2023 年 65 巻 4 号 p. 149-158
セメント質剥離はしばしば歯周炎に類似した病状を示す。セメント質剥離の中には,診査段階で鑑別できずに外科治療時に初めて確認されることが多い。本報告では,歯周外科時にセメント質剥離を観察した4症例に対して歯周組織再生療法を適応した治療および予後の詳細を報告する。症例:患者は55歳,70歳,71歳および77歳の女性で,いずれも慢性歯周炎と診断された。ブラキシズム,年齢,喫煙等考えられるリスクファクターを聴取し,治療前後の臨床所見を記録した。結果:歯周基本治療後も6 mm以上の歯周ポケットが残存した部位に外科的治療を行ったところ,セメント質剥離を認めた。根面のデブライドメント後にエムドゲインⓇ,リグロスⓇあるいはGTR膜を用いた歯周組織再生療法を行った。すべての臨床指標に有意な改善が認められ,全症例で良好に経過している。結論:本臨床例は,セメント質剥離が急速な歯周組織の破壊を引き起こし,検査時に鑑別診断ができないことが多く,歯周組織再生療法が有効な治療になり得ることを示唆する。
Cemental tears (CTs) often resemble the clinical status of periodontitis. Some CTs are subclinical, which cannot be identified at the diagnostic stage and are first identified during periodontal surgical treatment. In this case series, we describe the treatment and prognosis of four cases of "subclinical CTs" treated by periodontal tissue regenerative therapy.
Cases: The 4 patients (women aged 55,70,71 and 77 years old) visited our dental school and were diagnosed as having chronic periodontitis. Possible risk factors such as bruxism, age and smoking were identified by interviewing the patients. The clinical findings before and after treatment were recorded. Results: During periodontal surgery, CTs were found, and regenerative periodontal therapy was performed with Emdogain®, REGROTH® or GTR membrane, after confirming root debridement. Significant improvement of all the clinical indices was recorded after treatment, and the improvement was sustained for at least 5 years in all cases.
Conclusion: These clinical cases suggest that CTs may cause rapid destruction of periodontal tissues and that periodontal regenerative therapy could be an effective treatment modality for CTs.
セメント質剥離は,セメント―象牙境もしくはセメント質内でセメント質の一部が剥離性に破折する現象である1)。臨床的には発症部位周辺の歯周組織に炎症反応が生じ,しばしば歯周炎の急性症状を呈し,組織破壊が急速に進行する2,3)。セメント質剥離は,60歳以上の高齢者の前歯部に高頻度に認められる1,4,5)。単根歯に多く,剥離位置は歯根の歯頚側,中央部,根尖側と様々で,80%近くが近心根面であったと報告されている1)。セメント質剥離の病因として,加齢,セメント質肥厚および外傷性咬合が指摘されているが4-6),有病率や発症頻度に関する報告は乏しく,ケースレポートが散見される程度で7),エビデンスレベルは高くない。
AAP・EFP共催 2017 ワールドワークショップ会議録8)では,セメント質剥離は,急性歯周疾患の新分類において「歯周病非罹患者に生じる歯周膿瘍の病因」の一つで,「エナメル真珠」および「発達した根面溝」と同様に「稀な解剖学的な異常」として分類・定義されているが9),科学的な根拠は乏しく,参加者らの恣意的な見解と考えている。一方,Fanらは,セメント質剥離を外傷性咬合の臨床的指標として提案している10)。Fanらと同様に,外傷性咬合がセメント質剥離の原因の一つと考えている臨床家は多いであろう。
セメント質剥離の治療予後については,これまであまり報告がなく,適切な診断が行われずに患歯を抜歯したケースが散見された4,11)。一方,非外科もしくは外科的に剥離片を除去したことで治癒したとする報告もある5,7,12)。本報告では,臨床症状および歯周検査からはセメント質剥離を鑑別診断できず,歯周外科治療時にセメント質剥離と診断した4症例に対して歯周組織再生療法を適用した予後を報告する。
患者1:55歳の女性。2015年9月に下顎左側犬歯部歯肉の腫脹および疼痛を主訴として当科を受診した。1年前に上記の症状に気づき近医にて歯周治療を受けたが改善しなかったという。全身的な既往歴はなかった。職業は介護職員で,日中および夜間のクレンチングを強く自覚しており口腔内診査で口蓋隆起および骨隆起を認めた。歯周組織検査の結果33舌側中央および遠心に12 mmの深い歯周ポケットを認め,エックス線検査では33の歯根膜腔の拡大と遠心に根尖側1/5までおよぶ垂直性の骨吸収像を認めた(図1)。動揺は見られなかった。全顎的な骨吸収は軽度で,歯周炎の進行リスクは低いことから,限局型重度慢性歯周炎(Stage III,Grade B)と診断した。
