2025 年 67 巻 1 号 p. 32-42
本研究の目的は,歯周炎患者におけるインプラント周囲軟組織の形態学的特徴とインプラント周囲炎との関係を評価することである。
被験者45名に治療された175本のインプラント体を研究対象とした。被験者はStage(I,II,III,IV)およびGrade(A,B,C)に細分類された。治療成績は成功と失敗に分類され,辺縁骨欠損(MBL)が3 mm未満を「インプラント治療成功」と定義した。一方,インプラント治療の失敗は2群(≧MBL 3 mm;非炎症性骨吸収群,インプラント周囲炎群)に細分類された。
175本のインプラントの内,成功は142本(81.1%),MBL 3 mm以上は15本(8.57%),インプラント周囲炎は18本(10.3%)であった。複数埋入された隣接するインプラント体はすべて上部構造で連結固定されていた。インプラント周囲炎の内,16本(88.9%)がStage IVの歯周炎患者に認められた。インプラント体近遠心部の軟組織の高さおよび幅と治療予後に関して3群間に有意差はみられなかった(p>0.05;ANOVA)。3群間でアウトカムと近遠心側の種類(天然歯またはインプラント)についてカイ二乗検定を行ったところ,有意差が認められた(p<0.05)。
本研究は重度歯周炎患者においてインプラント体周囲軟組織の形態的特徴よりもインプラント体の連結がインプラント周囲炎のrisk indicatorになり得ることを示唆する。
The aim of this study was to evaluate associations between the morphological features of peri-implant soft tissue and peri-implantitis.
Forty-five patients (175 implants) were enrolled in this study. The cases were classified into 4 Stages (I, II, III, IV) and 3 Grades (A, B, C). Treatment outcomes were classified into 2 categories: success and failure. Marginal bone loss (MBL) less than 3 mm was defined as success, and failure was sub classified into 2 categories: ≧MBL 3 mm without inflammatory reaction and peri-implantitis.
The treatment outcome of the 175 implants was classified as MBL < 3 mm in 142 implants (81.1%), MBL ≧ 3 mm in 15 implants (8.57%), and peri-implantitis in 18 implants (10.3%). Multiple adjacent implant bodies were all connected and fixed with a superstructure. Peri-implantitis was diagnosed in 16 patients (88.9%) with Stage IV periodontitis. There were no significant differences between outcome and peri-implant tissue height and width among the 3 groups (> 0.05; ANOVA), but there were significant differences among the 3 groups in outcome and type of mesial-distal adjacent structures (teeth or implant body) (< 0.05; Chi-square test).
