1990 年 42 巻 p. 51-59
北米,ヨーロッパ(オランダ)および日本からヤハズハネコケムシPlumatella emarginata ALLMAN, 1884と固定された群体を採集した.それらの休芽に由来する群体を室内で飼育し,いくつかの形質について比較した.同一地域に由来する初虫同士は癒合したが,異地域由来の初虫間には癒合はおこらなかった.日本産の群体(野生のものおよび室内飼育のものとも)が形成した浮遊性休芽は,他の2地域のものより小型であった.また,日本産の浮遊性休芽に由来する初虫は他の2地域のものより小さかったが,大きさの違いは出芽後の成長にともなって減少した.群体および虫体の形状と大きさ,触手数,3種の酵素(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ,グリセロ燐酸デヒドロゲナーゼおよびグルコース燐酸イソメラーゼ)の電気泳動移動度については,3地域間で違いは見られなかった.現時点では,これら3地域に由来する標本を同一種P. emarginataの地理的変異体と見なしておくのが妥当と思われる.