2026 年 68 巻 1 号 p. 9-15
歯周炎ではPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)に代表される歯周病病原細菌由来のlipopolysaccharide(LPS)が直接的あるいは間接的に骨芽細胞や歯根膜細胞に作用し,破骨細胞分化因子receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand(RANKL)が産生される。RANKLは破骨細胞前駆細胞に存在するreceptor activator of nuclear factor-kappa B(RANK)と結合することで破骨細胞分化が促進され,歯槽骨吸収が進行する1,2)。加えて,歯周炎に罹患している歯に対しメカニカルストレスである外傷性咬合が加わると,より歯周組織破壊が増悪することは臨床的観察から明らかである。ラットやビーグル犬による動物実験モデルからも,歯周炎を伴う咬合性外傷は歯槽骨吸収を進行させることが示されてきた3,4)。歯周炎モデルと咬合性外傷モデルを併用したラットでは,それぞれの処置を単独で行ったラットと比較して,根分岐部においてRANKL陽性細胞数が有意に上昇したとの報告もある5)。これらの報告はいずれも炎症とメカニカルストレスが共存した場合に,歯槽骨吸収が急速に進行することを示唆する。このように歯周病による歯槽骨吸収には「炎症による骨吸収メカニズム」と「力による骨吸収メカニズム」の両者がそれぞれ相加的あるいは相乗的に作用しているものと考えられている。しかし,炎症存在下でメカニカルストレスが負荷された際に生じるRANKL発現上昇の分子レベルでの機序については未だ不明な点が多いのが現状である。
一般に骨は常に外界からメカニカルストレスを受けており,それを認識,また応答することで骨量を維持している。古くは1892年にWolff6)が「健康な動物では骨は加えられる負荷に対して適応する」という仮説を提唱して以降,骨の恒常性に関する多くの研究が行われてきた。メカニカルストレスが骨量の維持に必要不可欠であることは,骨量が適度な運動によって増加することや,長期の臥床や宇宙での微少重力状態環境下では減少することからも明らかである7,8)。また歯科領域においても,無歯顎患者では咬合力が低下し,経年的に骨吸収が生じることが観察されている9)。細胞レベルではメカニカルストレスが骨に負荷されると,骨細管内で流水せん断応力が生じ,これを骨小腔内の骨細胞や骨表面の骨芽細胞が感受する10)。これらの細胞ではイオンチャネル,細胞膜構造,細胞骨格および接着分子などがメカノセンサーとして機能し,細胞内カルシウム,一酸化窒素,プロスタグランジンなどのセカンドメッセンジャーを介して細胞内シグナルの活性化が生じる。
我々は,歯周治療の臨床において日常的に直面する,歯周炎と咬合性外傷の共存下で生じる歯槽骨吸収の分子メカニズム解明のため,骨芽細胞に発現するメカニカルストレス応答性カルシウムイオンチャネルであるtransient receptor potential vanilloid 4(TRPV4)とPiezo1に着目した研究プロジェクトに取り組んできた(図1)。これらのイオンチャネルに関しては,2021年にTRPV4と同じファミリーに属するTRPV1とPiezo1の発見者に対して,ノーベル生理学・医学賞が授与されるなど,近年特に注目されているタンパク質であるといえる。また医科領域における様々な疾患においても,その発症メカニズム解明のためにこれらのイオンチャネルに着目した研究が数多く行われている。本稿では,我々の研究成果を交えて,歯周炎と咬合性外傷で生じるRANKL発現上昇に対するメカニカルストレス応答性カルシウムイオンチャネルの関与の可能性について概説する。

TRPチャネルファミリーとPiezoチャネルファミリー
TRPチャネルファミリーはヒトではTRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPP,TRPAの6つのサブファミリーに分けられる。TRPVチャネルにはTRPV1~6の6種類が存在する。PiezoチャネルファミリーはPiezo1とPiezo2の2種類のチャネルで構成されている。
