日本歯周病学会会誌
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症例報告
広汎型慢性歯周炎の16年経過症例
春日 早紀川原 博雄
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2025 年 67 巻 1 号 p. 43-50

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要旨

本稿では,広汎型慢性歯周炎患者に対する歯周基本治療後のサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)の効果について報告する。治療初期には,患者はセルフケアの重要性や喫煙のリスクに無関心であり,抜歯を含む包括的な治療への意欲も低かった。しかし,非観血的歯周治療後の治療中期~後期に実施したSPTにより,患者の意識が向上し,信頼関係が築かれた結果,禁煙と包括的な治療への理解が深まり,現在に至るまで良好な口腔健康状態が維持されている。

本症例は,歯周治療における患者教育の重要性を示している。口腔衛生指導において,デンタルエックス線写真や口腔内写真,歯周組織検査結果を用いた継時的な情報提供が,患者の生活背景やライフステージに応じた綿密な指導を可能にし,患者との緊密な信頼関係の構築に寄与した。また,本症例は,歯科衛生士が患者の口腔健康に対する意識向上において果たす役割の重要性を再確認するものである。

Abstract

We report the effects of Supportive Periodontal Therapy (SPT) following basic periodontal treatment in a patient with generalized chronic periodontitis. Initially, the patient showed indifference to the importance of oral self-care and smoking as the risk of the occurrence and progression of periodontal disease, and was unmotivated to comprehensive treatment, including tooth extractions. However, the patient's awareness and trust relationship improved following non-surgical treatments and subsequent SPT, leading to a deeper understanding of smoking cessation and the importance of comprehensive treatment. Good oral health condition has been maintained to the present. This case report underscores the importance of patient education in periodontal treatment. The providing of sequential information using X-rays, intraoral photos and periodontal tissue examination results led to offer precise guidance tailored to the patient's life background and life stage and contributed to the development of a close trust relationship with the patient. Furthermore, this case reiterates the critical role of dental hygienists in raising patients' awareness of their oral health.

緒言

歯周病は成人における口腔疾患のうち最も一般的な疾患の一つであり,適切な治療および処置が行われない場合,歯の喪失リスクが高まる。特に,広汎型慢性歯周炎は治療のみならず,患者自身のセルフケアと歯科医療従事者による継続的な管理が重要である。歯周基本治療後に行われるSPTは,病状の再発を防ぎ,長期的な口腔健康を維持するために不可欠である1)。また,SPTの成果を最大限に引き出すためには,患者教育,特に禁煙支援や歯科衛生士との信頼関係構築が重要である2-4)

本稿では,広汎型慢性歯周炎の一症例に対する歯周基本治療とその後のSPTの効果について報告する。患者教育と歯科衛生士との信頼関係構築が治療成果にどのように影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,検討を加えた。特に,患者がセルフケアの重要性や喫煙のリスクに対する認識の変化,治療への意欲の向上,そして包括的な治療への参加意欲に焦点を当てた。

この症例報告は,歯周病治療におけるSPTの効果を最大化するための実践的な指針を提供し,歯科衛生士が患者の口腔健康を維持する上で果たす重要な役割を強調している。また,広汎型慢性歯周炎患者に対して行った歯周基本治療後のSPTが,病状の改善と長期的に良好な口腔健康の維持にどのように寄与したかを示している。なお,本症例は論文掲載にあたり患者の同意を得ている。

症例

1, 主訴および現病歴

患者:36歳 男性

初診:2006年2月

主訴:右側の歯肉が腫れて,噛むと痛い。

既往歴:特記事項なし

喫煙歴:蓄積本数約32万本(40本/日)

現病歴:数年前から右側上下顎臼歯部の歯肉腫脹と咬合痛を自覚するようになった。同症状の増悪と寛解をくり返すため,電動歯ブラシを購入しセルフケアを試みたが症状は完全に消失せず,同様の状況が続いた。来院数日前から,同部に再び歯肉腫脹と咬合痛が発現したため,精査加療を希望し,当院を受診した。

