抄録
目的: 末梢神経に対する各種外科処置が神経内外の血行動態に及ぼす影響について検討することを目的とした.
対象: 雑種成犬の尺骨神経を用いた.
方法: I群;露出した神経の中枢側および末梢側にカフ型圧迫装置を設置し, その間の神経に対し, 1) 神経の露出のみ, 2) 神経外剥離術 (mesoneurium可及的切除・神経外分節血行温存), 3) 神経外分節血行の切離, 4) 神経上膜切除術の処置を加え, 2カフ加圧時および非加圧時の血流量をレーザードップラー血流計にて計測した. カフ設置間隔は4cmまたは8cmとした. II群;上記の神経処置8cmの条件で中枢側のみを加圧した場合, および末梢側のみを加圧した場合の血流量を計測した. III群;神経上膜を8cm切除した後, その末梢端を切離し, 神経上膜切除中枢端より1, 4, 7cmの部位での血流量を計測した.
結果: I群;神経の露出のみにおける血流量は16.4ml/min/100gであった. 各種神経剥離術における血流量は4cm群では神経外血行切離にて, 8cm群では神経上膜切除にて有意に減少した. また神経外剥離術後に加圧することで両群とも血流量は有意に減少した. II群;血流は遠位に向かうものが多かったが, 一部の神経では逆行性に流れるものがあった. III群;神経上膜切除部の中枢端より遠位1cmでの血流量は11.8ml/min/100gであった. 4cmの部位ですでに半減しており, 7cmの部位と有意差はなかった.
結論: 1) 8cmの神経上膜切除により神経内血行は半減した. 2) 神経内血行は逆行性の可能性もあり, 神経切離には血行の方向も確認すべきと考えた. 3) 神経切離における神経上膜切除術は4cm以下にとどめるべきである.