2026 年 68 巻 2 号 p. 48-58
目的:口腔内写真は診断や治療計画に広く用いられるが,歯周炎の活動性を示すBleeding on Probing(BOP)を直接評価することはできず,従来はプロービング操作に伴う不快感や出血リスクが避けられなかった。本研究では,プロービング前に撮影された口腔内写真からBOPを予測するAIモデルを構築し,歯科医師の判定と比較することを目的とした。
材料および方法:朝日大学医科歯科医療センターを受診した254名から得た427枚の上顎前歯部写真を対象とし,BOPの有無を正解ラベルとしてニューラルネットワークによるディープラーニングを実施した。学習にはAlexNetテンプレートと自動最適化ネットワークを使用した。また,同一画像を歯科医師10名が独立して評価し,AIとの判定精度を比較した。
成績:AlexNet初期状態の正解率は50.0%であったのに対し,自動最適化ネットワークでは80.7%と高い精度を示した。歯科医師の正答率は最高72.9%,平均67.0%であった。
結論:口腔内写真を用いたBOP予測AIは歯科医師と同等以上の精度を示し,非侵襲的に歯周炎の活動性を推定できる有用な手法となる可能性が示唆された。今後は全顎的フォーマットやPISA推定,スクリーニング・セルフケア支援への応用を検討したい。
Purpose: Intraoral photographs are widely used for diagnosis, treatment planning, and documentation in the field of dental surgery; however, directly assessing disease activity from these images remains challenging. Bleeding on probing (BOP) is a key clinical indicator of periodontal inflammatory activity, yet conventional assessment requires probing with its attendant discomfort and bleeding risk. This study was aimed at developing an AI-based model to predict BOP from pre-probing intraoral photographs and to compare its performance with that of periodontists.
Methods: A total of 427 intraoral photographs of the maxillary anterior teeth obtained from 254 patients who visited the Asahi University Medical and Dental Center were analyzed, and deep learning using a neural network was established with the presence or absence of BOP as the ground-truth label. AlexNet architecture and an automatically optimized network were employed as the training models. The same images were also independently evaluated by ten dentists, and their assessments were compared with the AI predictions.
Results: The accuracy of AlexNet for predicting BOP was 50.0%, whereas that of the automatically optimized network was 80.7%. The diagnostic accuracy for periodontists ranged from 72.9% (highest) to an average of 67.0%. The AI model demonstrated higher accuracy as compared with the periodontists.
