歯周組織に分布する知覚神経線維は, 含有する神経ペプチドの作用により, 炎症や免疫反応を調節していることが明らかになっている。糖尿病は歯周疾患に対するリスクファクターとして認知されているが, 一方では末梢神経障害をおこすことが知られている。本研究では, ラットに対し実験的な糖尿病を作製し, 歯周組織における神経線維の動態を検索した。歯肉切除術後, 3, 7, 14日に顎骨を摘出し, nerve growth factor receptor NGFR) とcalcitonin gene-reated peptide (CGRP) に対する抗体を用い免疫組織学的に観察した。糖 (尿病群の接合上皮には, 非糖尿病群で観察されたNGFR陽性神経は殆ど認められなかった。また, 糖尿病群は非糖尿病に比較してCGRPの弱い発現傾向を示した。創傷治癒は糖尿病群で大幅に遅れる傾向が認められ, 神経線維の再生も非糖尿病群に比べて遅延していた。非糖尿病群7日の再生歯周組織においてNGFRの強い発現傾向を示したが, 糖尿病群ではNGFRの同時期での発現が弱かった。以上の結果より糖尿病群では歯周組織内で既に末端性軸索変性がおきていた可能性が考えられ, 軸索, 神経線維の進展, 再生が遅滞していることが示唆された。これは周囲組織での創傷治癒の遅延を含むNGF等の成長因子の発現が衰えている等の理由が推察される。