This study suggests that splinted implants are a possible risk indicator for peri-implantitis in comparison with the morphological features of peri-implant soft tissues in patients with severe periodontitis.
Brånemarkらによって無歯顎患者に対する口腔インプラント治療の有効性が報告されて以来,口腔インプラント治療の適応症は拡大してきた1)。一方,口腔インプラント治療の普及に伴いインプラント周囲組織疾患の報告も増加している2,3)。インプラント周囲疾患は歯周病と同様に多因子性の慢性疾患と考えられており4,5),臨床研究やシステマティックレビュー6,7)が報告されている。歯周炎と比較してインプラント周囲炎の進行速度が速い理由として,インプラント体周囲に歯根膜がないこと,歯肉線維走行の違いによる物理的防御の弱さ,咬合干渉能がないことが挙げられている8)。
2012年に米国歯周病学会(American Academy of Periodontology;AAP)が発表したAcademy Report9)では,プラークコントロール不良や喫煙といった歯周病と類似したリスクファクターの他に,残留セメントや咬合力の過負荷による微小骨折のリスクが挙げられた。他にも上部構造の接合様式や補綴様式,Guided bone regeneration(GBR)の有無等のリスク要因に関する報告も散見される10,11)。骨接合部の組織学的違い12)やインプラント体の補綴的特徴から,歯周炎とインプラント周囲炎の病態は異なると考えられる。
審美性を優先してインプラント体を骨レベルに埋入する現行の治療システムでは,上部構造とインプラント体の間にマイクロギャップが存在しているため,この微細な空間に嫌気性細菌が生息している13,14)。Fuchigamiらは非歯周病患者のガム模型およびエックス線画像を用いて,インプラント周囲粘膜縁から近心および遠心側の骨/インプラント接触部までの距離を測定した15)。この横断研究では,部位間でインプラント周囲溝の深さのばらつきが大きく,インプラント周囲溝が深い部分が将来的にインプラント周囲疾患に罹患しやすいのではないかと考察している。また,インプラント周囲組織を評価・追跡する為の指標を提案しているが,インプラント周囲軟組織の形態とインプラント周囲疾患との関連性については何も検討されていない。インプラント周囲炎の病態解析には縦断研究が不可欠になるが,広汎型の重度歯周炎患者におけるインプラント周囲炎について検討する場合,包括的な歯周治療後にインプラント治療を行うため,治療が広範囲および長期間に及び,研究報告は多くない16-19)。林らは歯周治療後にインプラント治療を行いメインテナンスに移行した患者について,インプラント周囲炎と角化粘膜幅の関係を調べ,角化粘膜幅が1~2 mmのグループに比較して,3 mm以上のグループでMarginal bone loss(MBL)が有意に高いことを報告した20)。一方,Wadaら21)は角化粘膜幅が2 mm未満のグループでインプラント周囲炎の罹患率が有意に高かったと報告しており,角化粘膜幅とインプラント周囲炎の関連について統一見解は得られていない。さらに,インプラント周囲軟組織の形態的特徴とインプラント周囲炎の関連性を調べた研究は我々が調べた限りでは皆無であった。インプラント周囲炎がインプラント周囲溝内の細菌感染に起因する炎症反応と考えられていることからすれば,インプラント周囲炎の病因におけるインプラント周囲軟組織の特徴を明らかにする必要がある。
我々は歯周炎患者に対して包括的歯周治療および口腔インプラント治療を行い,治療予後を評価した後ろ向き研究から,歯周炎の重症度Stage IVおよびリスク度を表すGrade C,インプラント埋入本数およびGBRの併用がインプラント周囲炎のrisk indicatorであることを報告した22)。我々の被験者の場合,ほぼすべての症例で2 mm以上の角化粘膜幅を確保しているため,角化粘膜幅による分類は行っていないが,Fuchigamiら15)やCouso-Queirugaら23)が指摘しているように,インプラント周囲軟組織の形態的特徴についても研究を進展させる必要がある。
本研究の目的は,奥羽大学歯学部附属病院歯周病科において歯周治療における口腔機能回復治療に口腔インプラント治療を選択し,長期予後を評価している歯周炎患者を対象に,インプラント周囲軟組織の形態的特徴とインプラント周囲炎の関わりを評価する事である。