Conclusions: The AI model for predicting BOP from intraoral photographs exhibited diagnostic performance comparable to or exceeding that of the periodontists, suggesting its potential clinical applicability. Future directions include developing a full-arch framework, estimating periodontal inflamed surface area (PISA) and exploring applications in screening and self-care support tools.
我々が生活を行っていくうえで,人工知能(Artificial Intelligence:AI)は様々な分野で利用されており,業務の効率化や生産性の向上などのメリットがある1)。
AIは1956年のダートマス会議にて,「知的な機械」特に,「知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」であるとMcCarthらによって提唱された2)。このAIは一般的には人間の知能を模倣した機械やシステムのことを指し,具体的には,学習,推論,問題解決,認識,判断,計画など,人間の知的活動をコンピュータに実行させる技術のことである。AIの広い分野の一つとして機械学習があるが,これはコンピュータが大量のデータを元に特徴やパターンを学び,予測や識別が可能になる技術である3)。深層学習(Deep Learning)は機械学習の一種で,人間の脳の神経細胞(ニューロン)の働きを模倣したニューラルネットワークを用いた学習方法である。深層学習の特徴として,入力されたデータの特徴量を自動で抽出を行い,多層ネットワークを構成し,高度なパターンや関係性を学習する。
医療分野ではその技術が臨床応用されており,コンピュータ支援診断/検出(Computer Aided Diagnosis/Detection:CAD)があげられる4)。この背景として,ディープラーニングには並列的な処理ができる優れた演算能力が必要とされるため,近年のGPU(Graphics Processing Unit)の性能向上により画像認識精度は大きく上昇した。医科では胸部エックス線画像から肺腫瘤,肺炎,肺結節,結核,胸水等の検出5-7),CT画像を用いて肺結節を検出するなど応用が報告されている8,9)。内視鏡画像領域では,胃がんを自動検出や結腸直腸病変を検出に応用されている10,11)。その他,病理組織画像や写真からAIを用いて解析し,乳がん,皮膚がんさらには網膜疾患を検出することが可能であることが報告されている12-17)。
近年,歯科医療分野でもその技術が応用され,CADシステムを用いてさまざまな画像診断等において開発とその臨床応用が試みられている。口腔内エックス線画像から歯列認識18-20),画像の自動分類21),う蝕や根尖病変の認識22-24),根分岐部病変の認識25),第三大臼歯と下顎神経の自動検出26),患者情報のプロファイリング27)などへの応用が報告されている。歯科用コーンビームCT(CBCT)を用いた歯種の分類28)も報告されている。口腔内写真画像データを用いて補綴装置や修復物の自動検出29),歯列欠損の分類30),患者自身で撮影した口腔内写真を用いた遠隔診療31)等の研究報告がある。この技術を用いることで歯科疾患の事前診断や治療が可能となり診療の必要性や治療内容の事前告知を受けることとが可能となる。現在歯科医療の現場では撮影された口腔内写真は,診断や治療計画の立案,治療の記録,患者説明としての資料,セルフコントロールにおけるモチベーション向上ツールとして活用されている32-36)。
