日本歯周病学会会誌
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バイオマーカーを用いた歯周病スクリーニング・診断の基本事項
木戸 淳一廣島 佑香木戸 理恵板東 美香稲垣 裕司湯本 浩通
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2026 年 68 巻 2 号 p. 39-47

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はじめに

歯科健診としての歯周病のスクリーニングは,早期に歯の喪失予防に貢献するとともに糖尿病などの歯周病に関連した全身疾患の進行予防にとっても大切である。現在,歯周病の検診を行う場合,その検査方法は歯科医師や歯科衛生士による歯周ポケット深さ測定や歯周組織の視診などの臨床的検査法が主である。これらの検査法で歯周病スクリーニングを行うためには歯科医療従事者のマンパワーや専用の器具が必要であり,また口腔内の全ての歯および歯周組織について測定,評価を行うには被検者1人当たりに相応の時間を要する1)。一方,受診者においても歯周病の発症が中高年齢者に多いことから仕事や家事などで忙しく,時間のかかる検査は敬遠されるのが現状である。現在,歯周病検診を含む歯科健診を実施している市町村は全体の約80%であるが,その検診の受診率は約5%と決して高くない1)。特に就労者年齢層の受診率が低いことが報告されている。このような現状に対して2022年に厚生労働省から歯科口腔保健の推進に向けて,いわゆる「国民皆歯科健診」の実施が提唱され,歯周病スクリーニングのための具体的な方法の検討や支援が行われている1-3)。この国民的歯科健診での歯周病スクリーニング法は従来から行われてきた臨床的な検査方法ではなく,被検者検体中のバイオマーカーを用いた歯周病の検査法や新たなスクリーニングシステムが注目され,研究が行われている1,2,4-7)

バイオマーカーを用いた歯周病のスクリーニング・診断法には,主に原因となる歯周病原細菌の検査(特異的酵素活性や遺伝子の検出)や,歯周組織由来で歯周病病態を反映する生体物質を用いた検査がある8-10)。両者のバイオマーカーの検査法にはそれぞれの特徴があるが,歯周病病態に直接関連する歯周組織の炎症や組織破壊の状態をより具体的に反映するには歯周組織由来の生体物質をバイオマーカーとして用いる方がわかり易いと思われる。そこで本稿では,“歯周組織由来の生体物質”をバイオマーカーとして用いた歯周病スクリーニング・診断法について,実施する際の基本的事項および問題点について概説する。

検体と採取

歯周病をスクリーニング・診断するためのバイオマーカーを含む検体として生体液やプラークが用いられる(表1)。生体液には歯肉溝滲出液(Gingival crevicular fluid:GCF),唾液および血液などがある。GCFは歯周組織局所における歯周病を診断するための検体であり,歯周組織の炎症,組織破壊や骨吸収などを示す各種バイオマーカーを測定することにより歯周組織局所の病態の診断が可能となる11,12)。一方,唾液や血液は被検者の口腔内全体の状態を反映する検体であることから歯周病のスクリーニングに適しており,個人の診断ばかりでなく集団を対象とした歯周病検診での利用が考えられる9,13-15)。唾液や血液には,歯周組織の炎症や組織破壊のレベルを示すバイオマーカーばかりでなく,歯周病の重症度との関連が示唆されるC反応性タンパク質(C-reactive protein:CRP)や歯周病原細菌に対する血清抗体価のように生体の感染程度を示すマーカーを含んでいる4,16)。また,プラークは歯周病原菌細菌レベルの評価に用いられ,歯周組織局所の歯周病状態の診断に用いられている8,17)

検体の採取法について,唾液は最も簡便であり,採取容器に吐出するだけで非侵襲的に採取できる。唾液採取には,採取前に唾液分泌を促す物質や専用ガムを口腔内に含みその後採取する方法(刺激性唾液),口腔内を水ですすいだ後に採取する方法,あるいは全く前処理を行わず自然に唾液を吐出する方法(非刺激性唾液)などがある18-21)。GCFは滅菌したペーパーストリップスを歯周組織局所に軽度に挿入し,非侵襲的に吸引採取する22)。また,プラークはペーパーポイントや採取専用器具を用いて擦過採取する。一方,血液は,専用の指尖採血用器具や通常の注射筒を用いて採血により侵襲的に採取する。これらの検体採取法を比較すると,唾液は非侵襲的かつ簡便に採取できるため被検者への負担が少なく,歯周病のスクリーニングに適した検体であると考えられる。