2, 歯科的既往歴

口腔内に対して関心が薄く,過去の治療について質問したところ,歯科受診をした時期や原因は患者自身記憶が定かではなかった。

3, 全身的既往歴

特記事項なし。喫煙歴があり,18歳~40歳まで喫煙していた。

1日およそ40本,累積喫煙本数約32万本。2011年から禁煙し,現在も禁煙継続中である。

4, 家族歴

患者の父親は84歳で2008年から当院を受診し,SPTを継続している。現在歯数10歯,部分床義歯を装着しており,喫煙歴および歯周炎の既往がある。抜歯理由は,根面齲蝕や重度歯周炎によるホープレストゥースである。母親は現在80歳で2007年から当院を受診し,SPTを継続している。現在歯数27歯,非喫煙者で歯周炎の既往がある。

5, 現症

1) 口腔内所見

全顎的に歯肉の発赤腫脹が認められ,上下顎前歯部歯肉にはメラニン色素沈着が認められる。O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)は77.6%で,プラークの付着量が多い。また,下顎前歯部舌側には歯冠を覆うように歯肉縁上歯石の沈着を認めた(図1-A)。

図1A

初診時の口腔内写真(2006年2月)

2) エックス線所見

全顎的に中等度~重度の水平性骨吸収がみられ,部分的に歯根長の1/2を超える骨吸収が認められる。また,16,17,26,27,36,46に根分岐部病変像が認められる。全顎的に歯石沈着が認められる(図1-B)。

図1B

初診時のパノラマエックス線写真(2006年2月)

3) 歯周組織検査

全顎的に深い歯周ポケットが認められた。PPD 1~3 mm の割合は21.4%,PPD 4~6 mmの割合は75.9%,PPD 7 mm以上の割合は2.7%であった。プロービング時の出血(BOP)部位の割合は59.8%,PCRの割合は77.6%であった。歯の動揺について,全ての歯はMillerの分類にて生理的動揺の範囲内であった(図2)。

図2

初診時の歯周組織検査結果(2006年2月)

PPD 4~6 mm 75.9%,7 mm以上 2.7%,BOP 59.8%,PCR 77.6%

6, 診断

口腔清掃不良および長期にわたる喫煙習慣により,歯肉炎が慢性歯周炎に移行したものと考えられる。また,全顎的に中等度から重度の歯周組織破壊が認められるため,日本歯周病学会による歯周病分類システムに準じ,広汎型中等度~重度慢性歯周炎Stage III Grade Cとした1)

7, 治療計画

1) 歯周基本治療

・患者教育

ラポールの形成に重点を置きつつ,歯周病の原因や治療について説明する。また,歯周病の病因論の説明,治療計画について説明し同意を得る。

・SRP

・禁煙支援

・46,48抜歯,46欠損に対する45,47を支台とした暫間補綴治療

2) 再評価

3) 歯周外科治療

24,47へのWidman改良フラップ手術

4) 再評価

5) 口腔機能回復治療

46欠損に対する45,47を支台歯とするブリッジ

11,12,16,17,21,22に対する修復処置

6) 再評価

7) SPT

8, 治療経過

1) 歯周基本治療・禁煙支援

(1) 初診・医療面接・患者教育(2006年2月)

本症例の主訴は,右側上下顎の歯肉の腫れと咬合時の痛みであった。患者は数年前から右側上下顎臼歯部の歯肉腫脹と咬合痛を自覚し始めたが,症状の増悪と寛解が繰り返されることから,電動歯ブラシ(音波振動歯ブラシ(Doltzパナソニック株式会社 東京))を購入しセルフケアを試みるも,症状の完全な解消には至らなかった。また,仕事や日常生活に追われる中で,歯科治療を受診することを避けていた。

しかし,症状が継続し,来院数日前から再度歯肉腫脹と咬合痛が現れたことから,精査と治療を求めて当院を受診した。過去の歯科治療は短期的なものであったが,治療状態は比較的良好であり,今回の治療も迅速に終わると考えている様子が窺えた。患者は寡黙で自発的な発言は少なかったが,エックス線写真,口腔内写真,歯周組織検査結果などを用いて,口腔内の状況を視覚的に説明し,理解を促した。

患者には喫煙の習慣があり,喫煙と歯周病の関連について説明した。喫煙歴(喫煙本数,喫煙開始年齢,喫煙年数,禁煙経験)3)を確認し,禁煙に関するパンフレットを配布した。患者は治療に対する明確な意思表示を示さなかったが,設定された予約には必ず来院していた。

(2) 口腔衛生指導(2006年3月~)