この口腔内写真の更なる活用法として画像データから直接,歯周疾患活動性を予測できないかと考えた。従来,歯周検査として歯周プローブを用いて歯肉辺縁からポケット底部の距離(probing depth:PD)が用いられ,歯周組織破壊程度を検査している。測定の際,歯周プローブを25 g前後の挿入圧で行うが,挿入後に出血するかどうかを判断し,出血の有無によりBleeding On Probing(BOP)を算出し疾患活動性を確認している37-41)。炎症がポケット内壁に存在する場合,上皮・結合組織が破壊されているため,毛細血管が損傷し出血を伴う。しかし,本検査方法は術者によって差が生じ易く,炎症が強く発現している局所では痛みや不快感が生じることもある。
そこで我々は,歯周疾患活動性を評価するためにプロービング前の口腔内画像と,プロービング後の出血の有無をAIに学習させ,非侵襲的なBOPの予測モデルを構築した。構築したモデルの有用性を評価するため,口腔内写真画像からBOP陽性であるかどうかを歯科医師に推察させ,AIによる診断結果と比較し,AIによる診断の有用性を検討した。
本研究で使用した口腔内写真画像は,朝日大学医科歯科医療センター歯周病科に来院した歯周病患者で撮影された上顎左右中切歯の口腔内写真と歯周基本検査から得たBOPのデータを用いた。BOPの有無は,歯周基本検査時に歯周病科に所属する歯科医師が,標準的手技に従って歯周プローブを用いて判定し,その診療記録に基づいてラベル付けを行った。画像データの取り出し時は患者情報の保護のため画像データ以外の患者情報(年齢,性別,患者番号,画像撮影時間等)の抽出は一切行わず,取り扱いに関しては,個人情報保護委員会のガイドライン,匿名加工情報の取り扱いに準拠して行った42)。本研究は朝日大学倫理審査委員会(2021年1月29日,承認番号:32023)の承認を得て実施した。
2. データ処理およびAI構築254名の患者から得られた上顎左右中切歯の口腔内写真画像427枚に対してデータ処理を行った。辺縁歯肉の評価を行うため,左右歯間乳頭部を直線で結んだ歯冠周囲歯肉のトリミングを実施した(図1)。画像ピクセルサイズは縦1000,横1000の正方形に規定した。また,左右反転を行い疑似的に反対側の歯種を作成した。その後,露出量の変更として-0.25,-0.5,-0.75,+0.25,+0.5,+0.75の各データを用意し14倍にデータ拡張を行い,計5978枚を使用した。各画像には,臨床記録に基づきプロービングによって得られたBOPの有無をラベルとして付与した。ディープラーニングモデルの学習に用いる教師データおよび性能評価に用いる試験用データを以下のように分割した。教師データは,モデルが特徴を学習するために使用されるデータであり,全データの80%をランダムに抽出して構成した。残りの20%を試験用データとして,学習に使用しないデータでモデルの汎化性能を評価した。これによる教師データ5698枚および試験用データ280枚としての内訳を表1に示す。教師データおよび試験用データは画像単位で分割し,学習・評価データと試験用データには同一の口腔内写真画像が含まれないようにした。
本研究のディープラーニングには,Neural Network Console(NNC,SONY)を用いた。ハードウェア環境はCPU:Core i7-13700F,16core,2.10 GHz,メモリー:16 GB,GPU:NVIDIA GeForce 3060Tiで,ソフトウェア環境はOS:Windows 11 Proを用いた。使用したモデルはAlexNetおよび自動探索にて構築したモデルを用いた。ネットワーク構造の自動最適化時,評価データセットでの精度や乗加算回数で探索範囲を限定するため検索範囲のValidation(評価データセットの誤差)を0.05,Multiply Add(乗加算回数)で,Max(上限)を2,000,000,学習回数(Epoch)を40に設定した。
本手法では,設定した探索範囲内において,畳み込み層数,フィルタ数,活性化関数,結合構造などを組み合わせた複数のネットワーク候補が自動生成され,評価データセットにおける性能に基づいて探索が行われる。探索時の評価指標にはValidation誤差を用い,過学習を抑制しつつ汎化性能の高いモデルを選択することを目的とした。最終モデルは,評価データセットにおいて最も低い誤差を示し,かつ計算量制約を満たしたネットワーク構造を採用した。本研究では,このように性能と計算効率のバランスを考慮して自動探索により選択されたモデルを用い,試験用データに対する性能評価を行った。

歯肉辺縁トリミングの一例

データセットの内訳
254名の患者から得られた上顎左右中切歯の口腔内写真427枚に対し,左右反転および露出変化によるデータ拡張を行い,教師データ(training)と試験用データ(test)に分割した各クラス(BOP陽性・陰性)の枚数を示す。