局所麻酔下(オーラⓇ注,ジーシー昭和薬品株式会社)で歯肉弁を剥離・翻展すると,33遠心から舌側に骨吸収,セメント質剥離および歯石沈着を認めた(図2)。セメント質剥離は歯根の根尖側1/3のところで生じていた。剥離片は認められなかった。剥離が生じ段差になっていた部位をペリオプレーニングバー(Gebr. Brasseler GmbH&Co.KG, Germany)で滑沢化し,根面のデブライドメント後にエムドゲインⓇ(StraumannⓇ, Basel, Switzerland)を併用した歯周組織再生療法を適応した。術後1年,歯周ポケットは3 mm以下に改善しエックス線写真では歯根膜腔および歯槽硬線の正常化を認め(図3),現在まで予後良好である。
患者2:70歳の女性。2014年4月に全顎的な歯周治療を希望して当科を受診した。他院にて歯周治療を受けたが症状が改善しないため精査・治療を希望し来院した。既往歴は高血圧症でコントロール良好である。
全顎的に欠損歯が多く,いずれも歯周炎により抜歯もしくは自然脱落した(図4)。歯周組織検査の結果,全顎的な動揺とフレミタスを触知した。31は全周に8 mmの深い歯周ポケットを認め,エックス線検査では顕著な歯根膜腔の拡大と根尖を超える骨吸収を認めた(図4)。また,43は唇側中央に9 mm,唇側および舌側遠心に7 mmの深い歯周ポケットを認め,近遠心ともに歯根膜腔の拡大を認めた。広汎型重度慢性歯周炎(Stage IV,Grade C)と診断した。外科的診断時,31および43にセメント質剥離を認めた。31は歯根の唇側中央根尖側で広範囲に剥離しており,43は唇側中央やや遠心よりの,根尖側1/4の部位で剥離していた(図5)。43は剥離片が認められた。剥離片をピンセットで除去し,段差をペリオプレーニングバーで滑沢化した後デブライトメントを行いエムドゲインⓇを用いた歯周組織再生療法を適応した。
剥離片は病理組織診で無細胞セメント質が確認された(図6)。術後,31は治癒の機転をとらなかったため抜歯した。43の歯周ポケット深さは全周2 mm以下に改善し,8年後の現在まで良好な状態を維持している(図7)。歯周補綴後,35および45のアブフラクションが顕著になったため,36および46にインプラント治療を追加している。
患者3:71歳の女性。2014年4月に歯肉の疼痛と咬合痛を主訴として来院した。既往歴はない。欠損歯はう蝕あるいは歯根破折により10年以上前に抜歯されていた。咬合高径の低い義歯を使用しており前歯部は過蓋咬合で,咬合時に下顎前歯部が舌側に押されるような動揺(フレミタス)を認めた(図8)。歯周組織検査の結果,全顎的な動揺と42唇側中央部に限局した8 mmの歯周ポケットを認め,エックス線所見では41および42周囲に透過像を認めた(図8)。また,42唇側中央~遠心に垂直性骨吸収を認めた。限局型重度慢性歯周炎(Stage III,Grade B)と診断した。患者1と同じく全顎的な骨吸収量が少なく,歯周炎の進行するリスクは低い。41は唇側および舌側中央,近心に8 mmの歯周ポケットを認め,エックス線所見から根尖までおよぶ骨吸収を認めたため保存不可能と判断し抜歯した。41にセメント質剥離は認められなかった。外科的診断時,42唇側中央部にセメント質剥離を認めた。剥離片は確認できなかった。剥離により生じた段差部分をペリオプレーニングバーで移行的にし,デブライドメント後にGTR法を適応した(図9)。術後3年経過時の歯周組織検査では,42の歯周ポケット深さは全周2 mm以下に改善し臨床症状も消失した。歯周補綴後も良好な予後を得ていたが,最近は通院が途絶えている(図10)。
患者4:77歳の女性。2022年1月に21部歯肉の疼痛と腫脹を主訴に救急来院した(図11)。歯周組織検査から,21唇側近心に10 mmを超えるBOP(+)の歯周ポケットが存在した。動揺度は1度(Millerの分類)で,歯髄電気診は陽性であった。歯周膿瘍部にガッタパーチャポイント(GP)を挿入してデンタルエックス線写真を撮影したところ,21近心に垂直性の骨吸収像を認め,GPは歯根の根尖から4 mm程度上方で止まっていた(図13f)。職業は美容師で,全身的な既往歴はない。口腔内診査から,外骨症およびアブフラクションを認めた(図11)(Stage III,Grade B)。
この患者の初診は2010年9月(当時65歳)で,全顎的な歯周治療を希望して来院した。上顎前突(Angle2級),アンテリアガイダンスは不良であった。2011年5月に上顎前歯部6歯に歯周組織再生療法(エムドゲインⓇ併用)後(図12),約11年間SPTを継続してきた。プラークコントロールはやや不良で,プラークコントロールレコード35%程度からあまり改善しなかった。矯正治療を薦めたが,患者は希望しなかった。
この患者は,SPT中に継時的にデンタルエックス線写真撮影をしており,近心側歯根中央部の歯槽硬線と歯根膜腔の変化を経時的に評価することが可能であった(図13)。SPT開始約2年後から歯槽硬線は明瞭であるものの,歯根膜腔が拡大していることがわかる。
患者には現状を説明し,年齢を考慮して矯正治療ではなく,補綴治療で対応することにした。すなわち,11および21抜髄後に歯冠形態と前歯の被蓋関係の改善を図り,患歯の保存を目的として,リグロスⓇ(科研製薬株式会社,東京,日本)を併用した歯周組織再生療法を選択した(図11)。
局所麻酔下,歯肉弁を剥離・翻展して炎症性肉芽組織を除去した21近心部に歯石の沈着は無いが,患歯周辺に広範囲な歯槽骨吸収およびセメント質剥離を認めた(図11)。肉芽組織からセメント質の破片が発見された。根面の剥離部はペリオプレーニングバーで段差を移行的にした。術後11か月のデンタルエックス線写真からは歯槽骨の再生を認め(図13i),歯周ポケット深さは3 mm以下BOP(-)に浅化した。

