日本歯周病学会会誌
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原著
歯周炎患者に対する歯周組織再生療法と加速矯正治療の併用療法の有用性
田中 真喜巻島 由香里髙橋 優子山﨑 幹子高橋 慶壮
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2025 年 67 巻 1 号 p. 17-31

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要旨

加速矯正治療の術式の1つであるPeriodontally accelerated osteogenic orthodontics(PAOO)は,矯正歯科治療の治療期間の短縮に加えて,骨の増大を可能にする。PAOOの臨床有効性は,健常者に対して数多く報告されているが,歯周炎患者に適応した報告はほとんどない。

本研究の目的は歯周炎患者に対するPAOOと歯周組織再生療法の併用療法の臨床有効性を後ろ向きコホート研究によって検証することである。被験者は2007年から2022年までに治療を行った48名(歯周炎患者37名,健常者11名)を対象とした。歯周炎患者は歯周疾患の新分類に基づきI~IVに細分類した。治療前後の各種臨床データを歯周病患者群と健常者群間で比較・検討した。残存歯数は全群で治療前・終了後の有意差は認めなかった。平均歯周ポケット深さは,Stage III・IV群で術後に有意に減少した(P<0.01)。垂直性骨欠損部位の歯周ポケット深さ・歯槽骨レベルは,Stage III・IV群で術後に有意に減少した(P<0.01)。矯正歯科治療の動的期間は歯周炎患者と健常者群間で有意差はなく,通常の約1/2の治療期間で終了した。

本研究はPAOOと歯周組織再生療法を組み合わせた術式が歯周炎患者の重症度に関係なく歯周組織再生と骨造成および歯列の改善を同時かつ早期に図れる有効な治療方法であることを示唆する。

Abstract

Periodontally accelerated osteogenic orthodontics (PAOO), a procedure for accelerated orthodontic treatment, allows the bone enlargement in addition to shortening the period of orthodontic treatment. Although the clinical benefit of PAOO has been reported in many periodontally healthy subjects, there are few reports of its application in patients with periodontitis.

The purpose of this retrospective cohort study was to verify the clinical usefulness of combined PAOO and periodontal tissue regenerative therapy in patients with periodontitis. The 48 subjects enrolled in the study consisted of 37 patients with periodontitis and 11 periodontally healthy patients who underwent PAOO treatment between 2007 and 2022. The periodontitis patients were subdivided into 4 groups (I-IV) based on the new classification of periodontitis. The clinical data of the 5 groups before and after the surgery were compared. There was no significant difference in the number of remaining teeth before and after surgery in any of the groups. The mean periodontal pocket depth was significantly reduced postoperatively even in the Stage III and Stage IV groups (P < 0.01). The periodontal pocket depth and alveolar bone level at the perpendicular bone defect sites were significantly reduced following surgery, even in the Stage III and Stage IV groups (P < 0.01). There was no significant difference in the dynamic period of orthodontic treatment between the two groups, with the treatment completed in approximately a half of the normal treatment period.

This study suggests that PAOO combined with periodontal tissue regeneration therapy is an effective treatment method that can simultaneously and quickly improve periodontal tissue regeneration, bone formation, and dentition, regardless of the severity of periodontitis.

緒言

歯列不正は歯周炎のリスク因子と考えられており,双方向的に影響を及ぼし合っている1)。歯列不正は咬合機能を低下させるだけでなく,プラークのリテンションファクターとしても歯周炎の進行を助長させる2)。歯周炎の進行により支持骨量が減少すると,高い確率で病的な歯の移動が認められ3-5),咬合機能の更なる低下を引き起こす。

2001年の宮崎らの報告6)では,8020達成者に開咬と反対咬合は含まれていないことから,正常な歯列が歯の保存に重要であることが示唆されている。咬合学ではアンテリアガイダンスとバーティカルストップが相補的に作用するmutually protected occlusionが治療目標と考えられている7)