表1

歯周病のスクリーニング・診断のためのバイオマーカー検体の特徴

バイオマーカー

歯周病の診断やスクリーニングのためのバイオマーカーは,以前から多くの生体物質や歯周病原細菌などが研究されている8-15),23)(表2)。これらのバイオマーカーの詳細についてはそれぞれの総説に譲るが,歯周病マーカーとしての可能性が研究されている段階の物質から実際に診断・スクリーニングマーカーとしてキットが市販されているバイオマーカーもある24,25)。マーカー生体物質については,歯周病の病態から炎症,免疫,組織破壊および骨代謝に関連する様々な物質が研究されているが,実際に行われる歯周病の検診では,マーカーの検体中の濃度が高く,歯周病診断の精度が良好で,検体の保存時のマーカー物質の安定性も高く,さらに測定がより簡易に可能なバイオマーカーが望まれることから核酸などより生体由来のタンパク質のマーカー利用が有利と考えられる。診断マーカー候補の生体物質として,その生理的役割により炎症関連サイトカイン類(Interleukin 1β:IL-1β,IL-6,IL-8,tumor necrosis factor-α:TNF-αなど),カルプロテクチン,CRP,Prostaglandin E2やMacrophage inflammatory protein 1α(MIP-1α)など炎症反応に関連するタンパク質,あるいは測定キットが販売されているHemoglobin(Hb),歯周組織の破壊に関連するAlkaline phosphatase(ALP),Aspartate aminotransferase(AST),Lactate dehydrogenase(LDH)などの酵素,また組織リモデリングや炎症に関連するMatrix metalloproteinase(MMP-8)などが知られている9,20-23),28,29)。特に唾液中のカルプロテクチン,Hb,IL-1β,LDHやactive MMP-8(aMMP-8)は歯周病スクリーニング能力が高く18,20,21,30,31),さらにカルプロテクチンやLDHの唾液レベルは高い歯周病診断能を示す臨床的指標であるPeriodontal inflamed surface area(PISA)とも強い相関関係を示す21,32)。また歯槽骨吸収程度を評価するバイオマーカーとして骨代謝に関連したCross-linked N-telopeptides of type I collagen(NTX),Osteocalcin,Osteoprotegerin(OPG)やReceptor activator of unclear factor-κB ligand(RANKL)などが研究されている10,33,34)

歯科健診で歯周病スクリーニングを実施する場合には,単一のバイオマーカーを簡易な方法で測定する方法が合理的である。この場合,検体は唾液や血液が有利であり,バイオマーカーとしては口腔内での歯周病の有無を評価するために炎症性のマーカーあるいは組織破壊のマーカーの選択が優位と考えられる。検体が唾液や血液の場合,GCFと比較して検体量が多いためバイオマーカーの選択に際してGCFの場合ほど検体中のマーカー濃度の問題を考慮する必要性は低い。一方,歯周病を伴う歯周組織局所の病態を詳しく診断するには炎症,組織破壊や骨吸収などの病態に関連する複数のバイオマーカーを用いて総合的に歯周病を評価する必要がある。この際,検体としてGCFが用いられるが,その液体量は数μL以下であり,この検体量から複数のバイオマーカーを測定するためには,GCF中の濃度が高いマーカー物質を選択することや高感度な測定法が必要となる。

