動物分類学会誌
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旧北区のトノサマガエル-特に異種間の隔離機構について
川村 智治郎西岡 みどり
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1975 年 11 巻 p. 61-78

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抄録

日本,韓国およびヨーロッパに分布するトノサマガエル群の進化関係を明らかにするため,5種のカエルと新北沢の1種のカエルを用いて交雑実験を行なった。まず,日本に分布するトノサマガエルRana nigromaculata HALLOWELLと韓国に分布するトノサマガエルとの間で正逆交配を行なったところ,両者間にはほとんど隔離機構がないので,両者は間違いなく同じ種であることがわかった。ヨーロッパのコガタトノサマガエルRana lessonaeCAMERANOとペレジワライガエルRana ridbunda perezi SEOANEは,トノサマガエルから雑種致死によって完全に隔離されているが,ダルマガエルRana brevipoda ITOからは雑種繁殖不能によって完全に隔離されている。韓国のチョウセンプランシーガエルRana plancyi chosenica OKADAはトノサマガエルとダルマガエルの両者から不完全な雑種繁殖不能によって隔離されているが,チョウセンプランシーガエルとトノサマガエルとの隔離の程度はトノサマガエルとダルマガエルとの間よりも弱く,チョウセンプランシーガエルとダルマガエルとの隔離の程度は後者よりも強い。チョウセンプランシーガエルは,ヨーロッパのペレジワライガエルからは完全に,コガタトノサマガエルからは不完全に,共に雑種繁殖不能によって隔離されている。コガタトノサマガエルとペレジワライガエルとは,もし雑種致死による隔離がないときには,雑種繁殖不能によって強く隔離され,時にはこの隔離が完全である。これらの交雑実験の結果から,旧北区のトノサマガエル群の祖先は,アジア系とヨーロッパ系の二つの枝に分かれ,アジア系はダルマガエル,チョウセンプランシーガエルおよびトノサマガエルに分化し,ヨーロッパ系はコガタトノサマガエルとペレジワライガエルになったと考えられる。新北区のヒョウガエルRana pipiens SHREBERは,5種の旧北区のカエルから雑種致死によって完全に隔離されている。ヒョウガエルの雌または雄を用いて交雑を行なうと,受精卵はすべて変圧の初期に死滅する。

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© 1975 日本動物分類学会
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