歯列不正を認める歯周炎患者に包括的な処置が行われない場合,咬合崩壊の加速が懸念される。包括的歯周治療を適応する際,炎症のコントロールに加えて,矯正歯科治療によって歯列不正を改善し咬合力をコントロールすることにより,機能的な咬合関係および審美性を回復することが可能になる。一方,仕事を持つ成人患者にとって矯正歯科治療にかかる時間的要因は,治療を選択する際のハードルになる。通常の動的治療は平均20か月と報告されている8)。矯正歯科治療が長期に及ぶと,偶発症(痛み,不快感,う蝕,歯根吸収および歯肉退縮)を引き起こす確率が上がる9,10)

歯周炎患者に矯正歯科治療を行う際,炎症のコントロールが不十分な場合,歯周組織の破壊を増悪し得る4)。既存の方法では歯周治療後に再評価を行い,歯周組織の感染および炎症反応が消失したことを確認後に矯正歯科治療へ移行するため11),治療期間が長期化する。歯周治療が終了した時点で,今後行う矯正歯科治療終了までの時間的要因から治療へのモチベーションの維持が難しくなり,矯正歯科治療を断念するケースは少なくない。

歯の移動を促進することで矯正歯科治療の動的治療期間を短縮できれば,患者および歯科医師双方のメリットは大きい10,12)。歯周炎患者に矯正歯科治療を行う際,歯槽骨吸収により歯冠・歯根比が悪化しており,患歯の脱落(アンカーロス),歯肉退縮および動的治療中の歯周炎の悪化を招くリスクがある。矯正力を減弱するため13),歯の移動に制限が生じるので,通常の矯正歯科治療方法では妥協的な結果になる可能性が高い。

Surgically facilitated orthodontic therapy(歯槽骨への外科処置を組み合わせた矯正歯科治療)は,歯槽骨を増大して残存する歯槽骨量を拡大し,理想的な位置に歯根を移動させることを可能にする14)。1950年代にKole15)が,骨をブロックで移動させることで動的治療時間を短縮し歯根吸収の抑制が可能な,下顎前方歯槽部骨切り法を報告して以来,数々の改良がなされてきた16-20)。GoldieとKingら21)は,骨粗鬆症状態のラットにおいて,健常なラットに比べて歯の移動量が顕著であることを報告した。この研究結果から,骨中のカルシウム濃度が歯の移動に影響することが示唆された。骨粗鬆症は骨中のカルシウム濃度が低下した状態で,病的な現象として捉えられているが,Frost22,23)は,硬組織に対する局所的な損傷により,一時的に骨粗鬆症状態を誘導できることを示した。また,外傷により硬組織の治癒を促進させる現象をRegional acceleration phenomenon(RAP)と名付けた。

2001年にWilckoら24)は,上記の基礎的研究を参考にRAPを誘導するコルチコトミーに骨増大および矯正歯科治療を併用し,治療期間の短縮と歯槽骨の増大を同時に可能にするPeriodontally Accelerated Osteogenic Orthodontics(PAOO)を報告した。これまで,健常者に対するPAOOの有効性に関する報告は散見されるが25-30),著者らが調べた限り,歯周炎患者に対するPAOOの有効性に関する報告はない。歯周外科治療時に確実な感染源の除去が不可欠であるが,著者らは15年以上にわたり歯周炎患者にPAOOを実施し,良好な予後を得ている。

本研究の目的は,PAOO単独療法またはPAOOと歯周組織再生療法の併用療法を行った健常者および歯周炎患者について後ろ向きコホート研究を行い,本治療術式の臨床有用性を評価することである。

材料および方法

1. 被験者

2007年11月から2022年12月までに,誠敬会クリニック(横浜市)において歯周基本治療後にPAOO治療を受け,本研究への参加に同意が得られた66名の内,全身疾患(糖尿病,自己免疫疾患)を有する者(2名),外科処置後に治癒遅延を認めた者(4名),治療期間中に約2週間毎の来院間隔が守れなかった者(11名),禁煙に失敗した者(1名)を対象から除外した,48名の患者(男性10名,女性38名,平均年齢38.7±12.4歳,17-61歳)を被験者とした。被験者の各種データを表1に示す。

PAOO治療前に歯周病専門医あるいは歯周病認定歯科衛生士が被験者の歯周基本治療を行い,口腔衛生状態を改善し,可及的に感染源を除去した。また,PAOO治療以前に喫煙していた患者2名には禁煙指導を行い,治療期間中禁煙を促した。なお,ほぼ全ての手術と矯正歯科治療を1名の歯周病専門医が行い,手術後の創面の消毒・衛生管理には複数の歯科医師・歯科衛生士が関わった。