患者1:55歳の女性。初診時の33エックス線所見
歯根膜腔の拡大と遠心に垂直性の骨欠損を認めた。
全顎的な骨吸収は軽度で,歯周炎の進行リスクは低いことから,限局型重度慢性歯周炎(Stage III,Grade B)と診断した。

33に歯周組織再生療法を施行した際の所見(歯肉弁剥離・翻展時)
33遠心から舌側に骨吸収,セメント質剥離および歯石沈着を認めた。

術後1年経過時のエックス線所見およびCT所見
歯根膜腔および歯槽硬線の正常化を認めた。

患者2:70歳の女性。初診時の口腔内所見およびエックス線所見
欠損部はいずれも歯周炎により抜歯もしくは自然脱落した。
エックス線検査では顕著な歯根膜腔の拡大と31に根尖を超える骨吸収を認めた。広汎型重度慢性歯周炎(Stage IV,Grade C)と診断した。

31および43外科的診断時の所見
セメント質剥離を認めた。デブライトメント後にエムドゲイン®を用いた歯周組織再生療法を適応した。

31から採取した剥離片の病理組織像(HE染色)
セメント質剥離は31にも認められた。無細胞セメント質が確認された。

SPT移行時の口腔内所見および43エックス線所見
術後歯周ポケット深さは2 mm以下に改善し良好な状態を維持している。
43の骨欠損は改善し,白線明瞭となった。

患者3:71歳の女性。初診時の口腔内所見およびエックス線所見
欠損歯はう蝕あるいは歯根破折により10年以上前に抜歯されていた。
咬合高径の低い義歯を使用しており前歯部は咬合性外傷を受けていた。
41および42周囲に透過像を認めた。
限局型重度慢性歯周炎(Stage III,Grade B)と診断した。

