本稿の目的は, 技術倫理学者ピーター=ポール・フェルベークの媒介理論の立場から人工知能(AI)と人間の望ましい関係を詳細に検討することである. 以下が研究結果の概要である. フェルベークの観点からいうと, 人間はAIとともに望ましい自分自身の人生を作り出すことができる. そのためには, AIが自分にどのような影響を与えるか考え, AIとの共存のなかでなりたい自分を構想し, そしてそれを実現する仕方でAIを用いることが必要である. そしてAIは, 人間の上記のような営みを妨げてはならず, むしろそれを育み, 促進することが望ましい. 以上のようなフェルベークの立場の優れた点として, 人間がAIとのインタラクションのなかで自己実現してゆくことを適切に記述できる点が挙げられる. その反面, 彼の立場には, その自己実現それ自体の善さ/悪さを規範的に分析するという論点が欠けている. この欠点は人間が他者や環境とより善い関係を作ってゆくために批判的に乗り越えられるべきである.