治療のフローチャートを図1に示した。なお,本研究計画は患者からインフォームドコンセントを得た上で,奥羽大学倫理審査委員会の承認(第281号,2019年12月10日)を得て行った。

表1

被験者の特徴(Wilcoxonの符号付順位検定 *:P<0.01,ANOVA N.S.:有意差なし)

図1

治療のフローチャート

2. 歯周組織検査

プローブ(CPUNC15™,ヒューフレディ・ジャパン合同会社,東京)を用い天然歯周囲のプロービングデプス(probing pocket depth;PPD)を計測した。計測は良くトレーニングされた歯周病専門医あるいは歯周病認定歯科衛生士が行い,計測前に皿秤を使用しプロービング圧を一定にする練習,マネキンを使用しウォーキングプローブの練習,同一患者での検査を複数回行い,術者間のキャリブレーションを行った。6点法(頬舌側近遠心部および中央部)でPPDを計測し,Bleeding on probing(BOP)および排膿の有無についても記録した。

3. 歯周炎の細分類

初診時の臨床データおよび歯周炎の新分類31,32)に従って歯周炎の重症度およびリスク度をStage(I,II,III,IV)およびGrade(A,B,C)を用いて細分類した。

4. レントゲン検査・コーンビームCT検査

健常者に対しては,パノラマX線検査で歯槽骨レベルを評価した。歯周炎患者に対しては,インジケーターを用い平行法でデンタル14枚法を撮影し,歯槽骨レベルを詳細に評価した。

側面セファログラムについては,側面セファロ分析・画像管理プログラム(WinCeph ver.10,ライズ株式会社,仙台)を用いて,線分析,角度分析,プロフィログラムを作成して骨格系と歯系分類について評価した33,34)

コーンビームCT(Veraviewepocs,株式会社モリタ製作所,京都)を用いてØ80×H80 mmで全顎撮影,Ø40×H40 mmで局所撮影を行い,外科処置時に留意すべきオトガイ孔や下歯槽管などの解剖学的ランドマークの位置を確認するとともに,頬舌側の骨の厚みおよび垂直性骨欠損形態を3次元的に評価した。

5. 歯槽骨頂レベルの評価

セメント・エナメル境(cement enamel junction;CEJ)から辺縁骨の歯槽頂部までの垂直距離を歯槽骨頂レベル(bone crest level;BCL)と定義した。面像解析ソフト(i-VIEW,株式会社モリタ製作所,京都)を用いてコーンビームCTを約10倍に拡大して計測した。コーンビームCT画像は,各治療段階でXYZ軸の軸断面を合わせ計測した。全ての計測を1名の術者が行った。

6. 矯正歯科治療の初期計画

平行模型からセットアップモデルを作製し,矯正歯科治療における移動方向および距離を決定した。

7. PAOO

生体情報モニター(ダイナスコープ,フクダ電子株式会社,東京)でバイタルサインのモニタリングを行いながら,局所麻酔と静脈内鎮静法を併用し,日帰り手術を行った。

フラップデザインについては,歯肉溝切開と歯間部にsimplified papilla preservation technique35)を用い,全層弁で剥離翻転し,骨を露出させた。その後ピエゾトーム(ピエゾサージェリー,メクトロン社,イタリア)を使用し,歯間部にコルチコトミーを行った(図2)。コルチコトミーの原則は,歯槽頂の2~3 mm下から根尖の2 mm下までの骨切りである26)。骨幅が厚い部位にラウンドバーを用いてディコルチケーションを行った(図326)

骨移植については,矯正治療前の骨の厚み,予想される歯の移動の方向と距離を考慮して移植骨量を決定した(図426)。骨移植材料には患者の同意を得て非脱灰凍結乾燥骨(OraGRAFT Cortical FDBA,LifeNet Health社,アメリカ合衆国)および脱灰凍結乾燥骨(OraGRAFT Cortical DFDBA,LifeNet Health社,アメリカ合衆国)を用いた。フラップを単純縫合で緊密に閉鎖した(図5)。縫合糸は通常7~10日で抜糸した。垂直性骨欠損部位に,デブライドメント後にコルチコトミーおよび骨移植を行った(図6,7)。

