抄録
アルツハイマー病 (AD) 治療のための薬物療法に関して最近の進歩を紹介した. 今はまだ対症療法や補充療法といった治療法が主体であるが, ADの病因・病態の解明が進みつつある中で, その重要な位置を占める脳内におけるアミロイド蛋白の重合や沈着過程に直接介入する治療薬が開発されつつある. 欧米では既に第3相の臨床治験まで進んでいるが, わが国では補充療法の薬剤すらまだ一剤しか承認されていない状況の中で, 新薬の臨床治験もまだ第1相でしかない. しかし, 諸外国に遅れは取っているものの, 今後の5年では, ADの進行を止めることが期待されている免疫療法が大きく進歩することも考えられる. また, いかに治療法が進歩しても, 薬物療法と並んでリハビリテーションや回想法, さらには家族が介護者の対応の工夫といった非薬物療法が重要であることは言を待たない. そして, 家族を含めて生活の質を確保することによって, ADに罹患したとしてもその後に続く長い人生を少しでも充実させていくことを目指していくことが重要である.