抄録
IgA腎症では糸球体病変が同程度でも, 予後に大きな差が生じることが知られている. そこで, 糸球体硬化の前駆病変として注目されている糸球体上皮細胞の障害と長期予後との関連性について検討した. 5年以上観察しえたIgA腎症36症例を対象として, その病理所見から軽症-中等度障害群と高度障害群とに分類し, それぞれの群の透析療法非導入例と導入例とを比較した. 1症例あたり平均5個の糸球体について, 糸球体係蹄壁外側細胞 (上皮細胞) 数と糸球体係蹄壁内側細胞 (メサンギウム細胞・内皮細胞・浸潤細胞) 数を算出した. 次いで, 糸球体断面積を計測し, 得られた結果から, 糸球体断面積104μm2あたりの糸球体係蹄壁外側 (上皮) 細胞密度 (podocyte density;PD) : 糸球体係蹄壁内側細胞密度 (intraglomerular cell density;IGCD) を算出した. PDは軽症-中等度障害群と高度障害群の両群において, 透析群が非透析群に比べ有意に低下していた. また, IGCDは高度障害群において透析群が非透析群に比べ有意に増加していた. 以上の結果より, 既知のIgA腎症の予後判定基準に加えこの糸球体係蹄壁外側細胞密度を測定することは, IgA腎症の長期予後を予測するうえで大変有用と思われた.