生命は、外界との相互作用を通じて自らの構成要素や状態を刻々と変化させながら、それ自身の個体性を保っている。「自律性(autonomy)」と呼ばれるこのような性質は、生命と非生命を分けるものの一つとされ、さまざまなかたちでの形式化・モデル化が試みられてきた。特にその中では、特定のものが何らかの演算やプロセスなどを経ても元のものへと戻ってくるという性質を指す「閉包(closure)」の概念が鍵を握ってきた。本研究では、閉包と呼ばれるもの一般を最もシンプルに捉えた数学的概念である「モノイド」(ただ一つの対象と、一つとは限らない自己射からなる圏)として自律性を形式化することで、その本質的なあり方をより簡潔に捉えることができることを論じる。この見方によれば、自律性は「AがなければBはない」という「媒介(mediation)」の関係がなすモノイドであること、すなわち、自らが自らを媒介する「自己媒介」性として理解できる。このような自律性の一般的な形式化は、生物的な自律性のみならず、より幅広い文脈における自律性、あるいは「自己」と呼ばれる現象のより深い理解につながると考えられる。