抄録
目的: 不意落下からの着地動作の筋活動は身体が空中にある内に開始される. この比較的短い潜時の神経性メカニズムが反射性であるか随意性であるかを検討した.
対象と方法: 20-31才の11名が実験に積極的に参加した. 落下を実現させるために3種類の空中での支持法すなわち1) 懸垂法, 2) パラシュート・ハーネス法, 3) 大腿支持法を用いた. 落下はこれらの支持法に共通して電磁石の電流遮断で実現した. 筋電図は下肢の腓腹筋, 前脛骨筋から導出した.
結果: 落下開始後の両筋の筋活動潜時は反応時間より短く, 分布範囲も重複しなかった. しかし, 前脛骨筋の潜時は腓腹筋のそれより大であってほとんどの被験者でその差が有意であった. パラシュート・ハーネス法で落下の反対方向に荷重をかけて落下加速度を制御した. 高加速度では2筋は同時収縮様の活動を示したが, 低加速度となるにつれ2筋の潜時は解離した.
結論: 自由落下時の初期的筋活動の潜時が反応時間よりはるかに小さな時間帯に分布することを再確認した. 加えて自由落下においても主動筋と拮抗筋の潜時には有意差が認められた. 自由落下を含む落下において主動筋, 拮抗筋の活動開始時間が加速度変化に応じて変容を示したことは, この初期放電の制御の起源がotolith organに由来する事を示す. さらに強い随意運動 (ballistic movement) にいたる速度別随意運動の制御と類似した筋活動傾向から, 落下後の初期筋放電の発生機構は反射性の様相を示しながら, 運動核への高密度な入力で生じた随意性神経筋系制御機構と強く連関する機構と考えられる.