日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
ミニレビュー
日本歯周病学会臨床データベースに基づいた歯周病診療支援開発への展望
高柴 正悟
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 67 巻 1 号 p. 1-10

詳細

いわゆる国民皆歯科健診

厚生労働省の医政局歯科保健課歯科口腔保健推進室から発表された「歯科口腔保健の推進に向けた取組等について(2024年3月11日)」1)には,「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)について」の項目があり,『歯周病等スクリーニングツール開発支援事業』が記されている。各年代での歯周病罹患のリスクの検出や早期のスクリーニング,さらには確定診断までの歯科健診からの一連の受診・受療数の増加は,社会の少子高齢化に伴う歯科医師の高齢化と減少という医療供給者側の問題と相まって,歯科界にとって不安な状況である。

このような社会だからこそ,今後の持続的な発展のために,健康寿命を延伸しようとする方策が検討されている。その一つである『歯周病等スクリーニングツール開発支援事業』2)では,「健診機会の確保・拡大」,「効果的・効率的な歯科健診」,そして「健診受診率の向上と受診者の行動変容」という3つの観点でのツール開発が求められた。そして,① 唾液・血清の検体検査,② 唾液検体検査とリスク評価システム,③ 舌拭い液検体検査とスマートフォンによるオンライン検査システム,④ 唾液検体検査と診断アルゴリズムでのリスク評価システム,さらには,⑤ スマートフォン等での撮影画像からの歯周病発見AI(Artificial Intelligence:人工知能)システム,といった5種類の取り組みが実施された1)。このように,検体検査と画像等をAIで総合判断するという方向性が見られた。

日本歯周病学会の臨床データベース

一方で,日本歯周病学会では12大学の研究者からなる研究チームで,科学研究費補助金課題「指尖毛細血管採血による血漿抗体価測定を用いた歯周病細菌感染度の判定法の研究」(2006~2008年;課題番号18209061)によって臨床データベースの構築が試みられた3)。残念ながらこの構想は中断したが,その成果の一部はJournal of Dental Researchに公表された4)。その後は,大規模データを扱う臨床データベースの重要性が日本歯周病学会内で求められた結果,学会内で自発的に研究チームが形成されて,日本歯周病学会認定歯周病専門医と歯周病認定医の申請時に用いられた113症例を8大学から集め,臨床指標としての歯周炎症表面積(PISA:periodontal inflamed surface area)の基準値を求めた5)。その結果,中等度歯周炎におけるPISAは,初診時には約1,500 mm2であり,SPT期には100 mm2未満(初診時の約7%に相当)まで減少することを示した。そしてこの成果は,日常臨床に活用されている。

この学会内の動きに対応し,日本歯周病学会の小方頼昌 理事長(第24代:2021年4月~2023年3月)によって,新規に臨床データベース委員会が設置された(木下淳博 委員長(初代:2021年4月~現在))。この委員会の下で,毎年約800症例の申請用のデータが集められることが予測されている。さらに,日本歯周病学会は,日本歯科医学会のプロジェクト研究にて,2023(令和5)年度の日本歯科医学会のプロジェクト研究であるテーマA「ESGを考慮したエシカルデンティストリー(Ethical dentistry)を目指して」に応募して,「歯周病専門医による臨床データエビデンスに基づいたエシカルペリオドンティクス」が採択された6)(図1)。ESG(イーエスジー)とは,Environment(環境),Social(社会),Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉で,企業が持続的な成長を目指すために重視すべき観点を指す。そのため,著者ら学会研究委員会では,「歯科界が持続的に成長するため歯周病治療に際して社会的に倫理的(エシカル:ehical)観点を持って実施する歯周病治療」のことを『エシカルペリオドンティクス』と称して,プロジェクト研究に採択された。歯科界が持続的に成長するため,社会的に倫理的観点を持って実施する歯周病治療をデータとエビデンスに基づいて実施するための検討を行っている。現在は,臨床データベース委員会によるデータベースシステム構築を支援しつつ,臨床判断(スクリーニング,診断,治療方針など)を支援するAI技術の戦略的開発パートナーを探索している。

図1

歯周病専門医による臨床データエビデンスに基づいたエシカルペリオドンティクス

日本歯科医学会 令和5年度プロジェクト研究費への日本歯周病学会申請資料から

臨床データベースの方向性

この臨床データベースから発展する今後の研究を考える中で,歯周病専門医・認定医申請に用いられた治療症例データを蓄積して統合的に解析するために必要な因子を検討した。PubMed等で「(AI OR“artificial inteligence”)AND periodontitis AND diagnosis」で検索すると当初には633件の論文を見出した。それらから合目的的な82件を抽出した7-88)。そして文献中に,アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)の承認を得た歯周病診断用AIモデル「Videa Perio Assist」を見出すことができた52)。これはクラウドベースのAI搭載ソフトウェアであって,エックス線画像から各歯の歯槽骨の状態を自動的に測定して視覚化する機能を有している。さらに,検索された文献中にある,2018年1月から2023年12月の間に発表された211件から12件の論文を対象とした総説7)では,歯槽骨吸収の検出精度が0.76~0.98の範囲であったとしている。しかし,これら検索された大部分の文献は,デンタルエックス線画像やパノラマエックス線画像の視覚的情報を主体としたものであるので,臨床所見や病歴も大切にする歯周病臨床には不十分であると感じられる。