上顎左右中切歯の口腔内写真画像280枚を用いて,評価手法は全体の真陽性,偽陰性,偽陽性,真陰性より正解率,感度,特異度,適合率,F値を算出,ROC曲線によって各モデルの評価を行った。カットオフ値は0.5に設定し,予測確率が0.5以上の場合をBOP陽性,0.5未満を陰性として二値分類を行った。本研究では,臨床応用時の簡便性と再現性を考慮し,標準的なカットオフ値を採用した。
正解率,感度,特異度およびAUCの95%信頼区間は,SPSS ver.27(IBM,Armonk,NY,USA)を用いて算出した。
4. 歯科医師によるBOP識別評価歯周病科で診療を行う歯科医師10名に対し,同一の試験画像280枚を無作為化順序で提示し,1枚あたり3秒でBOPの有無を二者択一で判定させた。提示は戻り不可の単盲検とした。各歯科医師の正解率を算出し,平均値と最高値を記録した。評価に参加した歯科医師10名は,歯周病診療に従事する歯科医師であり,臨床経験年数は3年以上17年未満であった。
5. LIMEによる分類寄与の視覚的評価LIME(Local Interpretable Model-Agnostic Explanations)は機械学習モデルを用いて分類する際に,判断理由を説明するためのアルゴリズムのことである。判断に対する各特徴量の寄与度を算出することができ可視化可能となる。今回NNCに搭載されているプラグインのLIMEを用いて評価部分を確認した。
AlexNetを用いて検出判定するのに要した時間は23秒であり,結果は真陽性0枚,偽陰性140枚,偽陽性0枚,真陰性140枚で,正解率50%,感度0%,特異度100%,適合率0%,F値0.3333であった。自動探索にて構築したモデルを用いて検出判定するのに要した時間は12秒であり,結果は真陽性114枚,偽陰性26枚,偽陽性28枚,真陰性112枚で,正解率80.7%(95%信頼区間:76.1-85.3%),感度81.4%(95%信頼区間:74.9-87.9%),特異度80.0%(95%信頼区間:73.3-86.7%),適合率80.2%,F値0.8084であった(表2)。
モデル間の比較に関してはROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を求めAlexNetは0.50,自動探索モデルは0.821(95%信頼区間:0.768-0.873)と自動探索にて構築されたモデルの方が有意に高い結果となった(図2)。

AlexNetおよび自動探索構築モデル精度評価
各モデルの混同行列および性能指標(正解率,感度,特異度,適合率,F値)を示す。自動探索モデルはAlexNetと比較して高い判別性能を示した。

各モデルROC曲線
280枚の口腔内写真画像を1枚当たり3秒間で提示したため,要した時間は840秒であった。本研究に参加した歯周病科歯科医師による最も正解率の高いもので真陽性102枚,偽陰性38枚,偽陽性38枚,真陰性102枚で,正解率72.9%,感度72.9%,特異度72.9%,適合率72.9%,F値0.7285であった。全体での平均正解率は67.0±3.7%であった。なお,歯科医師間の回答の一致についてFleiss’κを用いて評価したところ,κ = 0.50を示し,中等度の一致度と判定された。
3. LIMEによる分類寄与の視覚的評価AlexNetと自動探索モデルにてBOP(+)のラベル画像に対してAlexNetは不正解,自動探索モデルでは正解したLIME抽出画像の一部を示す(図3)。AlexNetでは寄与が歯質や照明に分散し,辺縁歯肉への寄与が乏しい傾向がみられた。一方,自動探索モデルでは辺縁歯肉―とくに出血部位近傍―に寄与が集中する傾向が確認された。

各モデルLIME比較画像
Deep Learningのネットワーク構造を比較した。AlexNetは27層,自動探索モデルは33層であり,後者では層数が増加していた(図4, 5)。

Alexnetによるディープラーニングのネットワーク構造

自動探索モデルによるディープラーニングのネットワーク構造
学習曲線(エポック40)を示す。AlexNetでは学習誤差の低下に対し評価誤差が高止まりし,両者の乖離が持続した。一方,自動探索モデルでは学習誤差・評価誤差ともに低値へ収束し,両者の乖離が小さい推移を示した(図6, 7)。

Alexnetによるディープラーニングの学習曲線

