抄録
目的: 形態学的・生理学的分類による皮膚糸状菌の感染経路の検討には限界があった. そこで, Random Amplification of Polymorphic DNA法 (RAPD) を用い, Trichophyton mentagrophytesのDNAの多型性検出に有効なプライマーを決定するとともに, T. mentagrophytesの感染経路としての水泳プールの役割を明らかにすることを目的とした.
対象と方法: 水泳授業に参加している学生52名, および水泳授業に参加していない学生29名から分離した合計96株のT. mentagrophytesから全細胞DNAを抽出し, 5種類のプライマー (OPE-01・OPE-04・OPE-07・OPE-14・OPE-15) によりRAPDを行い多型性を検討した.
結果: 本菌ではOPE-14およびOPE-15を用いたPCR増幅を行った時に, 各々3種類のDNA多型が認められ, これらの株をタイプI-IIIに分類することができた. さらに, これらのタイプの分離割合はプール利用群と非利用群で有意 (p<0.05) に異なっており, プール利用群ではタイプIII (52.7%), 非利用群ではタイプI (48.4%) が最も多く分離された.
結論: RAPDによりT. mentagrophytesを3タイプに分類するためのプライマーの決定に成功し, この手法を用いた本菌の分類によって, 水泳授業参加者の菌相と水泳授業に参加していない一般学生の菌相は明らかに異なることを証明した. このことにより, 水泳プールを介して白癬菌に感染することがより強く示された. 今後, 水泳プールを介した足白癬の感染を予防するための具体的方策について検討し, 水泳指導者・プール管理者・プール利用者への啓発を行うことが重要であると考える.