表2

歯周病のバイオマーカーの種類

測定法とデバイス

歯周病のスクリーニング・診断においてバイオマーカーを測定する方式は,検査現場で即時に測定するPoint of Care Testing(POCT)方式と,集団検診などの多数の検体を一度に分析する集中測定方式に大きく分けられる(図1)。前者は,個人が自宅や薬局などで,あるいは歯科医師や歯科衛生士が歯科医院でGCFや唾液を採取し,その場で即時に簡易デバイスを用いてマーカー測定する方式である(図2)。後者は,自治体や企業における集団歯科健診で,歯周病のスクリーニング検診として唾液や血液を採取し,検体を分析企業に送り,特定のマーカー物質を集中測定する方法である(図2)。POCTの方式としては,測定するマーカーの種類によりいくつかの方法が知られている。例えば,潜血(Hb)の場合,ペルオキシダーゼ様作用に基づく比色法や金コロイド標識ヒトHb抗体を用いた抗原抗体反応に基づく方法がある35,36)(表3)。ASTやLDHなどの酵素の場合は,チップや試験紙上で酵素-基質反応を起こしその比色により酵素活性を半定量する方法が知られている37,38)。これらの酵素の測定キットの操作方法は簡単であるが,酵素反応が時間依存性であり決められた時間を過ぎると発色反応が進み正しい結果を得られないため,検体(酵素)と基質の反応開始後必ず一定時間で比色判定する必要がある。一方,タンパク質マーカーであるカルプロテクチンでは,一般的なEnzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)法やこれを応用したイムノクロマト(Immunochromatography:IC)法を用いて測定される22,39,40)。また,total MMP-8ではELISA法により,aMMP-8は主に蛍光免疫反応法より測定されており,蛍光免疫法に基づくICチップも市販されている20,31,41)。特に,ICチップを用いた測定は,操作が簡易であり,測定時間は短く,酵素反応のように判定時間の制約もないため,利便性が高い測定法と言える。また,ICチップデバイスは歯科診療室や小規模な歯科健診での歯周病検査だけでなく,個人によるセルフスクリーニングとしてもPOCT的に使用することができる(図2)。

多数の検体を企業ラボで集中的に測定する場合もバイオマーカーの種類によっていくつかの測定法が行われている。例えば,唾液Hbは,金コロイド比色法やラテックス凝集反応による免疫比濁法を用いて測定されている36,42)。ASTやLDHなどの酵素マーカーでは,それぞれの酵素-基質反応試薬と関連する自動分析装置を用いて測定する43,44)。カルプロテクチンではラテックス凝集免疫比濁法に基づく反応キットを用い自動化学分析装置で測定する方法45),またaMMP-8やtotal MMP-8ではELISA法や免疫蛍光測定法(Immunofluorometric Assay:IFMA)などの測定法が報告されている20,31,41)。いずれにしても複数検体の集約的な分析・測定には各種の分析装置が応用されることが多い。

図1

歯周病のスクリーニング・診断におけるバイオマーカー測定の流れ

各項目間を結ぶ線の太さは関係の強さを示す

図2

歯周病のスクリーニング・診断におけるバイオマーカー測定のイメージ

図中のイムノクロマトチップは文献40)の研究で使用したもの

表3

主なバイオマーカーの測定法

バイオマーカーによる歯周病のスクリーニング・診断の問題点

バイオマーカーを用いて歯周病のスクリーニング・診断を行うためには,現状でいくつかの問題がある。先ず,検体採取方法の違いである。GCFや血液の採取は殆ど一定の方法で行われているが,唾液の採取では,パラフィンガムを噛む刺激や酸性液による口腔洗浄後に採取する刺激性唾液,あるいは水による口腔内の濯ぎ後に採取,または全く前処理を行わず採取する無刺激性唾液の採取などが報告されている18,19,21,46,47)。これらの検体採取の前処理の有無による測定マーカー濃度への影響の詳細は調べられておらず,バイオマーカーの種類により検体採取の前処理の要否が異なることも考えられる。今後,検体採取時の前処理のマーカー濃度への影響を検討するとともに個々のバイオマーカーに適した検体採取法の標準化が必要である。