過去の歯科治療経験により,患者はブラッシング指導に対して抵抗感を示し,消極的な姿勢が見受けられた。このため,当初予定していた通常のブラッシング指導から,PTCをメインとしたブラッシング指導へとアプローチを変更した。

患者は当院受診前から電動歯ブラシ(Doltzパナソニック株式会社 東京)を使用しており,治癒を目指して自ら購入した経緯があった。そのため,初回のブラッシング指導時には患者に電動歯ブラシを持参してもらうように指示し,あえて手用歯ブラシは購入を勧めず患者の心理に寄り添う指導に努めた。しかし,腫れた歯肉への誤った使用が疼痛や出血を引き起こし,コンプライアンスを損なう可能性があるため,電動歯ブラシの適切な使用法に特に注意を払った。また,同時に手用ハブラシによる清掃の重要性および必要性について説明し,併用するように指導した。

また,規則的なブラッシング習慣がなかったため,1日2回,朝晩のブラッシング(電動ハブラシおよび手用ハブラシ)を行うように指導した。歯周治療にはバス法が最適だが5),先ずは操作が容易であり,歯肉辺縁に均等に届くスクラッビング法を選択し,患者が手鏡を使用してブラッシングの方法を視覚的に確認できるように配慮した。さらに,プラーク除去後の歯面の爽快感を舌で感じ取り,体感覚としてもブラッシングの効果を理解してもらうように努めた。

(3) スケーリング,ルートプレーニング(2006年3月~)

患者教育を継続しながら,下顎前歯部を除く歯肉縁上部分のスケーリングを行った。また,口腔衛生指導と並行して,歯周治療の重要な要素である歯間清掃について指導を実施した6)。歯間ブラシの使用は患者にとって初めての経験だったため,操作性の良い細型の歯間ブラシ(DENT.EX歯間ブラシ SSサイズ ライオン歯科材料株式会社 東京)を,選択し,全ての歯間部鼓形空隙に使用するように指導した。

SRPについては,担当医の指導のもと,6つのブロックに分けて実施することとした。患者が頻繁な通院に対する抵抗を持つ可能性を考慮し,当日の治療内容,今後の治療予定,現在の治癒経過を口腔内および口腔内写真を用いて説明し,歯周治療へのモチベーションを維持するよう努めた。

特に痛みに敏感な下顎前歯部のみ(図3-A,B),浸潤麻酔を施してSRPを実施した。その他の部位は無麻酔でSRPを実施した。歯肉が線維性に肥厚し,歯根面にキュレットが届きにくい部分に対しては,検査資料を参考にしながら歯根面の形態を確認し,歯石の除去に努めた。また,歯肉退縮に伴う露出根面部へは知覚過敏対策として,知覚過敏症状予防歯磨剤(Systemaセンシティブ ライオン歯科材料株式会社 東京)の使用を指導した。

最終SRP時には,再度患者の禁煙意識を調査し,日々の喫煙本数を確認したが,初診時から変化は見られなかった。患者の表情は無愛想だったが,曖昧な助言を避け,喫煙の有害性を明確に説明し,口腔への影響を示しながら禁煙を促すアプローチを取った3)

図3

SRP直後の下顎前歯部舌側(A),SRP 1ケ月後の下顎前歯部舌側(B)

(4) 再評価検査(2006年5月)

治療後の評価では,PPDが1~3 mmの割合は90.5%,4 mm以上の割合は9.5%であり,BOP部位の割合は4.8%と改善した。初診時と比較して,全顎的に歯肉の発赤と腫脹は減少したが,一部に歯周ポケットが残存していた。

そのため,再度のスケーリングとルートプレーニング(再SRP)を患者に提案したが,患者は全顎にわたる治療を希望しなかった。そのため,抜歯,歯周外科治療を行わず非観血的歯周治療のみを続行し,SPTへと移行することとなった。

2) SPT(2006年9月~)

SPTは1ヶ月間隔で実施され,セルフケアの状況を確認したところ,患者は朝に電動歯ブラシにて2分間,昼に手用歯ブラシと歯間ブラシ,夜には電動歯ブラシで2分間および歯間ブラシを使用していると報告した。この報告により,患者が歯科治療に関する理解を徐々に深めていることが感じられた。さらに,より適切なサイズの歯間ブラシ(DENT.EX歯間ブラシ Mサイズ ライオン歯科材料株式会社 東京)への変更を行った。