42に歯周組織再生療法(GTR法)施行時の所見
唇側根面に広範囲のセメント質剥離を認めた。デブライドメント後にGTR膜を適用した。

SPT移行時の口腔内所見およびエックス線所見
42歯根周囲の不透過性が亢進した。
歯周補綴後も良好な予後を得ていたが,最近は通院が途絶えている。

患者4:77歳の女性。SPT中の患者。21急性発作時の口腔内所見および歯周組織再生療法施行時の所見
上顎左側中切歯部歯肉の疼痛と腫脹を主訴に救急来院した。
前歯部のガイド不良は補綴治療で対応することとした。
11および21抜髄後に,歯冠形態を改善し,歯周組織再生療法(リグロス®併用)を行った。

初診時の口腔内所見および歯周組織再生療法施行時の所見
全顎的な歯周治療を希望して来院した。上顎前突(Angle 2級),アンテリアガイダンスは不良であった。2011年5月に上顎前歯部6歯に歯周組織再生療法(エムドゲイン®併用)を行い経過を観察してきた。

初診から現在までの前歯部デンタルエックス線所見
近心側歯根中央部の歯槽硬線と歯根膜腔の変化を読み取ることが可能である。SPT開始約2年後から歯根膜腔が拡大している。前歯部にリグロス®適用後歯槽骨の再生を認めた。
歯周炎の急発症状を呈した部位に対して,歯周外科治療時にセメント質剥離を認め,歯周組織再生療法を適応して良好な予後を得ている4症例を詳細に解説した。いずれも,術前には診断できなかったセメント質剥離であり,診断と治療を同時に行ったことから,一種の「診断的治療」と言える。
患者1および3の全顎的な歯周炎の進行度は年齢を考慮すると軽度であったが,局所的要因が強く影響し限局した歯周組織破壊が生じたと考えた。医療面接および咬合診査から,慢性的な日中夜間のクレンチングや咬合誘導時の過度な力によりセメント質剥離が生じ,それが起点となり患歯の歯周炎が急速に進行したと推論した。一方,患者2は全顎的に重度慢性歯周炎に罹患しており,支持骨量が低下していた患歯は長期間に亘り外傷性咬合にさらされセメント質剥離を生じたと考えられる。患者4は,上顎前歯部にエナメルマトリックタンパク質を併用した歯周組織再生療法を行い,11年間SPTを継続中に21に歯周炎の急性発作を生じたケースであった。一旦良好な予後を得た部位が再発した理由がセメント質剥離(図13c)であったことから,セメント質剥離が歯周炎の増悪に関与したと考えている。この症例では,継時的にデンタルエックス線写真を撮影しており,近心側歯根中央部の歯根膜腔の拡大変化がわかる(図13)。
患者1は術後5年,患者2は術後7年経過し良好な予後を得ている。患者3も通院が途絶えた術後3年までの経過は良好であった。いずれの患者も,過去の報告と同様に外傷性咬合の関与が強く疑われたため,全症例で治療の早期に悪習癖や咬合異常を確認して対応策を説明した。具体的には,日中のTCH(Tooth Contacting Habit)およびクレンチング癖に対しては咬合力のマネージメント13,14)を行い,患者自身の気づきを促すとともに,夜間のクレンチング,ブラキシズム癖に対してはナイトガードの使用を徹底させた。患者2のように,歯周治療後のSPTを継続中に,顕著なアブフラクションを生じるケースをしばしば観察する。過剰な咬合力あるいは咀嚼力が細菌感染に起因する炎症反応を増悪して歯周組織破壊を促進していた状態から,歯周治療によって炎症に起因する組織破壊が停止した後も過剰な咬合力が持続すれば,患歯に直接咬合力が加わるため,硬組織の疲労亀裂が蓄積されてアブフラクションが進行すると考えるのも妥当な推論であろう。
2017World Workshop Proceedingsにおいて,FanとCatonの論文では「外傷性咬合はプラーク誘導性の歯周病あるいはアタッチメントロスを引き起こさない」「外傷性咬合がアブフラクションあるいは歯肉退縮の原因になることを証明できるエビデンスは無い」と結論付けている。一方,著者らは,外傷性に作用した咬合力は歯根破折あるいはセメント質剥離を介して歯周炎を引き起こし得ると考えており16),本報告で報告した4症例は既存の概念に対する「反証例」になり得る。これまで過剰な咬合力が歯周組織に与える影響の研究17,18)は行われてきたが,原因と定義されている「外傷性咬合」は観察できない現象であり,TCHや夜間の歯ぎしりを含め咬合力を個々に測定しても外傷的か否かを知るすべはない。