術後1週間で抜糸が完了した部位から動的治療を開始し,上下顎歯列全体に0.018インチエッジワイズブラケット(エスタMB,TOMY International Inc.,東京)を装着し,0.014インチNi-Tiワイヤー(Reflex Nickel Titanium Wire,TP Orthodontics,Inc.,アメリカ合衆国)よりレベリングとアライメントを行った。レベリング後,0.016×0.022インチSSワイヤー(SPRON™ 510;TOMY International Inc.,東京)で空隙閉鎖,ディテーリングを行った(図8)。動的治療期間中は2週間ごとの来院間隔で調整を行い,同時にPMTCも実施し口腔清掃状態を良好に保った。動的治療期間中レントゲン画像検査を定期的に行い,骨レベル並びに歯根方向の確認を行った。咬合の水平関係・垂直関係の改善を加速したい場合には,就寝時に患者自身で顎間ゴム(TRU-FORCE ,TP Orthodontics,Inc.,アメリカ合衆国)を装着するよう指示し,歯の移動を促進させた。動的治療の終了の判断は,アンテリアガイダンスとバーティカルストップが適切に作用する状態が獲得できた段階とした。動的治療が終了し,ブラケットを除去した後にマウスピースまたはエナメルボンドシステム(スーパーボンド,サンメディカル株式会社,滋賀)を用いて歯間部の暫間固定を行った。

重度歯周炎患者あるいは歯の移動距離が大きい患者には,プレートタイプのインプラントアンカー(オーソアンカー,株式会社モリタデンタルプロダクツ,栃木)(図9)または,歯科矯正用アンカースクリュー(ISAスクリュー,株式会社バイオデント,東京)(図10)を使用し,アンカーロスのリスクを軽減した36)。プレートタイプのインプラントアンカーは,動的治療期間終了から6か月以上の観察期間を経て,後戻りがないことを確認した後に除去した。

一連の治療の流れを図11に示した。

図2

ピエゾトームを用いて歯間部にコルチコトミーを行った。

図3

骨の厚みのある部位にラウンドバーを用いてディコルチケーションを行った。

図4

骨の厚みの薄い部分に骨移植を行った。

図5

フラップを単純縫合で閉鎖した。

図6,7

垂直性骨欠損のある部位には,デブライドメント後,骨移植を行った。

図8

術後1週間で歯科矯正装置を装着し,動的治療を開始した。

図9

プレートタイプのインプラントアンカー(矢印)はPAOO手術時に同時施術し,骨に直接固定した。

図10

歯科矯正用アンカースクリュー(矢印)は,歯の動きに合わせて,矯正歯科治療の動的治療期間中に設置した。

図11

初診からメインテナンスまで,各治療段階における口腔内の変化

8. 歯根吸収度の評価

Malmgrenの分類37)に従い,Class 0:健全な歯根,Class I:不正な歯根湾曲,Class II:2 mm未満の歯根吸収,Class III:2 mm~根長1/3までの歯根吸収,Class IV:根長1/3を超えた歯根吸収の5つに分類し,歯根吸収度を評価した。

9. 統計解析

歯周基本治療後,PAOOを行った日を「動的治療開始日」,歯科矯正装置を除去した日を「動的治療終了日」とし,治療結果を比較・検討した。統計解析は患者および垂直性骨欠損レベルで行った。統計学的解析には統計解析ソフト(R4.2.2,The R Foundation for Statistical Computing,AUSTRIA)を使用し,Wilcoxonの符号付順位検定およびANOVAを用いた。

結果

1. 被験者の特徴

被験者の概要を表1に示した。被験者は,健常者群11名(男性4名,女性7名,平均年齢21.3±3.8歳)と歯周炎患者群37名(男性6名,女性31名,平均年齢43.5±9.0歳)であった。歯周炎患者は,健常者群に比べて有意に年齢が高かった(P<0.01)。

