順天堂医学
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原著
琉球人と南九州人の生体計測学的研究
形質の地理的変異およびアイヌとの比較
安部 国雄村田 一彰小泉 憲司田村 端岡田 敞栄
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1979 年 25 巻 2 号 p. 121-143

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抄録

1972年から1977年にわたって, 琉球12地域と南九州4地域の住民を調査して, 総計1795名 (男920名, 女875名) の形質人類学的資料を得た. これら16地域住民の頭部諸測度, および示数について, 日本最南端の波照間島から宮崎県の椎葉に至るまで, 地理的にどのように変異してゆくか, という観点から計測結果を整理し, 考案した. 琉球人の頭部形質の特徴として, 短頭性と低顔性の強いことが古くから指摘されている. これらの琉球人の形質的特徴は, 琉球全般に均一的にみられるものではないことが明らかにされた. 即ち, この特徴が最も典型的に示されたのは, 沖縄本島の中頭地方 (北中城・読谷) であって, 奄美と南九州の一部がこれに次ぐ. 宮古, そして特に八重山の島民は琉球人的特徴が他に比較してかなり稀薄で, このことは, 台湾原住民との関連の可能性において今後注目されよう. 全般的にみると, 琉球人の頭示数と形態的顔示数には地域的連続性 (cline) 1) がかなり整然と認められた. いくつかの地域住民の形質に地域的特異性が認められた. 例えば, 沖縄国頭地方 (辺戸・奥) の住民は, 周囲の地域住民と比較して頭示数が小さく, 池間の島民は顔が長い. 頭骨の計測によっても, 池間のこの特異性は生体計測の結果と同様に認められた. 昭和年代に発表された, これら諸地域住民の頭部形質に関する殆んどすべての文献 (男67地域, 女60地域) の資料を整理し, 比較した結果, 著者らの認めた琉球人の形質のいわゆる地方差, および地域的特異性がほぼ同様に認められた. また, 男の頭示数と形態的顔示数との間には, 著者らの場合と同様に有意の負の相関が認められた. 琉球人とアイヌ (1958年-1963年調査, 男172名, 女309名) とを比較すると, アイヌは琉球人より頭示数がかなり小さく, 顎示数がやや大なる傾向を示す. それはアイヌの頭長と顎幅が琉球人よりもそれぞれ大なるためである.

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© 1979 順天堂医学会
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