外のブラッシングができる。

Dの歯ブラシは植毛配列が「つま先」「かかと」ともに先端から2-3-4束の配列で最大幅の4束が4列である。

Eの歯ブラシは毛束が最大幅3列で長さ10列あるため2歯以上の歯に毛先が当たるが,歯列不正があると,当て難い。

Fの歯ブラシは「わき」の植毛が曲線配列となっているため,「わき」を使用したブラッシングがしにくい。

図4

3列歯ブラシの「わき」

図5

3列歯ブラシの外側の「わき」1列を主に使用する

4. 一歯ずつの縦磨き

ここでいう縦磨きはゴットリープの縦磨き法14)(歯ブラシの毛先を歯面に垂直に当て,縦方向に動かしながら少しずつ磨く方法で,歯肉退縮や擦過傷を起こしやすい,と言われている方法)のことではない。

一歯ずつの縦磨きは特に前歯部において歯ブラシを歯の歯冠軸方向に当て,歯の唇・舌側面を近心・中央・遠心の3分割でブラッシングする方法である。縦磨きの基本は一歯磨きであり,歯ブラシを当てる歯の幅によって使用する歯ブラシが決まる。上顎側切歯の幅は6.9 mm,下顎中切歯5.4 mm,側切歯6.1 mm,犬歯6.7 mmである1)。前述の歯ブラシはどれも植毛部の幅がそれぞれの歯幅よりも広い。歯列がU字型の場合は一歯ずつの縦磨きをしやすいが,下顎で叢生となっている部位では,より植毛幅の狭い歯ブラシ,2列植毛の歯ブラシまたは,小児用の歯ブラシの使用が勧められる。このように一歯ずつの縦磨きでは歯ブラシの「わき」を使い,唇・舌側面だけではなく,両隣接面部に向けて斜めに歯ブラシを当てる。舌側を磨く時に歯ブラシを歯冠軸と直角に当てて運動させる傾向がある。水平に動かすと歯冠舌側の切端に近い部分にのみ毛が当たり,歯頚部付近には当たらない。上顎の歯では円弧を描いて下方へ,下顎の歯では円弧を描いて上方へ動かすようなつもりで運動させると良い。ところで,バス法でも切歯口蓋側への歯ブラシの当て方では,かかと部分を切歯口蓋側に当て,硬口蓋をガイドとして歯ブラシを前後方向へ振動させる方法を紹介している5)。歯ブラシを歯冠長軸と平行に縦に当てるために,口唇がブラッシング時に邪魔をする。ヘッドの幅が細い歯ブラシの方がより当てやすい。

歯列不正が認められる患者は多い。図6のように#12の口蓋側転移の症例では#13,11間の空隙が4.8 mmと狭いため,植毛部の幅が狭い3列植毛の歯ブラシを選択した。実際使用した歯ブラシの植毛部の幅は8.1 mmであり空隙よりも幅広い。そこで3列植毛の「わき」を中心として#13と#12の接触部,または#12と#11の接触部をめがけて斜めに当て,唇面を近心と遠心に2分割して歯ブラシを当てた。

A~Dの歯ブラシは4列植毛であり,3列植毛のEのブラシより植毛部の幅が広い。

Dの歯ブラシは2種類の長さの毛が植毛されているが,一歯ずつの縦磨きの効果は不明。

Eの歯ブラシは植毛部の幅が7.1 mmと狭く,歯幅の狭い歯に適応しやすい。

Fの歯ブラシは植毛配列がつま先から1-2-3-3-4-4-4となっているので,植毛部全体での縦磨きがしにくい。

図6

#12が口蓋側転移し,#13,11間の空隙が4.8 mm。使用した歯ブラシの植毛部の幅は8.1 mm。

5. 「つま先」と「かかと」磨き

「つま先」と「かかと」磨きを行う時には,植毛部の幅を患者の歯幅に合わせて選択する。特に幅広植毛部を持つ歯ブラシは「つま先」と「かかと」磨きには向かない。

「つま先」は応用範囲の広いブラッシング方法である。ワンタフトブラシのように歯ブラシを使用する場合には「つま先」を使用する。「つま先」磨きは①最後臼歯の遠心面,②舌側隣接面部,③辺縁歯肉に適応できる。最後臼歯の遠心面をブラッシングする場合には咬合面方向からだけではなく舌側方向から歯ブラシを挿入すると良い。舌側隣接面部に当てる場合は斜めに隣接面部の固形空隙を目標に歯ブラシを当てる。「つま先」をワンタフトブラシのように使用する場合には,「つま先」以外の植毛部が邪魔になることがある。上顎の唇舌側歯頚部付近をブラッシングする場合にも,「つま先」部分を使用する。同様に下顎では「つま先」または「かかと」を使用する。

「つま先」と「かかと」磨きを行う時には圧が強くなり過ぎるため圧のコントロールが必要である。歯ブラシをパームグリップで持つと圧のコントロールができないため,親指人差し指中指の3本の指で軽く持って歯面に当てる。さらに「つま先」と「かかと」を比較すると「つま先」の方が歯ブラシのコントロールをしやすい。歯ブラシの先端部分「つま先」部分を色分けした歯ブラシもある(図1)。筆記具で文字や絵をかいたりする時に,微妙な変化を出せることと同じように歯ブラシの先端部分をコントロールすることは容易にできる。持った物の先端をコントロールすることは容易である。もっと「つま先」磨きを多用してもよいと考える。一方「かかと」部分をコントロールすることは困難となるため,上下顎前歯の舌側を「かかと」磨きする場合,圧が強くなり過ぎ「かかと」部分の植毛が変形しやすい(図7)。下顎の「かかと」磨きでは,口腔底が浅くしかも舌下小帯があり,歯ブラシを当てるガイドを求めることができないため,歯ブラシを当てる方向のコントロールが大切である。

A~Fの歯ブラシはつま先部分の植毛配列が,2-3,1-2,1-3となっているため「つま先」磨きがしやすい。一方「かかと」部分は,4-3,4-2,3-2,3-3である。「かかと」磨きは「つま先」ほど使用頻度が高くないためどの歯ブラシも意識的な設計ではない。

Cの歯ブラシは植毛が2種類の長さとなっているが,「つま先」を使用したブラッシングにおける効果は不明である。

「つま先」や「かかと」の角「かど」を使用した歯磨き方法も紹介されているが,角の部分に植毛がない歯ブラシが多く,十分効果が上がらない角磨きとなる可能性がある。

A~Fの歯ブラシは「つま先」の角部分に植毛がないため「つま先角」磨きは困難である。

A~DとFの歯ブラシは植毛配列を見ると「かかと」の角の部分の植毛がない。

Eの歯ブラシは「かかと」の角部分に植毛があり,「かかと角」磨きが可能である。

図7

「かかと」の植毛が変形した歯ブラシ

まとめ

効果的にプラークを除去するための歯ブラシとブラッシング方法について,各種歯ブラシを例にとり,基本ブラッシング,一歯ずつの縦磨き,「つま先」と「かかと」磨きについてまとめた。歯ブラシを歯冠軸に対して45度で当てているからバス法,直角に当てているからスクラッビング法という理解では不十分である。〇〇法という指導よりも患者ごとに適切なブラッシング方法があるので〇〇法にこだわる必要はない。また,歯ブラシの「わき」と「つま先」をもっと利用すべきである。

種々の形態や植毛のコンパクトな歯ブラシが推奨されている。ブラッシング方法についてもそれぞれの特徴を十分理解して,患者にとって最適なブラッシング指導を行うことが大切である。

今回の論文に関連して、開示すべき利益相反状態はありません。

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