TRPV4はTRPチャネルファミリーに属するカルシウムイオン透過性の高い非選択的陽イオンチャネルである。trp遺伝子は1989年にショウジョウバエの光受容応答変異株の原因遺伝子として発見され,その名称は,変異株では光刺激に対する受容器電位(=receptor potential)が一過性(=transient)で持続しないことに由来する。ヒトにおいて,TRPチャネルファミリーはTRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPP,TRPAの6つのサブファミリーで構成されている11)。
TRPV4自体は2000年にLiedtkeら12)の研究グループと,Strotmannら13)の研究グループによって浸透圧刺激によって活性化するイオンチャネルとしてほぼ同時に報告された。TRPV4は皮膚,脳,肺,膀胱上皮,骨など生体内の様々な部位に発現し,熱14,15)や低浸透圧12,13),メカニカルストレス16,17)などの刺激により開孔するとされている(図2)。骨においては骨芽細胞,骨細胞,破骨細胞,および軟骨細胞での発現が確認されている18)。TRPV4のヒト遺伝子変異によって生じる症候群であるTRPV4異常症19)は,本邦において指定難病とされており,変容性骨異形成症,脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型,脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型,短体幹症,短指を伴う家族性指関節症などがこれに含まれる。根本的な治療法はなく,個々の症例に対して整形外科的な対症療法が中心となる。
これまでにMizoguchiら18)はTRPV4欠損(TRPV4KO)マウスを用いて下肢への非荷重モデルである尾部懸垂実験を行い,野生型マウスでは有意に骨量が減少したのに対して,TRPV4KOマウスでは明らかな減少を認めなかったと報告している。すなわち,TRPV4KOマウスでは非荷重条件で生じる骨形成低下と骨吸収促進が起こらなかったことから,TRPV4は骨におけるメカニカルストレス受容に関与し,骨量維持に寄与していると考えられる。さらに,Suzukiら20)は,TRPV4が骨芽細胞分化の過程で発現上昇し,骨芽細胞にメカニカルストレスを負荷した際に生じる周期的な細胞内カルシウム濃度上昇の発生および制御に関与していると述べている。
一方で,TRPV4は炎症との関連も報告されている。Kochukovら21)は関節疾患とTRPV4の関連についての報告の中で,ヒト滑膜細胞にTNF-αによる刺激を加えると8時間後にTRPV4のmRNA発現量が有意に上昇することを示した。Zhangら22)は高脂肪食に起因する慢性膵炎についての報告の中で,高脂肪食を与えて慢性炎症を惹起させたラットの膵星細胞ではTRPV4のmRNA発現が有意に上昇したとしている。このようにTRPV4は炎症とメカニカルストレスのそれぞれに関連することから,歯周炎と咬合性外傷がもたらす歯槽骨吸収の分子メカニズムを明らかにする上で着目すべきタンパク質の1つであると考えられる。

TRPV4とPiezo1の活性化刺激と阻害薬
TRPV4はメカニカルストレス,温度,低浸透圧などの活性化刺激や,アゴニストである4α-PDDやGSK1016790Aなどの化合物によって開孔し,HC-067047やruthenium redがアンタゴニストとして作用する。Piezo1はメカニカルストレスやアゴニストであるYoda1によって開孔し,GsMTx4がアンタゴニストとして作用する。いずれのチャネルも開孔することで細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し,続いて様々な細胞内シグナル伝達が活性化する。
骨芽細胞内において細胞内カルシウム濃度が上昇するとprotein kinase Cの活性化を介してRANKLの発現が誘導されることから23),骨芽細胞に発現するTRPV4はメカニカルストレスによる破骨細胞分化の制御に関与している可能性がある。またSonら24)はヒト歯根膜細胞に低浸透圧刺激を加えるとTRPV4や同じくTRPチャネルファミリーであるTRPM3を介してカルシウムイオンの細胞内への流入が生じ,RANKL発現を誘導したと報告している。そして,このイオンチャネルを介したヒト歯根膜細胞におけるシグナル伝達経路がメカニカルストレスに対する歯槽骨リモデリングの重要な分子基盤であると述べている。
