2010 年 56 巻 5 号 p. 430-436
産業保健の分野において, 産業医活動の大半を嘱託産業医が行っている事実からも, 嘱託産業医が占める役割は非常に大きいということができる. しかし医師が主役を務める医療の世界とは異なり, 会社という組織の中では産業医は裏方であり, そのような立場から求められる嘱託産業医像について考えを述べた. また産業医や産業医活動を支援する実務的な立場からの試みについても, その取り組みを紹介した. メタボリック・シンドローム対策については, アシックスが行っている運動能力測定を利用して運動指導を試みた. これは会社の産業衛生スタッフの協力もあり成果は出たものの, 商業ベースでは非常に高額になってしまうため実施が難しいことがわかった. メンタル対策としては, 組織のメンタル健全度 (モチベーション) の数値的な把握ができないかを検討し, ハーズバーグの理論を応用して計測を行った. これは非常によい結果が得られたが, 会社側の十分な理解とスタッフの協力が不可欠なために, 実務運用の困難さが理解された. また日々のカウンセリングの結果から, 現代日本人のもつ精神的脆弱さの根底には, 普遍的な問題として過剰なタナトス抑制があるのではないかという考えを述べた.