抄録
トリプシン消化という手段を用いて, Mg2+および基質ヌクレオチドによるミオシン分子の構造変化を, ATPase活性変化および消化生成物のカラムクロマトグラフィ\超遠心分析・ゲル電気泳動により解析した. その結果, 1) トリプシン消化の初期には, 活性測定時に二価金属イオンが存在する条件下では, ミオシンATPase活性は活性化を示し, 消化の進行とともに失活するという二相性を示した. 2) Mg2+はATPase活性中心でのペプチド鎖切断を軽度に促進した. ATP, ITPはこのMg2+効果を著しく強めた. 3) ATPase活性中心の切断の程度とは無関係に, アクチンによるMg2+-ATPaseの活性化は消化の進行とともに急激に消失した. Mg2+-ATPの共存はこれをわずかに促進した. 4) ミオシンのアクチンG→F転換促進能はトリプシンに対し強い抵抗性を示した. Mg2+-ATPはこのG→F転換能を保護した. 5) Mg2+不在下のトリプシン消化ではHMMから直接サブフラグメント (Sub) -1とSub-2が作られるが, Mg2+存在下ではSub-1の生成が起こりにくいことがクロマト的に示された. 以上の結果から, トリプシンによるミオシン分子中の切断点とその付近のMg2+およびヌクレオチドによる高次構造の変化について考察した.