我々の研究グループでは,歯周炎と咬合性外傷の共存下で亢進するRANKL発現へのTRPV4の関与を検討するため,マウス骨芽細胞を用いた研究を実施した25)。歯周炎を想定してP. gingivalis由来のLPS存在下で骨芽細胞を培養し,咬合性外傷を想定して小型卓上振とう機による回転振とう刺激を加えたところ,臨床的観察からの推測通り,両者が共存した場合にLPS刺激単独あるいは回転振とう刺激単独と比較してRANKLのmRNA発現の有意な上昇がみられた。一方でTRPV4自体のmRNA発現はLPS刺激による変動を認めなかったことから,P. gingivalis由来LPSはTRPV4自体あるいはチャネルに付着してアクチン線維などの細胞骨格に構造変化を与え,TRPV4の開孔機能を亢進させた可能性が考えられた。続いて,TRPV4アンタゴニストであるruthenium redの添加,siRNA導入によるTRPV4ノックダウンを実施したところ,このRANKL発現上昇は有意に抑制された。これらの結果から,骨芽細胞においてLPS刺激とメカニカルストレスの共存下で生じるRANKL発現の亢進はTRPV4を介したシグナル伝達経路によって生じているものと考えられる(図3)。すなわち,歯周炎存在下で咬合性外傷が併発した場合に生じる歯槽骨吸収にTRPV4が関与している可能性がある。

TRPV4を介したLPSとメカニカルストレスによるRANKL発現
マウス骨芽細胞にP. gingivalis由来LPSとメカニカルストレスによる刺激を加えると,それぞれの単独刺激と比較してRANKLのmRNA発現量が有意に上昇した。
Piezo1は機械的刺激によって活性化するタンパク質として,マウスの神経芽細胞腫から2010年に同定された26)。3枚の羽根状複合タンパク質が組み合うことでプロペラ型三量体複合体を構成しており,メカニカルストレスによってタンパク質が変形することでカルシウムイオンの細胞内への流入が生じる27)。Piezo1もまた血管や上皮,神経組織,骨組織といった様々な組織に発現し,感覚機能や血圧調整といった生物学的活性を制御している28)(図2)。骨芽細胞に発現するPiezo1はメカニカルストレスによって開孔機能が亢進し,細胞分化を促進することで骨量維持に関与していることが明らかとなっており,メカニカルストレスを骨形成シグナルに変換するメカニズムにおいて重要な役割を果たしているものと考えられる29)。また,動物実験によって歯根膜細胞において骨芽細胞分化に必須の転写因子であるOsterixの発現がPiezo1依存的に増加したことが確認されている30)。
興味深いことにTRPV4と同じくPiezo1も炎症との関連が報告されている。慢性炎症状態を想定したマウスの脂肪細胞ではPiezo1が高度に発現し,肥満マウスでは健常マウスに比べてPiezo1発現が上昇したとの報告がある31)。また,Escherichia coli由来LPSによってマウスの骨髄由来マクロファージのPiezo1発現量が亢進したとの研究結果も示されている32)。このようにPiezo1もまた炎症とメカニカルストレスの両方に関連することから,歯周炎と咬合性外傷によって生じる歯槽骨吸収メカニズムに関与している可能性がある。
これまでに,Shenら33)は張力がヒト歯根膜細胞におけるPiezo1 mRNA発現を増加させ,RANKLの有意な上昇が生じることを示しており,さらにその後の骨芽細胞との共培養実験において張力負荷を受けた歯根膜細胞が骨形成能を有することが明らかとなっている。またWangら34)も2020年に骨形成に関する同様の結果を報告しており,両者ともにPiezo1を阻害することでこの骨形成能の促進は抑制されるとしている。さらに,ヒト歯根膜細胞に静的圧縮力を負荷することでRANKL発現量が亢進し,Piezo1アンタゴニストであるGsMTx4を添加するとそのRANKL発現上昇が抑制されたことから,Piezo1は歯根膜においてメカニカルストレスによって誘発される破骨細胞分化に関与していることが示唆されている35)。これらの結果からPiezo1は張力と圧縮力の両方を感知し,歯周組織における骨代謝をコントロールしていることがわかる。