歯周炎患者群の細分類は,Stage I群12名(男性1名,女性11名,平均年齢38.9±1.9歳),Stage II群8名(男性3名,女性5名,平均年齢41.4±10.4歳),Stage III群11名(男性2名,女性9名,平均年齢49.0±7.6歳),Stage IV群6名(男性0名,女性6名,平均年齢45.7±9.0歳)であった。Stage群間における年齢の有意差はなかった。Grade分類では,Stage I,II群の2名は喫煙のため,Stage III,IV群の7名は,バイオフィルムの蓄積程度以上に急速な進行が疑われたため,Grade Cに分類した。

2. 歯列不正の状況

セファロ分析から得られた,術前の骨格系と歯系の評価33,34)を表2に示した。

2°≦ANB≦4°をSkeletal Class I(正常),4°<ANBをSkeletal Class II(上顎前突),ANB<2°をSkeletal Class III(下顎前突)に分類した38)。骨格パターンの分類を表3に示した。Skeletal Class Iは,健常者群27%,歯周炎患者群41%,Skeletal Class IIは,健常者群55%,歯周炎患者群51%,Skeletal Class IIIは,健常者群18%,歯周炎患者群8%であった。著しい骨格性要素の症例は本術式の対象から除外した。

表2

側面セファロ分析結果

表3

骨格パターンの分類

3. 残存歯数の変動

残存歯数は埋伏智歯を除外した歯数を表記した。残存歯数の変化を図12に示した。全群で術前・術後の残存歯数の変化に有意差を認めなかった。

図12

残存歯数の変動(Wilcoxonの符号付順位検定 N.S.:有意差なし)

4. 平均PPDの変化

平均PPDの変化を図13に示した。Stage III・IV群では,歯周基本治療後,動的治療終了時に平均PPDが有意に減少した(P<0.01)。

図13

平均PPDの変化(Wilcoxonの符号付順位検定 *:P<0.01有意差を示す)

5. 垂直性骨欠損部位のPPD・BCLの変化

Stage IIIおよびIV群の垂直性骨欠損部位に歯周組織再生療法を行い,術後1年経過時に再評価を行った結果を図14, 15に示した。Stage III群は被験者11名に対し,26部位に歯周組織再生療法を行った。Stage IV群は被験者6名に対し,58部位に歯周組織再生療法を行った。

PPDの変化は,Stage III群で初診6.46±1.44 mm,歯周基本治療後5.23±1.42 mm,動的治療終了時2.23±0.64 mm,Stage IV群で初診7.53±1.54 mm,歯周基本治療後5.59±1.27 mm,動的治療終了時2.32±0.82 mmであった(図14)。両群共に術前に比較して術後のPPDが有意に減少した(P<0.01)。

BCLはStage III群で術前6.42±1.88 mm,術後3.76±1.27 mm,Stage IV群で術前7.58±1.77 mm,術後4.18±1.43 mmだった(図15)。両群共に術前に比較して術後にBCLも有意に減少した(P<0.01)。

6,7で示した36垂直性骨欠損部位の骨レベルの変動を図16に示した。

図14

垂直性骨欠損部位のPPDの変化(Wilcoxonの符号付順位検定 *:P<0.01有意差を示す)

図15

垂直性骨欠損部位のBCLの変化(Wilcoxonの符号付順位検定 *:P<0.01有意差を示す)

図16

6,7で示した36垂直性骨欠損部位の骨レベルの変動

6. 上下顎の前後的位置関係

アングル分類は39),第1大臼歯部ではClass Iが術前28名(58.3%),術後44名(91.7%),Class IIが術前9名(18.9%),術後2名(4.2%),Class IIIが術前11名(22.9%),術後2名(4.2%)であった。犬歯の前後的関係は,Class Iが術前20名(41.7%),術後48名(100%),Class IIが術前8名(16.7%),術後0名(0%),Class IIIが術前20名(41.7%),術後0名(0%)であった(表4)。

ほぼ全ての症例で個性正常咬合が達成されていた。

表4

上下顎の前後的位置関係

7. 歯根吸収度の評価

歯根外形の異常(Class 0)が63%,根尖部2 mm以下の吸収(Class I)が37%で,根尖部2 mm以上または,初診時歯根長1/3以上の吸収(Class II・Class III)は認めなかった(表5)。

表5

歯根吸収度

8. 動的治療期間

矯正歯科治療の動的治療期間を図17に示した。健常者群で10.4±2.9か月,歯周炎患者群は10.0±3.1か月で2群間に有意差はなかった。歯周炎患者群は,歯周炎の重症度に関わらず,動的治療期間に有意差を認めなかった。

