本論文は、第一著者が行った被災写真救済活動におけるフィールドワークの成果還元に関する研究について、「臨床の知」という観点からふり返るものである。本実践は、被災写真救済活動における洗浄作業を実際に経験してもらう場を「被災写真洗浄ラボ」としてデザインし、参加者が現場の世界を主観的にとらえることをうながす機会を構成する試みである。実施後に参加者から生まれた語りは、写真を洗浄した際の感覚や写真に写るものと自身の過去とを重ねた回想など、洗浄作業の経験に根ざした多様なものであった。成果還元を受ける第三者自身に実態的な経験が刻まれていくことは、被災写真救済活動の現場や状況の理解を深め、経験の共有として意義深いものだと考える。また、調査者が活動の運営者という立場で、新たな視点と視座を手に入れ、調査対象をとらえ直すことへとつながった。本論文では、「被災写真洗浄ラボ」の実践をふり返り、臨床的な現場から派生したラボラトリーワーク(試行と思索を行き来する活動)の役割をふまえながら、質的調査研究のあり方を考察する。