順天堂医学
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非痴呆高齢者網膜におけるアルツハイマー病病態関連物質の発現に関する免疫組織化学的検討
李 麗梅高橋 正中村 眞二村上 晶新井 平伊
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2005 年 51 巻 2 号 p. 137-146

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抄録
目的: アルツハイマー病Alzheimer's disease (AD) の脳に特徴的な神経病理所見としては, 老人斑や神経原線維変化の形成と神経細胞の脱落などが挙げられる. 一方, ヒトの網膜は, 視神経などを通じて中枢神経系と直結し, 両者の発生起源は神経外胚葉で同一であることなどから, AD患者の脳内に生じている病理所見と密接に関係した所見が網膜や視神経にも認められる可能性がある. しかし, 網膜には加齢あるいは老化に伴う変化も存在することから, 最初に非痴呆高齢者の網膜における神経細胞の老化やAD病態に関連した物質の局在を検討する必要性がある. 対象と方法: 対象は, 死亡時年齢が62歳から78歳までの非痴呆高齢者の剖検眼6例 [平均年齢 (SD) =68.3 (6.1) ] の網膜組織である. 神経細胞の老化やADの病態に深く関連する10種類の物質 (終末糖化産物・カテプシンD・アミロイド前駆体蛋白・ユビキチン・カルレチニン・ニトロチロシン・α-シヌクレイン・異常リン酸化タウ蛋自・タウ蛋白・single stranded DNA) の発現について, 各々の抗体を用いて免疫組織化学によって検索した. 結果: 非痴呆高齢者の網膜では, 老人斑の主要構成成分であるアミロイドβ蛋白の前駆体や神経原線維変化の主要構成成分である異常リン酸化タウ蛋白などについては, 強度の発現は認められなかったものの, 弱い発現が認められた. Single stranded DNAを除くその他の物質については, 中等度から強度に発現が認められ, 各々特徴的な発現分布が認められた. 結論: 非痴呆高齢者網膜組織における神経細胞の老化あるいはADの病態に関連する物質の組織内分布を初めて明らかにした. 今後, AD症例や若年非痴呆症例の網膜に関する更なる詳細な病態研究が必要と考えられた.
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© 2005 順天堂医学会
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