動物分類学会誌
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プライアシリアゲ(長翅目,シリアゲムシ科)幼虫眼の胚子発生について
安藤 裕鈴木 信夫
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1977 年 13 巻 p. 81-84a

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抄録
今日までシリアゲムシ類の幼虫眼の胚子発生についての知見が無いので,プライアシリアゲPanorpa pryeriを材料にして観察してみた。この虫の卵期は約7日で,産下後4日を径た胚子では,頭部両側の将来眼域となる部分が肥厚し,組織中に幾つもの透明な部分が現われ,個眼の分化が始まったことが分る。5,6日目の胚子では個眼原基の形成が急速に進み,個眼を構成する各要素が明瞭に認められ,孵化直後の幼虫では約30の個眼が完成し,機能的な複眼となる。この発生過程は明らかに他の昆虫の複眼の形成過程に類似し,単眼の形成過程とは全く異なっている。P. communisの幼虫眼が複眼であることは,既にBIERBRODT(1943)が確認しているが,一般に幼虫期に複眼を備えるのは不完全変態類に限られている。完全変態類の幼虫は個単眼を持つことがよく知られているが,シリアゲムシ類とコバネガ類の幼虫は例外的に複眼を持つ点が極めて特異的である。シリアゲムシ類の幼虫が土中に生息するにもかかわらず複眼を有する事実は,完全変態類としては最も古いグループの一つと考えられるこの昆虫の系統を考察する上に役立つものと思う。
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© 1977 日本動物分類学会
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