2007 年 3 巻 p. 226-247
1976年に起きたIMF危機は,イギリスの経済史・政治史に決定的な痕跡を残したできごととして注目されてきた。それは,この時期に大幅な財政支出削減や通貨目標値の導入が決定されたことで,このできごとが戦後イギリスにおける財政金融政策上の一大転換点とみなされてきたからである。それゆえ,IMF危機につづく時期を「ケインズ主義」の失敗が決定づけられ,「マネタリズム」の論理が浸透ないし全面化し始めた時期であると捉える先行研究が散見される。しかし,IMF危機が何らかの転機であったと認めたとしても,それはマネタリズムに基づくものであったとはいえない。本稿では,この時期に形成された政策体系の実態とはいったいいかなるものであったのかを原史料の考証から明らかにし,IMF危機の歴史的意義を明らかにしたい。