慢性剥離性歯肉炎は, その病因や病理発生について未だ明らかにされていない。歯周治療分野では治療の最も困難な病変である。一般的には, 全身的要因によって歯肉上皮に退行性変化が生じ, 二次的に局所の炎症が合併する, とされているが, その本態については不明である。今回, 臨床的に本疾患と診断され, その後追跡可能であった4症例について体験しているので, 臨床経過を主体に報告する。
症例はいずれも女性であり, 初診時 Glickman の分類では1例が severe form, 他の3例が moderete form に該当する病変であった。全身的および環境的な面では, 1例は離婚直後の発症, 1例は発症後の子宮筋腫の発見, 1例はヒステリー症状発現とほぼ同時の発症, 1例は妊娠促進の薬物治療時における発症と, いずれも何らかの要因を有していたが, 本疾患との関連性は明らかにできなかった。
治療としては, 歯肉病変を二次的に増悪させる局所刺激因子の排除と, 疼痛軽減のための薬物投与など, いわゆる対症療法を主体に試みた。その結果, 皮質ホルモンと抗生物質の含有軟膏の局所塗布, および歯垢, 歯石の除去と0.1%クロールヘキシジンによる含嗽は症状の軽減に有効であった。数年以上に渉る経過中, 3例には症状の改善が認められたが, 1例については初発後6年後の現在も改善はみられず, 病変部歯肉の外科的切除や置換も含めて経過観察中である。