図17

矯正歯科治療の動的治療期間(ANOVA N.S.:有意差なし)

考察

本研究結果は,歯列不正を有する歯周炎患者に対してPAOOと歯周組織再生療法の併用療法が臨床有効性の高い治療法であることを示唆する。本治療術式は既存の治療11)とは異なっており,現在まで我々と同じコンセプトで行われた臨床研究は皆無である。術式は複雑で平均して4時間程度かかることから治療の難易度は高い。今後,我々の報告した新しいコンセプトに基づく本術式が追試され,同様の臨床研究が報告されることを通じて確固たるエビデンスが構築されるであろう。

Zasčiurinskieneら40)は歯周基本治療後に歯周組織再生療法と矯正歯科治療を同時併用した場合と,歯周治療後に矯正歯科治療を行った場合とで,歯周炎の改善度に有意差はなく,歯周治療後に矯正歯科治療を行った場合よりも,両治療を併用した方が歯周炎の改善が早かったと報告した。我々とZasčiurinskieneらの報告を勘案すると,炎症のコントロールが確実になされていれば,歯周治療後に数か月経過観察して再評価後に矯正治療を開始する既存の術式に固執する必要はないことを示唆している。著者らの臨床データからはPAOOと歯周組織再生療法の併用療法は歯周炎の重症度に関係なく,歯周―矯正治療の有用なオプションになり得る。また,歯周炎患者群は健常者群に比較して,年齢が有意に高かった(表1)が,健常者群と同等の治療結果が得られたことから,年齢にかかわらず同程度の臨床効果が期待できるであろう。

残存歯数の変動(図12)は,全群間で有意差を認めなかったが,Stage IIからStage IV群では歯周炎が重症化して保存不可能な歯を抜歯したため,残存歯数の減少傾向を認めた。なお,全ての群において保存不可能な歯は炎症のコントロールを十分に行った上で,PAOOと同時に抜歯を行った。歯周基本治療中に抜歯を行った場合,外科処置回数が増え治療期間が延長するだけではなく,顎堤の吸収が起こるため歯の移動の妨げになる。PAOOと同時に抜歯と顎堤増大を行うことで,抜歯窩の骨を温存し,計画通りに歯の移動を行うことができた。更に顎堤が温存できたことにより,その後の欠損補綴への移行もスムーズであった。抜歯を行った欠損部には,インプラント(6部位),インプラントブリッジ(1部位),ブリッジ(2部位)で欠損補綴を行い,1部位は補綴処置を行わず経過観察し,3部位は矯正歯科治療で空隙を閉鎖した。平均PPDは,Stage IIIおよびStage IV群で有意な減少を認めた(P<0.01)(図13)。保存不可能な歯の抜歯,垂直性骨欠損部位に歯周組織再生療法を行い骨欠損形態を改善したことにより,深い歯周ポケットが改善したためであろう。また,垂直性骨欠損部位に対して歯周組織再生療法を行った結果,PPD・BCLともに術後に有意に改善したことから(図14, 15),PAOOに歯周組織再生療法を併用しても,垂直性骨欠損部の良好な骨造成を図れることが示唆された。

上下顎の前後的位置関係については,91.7%の被験者がClass Iの咬合関係を獲得することができたが,残存歯数の関係からClassII 2名,ClassIII 2名となった(表4)。一方,犬歯の前後的位置関係は,全ての被験者でClass Iとなり,適切なアンテリアガイダンスを付与することができた。

本研究では,矯正の動的治療期間中に歯の痛みを訴える患者はほとんどいなかった。PAOOは,RAP22,23)により歯槽骨を骨粗鬆症状態にして歯を移動することが可能であることから,歯根膜にかかる負担を軽減することで,通常の矯正歯科治療に比較して治療中の疼痛発現を解消できたと解釈している。更に歯槽堤を増大することで,歯の移動距離を延ばすことが可能になるため,便宜抜歯を行わずに歯を移動できた41,42)。更にこれまでの報告26,29)と同様に,健常者群で歯根吸収をほとんど認めなかっただけではなく,歯周炎患者群においても同等の結果を得ていることから,歯根吸収のリスクを軽減できると考えている。また,支持骨量をあまり考慮せずに矯正力をかけることが可能なため,骨吸収が進行している歯周炎患者でも健常者と同等の矯正歯科治療の動的治療期間で治療を終えることが可能であったと解釈している。PAOOにより歯周治療および矯正歯科治療両方の治療期間を短縮できるため,患者にとってメリットは大きい。

