抄録
近年, 悪性腫瘍とラミニンの関係が注目を集めている. 殊にその浸潤・転移の過程でラミニンが重要な役割を演じているとする報告が多い. 著者らはすでに腎細胞癌患者の血清ラミニン濃度を測定しその傾向を報告した. 今回はこのラミニンが腫瘍細胞自身により, 産生・分泌されているのではないかとの仮説に基づく基礎的・臨床的検討を行い, 更に症例数を加え血清ラミニン濃度についても再検討を加えたのでこの結果を報告する.
腎細胞癌患者の血清ラミニン値は高く, 殊に転移巣を有する症例でいちじるしく高値を示した. 進行例では経時的上昇傾向が認められた. 腎摘除術後は低下する傾向があり, 腎動脈よりも腎静脈血で高値であった. 腫瘍組織をホモジナイズした上清には豊富にラミニンが含まれており, この値と血清ラミニン濃度との間に正の相関が認められた. 腎癌細胞培養上清のラミニン濃度は経時的に増加していた. これらのことから, 腎細胞癌はラミニン分泌能を有する腫瘍であると考えられた.
腎細胞癌が転移巣を形成する能力は, 各症例の癌細胞が分泌するラミニンの量と相関しており, このラミニン分泌能が末梢血ラミニン濃度に反映されている可能性があると考えられた.