抄録
かつて (急性・慢性) 心筋炎と誤って認識されしいた心筋梗塞は, 近年急増している. 心筋梗塞の病理に関する最も今日的な問題は, 梗塞を発症させる冠状動脈病変のダイナミックな把握にある. 通常の冠危険因子とは別の, 梗塞発症の危険因子の解明が急務である. 粥腫硬化巣の軟化 (Atheromalacia) は粥腫破綻・血栓形成に関連するが, 晴天の霹靂型の梗塞に対応する急性冠状動脈閉塞の機序の理解は不十分である. 第2には急死の対策に直接関連する超急性期の梗塞の取扱いがある. 発症数時間以上経過しなければ, 病理組織学的には凝固壊死が見られないという空白の時間が, 臨床例における形態学的裏付けの欠如という曖昧さを産み残し, それが, 梗塞の発生原因について様々な憶測を生んだ遠因と考えられる.
〈壊死〉を有さない急性心筋梗塞を認めるか, 付帯条件を付けた急性冠不全という概念を復活させ, 急性期の梗塞をまとめなおすことが必要であろう.