前述の日本歯周病学会の臨床データベースでは現在のところ,歯周病専門医・認定医の申請用書類に含まれる歯周組織検査結果と症例報告書内の情報の一部を蓄積している。「歯周病等スクリーニングツール開発支援事業」での取り組み事例や文献検索で得た歯周病診断用AIに関する研究を考慮すると,今後は画像の利用は必須である。さらに,症例報告書内の記述の利用も必要と考える。そのため,大規模言語モデル(Large Language Models:LLMs)を応用した疾患の検出・診断に関するシステマティックレビュー論文をPubMedで検索してみた結果,LLMsやそれを応用した対話型AIであるChatGPT-4o(OpenAI,L.L.C.,San Francisco,CA,USA)を利用した多くの研究を見出した89-94)。検索された論文数が急激に増加している状況下,これらの論文はAIの応用に可能性を見出しながらも,まだまだ医療上の多岐にわたる観点を加えることと,そのための分析方法のさらなる工夫という技術的な取り組みの必要性を述べている。併せて,個人情報や診断に関する法的・社会的な問題が残ることも述べており,医師・歯科医師の判断の必要性が強調されている。また,歯科系でのシステマティックレビュー論文として,各国の歯科医師試験に関するレビュー89)や公衆衛生歯学に関するレビュー94)もあり,歯学・歯科系での検討も進んでいることがわかる。

AIの応用と診療支援

興味深いことに,LLMsの応用に関する臨床研究も実施されている。複数の学術医療機関で家庭医学,内科,救急医学の研修を受けた医師が遠隔ビデオ会議と対面参加の両方での臨床推論に関する単盲検無作為化臨床試験が実施され,診断補助としてLLMsを利用しても従来の診断方法と比較して臨床推論が大幅に改善されることはなく,AIとの連携にはAIテクノロジーと人材開発の必要性が示された95)。また,問診から臨床的意思決定を行う学生教育における二重盲検無作為化試験が実施され,AI患者との模擬問診会話に参加する対照群と模擬問診会話に加えてAIが生成したパフォーマンスに関するフィードバックを受ける介入群で比較し,4回トレーニングを重ねると教育効果に差が出たと報告されている96)。特に,臨床的意思決定を行うために必要な文脈作成と情報確保の分野で有意に効果があったが,質問に焦点を当てる能力の分野では期待するような効果はなかったようである。これらの研究結果からも,前段で述べたように,技術的な取り組みの必要性とAIを臨床現場で応用できる人材育成の工夫の必要性を示している。

歯周病のスクリーニング・診断,そして治療支援のAI開発に向けて

そこで,著者がこれまでに歯周病のスクリーニング・診断,そして治療に関する情報から発想したこれらを支援するAI開発に関する内容を整理するため,ChatGPT-4oに問いかけてみた。そして得られた情報を整理して,現時点で可能な範囲で考察したAI開発の内容を以下に記していく(図2)。

専門医・認定医申請の症例データの価値は,1)高品質:重症度の高いケースや,精密検査・治療が行われた記録が多く含まれること;2)標準化診療プロトコル:治療プロセスや判断基準が一貫していること;3)複雑症例:全身疾患を有する症例や,歯周病が他の要因と絡み合う複雑な症例が多く含まれること,にある。これらは,AI学習に最適なデータソースであり,AIによる多因子解析に重要であると考えられる。以上のことは,構築しつつある臨床データベースの性質に合致するものである。

収集したデータを統合的に解析が必要な因子としては,1)標準化データ:症例データの形式や記録方法の統一と病歴や全身疾患の情報を含めて共通フォーマットで保存;2)プライバシー保護:個人情報の適切な匿名化とセキュリティ確保;3)大規模データの収集:専門医間でのデータ共有ネットワーク構築と十分な症例数の確保;4)解析モデルの高度化:AIに多因子解析させるための統合的解析アルゴリズムの開発,がある。これらの内で1)~3)の大部分は,現状の臨床データベースで対応できてはいる。しかし,画像データ(エックス線画像と口腔内写真)に加えて病状とその変化の文章情報の保存に対応するためにデータベース能力の拡大が必要である。プライバシー保護と大規模データの収集に関しては,現状の臨床データベース構想の基本であり,歯科医院や病院でのカルテから専門医・認定医申請用のファイルへ記載する段階でプライバシー保護への配慮がなされ,専門医・認定医申請の症例データが日本歯周病学会の下へ集まることで大規模データは収集されるので問題はない。しかし,解析モデルの高度化は,これからの課題である。

