順天堂医学
Online ISSN : 2188-2134
Print ISSN : 0022-6769
ISSN-L : 0022-6769
特集 ミトコンドリア研究:基礎と臨床の接点を求めて
エネルギー転換系の低酸素圧適応
大家 裕
著者情報
ジャーナル フリー

1990 年 35 巻 4 号 p. 443-454

詳細
抄録

生命維持について基本的な一側面を担うエネルギー代謝は, 生物種の生活様式の多様性を反映し, きわめて変化に富んでいる. 嫌気的環境に棲息する回虫について調べた結果, その嫌気的代謝においてミトコンドリアに局在する特異な呼吸鎖電子伝達系が存在し, その末端酸化酵素として複合体IIが重要な役割を果たしていることが判明してきた. 複合体IIは, 哺乳類などでは逆反応のコハク酸脱水素酵素として機能しているが, 両者を生化学的・分子生物学的レベルで比較し解析したところ, 回虫にみられる特異性が実は回虫と哺乳類の各構成要素間の同一性と多様性の微妙な交錯によって表現されていることが次第に明らかになってきた. このようにして, 特殊な領域の研究が一般的な問題との接点を持つようになり, ミトコンドリア損傷に起因する臨床医学の分野との関りも現実となりつつある. 最近その実態が明らかになってきたミトコンドリアミオパチーにおける電子伝達鎖構成成分の欠損とその補償的治療法の問題, また脳・心臓の虚血時のコハク酸蓄積におけるフマル酸呼吸などとの関連についても考察する.

著者関連情報
© 1990 順天堂医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top