Yamazakiら22)が報告した84名の歯周炎患者の中から,最終補綴物装着時のガム模型を用いた軟組織の計測が可能で,かつ咬合機能後1年以上が経過している被験者45名(男性16名,女性29名,平均年齢64.2±11.0歳)のインプラント体(175本)を研究対象とした。本研究は奥羽大学倫理審査委員会の承認(承認番号:第379号)を得て行った。
被験者の各種データを表1に示す(表1)。被験者らは,口腔インプラント治療前に日本歯周病学会認定専門医あるいは認定医によって歯周基本治療および必要に応じた歯周外科治療を受け,口腔衛生状態の改善と可及的な感染源の除去がなされている。HbA1c値は6.0%未満で良好にコントロールされていた。また,インプラント治療以前に喫煙していた患者は非喫煙者とした。ほぼすべてのインプラント埋入手術を一名の熟練した歯周病専門医が行っており,上部構造の印象および装着に関しては複数の歯科医師が関わった。また,インプラント周囲の角化粘膜幅が不足していた(2 mm以下)すべての部位に対して歯肉弁根尖側移動術あるいは遊離歯肉移植術を行った。インプラントシステムはPOI EXⓇ(京セラ,Kyoto,Japan),Brånemark systemⓇ(Bmk;Nobel Biocare,Göteborg,Sweden)およびStandard PlusⓇ(Straumann,Basel,Swiss)の3種類を使用した。
対象者およびインプラントの臨床所見と特徴
20 gの感圧プラスチックプローブ(日本歯研工業,Tokyo,Japan)を用いインプラント周囲のプロービングポケットデプス(probing pocket depth;PPD)を計測した。検査部位は6点法(頬舌側近遠心部および中央部)とし,Bleeding on probing(BOP)および排膿の有無について記録した。検査は,特定非営利活動法人日本歯周病学会により認定された専門医または認定医が行った。
3. 歯周炎の細分類AAPおよびヨーロッパ歯周病連盟(European Federation of Periodontology;EFP)による歯周炎の新分類に従って歯周炎の重症度およびリスク度24)をStage(I,II,III,IV)およびGrade(A,B,C)を用いて細分類した。
4. エックス線検査およびインプラント周囲骨吸収量(marginal bone loss;MBL)の評価最新来院時のデンタルエックス線写真を用いてインプラント周囲骨レベルを評価した21)。ボーンレベルインプラントではアバットメントとインプラント体の接合部(A/I)を基準とし,インプラントが骨と接触する最も歯冠側寄りの点までの距離を測定した。近心側および遠心側で分け,それぞれ頬舌側の骨吸収ラインの平均値を骨吸収量と定義した(図1)。一方,ティッシュレベルインプラントではマシーンド・サーフェスとラフサーフェス境界を基準とした。電子ノギス(Mitsutoyo,Kanagawa,Japan)を用いて計測し,埋入されたインプラント体の長径を元にその拡大比率からインプラント体の骨吸収量を算出した。すべての計測を1人の術者(特定非営利活動法人日本歯周病学会により認定された認定医)が行った。
インプラント周囲骨吸収量(marginal bone loss;MBL)の算出方法
MBL(mm)=I×mbl(mm)/IR
MBL;インプラント周囲骨吸収量
A/I;アバットメントとインプラント体の接合部
B;骨接合部
mbl;エックス線写真上のインプラント周囲骨吸収量
IR;エックス線写真上のインプラント体の長軸長
I;実際のインプラント体の長軸長
インプラント周囲粘膜縁(PM)からアバットメントとインプラント体の接合部(A/I)までの垂直距離を測定した(PM-A/I)15)。測定点はインプラント体1本につき2点で,頬舌中間点において近心および遠心部で測定した。また,近遠心の軟組織幅を電子ノギス(Mitsutoyo)を用いて計測した(図2)。最後方インプラントの遠心側の測定は行わなかった。すべての計測を1人の術者(特定非営利活動法人日本歯周病学会により認定された認定医)が行った。
ガム模型上でのインプラント周囲軟組織の高さおよび幅の測定方法
