順天堂医学
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特集 脱毛性疾患の病態と治療
男性型脱毛--その特性と未来像
安達 健二
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1992 年 37 巻 4 号 p. 572-586

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抄録

男性型脱毛は様々な別名を持つ. たとえば男性のハゲの95%以上を占めるのでCommon baldnessと呼ばれる. 一種の生理現象で病的変化は認められないので, 通常, 脱毛〈症〉とはいわない. 青年期になってハゲるので若年性脱毛の名もあるが, 俗にいう若ハゲである. いずれにしても思春期以後に現れ, 男性ホルモンが関与するのでandrogenic alopecia, また家族的素因が大きいのでandrogenetic alopeciaとも云われる. ハゲる型にはいくつかある. 額から進行するM型, 頭頂から薄くなるO型等があるが, 側頭部・後頭部はハゲない. Pattern baldnessの別名がある由来である. 男性ホルモンの関与を示したのは米国のHamiltonで50年も前のことである. 彼は男性型脱毛が去勢されたものには現れないこと, 去勢した時点でハゲの進行がとまること, また去勢後家族的素因のある人ではテストステロン投与により再びハゲが進行すること等を明らかにした. 1960年後半になってBruchovskyとWilsonの重要な発見があり, 前立腺ではテストステロン (T) でなくジハイドロテストステロン (DHT) が本当の男性ホルモンであることを示した. 私達は毛包皮脂腺でもDHTが重要であることを証明し, 抗男性ホルモン剤- (1) TからDHTに変換する5α-reductaseの阻害剤 (2) DHTを核に移す運びや蛋白質 (受容体) との結合阻害剤が若ハゲを予防できる可能性を示した. その後, 各種抗アンドロゲン剤が臨床的にテストされるようになったが, 効果については悲観的見方もある. これは一般臨床家が発毛と養毛を区別しないことが多いのが一因と考えられる. つまり抗アンドロゲン剤の場合は, 現状維持であれば発毛がなくても100%効果があり, むしろ予防的意味をもつことの認識が不十分であったと思われる. われわれはこの予防効果を証明するために, 毛径測定とトリコグラムの二本立てで定量的二重盲検法を提唱した. 未来の展望として, 男性ホルモン作用をさらに詳しく調べることにより, これらの阻害剤とは異なった視点で若ハゲの予防にアプローチを試みた. 男性ホルモンは毛包脂腺系で特異的受容体により核に運ばれ, 新たに複数のmRNAの発現を介して種々の蛋白合成を誘導する. 男性ホルモン依存性因子の探索およびその遺伝子発現の機構を研究するため, 雄ハムスター背部の巨大毛包皮脂腺よりcDNAライブラリーを作り, これより男性ホルモン依存性のcDNAクローンを数種単離した. 現在までに2種のクローンを解析した結果, 1ケは未知の蛋白質をコードするものでDNA結合因子の可能性があり, もう一つは不飽和脂肪酸を作るのに重要な酵素をコードする遺伝子であった. 男性ホルモン-受容体のコンプレックスが核内でどのような活性化様式をとるか, それらの作用機転の解明とともに新しい予防の可能性が生まれる.

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© 1992 順天堂医学会
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