抄録
室房伝導が存在する場合, 血行動態面での悪影響や, 心房同期型心室ペーシング (VDD, DDD) の際のpacemaker mediated tachycardia (PMT) の原因になるという問題点が指摘されている. そこで, 洞機能不全症候群 (SSS) 48例と, 房室ブロック (AVB) 104例の計152例を, 室房伝導の頻度とその意義について臨床電気生理学的検討を加えた. 室房伝導の頻度はSSSで31%, AVBで11%であり, SSSで高率であった. AVBではブロックの程度が重症になる程, その頻度は減少した. ブロック部位別では, A-Hブロックでは全く認められず, 下位に移行する程頻度は高率であった. 室房伝導存在例では, 存在率で21%-100%の幅を認め, 動揺する傾向を認めた. 室房伝導時間は, SSS216msec, AVB216msecと両群間に差はみられず, また両群とも, 室房伝導時間のほうが房室伝導時間より延長する傾向を認めた. 室房伝導存在群と非存在群間には, 電気生理学的検査所見で, 有意差は認めなかった. 慢性心房細動の発生はSSS32%, AVB11%とSSSで高く, 室房伝導を有する例でより高い傾向を認め, 塞栓症の発生はSSSで5.4%, AVBで3%と比較的少ないが, 大半の例が心房細動を合併していた. 以上より, SSSでは室房伝導の頻度が高く, 塞栓症の原因となりうる心房細動発生の一因ともなり, 一部の機種ではPMTを誘発する可能性があるため, ペースメーカー治療の際, 室房伝導の存在について留意する必要があると考える.