インプラント周囲軟組織の高さ(Peri-implant mucosal height;PH)=PM-A/I間距離
PM;インプラント周囲粘膜縁
A/I;アバットメントとインプラント体の接合部
インプラント周囲軟組織の幅(Peri-implant mucosal width;PW)は頰舌中間点において,A/I辺縁間距離を測定(隣接歯が天然歯の場合も同様)。
インプラント周囲炎の定義についてはコンセンサスが得られていないため,本研究では過去の論文25,26)を参考に以下のように定義した。インプラント周囲骨吸収量(MBL)3 mm以上を必須とし,BOP陽性,排膿陽性,PPD 5 mm以上,の3項目の内2項目以上が該当した場合にインプラント周囲炎と診断した。
7. インプラント治療の成功と失敗およびアウトカムの分類インプラント周囲骨吸収量(MBL)3 mm未満をインプラント治療の成功と定義した。一方,インプラント周囲炎およびMBL 3 mm以上(非炎症性の骨吸収)の2群を失敗と定義した。
8. 統計解析統計学的検討には統計ソフトSPSS Statistics 27(IBM,Chicago,USA)を使用し,解析手段としてカイ二乗検定(下位検定;残差分析),Welch検定(多重比較;Games-Howell法)およびANOVA(多重比較;Tukey法)を用いた。有意水準はp<0.05とした。
患者とインプラント体の概要を表1に示した。被験者は男性16名(35.6%),女性29名(64.4%),平均年齢は64.2±11.0歳であった。2.2%が糖尿病の既往を有しており,喫煙者の割合は4.4%であった。抗菌療法を行った患者はいない。インプラント体ごとの性別分布は,男性は91本(52.0%),女性が84本(48.0%)であった。一人当たりのインプラント体の平均埋入本数は,全体では3.89±2.9本で,男性で5.35±3.63本,女性では3.00±1.85本で,男女間に有意差を認めた(p<0.05;Welch検定)。
歯周炎の重症度およびリスク度と患者の分布は患者レベルでStage I群1名(女性1名),Stage II群10名(男性2名,女性8名),Stage III群10名(男性4名,女性6名),Stage IV群24名(男性11名,女性13名)で,インプラントレベルでStage I群1本(0.57%),Stage II群21本(12%),Stage III群25本(14.3%),Stage IV群128本(73.1%)であった(図3)。
新分類に基づく対象者数およびインプラント本数の分布(mean(SD))
(a)患者レベル(b)インプラントレベル
インプラント175本の内,成功(MBL 3 mm未満)は142本(81.1%),非炎症性骨吸収は15本(8.57%),インプラント周囲炎は18本(10.3%)であった。インプラント周囲炎に罹患したインプラント体の性別分布は,男性12本(66.7%),女性6本(33.3%)であった。複数埋入された隣接するインプラント体はすべて上部構造で連結固定されていた。
3. 臨床パラメータインプラント体近心部および遠心部の平均MBLはそれぞれ,1.54±1.51 mm,1.56±1.37 mmであった。インプラント周囲軟組織の高さは,近心で2.55±1.10 mm,遠心で2.27±1.26 mm,幅は近心で4.74±2.50 mm,遠心で4.28±2.42 mmであった。隣接部は,近心で天然歯87本,インプラント体86本,隣接歯なし2本で,遠心で天然歯31本,インプラント84本,隣接歯なし60本であった。
4. インプラント周囲軟組織の高さおよび幅と治療予後の関係インプラント体近遠心部の軟組織の高さおよび幅と治療予後に関して有意差はみられなかった(p>0.05;ANOVA)。高さ/幅比で検証した際も同様であった(p>0.05;ANOVA)(図4)。
3群間のインプラント周囲粘膜の高さおよび幅の比較
(a)アウトカムとインプラント周囲軟組織の高さの比較(b)アウトカムとインプラント周囲軟組織の幅の比較
PIT;Peri-implantitis
p>0.05;ANOVA(Tukey’s test)
アウトカムと近遠心隣接部についてカイ二乗検定を行ったところ,有意差が認められた(p<0.05)。また,各群における隣接部の状況を把握するために残差分析を行ったところ,MBL<3 mm群において遠心がインプラント体の割合が有意に高かった(調整済み残差:2.5)(表2)。また,インプラント周囲炎群において近心がインプラント体の割合が有意に高かった(調整済み残差:2.3)(表3)。遠心では有意差は認められなかったものの,5%標準正規偏差値(1.96)に近い数値が算出された(調整済み残差:1.87)(表2)。