また,いわゆる「過剰な咬合力」が歯周組織に加わったとして,歯周組織の破壊に至る経路も未だ明らかでない。ブラキシズムに加えて,強い咀嚼力は外傷的に作用すると考えられるが19),この強い咀嚼力の影響を定量することも困難であり,歯周炎の進行における咬合力の評価が進展しない大きな理由といえる。そもそも,「過剰」の定義自体が曖昧で,概念的な言語世界において唯名論的に使われているに過ぎない。本報告のうち50代が1名で残りの3名はいずれも70代の女性であった。長期間,歯槽骨―歯根膜―セメント質に咬合力が加われば,硬組織の疲労が生じると考えるのは,蓋然性の高い推論であろう。また,加齢に伴いセメント質が肥厚するので,セメント質剥離が生じやすくなるであろう。
歯周組織再生療法を行う際には汚染部位の確実なデブライドメントはもちろんのこと,セメント質が剥離したバットジョイント部を研磨し,移行的で滑らかな根面にした後に再生材料を適応した。スケーラーを用い非外科的に剥離片を除去して治癒したという報告7)もあるが,歯周ポケットの深部で剥離が生じた場合非外科治療では剥離範囲や根面の汚染の状態を明視野下で確認しきれないため,確実にデブライドメントを行うために外科的アプローチは必須と考えている。外科的介入は非外科治療と比較し治癒する確率が30%高いことが実証されている1)。本報告における再生材料の選択については,患者3は唇側に広範囲の骨欠損を認めメンブレンでの被覆が容易であったことからGTR法を選択し,それ以外の患者については骨欠損形態からエムドゲインⓇもしくはリグロスⓇを選択した。
歯周基本治療中に確認されたセメント質剥離の報告は少ないが,実体顕微鏡で観察することで,歯周ポケット内でセメント質剥離を認めたとする報告はある15)。つまり,ポケットプロービングやSRPを行う際に実体顕微鏡を活用すれば,歯根中央~歯頚側に生じたセメント質剥離を確認できる可能性が高まり,抜歯時に抜歯窩に残存するセメント質を観察することも可能である。今回の症例で言うと患者3および4は観測できた可能性がある。歯周検査および治療に実体顕微鏡を活用することでセメント質剥離の発生頻度が予想よりも高いことがわかるかもしれない。
歯周組織の急性炎症を呈する場合,発生頻度からは慢性歯周炎の急性化,歯根破折,医原性の穿孔,内部吸収,外部吸収,根尖性歯周炎および歯周―歯内複合病変を考えるが,セメント質剥離の関わるケースも存在する20)。また,歯周炎の進行には個体差および部位間の多様性が存在することから,臨床家は,患者ごとの病態を探るために臨床推論を行い,患者ごとのリスク因子に対処する個別化医療を実践することが最適解である。
今回のようなケースレポートでは後ろ向きの観察研究によって原因を推論している。いずれも「結果」から「原因」を推測していることからアブダクションによる蓋然的な推論であり,エビデンスレベルは高くない。しかし,明らかに咬合性外傷を有する患者を集めて長期間放置して歯周炎の急性発作とセメント質剥離の関係を観察するというような臨床研究には倫理的な問題があり,現実的には実施できない。現状では,セメント質剥離の症例に遭遇した際に,臨床データを集積して分析し,類化性能と別化性能を利用して各症例を評価し,帰納法的に疾患の機序を推測することしかできない。
セメント質剥離は,長期的に徐々に進行する病状であり,疾患進行の予測は困難で,病状が進行して臨床症状が現れた後に対応することになるが,4症例を観察する限り,歯周組織再生療法が有効な治療オプションになるであろう。セメント質の再生を勘案すれば,現状では,エナメルマトリックタンパク質とFibroblast growth factor 2が候補に挙がる。この二つの材料について,現時点ではそれぞれのケースレポート21,22)がある程度でRCT研究はなく,コンセンサスは得られていない。今後の比較研究が望まれる。臨床研究を通じて,最適な術式の選択がなされるであろう。一方,セメント質剥離の予防策としては,既存の咬合力の管理を継続することが挙げられるが,定量性に乏しいため,効率は不明瞭である。今後の検討課題でもある。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。