自動探索モデルによるディープラーニングの学習曲線
本研究は,プロービング前に撮影された口腔内写真のみからBOPを予測するAIモデルを構築し,歯科医師の判定と比較した点に新規性がある。試験画像280枚において,自動探索モデルは正解率80.7%,感度81.4%,特異度80.0%,適合率80.3%,F値0.8084を示し,本研究に参加した歯周病科歯科医師の平均正解率67.0%(最高72.9%)を上回った。
BOPの検査は歯科医師または歯科衛生士がプロービングを行う必要があり視診だけで判断されるものではない。Langらは,BOPの増加に伴い付着喪失の発生割合が高まることを報告しており,BOP評価の臨床的重要性は明らかである43)。実際の判定では,辺縁歯肉の形態や色調の微妙な変化を捉え,照明や反射の影響を補正しつつ歯質情報を視覚的に除外して総合判断している。こうした多次元の知覚統合は,臨床家が日常的に行っている高度な情報処理であり,今回の結果からも非侵襲かつ短時間で判定可能な画像AIの有用性が示唆された。これらは診断の代替ではなく,遠隔診療や健診の場面などプロービングが困難な状況における補助的評価,あるいは患者説明に用いる非侵襲的な予測指標として,口腔内写真からBOPを推定できる可能性がある。
本研究で用いたディープラーニングモデルは,BOP陽性/陰性の二値判定に加え,各症例に対してBOP陽性となる予測確率を算出している。この連続的な確率値は,歯肉炎症の程度を反映した歯肉炎症リスクスコアとして解釈できる可能性があり,単回の診断補助にとどまらず,リスク層別化やメインテナンス期における経時的モニタリング,精査・再プロービング部位の優先順位付けなどの応用が期待される。特にプロービングが侵襲的かつ術者依存性を有することを考慮すると,口腔内写真のみから非侵襲的に取得可能な連続指標は,患者負担の軽減や診療効率向上の観点からも臨床的意義が大きいと考えられる。
ただし,予測確率値を臨床指標として用いるためには,BOP以外の炎症指標(GIやPISAなど)との関連性の検証,確率値のキャリブレーション,および撮影条件の標準化や多施設データを用いた外部検証が今後の課題である。
AIは画像上の統計的パターンから規則性を学習するものであり,人と同様の推論過程をとるわけではない。高精度化には枚数の確保に加え,ラベル品質と条件多様性が不可欠である。今回,AlexNetは全例を陰性と判定して感度0%を示したが,この結果は単純な過学習のみでは説明できず,いくつかの技術的要因が関与した可能性が考えられる。
第一に,AlexNetは比較的浅い層構造と大きな畳み込みカーネルを特徴とする旧来アーキテクチャであり,表現力に限界があった可能性がある。表現力の限界,前処理・拡張との不適合,固定閾値に由来する判別境界の偏りが複合的に影響した可能性がある。第二にLIMEによる可視化でも寄与が歯質側に分散し,辺縁歯肉への着目が乏しい傾向が示唆された。これに対し自動探索モデルでは寄与が辺縁歯肉,とくに出血部位近傍に集中する傾向が確認され,陽性検出能が確保された。実施した露出変化や左右反転を中心としたデータ拡張は,自動探索モデルにおいては有効に機能した一方で,AlexNetでは照明条件や歯質情報への依存を助長し,歯肉領域に着目した特徴学習を阻害した可能性がある。なお,LIMEは局所近似に基づく解釈支援であり,病理学的確証を直接与えるものではない点には留意が必要である。第三に,学習率や重み初期化,最終層における判別閾値設定などのハイパーパラメータが,本データセットに最適化されていなかったことも,判別境界が陰性側に偏った一因と考えられる。
学習曲線の挙動もこれと整合し,AlexNetは学習・評価誤差の乖離が大きく過学習が疑われたのに対し,自動探索モデルは両者の差が小さく滑らかに収束し,汎化性能の観点で望ましい挙動を示した。
診療フローへの影響を時間と精度の両面から見直すと,歯科医師が画像1枚を3秒で判定する条件下でも,唇頬側・口蓋(舌)側の全28歯に相当する視野を評価するには合計168秒を要する計算となる。一方,AIの推論は280枚で12秒(1枚当たり約0.043秒)であり,全顎相当の56視野としても約2.4秒で判定可能である。精度面でも最良の歯科医師に対して約7.8ポイントの上乗せが得られた。これらは,チェアサイドの迅速なトリアージ,メインテナンス時のリスク層別化,再プロービングの優先順位付け,患者説明における可視化フィードバックなどで,画像AIが補助的価値を持ち得ることを示す。