各群におけるインプラント体遠心隣接部の種類
各群におけるインプラント体近心隣接部の種類
インプラント周囲炎は,多因子性の慢性炎症性疾患と考えられているが,患者側,術者側および補綴学的な要因27)が複雑に関わっていると考えられ,単一の原因で説明できる疾患では無いであろう。インプラント周囲炎がインプラント周囲溝における感染によって惹起されるにもかかわらず,これまでの臨床研究では角化粘膜幅のみが取り上げられており,インプラント周囲軟組織の特徴が十分に評価されていない。本研究では,中等度から重度歯周炎患者に対し,専門的な歯周治療後に口腔インプラント治療を行った中から,上部構造作製用のガム模型を使用して軟組織の特徴を定量可能であった45名の被験者について,長期的にインプラント治療の予後観察を行い,インプラント周囲炎,非炎症性の組織退縮および成功の3群に分類し,インプラント周囲炎とインプラント周囲組織の関連性について評価した。
インプラント周囲炎群のインプラント周囲溝の深さが他群と同等(図4)であったことから,上部構造の印象採得におけるインプラント周囲軟組織の状態からは将来的にインプラント周囲炎が発症および進行することを予知することは困難と考えられた。すなわち,中等度から重度に進行した歯周炎患者(Stage III,IV)において,インプラント周囲軟組織の形態的特徴がインプラント周囲炎の発症および進行に関与する重要な因子である可能性は低い。もっとも,本研究では被験者のインプラント体頬側に2 mm以上の角化粘膜幅を形成しているが,角化粘膜幅が2 mm以下の場合,結果は異なるかもしれない。Wadaら21)はインプラント周囲の角化粘膜幅の不足によるインプラント周囲炎の進行リスク上昇について報告している。ただし,被験者の歯周病の重症度やリスク度に関する情報が十分でなく本研究結果との比較は難しい。一方,本研究の被験者らは元々インプラント体埋入予定部位に十分な角化粘膜が存在するか,不足を認めた場合でも歯周形成手術を行い,2 mm以上の角化粘膜幅を確保している。現在までに統一見解は得られていないが,十分な角化粘膜幅の存在は患者のプラークコントロールを容易にするとともに,物理的なバリアになり得る5)。多因子性疾患の病因を解析する場合,被験者群の特徴によって結果が異なることは十分に考えられる。
2017年にAAPおよびEFPにより発表された「歯周病およびインプラント周囲疾患の診断基準に関するコンセンサスレポート」では,以前からあったインプラント周囲粘膜炎およびインプラント周囲炎に,インプラント周囲の硬軟組織の欠損が追加された24,28)。それゆえ,本研究では非炎症性の骨吸収をアウトカムに加えた。インプラント周囲の硬軟組織欠損の病因には加齢あるいは老化,過剰なブラッシング圧および血流不足が考えられるが,我々が調べた限りでは,報告は見当たらなかった。一方,インプラント周囲粘膜炎については測定時の不確実性から,評価の分類に加えなかった。今後の検討課題であろう。
Fuchigamiら15)は非歯周炎患者のインプラント周囲軟組織の高さの多様性を報告した。また,インプラント周囲軟組織の標準化された寸法診断がインプラント周囲炎の予防および治療のために考慮される必要があると考察した。一方,本研究結果では成功(MBL<3 mm)群,非炎症性骨吸収(MBL≧3 mmの群)およびインプラント周囲炎群の3群間でインプラント周囲軟組織の形態的特徴に有意差はなかった(図4)。本研究結果からは,上部構造装着時のインプラント周囲軟組織形態がインプラント周囲炎のrisk indicatorとは考えにくい。
インプラント周囲炎に罹患したインプラント体の隣接部は,天然歯よりもインプラント体である割合が有意に高かった(表2)。本研究の被験者らは歯周基本治療時に徹底したTooth Brushing Instruction(TBI)を受けており,患者自身のプラークコントロールは極めて良好であった(Plaque Control Record 20%以下)。もっとも,多数歯欠損の症例において,複数のインプラント体を連結する上部構造が装着された場合,インプラント間のプラークコントロールの困難さは増すであろう。また,歯根膜を有する天然歯に比較してインプラント体周囲の血流は良好とは言えない29)。したがって少数本と比較して多数本埋入症例では血流が妨げられ,骨吸収リスクが上昇するかもしれない。
