抄録
大動脈遮断に伴う脊髄障害をモニターする上で, 経頭蓋電気刺激による下行性脊髄誘発電位 (MEP) の有用性を検討した. 雑種幼犬30頭を用いた.
実験1: 15頭を用い, 開胸後大動脈血流を第6胸椎前方で2時間遮断した. MEPはLevyの方法に準じて第10胸椎レベルで8チャンネルのマッピング電極を用いて経時的に記録した. 局所脊髄血流量はレーザードップラー血流計を用いて脊髄背側より経時的に記録した.
実験2: 15頭を用い, 実験1と同様の条件で行い, 遮断時間は1時間とした. さらに24時間後の後肢運動機能を観察し, その後脊髄の組織学的検索を行った.
結果: 実験1では5頭でMEPの振幅が50%以下に減少した. これら5頭の局所脊髄血流量は20%以下に減少した. 他の10頭では振幅が50%以上を維持し, 局所脊髄血流量も25%以上であった. 実験2では4頭でMEPの振幅が50%以下に減少し, うち2頭では減少は急速であり, 後肢運動麻痺を生じた. 他の2頭では麻痺を認めなかった. 麻痺を認めた上記の2頭の脊髄組織学的所見では, 灰自質の後角から前角にかけて壊死巣があり, 反応性細胞浸潤および核の変性を認めた. 麻痺のなかった2頭でも後角に限局する壊死巣を認めた. MEPの振幅が50%を維持したもの11頭では, 局所脊髄血流量は20%以上に維持されており, 後肢の運動麻痺はなく, 組織学的には灰臼質に軽度のうっ血と出血が認められたのみであった.
以上の結果より, 脊髄虚血によって脊髄麻痺が生ずる臨界点は, 局所脊髄血流量が20%以下に減少した状態であり, MEP振幅の50%以上の急速な減少がこの状態を反映していると考えられ, MEPの脊髄虚血状態モニターとしての有用性が証明された.