11月の禁煙に関する行動変容の確認では,喫煙歴は初診時と変わらなかったが,患者の表情は以前よりも落ち着きを示しており,関心期に移行していると感じられた。歯周組織検査結果ではPCRとBOPは5%前後を維持しており,2006年11月から2ヶ月間隔でのSPTに移行し,徐々に全顎的な口腔機能回復治療を開始した。2007年11月以降は3ヶ月間隔でSPTを実施している。

2008年8月のSPT時,PCRが78%に上昇したため,セルフケアについて確認したところ,朝のみ手用歯ブラシを使用し,歯間ブラシは使用していないことが判明した。そのため,患者自身に歯周病の病態を理解してもらうために,口腔内の状況を知らせ,歯周病の原因や問題点に対して理解を得るようにした。また,口腔状態の改善策(励行したプラークコントロール)を提示しセルフケアの重要性を口腔内写真や歯周組織検査の結果を用いて視覚的に説明した。その後,私自身の育児休暇中の1年間は,他の歯科衛生士が担当し,その期間の歯周組織検査結果は良好な状態を維持していた。また産休から復帰した2011年11月のSPT時には,患者から22年間の喫煙を終結したと報告を受けた。

16年間の長期SPTの過程では,常に結果が良好であったわけではなく,歯周組織検査結果の悪化が見られた際には,来院間隔を短く設定し,2週間隔や1ヶ月間隔での受診を指示し,歯周組織状態の確認および患者のモチベーションの把握を行っていた7)。また,過去16年間(来院回数118回)の間には一度のみ無断キャンセルがあったが,設定された予約には必ず来院された。それは結果として信頼関係が構築され,口腔の健康に対する意識が向上し,現在もSPTを継続的に実施している(図4-AB,図5)。

図4A

最新SPT時の口腔内写真(2023年4月)

図4B

最新SPT時のエックス線写真(2023年4月)

図5

最新SPT時の歯周組織検査結果(2023年4月)

PPD 4~6 mm 5.6%, BOP 1.2%, PCR 16.7%, PESA 1619.6 mm2,PISA 26.5 mm2

9, SPT時の口腔内の経時的変化(図6,図7

患者のセルフケアの確立に向けて,プラーク付着部の舌感や歯間ブラシ使用後の爽快感に注目させることを主眼として,視覚的,体感覚的に指導を行った結果,PCRは改善された。患者は本来寡黙な性格であるが,時系列に沿ったデンタルエックス線写真,口腔内写真,歯周組織検査結果などの画像資料データを視覚的に提供することで,治療へのモチベーションを高めることができた。

2011年11月には,患者が22年間続けていた喫煙を終了し,禁煙支援の成果が現れた。禁煙によってメラニン色素の沈着が消失し,さらに歯周治療によって歯肉の色調も改善された8)

図6

口腔内写真による口腔内状況の変化

図7

臨床パラメーターの推移

考察およびまとめ

歯周病の治療と定期的な管理において,患者との信頼関係の構築は不可欠である。本症例では,禁煙支援と口腔衛生指導においてエックス線写真,口腔内写真や歯周組織検査結果を継時的に提供することで,患者への綿密な保健指導を実施した。このアプローチは,16年間にわたる治療過程で患者との信頼関係を徐々に構築し,患者の口腔健康に対する意識を高めるのに大きく寄与した。

この症例から,SPTの成功には,歯科衛生士による患者教育,特に検査結果の活用と禁煙支援の重要性が再確認された。患者のセルフケアに対する認識の変化,治療への意欲の向上や包括的な治療への参加は,歯周治療の長期的な成功を支える重要な要素である。

この症例報告は,歯周治療におけるSPTの効果を最大化するための実践的な指針を提供し,歯科衛生士が患者の口腔健康を維持する上で果たす重要な役割を強調している。さらに,患者教育と信頼関係の構築が,患者の口腔健康状態の維持に不可欠であることが示されている。

謝辞

本稿を終えるに当たり,本症例の学会発表の際に多大なご協力を頂いた徳島大学歯学部歯周歯内治療学分野 湯本浩通教授に感謝いたします。本症例に取り組む上でご協力を頂きました当院スタッフの皆様,そして関係者の皆様に心から感謝致します。

なお,本論文は,第66回春季歯周病学会(2023年)においてポスター発表した内容を一部改変して掲載した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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