インプラント体の連結の有無が予後に与える影響度についての報告は散見されるが30-32),統一見解はなく,歯周炎の重症度の高い患者を対象とした報告は少ない。複数のインプラント体が連結される場合,微小な補綴的エラーの蓄積が上部構造装着後にインプラント体へ負担をかける確率は高まるであろう。骨のリモデリングが起こる半面,連結した上部構造には過剰な負荷がかかる可能性も指摘されている10)。淵上ら30)やYuseung Yiら32)の結果では,上部構造を連結した場合,非連結と比較してインプラント周囲疾患のリスクが有意に高かったと報告されている。本研究では,平均インプラント埋入本数は3.89±2.9本(Stage IVで5.29±3.1本)であるのに対し,淵上ら30)の研究では2.25本と少なく,欠損歯数が異なる。また,インプラント周囲骨吸収を認めた症例の約8割がセメント固定であり,セメントの除去不良や維持力低下が主な原因であると考察している。我々の症例はすべてスクリュー固定であるため,インプラント周囲炎のリスク増加は上部構造の連結に起因する可能性が高いと推測される。今後,同様の臨床データが増えるとすれば,上部構造の連結が推奨されなくなるであろう。Katafuchiら33)はエマージェンスアングルの角度とインプラント周囲炎の関連について,骨レベルインプラントの場合は角度によりインプラント周囲炎リスクが上がるが,ティッシュレベルインプラントは影響を受けないと報告している。この結果からティッシュレベルのインプラントが推奨されるかもしれない。また,下顎臼歯3歯欠損部へのインプラント治療の予後比較でブリッジが最良であったという報告34)があることから,4歯以上の欠損部位にインプラント治療を行う際の最適条件の検討が必要になる。
本研究でインプラント周囲炎に分類されたインプラント体は,すべて臼歯部で連結されていたことから,過剰な咬合力が加わった結果と解釈することも可能であろう。Yamazakiらの報告22)ではStage IVで8本以上インプラントを埋入したケースにおいて,インプラント周囲炎に罹患する割合が有意に高かった。このことから,欠損部の多さ,すなわち咬合支持域の喪失範囲の増加がインプラント周囲炎のリスクになるかもしれない。本研究の被験者でStage IVに分類された患者の残存歯は18本以下(17.2±3.46本)であり,インプラント体,とりわけ,遊離端欠損部へ埋入されたインプラント体には過大な咬合力が加わっているであろう。もっとも,過剰な咬合力がインプラント体および周囲組織に及ぼす影響を定量する方法がないため,推論の域を出ない。
本研究においてインプラント周囲炎に罹患したインプラント体は18本で,数が少ないことが本研究の限界の一つでもあった。歯周炎患者のインプラント治療後の評価でインプラント周囲炎の罹患率が低いことは好ましいが,臨床研究では被験者数を増やし,観察期間を延長して観察する必要がある。もっとも,前向き研究は倫理的に実施困難で,対照を有する後ろ向き研究が主流になるであろう。
本研究では,Fuchigamiらの報告15)を参考に上部構造作製用のガム模型を使用して軟組織の特徴を定量した。インプラント周囲軟組織の形態計測に関する報告は多くない。最近,Couso-Queirugaら23)はDICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine),STL(Stereolithography),診断用超音波を用いた電子データによる非侵襲性のインプラント周囲粘膜厚の計測方法を報告した。今後,インプラント周囲軟組織の非侵襲的な画像解析が可能になれば,インプラント周囲炎の病態におけるインプラント周囲軟組織の関わりがより詳細に解析できるであろう。
重度歯周炎患者でインプラント周囲角化粘膜幅が2 mm以上存在する場合,インプラント周囲軟組織の形態的特徴よりもインプラント体の連結がインプラント周囲炎のrisk indicatorになり得る。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。