我々はTRPV4と同様に,マウス骨芽細胞様細胞であるMC3T3-E1を用いて,Piezo1の歯周炎と咬合性外傷による歯槽骨吸収への関与を検討した36)。その結果,P. gingivalis由来LPSと回転振とう刺激によるメカニカルストレスの共存下では,TRPV4の場合と同じくmRNAレベルでRANKL/Osteoprotegerin(OPG)比の上昇が生じ,Piezo1アンタゴニストであるGsMTx4の添加あるいはPiezo1 siRNA導入によりこのRANKL/OPG比の上昇が抑制された。さらにウエスタンブロットによる検討を行ったところ,LPSとメカニカルストレスの共存下ではPiezo1を介してタンパク質レベルでRANKL発現の亢進が生じていることが明らかとなった。これまでに,メカニカルストレスによって活性化されたPiezo1の下流では細胞内のシグナル伝達物質であるERKのリン酸化が誘導されることが報告されており,また骨芽細胞にLPSを作用させるとERKのリン酸化によってRANKL発現が誘導されることがわかっている。我々はLPSとメカニカルストレスの刺激によって骨芽細胞でERKのリン酸化が誘導されることを確認した上で,Piezo1アンタゴニストGsMTx4がそれを抑制することを明らかにした。加えてGsMTx4の添加は,LPS刺激とメカニカルストレスの存在下で骨芽細胞様細胞とマクロファージを共培養することで得られたTRAP陽性細胞数を有意に減少させた。これらの結果から,LPSとメカニカルストレスは骨芽細胞に発現するPiezo1を介して,MEK-ERKシグナル経路を活性化させ,RANKLの発現を亢進させることで,破骨細胞分化を促進することが明らかとなった(図4)。また興味深いことに,同様の検討をヒト歯根膜細胞およびヒト歯肉線維芽細胞を用いて実施したところ,RANKLとOPGのいずれにおいてもPiezo1を介したmRNA発現の変化は認められなかった。歯槽骨のリモデリングには歯周組織に存在する様々な細胞が複雑に関わりあっているものと考えられるが,歯周炎と咬合性外傷によって生じる歯槽骨吸収へのPiezo1の関与については骨芽細胞がその中心となっているものと推察される。

Piezo1を介したLPSとメカニカルストレスによる破骨細胞分化の促進
骨芽細胞様細胞MC3T3-E1にP. gingivalis由来LPSとメカニカルストレスによる刺激を加えると,細胞内でERKのリン酸化が生じ,RANKL発現が亢進した。このRANKLは破骨細胞前駆細胞のRANKと結合し,破骨細胞分化が促進された。
歯周炎の存在下にメカニカルストレスによる咬合性外傷が生じると歯槽骨吸収が急速に進行するという臨床所見は,歯周治療の現場において日常的に遭遇する病態にも関わらず,その分子メカニズムについては完全には明らかとなっていない。また歯周治療における「炎症のコントロール」については,Löeらによる有名な“実験的歯肉炎”の論文をはじめとして,その必要性やアプローチ方法について実に多くの報告とエビデンスの蓄積がある一方で,「力のコントロール」については,その方法や介入時期について十分なエビデンスがあるとは言い難く,未だ議論の余地があるのが現状ではないかと考える。今回本稿で紹介した報告や我々の研究成果は,そのほとんどがin vitro研究の段階ではあるものの,歯槽骨吸収の将来的な分子メカニズム解明の一助となるものと期待している。今後,炎症とメカニカルストレスがもたらす歯槽骨吸収に対するTRPV4やPiezo1の関与がより一層確かなものとなれば,例えばこれらのイオンチャネルをターゲットとした阻害薬を用いた,「薬による力のコントロール」も可能になるかもしれない。しかしながら,前述の通り様々な疾患の病態解明のためにTRPV4やPiezo1に着目した研究が行われているものの,これらのイオンチャネルに対する阻害薬や拮抗薬を用いた治療法はいずれの疾患においても確立されておらず,その一部が肺疾患の臨床試験段階にあるに留まっている。歯周治療における臨床応用までには膨大な時間と労力が必要であることは間違いないが,メカニカルストレス応答性イオンチャネルに着目した研究のより一層の発展に期待したい。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。