抄録
情報技術が日常に十分浸透し、生活空間において様々な機能を果たすものになっている。しかし、現在もシステムが人間の行動を理解することはなお難しく、実用的な技術は深い理解よりも端的に判断できるものに限られている。しかし、設計者が想定できない子どもの行動による事故を防いだり、高齢者や介護を必要とする弱者に対する支援を代替したり、運転手と強調して車を制御するためには、状況依存性の高い人間の行動や意図を包括的に理解し、その上で人と協調してシステムが最適に動作することが必要である。これは人工知能の本質的な問題に対するチャレンジである。そこで多様な生活環境で利用者に密着して機能する知能システムを実現するために、我々は人間の多様な生活環境、行動と意図などを深く理解し、モデル化することを目指す。これは広い視点と多くの研究の蓄積が必要であり、我々は今回人間の生活環境おける人工知能技術の深化のための開かれた共同研究スキームを提案する。特定のアプリケーションや技術から問題をモデル化するのではなく、そうした研究を個々に進めながらも、人間と生活環境の視点から状態空間や観測可能なデータを網羅的にマッピングし、それを様々な機能実現、アプリケーション設計のために活用するものとして情報を共有する活動を展開する。具体的にはリソースの管理と、研究コミュニティの整備、情報交換である。技術を実現するための研究課題、例えば各種のセンサ技術と分析・活用技術などについても、背景の異なる研究者が情報交換や連携が取れるよう、日常生活環境の観点でそのリソースを整理、共有できるオープンなものとする。また研究者だけでなく、広く社会との接点を探り、現在の技術レベルで提供可能なシーズと、実用上強く必要とされるニーズについても人間の生活環境の視点からマッチングをはかる。生活環境としては室内から屋外、病院内、公共施設、移動中、車内など実用性の高い環境を具体的に設定しながら、その範囲も徐々に拡大していく。つまりアプリケーションとシーズ研究、観測・分析・活用といった技術的な軸や研究分野の軸、環境の軸などからなるマトリックスを埋めていく活動である。これを広く人類共有のリソースとするため、オープンソフトウェアになぞらえて、オープンライフマトリックスと呼び、5年間でこの知的資産の創造、蓄積、活用、普及を目指す。