画像認識の堅牢性について,本研究では露出変化と左右反転を中心に耐性向上を図ったが,臨床画像にはホワイトバランス,唾液や器具による反射・遮蔽,歯肉退縮や歯間下部鼓形空隙,照明の不均一など多様なばらつきが存在する。短期的には,色校正チャートの導入による基準化,歯肉領域のセマンティックセグメンテーション併用による関心領域の限定,色調・ノイズ・ぼけを含む拡張の多様化,照明不均一の補正が有効と考えられる。最終的な目標は,多施設・多機種・多条件の大規模データを拡充し,撮影条件のばらつきをデータ側に内包させることで,こうした精緻な前処理への依存を段階的に不要化することである。この方針は運用負荷を下げ,施設間の展開性と保守性を高めるうえで合理的である。
本モデルはBOPを指標とした二値分類を目的として構築したが,健常者の口腔内写真を加えることで,「健常」「軽度歯肉炎」「歯周炎」を鑑別する多クラス分類モデルへ拡張することも理論的には可能であり,重症化予防の観点からも有用な発展形と考えられる。このような多クラス化が実現すれば,炎症の早期段階におけるリスク検出や,進行段階に応じた介入タイミングの判断支援など,スクリーニングツールとしての臨床的価値が高まる可能性がある。
一方で,技術的課題も少なくない。第一に,健常と軽度歯肉炎の境界は形態的・色調的差異が微小であり,画像情報のみからの識別は難易度が高いことが想定される。第二に,歯周炎は付着喪失や骨吸収といった深部組織の変化を本質とするため,口腔内写真単独では病態情報が不十分となる可能性がある。第三に,多クラス分類ではクラス間のデータ不均衡が性能に大きく影響するため,十分な症例数の確保と,診断基準を統一した高品質なラベリングが不可欠である。
これらの課題に対しては,口腔内写真に加えて歯周基本検査値やエックス線画像を統合するマルチモーダル学習,あるいは歯肉領域のセグメンテーションを併用した段階的分類などが有効なアプローチとして考えられる。本研究はBOP予測に焦点を当てた基礎的検討であるが,今後はこうした拡張により,歯周疾患の重症化予防を目的とした包括的リスク評価モデルへ発展させることが課題である。
本研究の限界として,単施設の後ろ向き研究で外的妥当性が限定され,対象が上顎前歯部に偏っている点が挙げられる。学習・評価データと試験用データに同一画像が含まれないよう配慮したものの,データ分割は患者単位ではなく画像単位で行った。このため,同一患者に由来する別画像が両データセットに含まれた可能性があり,モデル性能が過大評価されている可能性は否定できない。今後は,患者単位での分割や外部検証コホートを用いた検証により,モデルの汎化性能を検討する必要がある。なお,BOPは臨床において歯種あるいは部位ごとに評価される炎症指標であり,患者単位で評価する場合であっても,複数部位を個別に検証する必要がある。また,AUC比較やMcNemar検定のp値,95%信頼区間の体系的提示,ラベリング規則や閾値設定・確率キャリブレーションの明示も,今後の報告で補完すべきである。
以上のことから,口腔内写真のみでBOPを予測する本アプローチは,人の平均成績を上回る精度と実用的な推論速度を示し,非侵襲・術者負担の軽減・即時判定という特長を備える。今後は,口腔内写真で標準とされる5~11面観を含む全顎・多視点への拡張,PISAやGIの同時推定を視野に入れたマルチタスク化,説明可能性の強化と撮影標準化の両立を進めることで,臨床導入に耐える汎用モデルへ成熟させたい。
プロービング前に撮影された口腔内写真のみからBOPを予測するAIモデルを構築し,本研究に参加した歯周病科歯科医師の判定と比較した結果,自動探索モデルが正解率80.7%,感度81.4%,特異度80.0%,適合率80.3%,F値0.8084を示し,歯科医師による経験的診断の平均成績(67.0%,最高72.9%)を上回る精度と,全顎を数秒で判定可能な推論速度を確認した。LIMEによる可視化では辺縁歯肉への寄与が示唆され,病態と整合する特徴に基づく判定である可能性が示された。これらの所見は,画像のみを用いた非侵襲・即時のリスク評価の可能性を示唆しており,治療の必要性やメインテナンス移行の即時的な診断支援さらには患者説明の根拠として応用が可能となることが示唆された。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。