次に,検体保存条件の問題がある。検体採取後バイオマーカーの測定時までの検体保存法はバイオマーカーの種類やその安定性により影響を受ける。酵素や歯周病原細菌の血清抗体の一部の個人向け市販歯周病検査キットでは,唾液,GCFや血液などの検体を採取後,分析企業へ室温状態で郵送するためマーカー測定までに数日を要する。一方,集団検診では検体は採取後冷蔵・冷凍状態にて輸送され,翌日中には測定される場合が多い。この際,測定までの検体の温度管理がバイオマーカーの安定性やそれらの濃度に影響を及ぼす可能性もある。例えば,唾液中のALPやLDH活性は検体を-20℃で保存した場合3~7日後から減少がみられ,28日後にはそれぞれ採取時と比較して39%と16%に低下する48)。また,血清中のASTやLDH活性は検体が-10℃で7日間保存された時には大きな低下を示したが-30℃では比較的安定であった49)。これらの報告は,検体中のALP,ASTやLDHなどの酵素マーカーは温度安定性の問題点があることを示唆している。一方,カルプロテクチンは,糞便中でも数日間は冷蔵で安定であり,-20℃では長期間安定である50)。糞便中カルプロテクチンの回収率は4℃,21日間で平均97.3%,25℃で3日後に95.0%であった51)。滑液中のカルプロテクチンも4~8℃で7日間,-20℃で6週間の長期間は安定であったと報告されている52)。このような結果からカルプロテクチンは温度安定性に優れる疾患診断用のバイオマーカーであることがわかる。一方,酵素であるMMP-8の正確な温度安定性は明らかではないが,唾液MMP-8をマーカーとして評価した複数の論文では唾液検体の採取後,直ぐに測定を行わない場合は-80℃に保存し測定されている20,41)。これらの報告から,歯周病スクリーニングに用いるバイオマーカーは温度安定性が高い物質ほどマーカーとして扱い易く,集団歯周病検診での有用性が高いと考えられる。

さらに,検体中のバイオマーカーの濃度は測定するデバイスやシステムの選択に影響を及ぼす可能性がある。例えば,Leeら41)は,健常対照者と歯周病患者の唾液中のaMMP-8濃度をELISA法にて測定した場合,唾液中aMMP-8の平均濃度は健常対照者群で119.10 ng/ml,歯周病の国際分類53)に基づく歯周炎のステージII,IIIおよびIVの歯周病群ではそれぞれ190.57,281.87および288.35 ng/mlであったと報告している。また,Umeizudikeら20)によるIFMA法を用いた測定では,健常者群の唾液中のaMMP-8の平均濃度はおよそ250 ng/mlで,歯周病群では約600 ng/mlであった。一方,唾液中カルプロテクチン濃度はラッテクス凝集反応法を用いて測定した場合,非歯周病を含む対照群で82.0 μg/ml,歯周病群ではステージII,IIIおよびIVでそれぞれ244.5,404.7および596.4 μg/mlであった21)。また,ELISA法を用いた場合でも唾液中のカルプロテクチン濃度は健常群で16.2 μg/ml,歯周病群で47.8 μg/mlと報告されている18)。これらの結果から唾液中カルプロテクチン濃度は,aMMP-8濃度と比較してかなり高い値であることがわかる。実際に,唾液中のカルプロテクチンは通常のELISA法で測定されるが18,19),検体中濃度の低いaMMP-8の測定には蛍光測定法であるIFMA法やELISA法が用いられており,aMMP-8では測定系の感度やコストの問題も推察される20,31,54)

今後の展望

バイオマーカーを用いた歯周病のスクリーニング・診断の展望として二つの方向性が考えられる。一つは,国民皆歯科健診に対応した集団的歯周病検診への応用である。この場合,検体として非侵襲性に採取が可能な唾液が適当であると考えられる。唾液中のバイオマーカーのうち歯周病の診断精度が高く,かつ保存安定性が高いマーカーを選択することが重要である。選択したマーカーレベルの測定は処理操作の簡易性,測定時間,またその経済的な合理性を考慮して測定システムを選ぶ必要がある。もう一つは,個人や歯科診療室におけるPOCTを想定した歯周病検査である。この場合は検体としてGCF,プラーク,唾液や血液などが考えられるが,特に非侵襲的に採取が可能なGCFおよび唾液が有用となる。この2つの検体は,特定の歯周組織局所での歯周病の診断を目指すか,あるいは口腔内全体としてスクリーニングするかにより選択される。単一のバイオマーカーの測定ではPOCTとしてICチップのような簡易で,測定時間が短い測定デバイスの開発が望まれる。私たちは以前マイクロチップELISA法を用いたGCF中カルプロテクチンの測定法を報告したが,このマイクロELISA法では複数のマーカーを同時に測定することも可能である55)。将来,歯周組織の炎症,組織破壊や骨吸収などの歯周病病態を総合的に診断するために複数のバイオマーカーを用いた“歯周病診断チップ”やその分析システムの開発が進めばバイオマーカーを用いた歯周病の詳細な病態分析が可能となり,これらの診断法を用いて新たな歯周病治療法の開発にも貢献すると考えられる。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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