PAOOの手術時に骨幅が薄い部位や裂開部位,歯の移動方向も考慮し骨移植を行うことで,ボーンハウジングを増大し26),歯肉退縮のリスクを軽減することが可能である41,42)。プレートタイプのインプラントアンカー(図9)を使用した40名(健常者9名,歯周病患者31名)に対しては,インプラントアンカー撤去時に,術前に骨の裂開や開窓を認めた部位のリエントリーを同時に行い,骨の裂開や開窓部が骨組織で満たされ,骨のハウジング内に収まっていることを肉眼的に確認した。頬側の骨造成により矯正歯科治療後の歯肉退縮を回避できたと推察している。

RAPは通常,コルチコトミーの数日後から始まり,1~2か月以内にピークに達し,ピークは4か月継続し,6~24か月後に治まる22,23)。歯が動いている限りRAPは持続するが,矯正力が適切にかけられていないと,RAPの発生段階を十分に活用することができない。そのため,手術後早期に動的治療を開始し24,42,43),通常矯正に比べて短い間隔でのアーチワイヤーのサイズ交換が必要である42,43)。本研究では術後1週間で抜糸が完了した部位にブラケットを装着し,矯正歯科治療の動的治療を開始した。一般的なPAOOの術式において,動的治療開始時期は術直後から術後2週間までと文献によって様々で,明確なプロトコルは確立されていない24,42,43)。本研究では,軟組織が治癒し抜糸が完了した時点で動的治療を開始することで,偶発症を最小限に止められると判断し治療を行った。創面の裂開や感染などの偶発症は認められず,矯正歯科治療終了後に垂直性骨欠損部分に骨の再生像(図16)を認めたため,動的治療の開始時期は妥当であったと考えている。また,動的治療期間中は2週間ごとの来院で調整を行ったが,妥当な治療介入のタイミングであったと推察している24,42,43)。被験対象から除外した患者で,患者側の都合により矯正歯科治療の来院間隔が守られなかった症例では,歯の移動が遅くなり,当初の計画よりも大幅に治療期間が延長した(未発表)。このことから,適切なタイミングで歯に矯正力がかからないとRAP効果22,23)が減弱し,治療期間を延長させる可能性が考えられた。

PAOOを行うことでRAPが誘導されると全ての歯を移動させ易くなる。矯正歯科治療中に前歯と臼歯が引っ張り合うと,第一大臼歯の近心移動や挺出が起こりやすくなる。本研究ではその防止策として,インプラントアンカーを用いた(図9, 10)。歯の移動が完了するとRAPが消失し,歯槽骨が再石灰化されるため22,23),矯正歯科治療後の後戻りを防止することが可能である39,40)

本研究の限界として,側面セファロデータが不十分で,治療前後の解剖学的変化を定量できていない。また,図1に示したように,骨増大量の変化をコーンビームCT画像解析による定量は行えていない。また,継続してメインテナンスに来院されている患者は51.3%(健常者群27.3%,Stage I群33.3%,Stage II群62.5%,Stage III群54.5%,Stage IV群83.3%)で,予後の判定が限定されている。健常者は3~6か月に1度,歯周病患者は3か月に1度の間隔でメインテナンスを実施し,歯周組織や咬合の安定を確認している。PAOOの臨床研究が欧米から数多く報告されているが,治療結果についてのコンセンサスは得られていない44,45)。術式の難易度が高い場合,治療結果のばらつきが大きいからであろう。今後,観察期間を延長しつつ,臨床データの集積を継続することで,治療効果の評価レベルを向上させたい。

結論

歯周炎患者に対するPAOOと歯周組織再生療法の併用療法は,歯周炎の重症度に関わらず歯周組織の安定および歯列の改善を同時にかつ早期に図れる有効な治療方法であることが示唆された。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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