解析モデルの高度化は解析精度の向上であり,そのためには高品質のデータセットが必要である。具体的には3つの因子が考えられる。1)多様性のあるデータの収集:年齢,性別,疾患の進行度,全身状態(糖尿病,喫煙歴など)の異なる症例のデータと各症例への治療方針とその結果;2)データの標準化:歯周ポケットプロービングなどの歯周組織検査,エックス線画像,口腔内写真,病歴,生活習慣データなどを統一フォーマットで記録;3)ラベル付け:AI学習に適した形式のために「診断結果」「治療後の経過」などのデータの分類,というものである。現状の臨床データベースはこれらの因子へほぼ対応しているとはいえ,こうしてセットしたデータを多因子解析するために,データの標準化にはまだ工夫が必要と思われる。

今一度,収集するデータの構成要素を,以下のように整理してみた(表1)。これらには,時系列の観点でのデータも検討する必要がある。収集したデータの多因子解析を可能にするAIモデルの開発のためには,マルチモーダル学習(画像データと非画像データを組み合わせた解析)と時系列データの活用(治療前後のデータを時系列で取り入れて治療効果や疾患の進行度を予測)が重要である。

収集した解析するための各種のアルゴリズムに必要なデータを考えた(表2)。また,それらの組合せの解析から期待される効果を考えた。

これらを統合したアルゴリズム構築のための研究開発の流れは,1)データ入力と前処理:各構成要素の入力とそれらの正規化と欠損値補完;2)特徴の抽出:画像データから畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network,CNN)を,数値データや病歴データからトランスフォーマーモデルや回帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network,RNN)を用いて抽出;3)統合的解析:抽出した特徴を組み合わせてリスク因子を評価;4)診断・治療計画(案)の提示:病型分類や治療案と予後予測;5)結果の可視化:グラフ化や画像アノテーションなど,の5つの段階を想定できる。そして,こうした統合アルゴリズムが構築されたら,収集されたデータや臨床現場でのデータに適用して,診断や治療予後の推測に関して解析モデルのパフォーマンスを評価しながらフィードバックしてモデルの改良を重ねることになる。

歯周病に関する統合的な解析アルゴリズムの開発を目指すためには,日本歯周病学会がAI開発企業との共同開発を検討する必要がある。具体的には,歯肉の画像から歯周病の可能性を簡易に判定するアプリケーション,AI音声認識を活用した歯周病診断を支援するアプリケーション,デンタルエックス線画像から骨粗鬆症の可能性をスクリーニングしたり歯槽骨の状態を判定したりするアプリケーション,さらには医療記録のAI分析から治療オプションを提供するアプリケーションなど,種々の開発分野が想定される。このため,医療分野でのAI技術開発に実績のある企業との連携は,今後ますます重要となると考えている。

図2

歯周病のスクリーニングと診断のためのAI開発フロー

CNN:Convolutional Neural Network(畳み込みニューラルネットワーク), RNN:Recurrent Neural Network(回帰型ニューラルネットワーク),トランスフォーマーモデル:文章中の単語などの連続データを追跡して文脈や意味を処理するニューラルネットワークの構成

表1

多因子解析を可能にするAIモデルに必要なデータの構成要素

表2

各種アルゴリズムに必要なデータと期待される効果

歯周病診療支援AIの想定される効果

ここで検討した統合アルゴリズムが将来的に歯科診療に広く応用されると,患者個人への直接的なメリットのみならず,医療全体の効率化や健康増進をもたらし,さらには研究の進展など,幅広い社会的効果が期待される。歯周病の早期発見が地域全体で進み地域医療が支援されて健康格差は縮小されると思われる。多因子解析によって全身疾患や生活習慣の影響が考慮されて診断精度は向上し,患者ごとに最適な治療計画を示せるので治療の過不足が解消され,患者の口腔状態への理解が深まるので治療意欲が向上するなど,臨床的な効果が大きい。また,標準化された治療計画が示されるので歯科医師間での診療の質が揃うとともに,リモート診断や経過観察が容易になるので,一般歯科医師と歯周病専門医の連携と診療アクセスが容易になる。同時に,歯科医療関係者の教育・研修ツールとなり得るので,人材育成を支援できる。さらに,大規模データを解析できるので新たな知見を創出し,地域自治体の公衆衛生行政を支援し,学術研究も進展させることが可能となる

このように,日本歯周病学会の臨床データベースをAIの統合アルゴリズムを用いて応用することにより,臨床現場のみならず,歯科学教育や医療行政の場面など多くの場面において有用となるであろう。したがって,日本歯周病学会としては,臨床データベースを大切に充実させていき,AI開発者(企業)と連携しながら統合アルゴリズムを開発することが,今後の中期的な目標になると考える。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2025 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
feedback
Top